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第2章 迷宮成長編
第70話 謁見①
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突然部屋の外に莫大な魔力反応が現れ、その直後に部屋の扉が砕け散った。
「まっ・・魔王様!」
ここは魔王城の一室。
調度品も豪華で扉も立派な造りだったはずだ。
そんな部屋の扉を破壊して強引に乱入してくる人物。
その人物に驚き、平伏す執事さんたち。
俺とシルエラもそれに倣って平伏した・・・というか動くことができなかった。
この人物こそ城の主。第六天魔王織田信長、その人であった。
それにしても・・・・圧倒的な魔力量と迫力、そして放たれる威圧感・・・もうそこに立っているだけで冷や汗が出てくる。
「お前がこの菓子を献上してきた者か」
ううぅっ・・・このお方が、魔王信長様・・・・・何だこの威圧感は・・・・
「どうした。答えられぬか」
恐ろしい・・・体の震えが止まらない・・・・
「恐れながら申し上げます」
「この者、帰蝶様より新たに召喚された迷宮主、宮代大和様にございます」
執事さんの言葉で我に返った俺は、挨拶が遅れてしまったことに気付いた。
「申し訳ございません。私は日本、信長様のいた時代から約400年後の世界から、この地にやってきた宮代大和と申す者です。この度は・・・」
「御託は良い。質問に答えろ!」
俺の謝罪と自己紹介を聞く気もないといった感じの信長様。
これは聞きしに勝る人物のようだ。
「はっ、確かにそのケーキをお持ちしたのは私でございます」
「そうか。んでこのケーキなる菓子。そうそこにある物の他にもあるのか?」
「はい。他にも複数お持ちでございます」
「なら全部よこせ!」
「は?」
「聞こえなかったのか? 全部よこせと言ったのだ!」
「かしこまりました」
空間収納から取り出した5個のホールケーキと12個のショートケーキ、更には執事さんたちへの分として用意したホールケーキまで、信長様は自分の空間収納へと仕舞ってしまった。
「うむ。此度は大儀であった。では後ほど会おう。うわっはっはっは」
それだけ言い残して魔王信長様は消えてしまった。
・・・・・・・・何あれ?・・・・・
あれが信長様? 魔王様なの?
消え去った信長様のいた場所を見つめて、消えた反応を確かめるもそこには何もなかった。転移を使ったのだろうが・・・疲れた。
緊張の糸が切れたようにその場で倒れ込んだ俺に、執事さんが申し訳なさそうに声をかけてくれた。
「あれが魔王信長様なのか・・・とんでもないお方だな」
「はい。ですが魔王様自らこの場にやってくるとは思いませんでした。長年織田家に仕えていますが、こんなことは初めてでございます」
「そ、そうなんだ・・・・・」
「それだけ宮代様のことを、いやケーキなる菓子が気に入ったご様子。奥様と併せて謁見を楽しみにしておられるようですな」
「はあ・・・・」
執事さんの言葉にもう溜息しか出ないのだけれど。
シルエラはというと、ほぼ気絶状態だった。
無理もない。あんな身近にあんな強力な威圧感をもった人物がいたら、普通の人? であるシルエラに耐えられるはずがなかった。
執事さんはともかく、女中さんの何人かも跪いた状態でシルエラと同様に気絶してたし、こればっかりはしょうがないよ。
扉が破壊されたので部屋を変えてもらい、執事さんに新たにお茶を用意してもらって、一息ついた。
改めて思ったけど、このお茶は良い物だ。あまり飲んだことないけどこれは玉露かな? 爽やかな香りと渋みの少ないコクのある味わい。
これは落ち着くわ~ もう謁見なんて忘れてずっと飲んでいたい。
しかし現実に戻されることが起こった。
別室で着がえを済ませたシルエラの姿を見た瞬間、俺の魂に稲妻が直撃した。
「どう似合うかしら?」
「素晴らしい。何と言うか、どこからどう見ても貴族のご令嬢にしか見えないよ。凄く綺麗だよシルエラ」
それはもう素敵なドレス姿であった。露出度は少なめだが、青を基調としながら白いレースをふんだんに使った可愛らしいドレスだ。
これはもう俺の心を鷲掴みして離さないくらいの破壊力がある。この場に誰もいなかったら押し倒しそうになってしまうだろう。
「もうお世辞が上手いんだから」
「お世辞じゃなく本当だよ。皆もそう思うでしょ?」
「はい。宮代様のおっしゃる通り、奥様は大変お美しゅうございます」
「ほらね。綺麗なのは間違いないから自信を持っていいと思うよ」
いつまでもシルエラのドレス姿を眺めていたいがそうもいかない。俺も急いで用意していたタキシードに着替えた。
着がえたのたが・・・鏡に映った自分の姿を見て絶望してしまった。うん、これはないな。もう似合わないと言ったら似合わない。
シルエラは褒めてくれるが、自分では苦笑いしかできないでいる。
そうしてついに謁見の時間がやってきた。
うううぅぅ胃が痛い・・・・誰か助けて・・・
心配そうに俺を見つめるシルエラも、俺から見ても同じように震えているのが分かる。これでは美人が台無しだ。
これはいけない。ブルストの街の代表としてもっと堂々としなければ、笑顔で俺たちを送り出してくれた皆に顔向けができない。
「シルエラ。慣れない環境で戸惑ってるかも知れないけれど俺がついてる。シルエラの身は俺が守るから安心してほしい」
「ヤマト様・・・はい。そうですね」
「では行こうか」
兵士の手によって開かれた豪華な造りの扉をくぐると、そこには大勢の人が左右に分かれて並んでいた。
この場にいるということは、この国のお偉いさん方なのだろう。
見るからに強そうな武人だと分かる強面のおっさん。豪華なローブを纏った魔法使いらしき人物。人間から獣人、魔人と男女問わず凄い面々が勢ぞろいし、俺とシルエラを値踏みするように待ち構えていたのだ。
並んでいた重臣の視線がシルエラに集中しているのが分かった。
青いドレスを着た巨乳美少女と冴えない青年・・・一緒に並んでいればどうなるかは明らかだ。なかには見惚れている奴までいる。危ない危ない露出度の低いドレスを用意させて良かったぜ。あんな奴にシルエラを見せるのはもったいない。
扉から正面には開かれた場所になっており、その先には段があり玉座の間になっていた。そこには濃姫様の煌びやかな姿が見受けられた。
シルエラをエスコートしつつ段の前までくると、玉座の濃姫様に一礼し跪いた。
あれ? 濃姫様だけで信長様のお姿が見えられないけど、どうしたのだろうか? そう思っていた矢先にまともや急激な魔力反応が出現した。
跪き俯いた状態では分からないが玉座のある場所から、放たれる圧倒的な力の持ち主は魔王信長様しか考えられなかった。
「待たせたな。我がこの地の魔王。織田信長である!」
発せられた言葉に、この場の大気が震えるような、いや実際に震えている。それほどの威圧感のある言葉だった。
「ブルストの迷宮主、宮代大和と申します。本日は謁見の誉れに与り恐悦至極に存じます。こちらは我が妻であるシルエラにございます」
「シルエラと申します。御尊顔を拝謁でき恐悦至極に存じます」
よしここまでは事前に練習していた通りに動けているな。
だが目の前には恐ろしい信長様がいる。
もしなんかあれば俺ごとき一瞬で消しされかねない。そんな力があるお方が目の前にいるのだ。粗相があってはならない。
「うむ。面を上げよ」
「はっ」
信長様の言葉で俺とシルエラは顔を上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「この度の働き、誠に大儀であった」
「はっ、ありがたき幸せ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
何この状況。これはどうすれば良いのだろうか?
左右に控えているこの国の重臣たちも何も言わず、ただ俯いているだけだ。
これはもう、この状況を変えられるのは濃姫様しかいない。
俺は濃姫様に目で訴えるようにチラチラと合図を送った。
気付いて濃姫様。
「何だ? さっきから気になることがあるなら、遠慮せずに申してみよ」
「それはその・・・・・」
どうすればいい? この場はどう切り抜ければ正解なのだ?
「失礼。信長様・・・ちょっとお顔を失礼しますわ」
ようやく異変に気付いた濃姫様が対応してくれたのだ。
濃姫様が信長様の口元を拭いてくれた。
そう。気になっていたのは信長様の口元に付いた生クリームだ。
指摘して良いのか悪いのか分からず困っていたが、濃姫様クリームを拭いてくれて事なきを得た。どんなに尊厳のある信長様も、口にクリーム付けていたら全てが台無しだよ。まったく。
俺のイメージしてた魔王信長様の姿はもうそこにはなかった。
「あ~ うほん。これは失礼した。皆も気にすることなく楽にするがよい」
「はっ」
もう手遅れです。俺のイメージを返してください。
しかしそのお蔭でかは分からないが、緊張していたのが嘘のように楽になったのは事実だった。良いのか悪いのか判断できないけれど。
「話を戻そう。帰蝶がお主らを召喚してまだ二十日も経ってなかろう。だが貴様はその短期間で魔属領の迷宮を制覇、その迷宮主を服従させた。これには我も驚いたぞ。その働き誠に見事である」
「それは私の力ではなく、我が妻たちとの協力のもと成し遂げた結果でございます。私ひとりではとてもできなかったと考えております」
「うむ。天狗にならず謙虚な気持ちでおるのは良い心がけじゃ。して、その方が報告にあった娘であるな・・・・・」
俺とシルエラを見比べる信長様。
魔王様や重臣たち、高LVの鑑定から見ると俺たちはどう見えるのだろう。
逆に下々の臣下が位の高い相手に鑑定を行うのは失礼にあたるらしい。もっともLVが低かったら何も分からないと思うけど。
ちなみに俺から見たシルエラ
名前:シルエラ
性別:♀
種族:人間族
年齢:16歳
クラス:大聖母の巫女
LV:15
HP:560/460(560)
MP:608/508(608)
SP:360/260(360)
STR:16 E VIT:17 E AGI:17 E
DEX:19 E INT:52 S LUK:35 S
スキル:魔法(光C・土E)
回復魔法LV5 治癒能力向上
大地の祝福 MP自動回復:小
魔法抵抗値上昇:小 状態異常耐性:小
あげまん 内助の功 光の加護
「ふむ。帰蝶よ、主はどう思う」
「はいな・・・このシルエラという娘。不思議な感じのする娘ですね。大聖母の巫女のいう名のクラスについても不明です」
「不明ですが調べさせたところ、面白い結果が判明しました」
「ほう・・・それはどんなことだ?」
濃姫様が調べてくれたこと。それはシルエラのクラスについてだった。
12歳になった時に行った職の儀、そこで判明したクラスの結果は教会を通じて国に報告される決まりになっていた。
シルエラのレアクラスも小さな教会とはいえ、きちんと報告されていたようだ。
一般的なクラスなら報告して終わり、特殊なクラスが判明した場合、しかるべき対応が取られ、国の補助が受けられるそうだ。
例えば魔法職なら、そのLVに応じて魔法学校への推薦が受けられる。我が家のドワーフ姉妹なら技術学校への入学が可能になるといった具合だ。
だがここで問題が起きていた。
シルエラの場合、その謎のクラスの名前だけ報告され、その内容については調べもされていなかったらしい。これは本来ありえないことで、当時の教会の幹部も記載された情報を確認したことは覚えているらしい。
だがなぜかレアクラスの詳細不明報告も不思議に思わずスルーされ、そして先日まで誰も何とも思わなかったらしい。
これは事務員もこんなことはありえないと驚いていたようだ。
「ふむう・・・これは何か意図的にその娘に封印のようなものが掛けられていた可能性がなるな。本人もそうだが儀式の担当員、報告書にいたるまで認識阻害のような加護があったのだろう。でなければ誰も気付かない訳がない」
なるほど、これは信長様の考えだがその通りかもしれない。
「そしてその封印が、宮代お主と出会ったことによって解かれたと考えるのが妥当であろうな。娘よ。質問だが宮代と出会う前に、誰かに襲われたり好意を寄せられたことはあるか?」
「はい・・・・そう言われてみれば、確かに誰にも好意を寄せられ、いえ皆さん親切に接してくれるのですが、異性からは特に変わった対応はされたことはありませんでした。でもヤマト様と出会い一緒に暮らし始めてからは、急に態度が変わったかのように感じ、戸惑ったのは確かです」
「ふむ・・・」
「それに山で暮らしていた時、野生動物に畑を荒らされたことはあっても、襲われたことはありませんでした。山賊に襲われ攫われたこともあの時が初めてです」
「やはりな。封印の件といい、淫魔との戦いで発覚した不思議な現象。これは神の一角が絡んでいるとみて間違いがないであろうな」
「そう考えるのが妥当でしょうね。大聖母の巫女の名が示すように神の御使い、もしくは生まれてくる赤子が神の御使いやもしれないわね。どちらにせよ神の寵愛を受けた者であるのは間違いはないわ」
信長様と濃姫様の考えの通りだとすると、シルエラって本当は凄い人なんじゃなかろうか? そしてそのシルエラの相手に選ばれたのがこの俺? 俺なんかで良いのだろうか? 本当はもっと相応しい人がいたのに、何かの手違いで俺になったとかそんなんじゃないよね?
本来のシルエラの恋人は別にいるかもとか・・・やだよ! もしそんなんでシルエラと別れるなんてやだよ!
「ヤマト様。大丈夫ですよ。私は私です。私はヤマト様の妻のシルエラです。私が愛しているのはヤマト様ただひとりです」
全てを見透かしてきたようなシルエラの言葉に泣きそうになってしまった。
「まっ・・魔王様!」
ここは魔王城の一室。
調度品も豪華で扉も立派な造りだったはずだ。
そんな部屋の扉を破壊して強引に乱入してくる人物。
その人物に驚き、平伏す執事さんたち。
俺とシルエラもそれに倣って平伏した・・・というか動くことができなかった。
この人物こそ城の主。第六天魔王織田信長、その人であった。
それにしても・・・・圧倒的な魔力量と迫力、そして放たれる威圧感・・・もうそこに立っているだけで冷や汗が出てくる。
「お前がこの菓子を献上してきた者か」
ううぅっ・・・このお方が、魔王信長様・・・・・何だこの威圧感は・・・・
「どうした。答えられぬか」
恐ろしい・・・体の震えが止まらない・・・・
「恐れながら申し上げます」
「この者、帰蝶様より新たに召喚された迷宮主、宮代大和様にございます」
執事さんの言葉で我に返った俺は、挨拶が遅れてしまったことに気付いた。
「申し訳ございません。私は日本、信長様のいた時代から約400年後の世界から、この地にやってきた宮代大和と申す者です。この度は・・・」
「御託は良い。質問に答えろ!」
俺の謝罪と自己紹介を聞く気もないといった感じの信長様。
これは聞きしに勝る人物のようだ。
「はっ、確かにそのケーキをお持ちしたのは私でございます」
「そうか。んでこのケーキなる菓子。そうそこにある物の他にもあるのか?」
「はい。他にも複数お持ちでございます」
「なら全部よこせ!」
「は?」
「聞こえなかったのか? 全部よこせと言ったのだ!」
「かしこまりました」
空間収納から取り出した5個のホールケーキと12個のショートケーキ、更には執事さんたちへの分として用意したホールケーキまで、信長様は自分の空間収納へと仕舞ってしまった。
「うむ。此度は大儀であった。では後ほど会おう。うわっはっはっは」
それだけ言い残して魔王信長様は消えてしまった。
・・・・・・・・何あれ?・・・・・
あれが信長様? 魔王様なの?
消え去った信長様のいた場所を見つめて、消えた反応を確かめるもそこには何もなかった。転移を使ったのだろうが・・・疲れた。
緊張の糸が切れたようにその場で倒れ込んだ俺に、執事さんが申し訳なさそうに声をかけてくれた。
「あれが魔王信長様なのか・・・とんでもないお方だな」
「はい。ですが魔王様自らこの場にやってくるとは思いませんでした。長年織田家に仕えていますが、こんなことは初めてでございます」
「そ、そうなんだ・・・・・」
「それだけ宮代様のことを、いやケーキなる菓子が気に入ったご様子。奥様と併せて謁見を楽しみにしておられるようですな」
「はあ・・・・」
執事さんの言葉にもう溜息しか出ないのだけれど。
シルエラはというと、ほぼ気絶状態だった。
無理もない。あんな身近にあんな強力な威圧感をもった人物がいたら、普通の人? であるシルエラに耐えられるはずがなかった。
執事さんはともかく、女中さんの何人かも跪いた状態でシルエラと同様に気絶してたし、こればっかりはしょうがないよ。
扉が破壊されたので部屋を変えてもらい、執事さんに新たにお茶を用意してもらって、一息ついた。
改めて思ったけど、このお茶は良い物だ。あまり飲んだことないけどこれは玉露かな? 爽やかな香りと渋みの少ないコクのある味わい。
これは落ち着くわ~ もう謁見なんて忘れてずっと飲んでいたい。
しかし現実に戻されることが起こった。
別室で着がえを済ませたシルエラの姿を見た瞬間、俺の魂に稲妻が直撃した。
「どう似合うかしら?」
「素晴らしい。何と言うか、どこからどう見ても貴族のご令嬢にしか見えないよ。凄く綺麗だよシルエラ」
それはもう素敵なドレス姿であった。露出度は少なめだが、青を基調としながら白いレースをふんだんに使った可愛らしいドレスだ。
これはもう俺の心を鷲掴みして離さないくらいの破壊力がある。この場に誰もいなかったら押し倒しそうになってしまうだろう。
「もうお世辞が上手いんだから」
「お世辞じゃなく本当だよ。皆もそう思うでしょ?」
「はい。宮代様のおっしゃる通り、奥様は大変お美しゅうございます」
「ほらね。綺麗なのは間違いないから自信を持っていいと思うよ」
いつまでもシルエラのドレス姿を眺めていたいがそうもいかない。俺も急いで用意していたタキシードに着替えた。
着がえたのたが・・・鏡に映った自分の姿を見て絶望してしまった。うん、これはないな。もう似合わないと言ったら似合わない。
シルエラは褒めてくれるが、自分では苦笑いしかできないでいる。
そうしてついに謁見の時間がやってきた。
うううぅぅ胃が痛い・・・・誰か助けて・・・
心配そうに俺を見つめるシルエラも、俺から見ても同じように震えているのが分かる。これでは美人が台無しだ。
これはいけない。ブルストの街の代表としてもっと堂々としなければ、笑顔で俺たちを送り出してくれた皆に顔向けができない。
「シルエラ。慣れない環境で戸惑ってるかも知れないけれど俺がついてる。シルエラの身は俺が守るから安心してほしい」
「ヤマト様・・・はい。そうですね」
「では行こうか」
兵士の手によって開かれた豪華な造りの扉をくぐると、そこには大勢の人が左右に分かれて並んでいた。
この場にいるということは、この国のお偉いさん方なのだろう。
見るからに強そうな武人だと分かる強面のおっさん。豪華なローブを纏った魔法使いらしき人物。人間から獣人、魔人と男女問わず凄い面々が勢ぞろいし、俺とシルエラを値踏みするように待ち構えていたのだ。
並んでいた重臣の視線がシルエラに集中しているのが分かった。
青いドレスを着た巨乳美少女と冴えない青年・・・一緒に並んでいればどうなるかは明らかだ。なかには見惚れている奴までいる。危ない危ない露出度の低いドレスを用意させて良かったぜ。あんな奴にシルエラを見せるのはもったいない。
扉から正面には開かれた場所になっており、その先には段があり玉座の間になっていた。そこには濃姫様の煌びやかな姿が見受けられた。
シルエラをエスコートしつつ段の前までくると、玉座の濃姫様に一礼し跪いた。
あれ? 濃姫様だけで信長様のお姿が見えられないけど、どうしたのだろうか? そう思っていた矢先にまともや急激な魔力反応が出現した。
跪き俯いた状態では分からないが玉座のある場所から、放たれる圧倒的な力の持ち主は魔王信長様しか考えられなかった。
「待たせたな。我がこの地の魔王。織田信長である!」
発せられた言葉に、この場の大気が震えるような、いや実際に震えている。それほどの威圧感のある言葉だった。
「ブルストの迷宮主、宮代大和と申します。本日は謁見の誉れに与り恐悦至極に存じます。こちらは我が妻であるシルエラにございます」
「シルエラと申します。御尊顔を拝謁でき恐悦至極に存じます」
よしここまでは事前に練習していた通りに動けているな。
だが目の前には恐ろしい信長様がいる。
もしなんかあれば俺ごとき一瞬で消しされかねない。そんな力があるお方が目の前にいるのだ。粗相があってはならない。
「うむ。面を上げよ」
「はっ」
信長様の言葉で俺とシルエラは顔を上げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「この度の働き、誠に大儀であった」
「はっ、ありがたき幸せ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
何この状況。これはどうすれば良いのだろうか?
左右に控えているこの国の重臣たちも何も言わず、ただ俯いているだけだ。
これはもう、この状況を変えられるのは濃姫様しかいない。
俺は濃姫様に目で訴えるようにチラチラと合図を送った。
気付いて濃姫様。
「何だ? さっきから気になることがあるなら、遠慮せずに申してみよ」
「それはその・・・・・」
どうすればいい? この場はどう切り抜ければ正解なのだ?
「失礼。信長様・・・ちょっとお顔を失礼しますわ」
ようやく異変に気付いた濃姫様が対応してくれたのだ。
濃姫様が信長様の口元を拭いてくれた。
そう。気になっていたのは信長様の口元に付いた生クリームだ。
指摘して良いのか悪いのか分からず困っていたが、濃姫様クリームを拭いてくれて事なきを得た。どんなに尊厳のある信長様も、口にクリーム付けていたら全てが台無しだよ。まったく。
俺のイメージしてた魔王信長様の姿はもうそこにはなかった。
「あ~ うほん。これは失礼した。皆も気にすることなく楽にするがよい」
「はっ」
もう手遅れです。俺のイメージを返してください。
しかしそのお蔭でかは分からないが、緊張していたのが嘘のように楽になったのは事実だった。良いのか悪いのか判断できないけれど。
「話を戻そう。帰蝶がお主らを召喚してまだ二十日も経ってなかろう。だが貴様はその短期間で魔属領の迷宮を制覇、その迷宮主を服従させた。これには我も驚いたぞ。その働き誠に見事である」
「それは私の力ではなく、我が妻たちとの協力のもと成し遂げた結果でございます。私ひとりではとてもできなかったと考えております」
「うむ。天狗にならず謙虚な気持ちでおるのは良い心がけじゃ。して、その方が報告にあった娘であるな・・・・・」
俺とシルエラを見比べる信長様。
魔王様や重臣たち、高LVの鑑定から見ると俺たちはどう見えるのだろう。
逆に下々の臣下が位の高い相手に鑑定を行うのは失礼にあたるらしい。もっともLVが低かったら何も分からないと思うけど。
ちなみに俺から見たシルエラ
名前:シルエラ
性別:♀
種族:人間族
年齢:16歳
クラス:大聖母の巫女
LV:15
HP:560/460(560)
MP:608/508(608)
SP:360/260(360)
STR:16 E VIT:17 E AGI:17 E
DEX:19 E INT:52 S LUK:35 S
スキル:魔法(光C・土E)
回復魔法LV5 治癒能力向上
大地の祝福 MP自動回復:小
魔法抵抗値上昇:小 状態異常耐性:小
あげまん 内助の功 光の加護
「ふむ。帰蝶よ、主はどう思う」
「はいな・・・このシルエラという娘。不思議な感じのする娘ですね。大聖母の巫女のいう名のクラスについても不明です」
「不明ですが調べさせたところ、面白い結果が判明しました」
「ほう・・・それはどんなことだ?」
濃姫様が調べてくれたこと。それはシルエラのクラスについてだった。
12歳になった時に行った職の儀、そこで判明したクラスの結果は教会を通じて国に報告される決まりになっていた。
シルエラのレアクラスも小さな教会とはいえ、きちんと報告されていたようだ。
一般的なクラスなら報告して終わり、特殊なクラスが判明した場合、しかるべき対応が取られ、国の補助が受けられるそうだ。
例えば魔法職なら、そのLVに応じて魔法学校への推薦が受けられる。我が家のドワーフ姉妹なら技術学校への入学が可能になるといった具合だ。
だがここで問題が起きていた。
シルエラの場合、その謎のクラスの名前だけ報告され、その内容については調べもされていなかったらしい。これは本来ありえないことで、当時の教会の幹部も記載された情報を確認したことは覚えているらしい。
だがなぜかレアクラスの詳細不明報告も不思議に思わずスルーされ、そして先日まで誰も何とも思わなかったらしい。
これは事務員もこんなことはありえないと驚いていたようだ。
「ふむう・・・これは何か意図的にその娘に封印のようなものが掛けられていた可能性がなるな。本人もそうだが儀式の担当員、報告書にいたるまで認識阻害のような加護があったのだろう。でなければ誰も気付かない訳がない」
なるほど、これは信長様の考えだがその通りかもしれない。
「そしてその封印が、宮代お主と出会ったことによって解かれたと考えるのが妥当であろうな。娘よ。質問だが宮代と出会う前に、誰かに襲われたり好意を寄せられたことはあるか?」
「はい・・・・そう言われてみれば、確かに誰にも好意を寄せられ、いえ皆さん親切に接してくれるのですが、異性からは特に変わった対応はされたことはありませんでした。でもヤマト様と出会い一緒に暮らし始めてからは、急に態度が変わったかのように感じ、戸惑ったのは確かです」
「ふむ・・・」
「それに山で暮らしていた時、野生動物に畑を荒らされたことはあっても、襲われたことはありませんでした。山賊に襲われ攫われたこともあの時が初めてです」
「やはりな。封印の件といい、淫魔との戦いで発覚した不思議な現象。これは神の一角が絡んでいるとみて間違いがないであろうな」
「そう考えるのが妥当でしょうね。大聖母の巫女の名が示すように神の御使い、もしくは生まれてくる赤子が神の御使いやもしれないわね。どちらにせよ神の寵愛を受けた者であるのは間違いはないわ」
信長様と濃姫様の考えの通りだとすると、シルエラって本当は凄い人なんじゃなかろうか? そしてそのシルエラの相手に選ばれたのがこの俺? 俺なんかで良いのだろうか? 本当はもっと相応しい人がいたのに、何かの手違いで俺になったとかそんなんじゃないよね?
本来のシルエラの恋人は別にいるかもとか・・・やだよ! もしそんなんでシルエラと別れるなんてやだよ!
「ヤマト様。大丈夫ですよ。私は私です。私はヤマト様の妻のシルエラです。私が愛しているのはヤマト様ただひとりです」
全てを見透かしてきたようなシルエラの言葉に泣きそうになってしまった。
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