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第2章 迷宮成長編

第69話 安土城下に行こう

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「わあぁ~ すご~い!」
 魔動飛行機の後部座席に座る学生3人は大はしゃぎだ。

「こらっ! お前たち少し静かにしてくれ! 気が散る」
 操縦桿を握るラッセリアは、ガチガチに緊張しながらも危なげなく安定した飛行を続けていた。どこぞの暴走狐娘とは大違いである。
「ラッセリアは心配性だなあ。そこまで気にする必要もないのに。あっ、前方に大きな積乱雲が見えるから迂回しよう」
「了解!」

 ラッセリアに魔動飛行機の操縦桿を任せているのには訳がある。俺とシルエラは信長様に、ラッセリアたち学生組は技術学校に用がある。お互いの用事がどれくらい掛かるか不明のため、帰りが別々になる場合に備えてラッセリアに魔動飛行機の操縦を教えているのだ。

「そろそろ高度を落として、現在地を把握しようか」
「了解!・・・あっ! あの大きな湖! きっとビワ湖だわ。もうこんな所までこられるなんて、もうすぐ安土城下よ」
「あれがビワ湖か~ まるで海だね。よし減速して安土城下に向かおうか」
 
 前方に圧倒的なスケールを誇る湖が見えてくる。
 でも気のせいかな? 形がきれいな円形してるけど・・・クレーターとか魔法の爆心地とかじゃないよね?
 まあいいか気にしないでおこう・・・湖畔沿いには市街地が広がっており安土城下だと思われる。事前に空から訪問する事を伝えてあるため上空侵犯に引っかかる事もないだろう。上空侵犯の概念があるのかどうか分からないが、少なくともダンジョン領域に入れば分かるはずだ。

「ラッセリア、城下町に着陸できるポイントはあるか? ないなら少し離れた郊外で着陸できるポイントを探そう」
「う~ん、そうだな・・・この機体サイズだと・・」
「先生! 学校の校庭なんてどうです?」
「ああ、あそこなら十分なスペースがあるな。よしそこに向かおう」
 ミレイナちゃんの案で技術学校の校庭に向かうようだ。うん俺のイメージする学校の校庭なら障害物もない広いスペースがあるはず、良い判断だ。
「着陸ポイントが決まったら、その降下スイッチで徐々に高度を下げていくんだ。そうそう。そのままある程度下降したら、着陸ポイントの修正も忘れないでね」

 魔動飛行機がゆっくりと垂直降下を始め、校庭に着陸を開始する。着陸ポイントの周りには学生と思われる人もいたが、初めて見る魔動機を見て蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「上手いじゃないか。着陸もスムーズでバッチリだよ」
「ふう~ 緊張した。機体はどうするの? 異界へ送還するの? できればこのまま、この場に置いといて欲しいのだが・・・その学園長を説得するのに実物があった方が説得しやすいのですが・・・あっ、無理なら断ってくれていいんだよ」

 ふむ、俺としてはどちらでも良いのだが、ラッセリアがそれを望むならそれが一番なのだろう。理屈も通ってるしね。
「いいよ、この機体はここに置いておこう。見学もできるし、魔力の認証コードがあるから他人には動かすことはできないし問題ない。防衛用の小型機体もあるから防犯面の心配はいらないよ」
「ヤマト君いろいろありがとう。助かるよ」

 遠巻きに見ていた学生たちも、機体から降りてきたのがラッセリアとレアイナちゃんたちだと分かると、砂糖に群がる蟻のように殺到してきた。
 学生たちの興味は初めて見る空飛ぶこの機体にあるらしく、ラッセリアたちは質問の嵐に合っていた。
 それにしても凄い人だかり。質問攻めにあうラッセリアに合掌・・チーン。


 学友と話すミレイナ姉妹と別れ、ラッセリアの案内で校舎に向かっている。
「ははっ、ラッセリアたちは人気者だな~」
「いや、あれは違うと思うぞ! あいつらの興味は魔動機だ。私たちではない」
「だろうね。魔動機は魔法と錬金術の塊だ。技術学校の学生たちに興味を持つなという方が無理があるだろう」

「さっヤマト君、こっちが学園長室だ。じきに城からの使いも来るだろうし、それまで申し訳ないが学園長に会ってもらえないだろうか?」
「学園長?」
「ああ、ブルストの街に学校を作る予定だろう。そのためにも学園長の許可が必要だからな。詳しいことは直接会ってもらえれば分かるよ」

 技術学校の学園長か、どんな人だろう? ドワーフかな? ドワーフの髭親父かな? 男女問わず学生たちの7割はドワーフらしいし、実際に見た学生は背が低かったからきっとドワーフなのだろう。

「あれ、ラッセリア先生? 教育実習に行っていたはずでは? いつお戻りになられたのですか?」
 スーツ姿だし同僚の先生だろうか? ぽっちゃり体型の優しそうな女性がラッセリアに話かけてきた。
「さっき戻ってきたばかりです。それより学園長は学長室かしら?」
「学園長なら、先ほど凄い勢いで外に飛び出して行きましたよ」

「あちゃ~! どうやら擦れ違いになってしまったらしい。私はお客人を学長室へ案内するから、モナ先生申し訳ないが学園長を呼んできてもらえないだろうか?」
「お客人? ラッセリア先生、そちらの方は?」
「ああ、教育実習先の領主宮代様よ。凄腕の錬金術師でもあり学園長も見に行かれた魔動機の製作者でもある方なの。学園長にはそう言ってもらえればすっ飛んでくるだろうから、お願いしますね」
「わぁわぁ! この方がお噂の錬金術師なのね。やだっカッコイイ男性じゃない・・いいわ呼んできてあげる。その代わりに後で私にも宮代様を紹介してね」

 ぽっちゃりさんの女性、モナ先生と呼ばれた女性に両手をしっかり握られて苦笑するも、そばにいたシルエラの気配を察してか、モナ先生はそそくさと立ち去って行った。てか噂のって何だよ。どうせろくな噂じゃないのだろうけど。

 ラッセリアに案内された学長室にて待つこと数分、ドタドタ走る音が聞こえてくる。室内でも廊下を走る物音が聞こえるとはどんだけだよ。そして、バン! と勢い良く扉が開き、現れたのは長い髭を生やした爺さんだった。背の低い太めの体型、鑑定スキルを使わなくても分かる。この爺さんは間違いなくドワーフだ。

「な・・・っ・・なぜあのような金属の塊が空を飛ぶのだ!? ありえぬっ! あんな重い物体が飛ぶだとぉ! なぜだぁ! どのような理屈で・・いやどのような付与魔法を掛けてあるのか!?」
 勢い良く登場した爺さんは鼻息を荒くして詰め寄ってくる。この爺さんが学園長なのだろう。
「・・学園長! ヤマ・・宮代様が困っております! 落ち着いてください。宮代様こちらが、当校の学園長です」

「うっ・・おっほん・・失礼、わしが当学園の学園長バッコスです」
「自分はブルストの街の領主、宮代大和です」
「して、宮代様本日はどのようなご用件で当校に? 迷宮関連ですかな? できればあの空飛ぶ物体の説明をして欲しいのじゃがのぉ」
「それについては私から説明します・・・」

 未だ興奮を隠せない学園長。ラッセリアが俺に代わり、ブルストの街の現状と学校の分校の件を話してくれた。知らない人、特に年配で位の高い人と話をするのは疲れるので非常にありがたい。

「ふむう・・分校の件、わしの一存ではなんとも言えんが魔動機とか言ったかの。ゴーレムと錬金術の塊には学ぶことも多かろう・・・よし職員会議に出すことを約束しよう。で、あの魔動機の仕組みをワシにも教えてくれんかのう」
「あれはですねぇ。浮遊魔法で浮力を得て風と火魔法を推進装置に使って飛んでいるみたいですよ。私も安土まで操縦してきましたが、魔法の絨毯より安定しており飛竜より早く飛べるんですよ!」
 ラッセリアと学園長は興奮気味に魔動機の話で盛り上がっていた。これが研究熱心なドワーフの通常なのだろう。俺とシルエラは少し引き気味に眺めていることしかできなかった。

「ヤマト様、分校の件うまく話が進みそうで良かったですね」
「ああ、勉強熱心なドワーフたちなら新しい技術に飛びつくと思っていたよ」
 未だ続くドワーフ族の熱弁に圧倒されていると、入り口の扉をノックする音が聴こえてくる。

「失礼します。安土城より宮代様のお迎えの使者が来られております」
「モナ先生、色々ありがとうございます。ヤマト君使者を待たせるのも悪い、案内するから行こうか」

 ラッセリアの案内で校舎の入り口まで来ると、豪華な馬車と燕尾服を着た執事ぽい人がいた。
「宮代様御一行ですね。お待ちしておりました。城までご案内しますので馬車にお乗りください」
「私はまだ学園長と話しているから、今後のことは決まったらまた連絡するよ。行ってらっしゃい」
 俺とシルエラが馬車に乗り込むと、ラッセリアと学長の他、いつのまにかミレイナ姉妹まで合流して俺たちを見送ってくれた。

 初めて乗る馬車に揺られ、安土城下の街並みを眺めている。ミカワの街と同様に和風と洋風の混ざり合った作りの建物が並んでおり、街には様々な人種の人々であふれ活気に満ちている。
 異国情緒あふれる街並みって何かいいな。

 あっ、あの水色の服の女性きれいだな。犬耳っぽい耳に端正な顔立ち、それになかなかの巨乳の持ち主だ。
「ヤマト様どなたを見ているのかしら?」
 俺の視線に気付いたシルエラが睨んでくる。キノセイデスヨ。

 そんなやり取りをしているうちに、大きな城門をくぐり曲輪群を進んで行く。
 曲がりくねった道をしばらく進むと立派な城門が見えてくる。きっとあれが大手門なのだろう。その大手門を横目で見つつ別の門から馬車が入って行く。

「宮代様申し訳ありません。ここからは徒歩となります」
 馬車が止まり執事さんから説明を受ける。目の前には長い石段がある・・・まさかこの長い階段を上っていくの? なんて訳もなく案内されたのは石段を大回りにして歩いて行く道だった。

 道中の日本庭園を思わせる庭も見事だ。見たこともない植物もあるが、これは和の心を感じさせる素晴らしい庭園だ。
 曲輪群に虎口、狭間など城の構造は戦国時代を彷彿させている。これは異世界でも同じらしい。

「ねえ、ヤマト様どうして道がくねくねしているの? 途中の道もそうだけど、まっすぐな方が便利じゃないの?」
「それはね。城は外敵の侵入を防ぐために色々な工夫をしているからだよ。直線な道は便利だけどその分、敵の侵入も早いだろ」
 シルエラの質問に答えると、執事さんが褒めてくれた。そんなの常識だろ? 城は男のロマン、ロマンの塊だよ。

 執事さんの案内で本丸の門番にも止められることもなく、城内へと入り一室へと案内された。
 安土城本丸が信長様の迷宮だとすると、外観以上に広いことは予想できる。この部屋も客室だと思われるが、なんて豪華な作りなのだろうか。街並みと同じく和と洋の融合したような豪華な洋室だった。床は絨毯張りなのだが、鴨居や欄間がありその彫刻は見事としか言いようがない。

 女中だと思われる和服の女性が、お茶を出してくれて退出していく。
「なんか落ち着きませんね」
「そだね・・・」
 俺とシルエラの二人は、場違いの場にいる感じで難しい表情を浮かべていた。
 するとドアをノックする音が聴こえて、入り口に控えていた執事さんが扉を開けると女中を引き連れた濃姫様が入室してきた。

「ようこそ安土城へ、宮代様とこうして直に会うのも召喚の時以来ね。そちらがシルエラさんね。私が魔王信長様の正妻であり補佐を務める帰蝶よ。そんなに緊張しなくても取って食べたりしないから大丈夫よ。まずはご結婚おめでとうと言うべきかしらね。うふふっ」
「シルエラです・・田舎者ですので・・作法も知らずご無礼もあるかと思いますがご了承ください」
 緊張しながらもカーテシーをするシルエラ。かわいい。かわいいぞ!

 ディアドラとは違った妖艶さと大人の美しさの濃姫様を前にして、緊張するなというのも無理がある。もちろん俺の股間もエロい格好の濃姫様に反応している。

「濃姫様、こちら領地で採れた小麦とお米です。それと生菓子です。生菓子は傷みやすいのでお早めにお食べください」
 献上品を空間収納より取り出し、箱に入ったケーキの説明をした。

「宮代様、信長様は甘未が大好きでいらしゃるの、きっと喜ばれると思うわ。謁見は午後から準備ができ次第行われるから、もう少し待っていてくださいな。それにしてもこんなに早くお米が栽培されるなんて宮代様もシルエラさんのスキルも優秀なのねぇ。信長様でなくても興味深いわぁ」
「ありがとうございます」
「こちらありがたく頂戴しますわ。それではまた後でお会いしましょう」
 女中さんがケーキの箱を手で持ち、小麦と米俵は濃姫様が空間収納に収納して部屋から立ち去っていった。

「はあぁ~ 緊張したわ~ あのお方が帰蝶様なのね・・・凄いきれいなお方ね。でも今度は魔王様に謁見することになるなんて・・・ううぅ・・」
「あはは・・そう考えると俺も胃がやられそうかも・・・」

「宮代様、お疲れでしたらこちらでお休みください。謁見までお時間ありますしお食事もお持ちしますのでお寛ぎください」
「ああ、すまないがそうさせてもらおうかな。シルエラも少しゆっくりしよう。緊張してると体がもたないよ」

 食事が運ばれてきたが、正直言って食欲はあまりない。でも出されたお茶は美味しかった。これは良い緑茶だ。玉露かな?
 少し落ち着いてきたかな・・・でも出された食事を残すのも悪いしなぁ。

「執事さんたち、俺たち食欲ないので良かったらご一緒に食べてくれませんか? 残すのももったいないし・・食事は大勢で食べる方が楽しいですし、女中さんも遠慮せずにどうぞ」
「宮代様、申し出は嬉しいのですが、立場的にお客様と一緒に食事をする訳には参りません」
「そうですか残念です・・・そちらの女中さんはどうですか?」
「私も同じくお客様の食事に手を付ける訳には参りません」
「ううむ・・困ったね。良い案だと思ったのになあ・・・仕方がありません。ですがケーキはどうですか?」
 ケーキと言った瞬間の執事さんの表情を俺を見逃さなかった。

「じゃあこうしましょう。食事は諦めますので、良かったら後でケーキは女中さんたちと食べてくださいね。あっ、沢山持ってきてますので遠慮せずにどうぞ」
「ほんとですか、ありがとうございます。正直凄く気になっていたんですよ」
 俺が声をかけると、それまで無表情だった執事さんの顔が緩んで凄く嬉しそうになった。やっぱり見たことのないスイーツだ、本心は食べたかったんだね。

 そんな時だった。バン! と勢い良く扉が開き? というか扉が砕け散り、そこに現れた強面のオッサンさんが部屋に乱入してきた。

「な・・・っ・・何だ、あのような白く柔らかい甘い菓子は!? ありえぬっ! あんな甘い菓子が存在するだとぉ! もっとよこせっ!・・・いや、どんな食材を使えば甘くなるのじゃぁ!?」
 勢い良く登場したオッサンさんは鼻息を荒くして詰め寄ってくる。なんか技術学校でも同じ出来事あったけどデジャヴ?

「まっ・・魔王様!」
 驚く執事さんと女中さんたち。
 この迫力と威圧感・・・そこに立っているだけで冷や汗が出てくる。
 これが本物の魔王、織田信長、いや信長様。
 まさか謁見の前、こんな控室で魔王様本人に会うとは思わなかった。
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