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第2章 迷宮成長編

第71話 謁見②

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「ふはははは。闇の化身と神の寵愛を受けし者との間に生まれし赤子か。これはなかなか面白い存在よな」
「誠にその通りですわ。次代の勇者か英雄、もしくは新たなる魔王か」
「楽しみよのう」

 なにそれ・・・・普通の子供じゃないのは分かるけど、魔王ってなに?

「あのう・・新たなる魔王ってなんでしょう?」
「ああ、そうね。宮代様とその娘の間に生まれし子供。きっと魔人として強い力を持って生まれてくるわ。その子が成長して、勇者に覚醒するか魔王として覚醒するかって話よ。魔王の場合は、闇の因子が覚醒すれば魔王級の力を得られるわ」

「闇の因子って」
「そう。宮代様も持っている闇の種子も因子のひとつです。これは力のある魔人の証ですが、そのほとんどは芽吹くことなく眠ったままです。ですが開花することができれば莫大な力を手にすることができます。宮代様なら種子が芽吹き、さらには開花すれば魔王級の力を手に入れることができるやも知れません」
「うむ。期待しておるぞ」
「俺にそんな力が・・・・そして子供にも・・・・」

「宮代よ! こたびの武功の褒美として主に、従五位下を与え、同時に主の造った領地の他に3郡を任せる。兵馬を鍛え、愛する妻子を守り、我が下でさならる武功をたて、我が覇道の道を作るのじゃ!」
 信長様の言葉に臣下たちがざわめきだした。

 えええええぇぇぇ!? 従五位下って何? それって官位だよね? ブルストの街の他に3郡って領地が増えるんだよね。でもって増えた領地を守れるように軍団を編成して、来たるべき戦争に備えろってことだよね?
 嫌だあぁぁぁぁ!! めんどくせええぇぇぇ!!

「なんじゃその顔は? そんなに嬉しいのか? もしやめんどくさいとか思っておらんじゃろうな! ああん!?」
「そっ・・・そんなことは思っておりません」
 やべえぇぇぇ! 何か大変なことになってる!

「ならばよい。それと我が城に直通の転移陣を開き、毎日菓子を持ってくるがよい。これは勅命である! 無論それなりの報酬をやろう」
「あ、はい」
 もしかして・・・領地の増加はおまけで、お菓子を届けることがメインだったりしない? 遠距離転移陣はおいそれとは構築できないから、そのために必要な官位と領地じゃないよね? あはははは・・・・

 あれ? 濃姫様のあきれよう・・・・
 ええっ? もしかしてマジ? マジでお菓子のためなの?
 信長様がお菓子を食べたいがために、俺に官位を押し付ける気だな。

「お待ちください。このような小僧に官位などと、我は納得しかねます」
 ざわつく臣下の中には反対意見を持つ者もいた。

 そりゃそうだ。ぽっとでの迷宮主である俺が、いきなり織田家の重臣の仲間入りするなど長年織田家に仕える臣下が納得できるはずがない。
 領地経営なんてめんどくさいから、このまま反対意見が多くなって官位の件、取り消してくれないかな。

「ふむ。我の決定したことに意義を唱えるか。だが臣下たちの意見も分かった。ならば宮代よ! 主のその力で、我が臣下に武威を認めさせよ」
 なんでやぁぁぁぁ!!! 何でそうなる!

「鬼狸よ! 人選はお主に任せる。 勝敗は問わぬゆえ、手頃な相手を選ぶがよい。もちろんお主が相手をしても良いぞ!」
「お戯れを。ですがこの者の力を示すのは良いことですな。我も興味ありますし、承知いたしました」

 こらこら、ちょっと待って! 俺の意見は?
 そこの893っぽい強面の狸さんも承知しないで。
 あああっ、どんどん話が進んでいる・・・・そうして俺の相手に選ばれたのは、これまた柄の悪そうな魔人の男だった。

「へへへ。女を口説き落とすことは得意そうだが、腕っぷしはどうだかな? 貴様を半殺しにしてその女も頂くのもいいかもな」
「何だと!? 今、何と言った?」
「おっと聞かれちまったか。わりいわりい。何、お前を半殺しにして、その綺麗な娘を俺がもらおうと思ったまでよ。娘も弱い男より強い男の方が良いだろ?」
「こいつ・・・ああ、分かったよ。その喧嘩買ってやるよ」
「おもしれえ」

 もうこいつは許さん! ぶちのめす! シルエラに手を出そうとしたのだ、それなりの報いは受けてもらうぞ。
 そしてあれよあれよという間に、戦いの準備が進められた。
 さすがは信長様のダンジョン。謁見の間での戦闘も問題ないらしい。
 
 名前:バーレット・バーザム
 性別:♂
 種族:上位魔人
 年齢:58歳
 クラス:魔戦士
 LV:32
 HP:4580/4580
 MP:3200/3200
 SP:3600/3600
 STR:260 A  VIT:310 A  AGI:208 B
 DEX:192 B  INT:84 E  LUK:36 E
 スキル:魔法(火D・風E・闇E) 
 HP自動回復:小 MP自動回復:小 火耐性E
 魔法抵抗値上昇:小 状態異常耐性:小
 剣術:LV6 格闘術:LV3 鑑定:LV2
 気配感知:LV3 毒爪
 称号:織田家 従五位下

 これからぶちのめす相手だ。鑑定を使っても問題ないはず・・・なのだが・・・・こいつ・・・弱くね?
 いや弱くはないのだけど、ディアドラと比べてLVも低いし、能力もぱっとしない。それともこれが普通なのか? 
 以前に対戦した紗弓様の方が強かったぞ。あの時は鑑定LVが低かったから詳細は不明だったけど、たぶんこいつより強かったと思うぞ。

 対する今の俺。LVこそ俺の方が低いけど、ステータス的には上だよね。
 名前:宮代 大和
 年齢:37歳
 種族:上位魔人
 クラス:迷宮主(AC-299)
 LV:21
 HP:5950/3500(5950)
 MP:6800/4000(6800)
 SP:5950/3500(5950)
 STR:300 A  VIT:240 A  AGI:260 A
 DEX:280 A  INT:300 A  LUK:110 A
 スキル:言語理解 魔法(闇A・火C・水C・風C・土C)
 召喚魔法:C
 HP自動回復:小 MP自動回復:中 闇耐性A
 経験値増加:小 魔法抵抗値上昇:小 状態異常耐性:小
 空間収納 MP回復速度上昇:小 鑑定:LV3
 性豪 ゴーレムビルド 偽装スキル
 処女喰い☆7 魅惑のフェロモン 従魔術
 剣術:LV1 気配感知:LV1 身体強化:LV1
 闇の種子 

 スキル処女喰いのお蔭で能力が底上げされているとはいえ、LV差も考えればこいつはハッキリ言って弱いだろ。俺の実力を測るために敢えて当て馬をぶつけてきたのか。だとしたらあの893狸やってくれたな。

 まあいい。それよりこいつは半殺しだ。
 心配するシルエラを濃姫様に預け、空間収納から愛用の長剣を取り出し、その刀身を抜き放った。
 謁見の間の中央で対峙する俺とこの馬鹿。周囲には臣下たちが囲みを作り、俺と馬鹿の戦いを楽しむように見物していた。上段ではシルエラを濃姫様が守るように保護してくれている。濃姫様が側にいるなら俺も安心してこの馬鹿と戦える。

「ではこれより、御前試合 バーレット・バーザム 対 宮代大和 を開始いたします。両者、礼!」
 濃姫様の美しい声で始まった御前試合。
 半殺しは決定しているが、さてどう料理しようか。

 謁見の間に大剣と長剣がぶつかり合った金属音が鳴り響く。
 やはり思ったほど奴の実力はたいしたことがない。剣術LVは高くともスピードが遅く、軌道を見切るのも容易い。
 だが力だけは結構ある。それでも押し負けることもないが、油断はできない。
 苛立ちを見せ始めた馬鹿が距離を取り、魔法を放ってきた。

 だがそれは悪手だった。大剣から手を放し魔法を使うなど、隙をわざと作っているようなもの。炎弾を剣で切り裂き距離を縮めると、大剣を構え直す前に腕を斬り落とし、さらには両足を切り落とした。

「ぎゃあああぁぁぁぁ!!」
 四肢を切り落とされ地面に転がる馬鹿。さすがは上位魔人、こんなことでは死にはしない。俺は追い打ちをかけ男の急所を容赦なく踏みつぶした。
 辺りに断末魔が響きわたり、その後は静粛に包まれた。
 ふん。あ~ スッキリした。
 
 どよめく観衆を無視して、上段にいる信長様に向け一礼をした。
「うむ。見事である!」
 信長様からしたら予想通りの結果なのだろう。
 臣下たちの反応はまちまちだった。笑っている者、平然としている者、驚愕の表情を浮かべる者、悔しそうにしている者もいた。

「やはりバーレットごときでは相手にならんか。誰ぞ手当してやれ。やれやれ、こ奴も決して弱くはないが、人の言うことを聞かん奴でな。これで少しはこりて、周囲の声も聞くようになるじゃろう」
 ここで声をかけてきたのは鬼狸と呼ばれた強面の狸親父だった。
 え~ こいつ助けるの? 助けなくてもいいのに。
 そして何か嫌な予感がするんですけど・・・・

「それにしても、容赦ないのう」
「普通ならこんなことしませんよ。煽ってきたこいつだし、自業自得です」
「はっはっはっ! 言うのう。どれ余興じゃ、わしが相手してやろう」
「えっ!? 結構です」
「そう遠慮するな。久々に骨のある若者見て血がたぎるわい」
 やっぱりいぃぃ! こうなると思っていたよ! 
 
 歓声がひときわ大きくなった。
 この狸親父・・・強い。鑑定しなくても分かる。信長様ほどではないが、このプレッシャー、半端ない相手だ。きっと織田家でもトップクラスの実力者で間違いがないだろう。
 もちろん鑑定は使用したが弾かれた。チキショー分かっていたさ。

「信長様よろしいですな」
「うむ。よきにはからえ」
「信長様の許可も承ったことだし、存分に楽しもうじゃないか」
 楽しもうかじゃないし! 嫌なんですけど・・・・手加減されても勝てる訳ないし、負けても絶対ろくな目に合わないのは分かりきっている。

「分かりました。拒否することはできないんですよね? もう諦めました。ところで失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「おっとこりゃ失礼。わしが第一軍団妖狸将軍、鬼狸こと鬼柴タンホイザー玄八郎である!!」
 2mを超える巨体とデカい声。名乗りを上げるだけで大迫力である。
 第一軍団の将軍様? 軍団がいくつあるか分からないけど、将軍ってことはやっぱり軍団をまとめるお偉い様ってことだよね?

(織田軍の8つある軍団、その第一軍団軍団長様です。通称、鬼狸、泣く子も黙る鬼将軍様です。その実力は高く、織田家でも5本の指に入る実力の持ち主であり、大老のひとりでもあります)
 ニクキュウの説明・・・やっぱり絶対的強者じゃねえか!
(マスター死なない程度に頑張ってください)
 おいいいぃぃぃ!

 とっても貫禄のある893風の狸親父改め将軍様。貫禄のあるのは顔だけじゃなく、体もかなり貫禄がある。布袋様のような立派な太鼓腹、まさに狸の置物が動いているようだ・・・置物のような可愛らしさはないけど。

「鬼柴様。武器は?」
「ん? わしの武器はこの鍛えられた体じゃ! 見よ。この鍛えられた肉体美! 素晴らしかろう? 無手だとて遠慮はいらんぞい!」
 ハンデなのかそれとも武闘家なのか知らんが、その太鼓腹で鍛えられた体と言われてもねぇ・・・・苦笑いするしかない。でもその圧力は本物だった。ヤバさがひしひしと伝わってくる。 

 
 濃姫様の合図で礼をして始まった戦闘。
 カンフー映画に出てきそうな構えの狸親父。やっぱり武闘家かそれに近い戦い方をすると予想される。
 くそう。どうせ戦うなら、チャイナドレスを着たお姉さんと戦いたかった。なんでこんな強面のおっさんと戦わなきゃいけないんだよ。

電撃ライトニング魔槍ジャベリン!」
 様子見に放った魔法。貫通力があり、並みの魔法障壁なら貫通できる高威力の電撃魔法だ。効くとは思わないけど、牽制くらいにはなるだろう。

 狸親父の全身から放出されていた気が、拳に集中しているのが分かる。
 繰り出すパンチで俺の電撃魔法を拳で相殺しやがった。だが、これは想定済みだ。俺は狸親父に向かって突進した。

「うおりゃあ!」
 重そうな図体だ。スピードで翻弄してやる。
 そう思っていたのだが、俺の繰り出す攻撃を軽々と受け止められ、さらにはカウンターまで放ってきた。
 マジか・・・あの巨体でこんなに動けるのかよ。

「くうっ! 暗黒薔薇鞭ダークネスウイップ
 さすがに強い。苦し紛れに放った魔力鞭が狸親父の身動きを封じた。
「甘い!」
 狸親父から放たれていた気がひときわ大きくなると、一瞬で魔力鞭が霧散してしまった。マジかよ。
 
 どうする? 相手はほとんど力を出しておらず余裕の表情だ。対する俺は全然余裕がなかった。鈍重そうな体躯のくせに何て身のこなしだ。
 拳を受けた刀身から伝わる衝撃、たぶん掠っただけでも致命傷になりかねない重い一撃。これは想定以上にヤバい状況だった。

「どうした。それで終わりか?」
 強い。さすがは一軍の将だけのことはある。戦いの経験や駆け引きは言うに及ばず、頼みのスピードでも上回ることができないでいた。
「来ないならこちらか行くぞ!」
 狸親父から仕掛けてきた。早いが見切れないスピードじゃない。
 躱してカウンターを決めてやる。

「なっ!?」
 カウンターを決めようと拳を躱したまでは良かった・・・・だが逆にダメージを受けてしまった。
 拳を躱し損なった? いや確かに躱したはず・・・だが結果は俺の腕に大きな傷があった。何をされた?
 それだけではなかった。連続して繰り出される拳、剣で弾いたり躱したりもした。攻撃事態はヒットしてないつもりでいたが、実際には俺の体には幾つもの傷を受けていた。
  
 何かおかしい!? こんな一方的にダメージを受ける攻撃ではないはず・・・何か秘密があるはずだ。それを見極めないと勝機は見えてこない。
 幸いなことにダメージそのものはたいしたことがなく、時間が経てば回復でいる。それならば火中の栗を拾うつもりで突貫し、秘密を見極めてやる。

「むっ!?」
 障壁を張り防御を固めて狸親父に突っ込んでいった。
 集中しろ。きっと何か秘密があるはずだ。
 繰り出される狸親父の剛拳! まともに喰らったらひとたまりもない。
 魔法障壁をワザと拳に当て、その勢いを殺して大きく躱した。
 
 魔法障壁と剛拳がぶつかり合い激しい音が響きわたった。
 距離を置いたことで見えたものもある。キラリと光ったアレは何だ? 正面にいては見えない死角からの攻撃。それがあの謎の攻撃の正体だ。

 からくりさえ分かれば対処法はある。
 再度、障壁を張り攻撃を仕掛けた。
 剣による連続攻撃を仕掛け、その時をまった。
 そしてその時がやってきた。
 タメを作ったストレート。この時を待っていたのだ。

 ほんの一瞬、だがその一瞬が全てだった。
 拳ではなく、別方向へと跳躍し剣を振りかざした。
 何もないはずの空間に金属音が木霊した。
 
 これは? 床に転がる極細の金属針。
 そう。見えない攻撃の正体は暗器による攻撃だった。
 
「何が、わしの武器はこの鍛えられた体だ! 騙しやがったな!」
「がはははは。騙される方が悪いのじゃ! 愚か者め! わしは狸じゃぞ」
「このクソ狸!」
 そういえば、こいつ狸だった。
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