坂をくだると

ふくいち

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坂のした

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高校に入学して2ヶ月たった。
やっと生活にも慣れてきたところだ。
登下校で通る上り下りの坂道も、もうそんなに苦にならない。
入学する前はあるはずもないドラマのような学校生活をあるはずもないが期待していた。
そして今。うん、やっぱりなかった。
まだ2ヶ月だけどあるような気配もない
ドラマや小説ならだいたいこんなこと考えてるやつにイベントがくるものだ。だが無いことは知っている。今日もいつも通り家を出て学校に行って授業を受けて部活して帰るだけの何ら変わりのない毎日を過ごす
そんなこと考えて今日も家を出た。

今日はたまたま早く電車に乗れた
1本早い電車。ちょっと嬉しい
うちの高校はとにかく登下校がめんどくさい。なにがめんどくさいっていったら学校が丘の上にあるため少し急な坂道がある。
それも何故か下りと上りが1本ずつ。平地なんて薬局とかコンビニがある一帯だけだ。
そんなこと言ってたら駅についてしまった

今日はぼっち登校ってやつだ
ひとりで寂しくあの坂を下って登る
うちの学校の生徒もこの時間はだいたいぼっち登校である

坂の下のコンビニが見えてきた。
何か買うわけではないが時間にも余裕があるし寄ってみようと思い、少し早足でコンビニに向かった。

そのとき

コンビニに入ろうとした僕の横を女の子が通った

何故か胸が高鳴る。ドラマや小説と言えど出会いはドラマチックでないこともある。そんなことが自分の身に起こっているのではないか。そんな予感がした。

いや、それはなかった。
あの人は確かひとつ上の学年の新開先輩だ
生徒会に所属していて部活は茶道部。学校内一番の美女じゃないのかっていう噂もある。
そんな人と付き合えるわけ無いじゃないか。
そもそも話したこと無いし
まず先輩とあまり話さない。
LINEだって先輩で友達になっている人は3人でそのうち部活の人が1人、中学の先輩だった人が1人。あとは顔と名前が一致しないしうちの学校らしいけど女の子って言うのは知ってる。
あれ?と僕は思った
あの人顔ほとんど初めて見たけどどこかで見たことある気がした。
とっさにLINEを開いて友達を確認する
そして真っ先に顔と名前が一致しない先輩のプロフィールを開いた。
このプリクラの人だ、間違いない。
この人下の名前を登録してたからわからなかったんだ。
またちょっと胸が高鳴った。

「新開先輩はお前にゃ無理だぜ」
大笑いしながら僕の親友駿平がやってくる。
クラスで一番話の合うイイヤツだ。
「わかってるって」
「あの美女がよ、お前によ、振り向くと思うか??」
少しいらっとした。確かにこいつはめちゃくちゃイイヤツだ。
ただどうでもいいが言わせて欲しい。
こいつは彼女ができたことはない。
「思ってないって」
そう言って僕は駿平に少し強めのデコピンを食らわせてやった

授業をいつものようにウトウトしながら受けていると気づけば昼休みになっていた
お弁当だけじゃお腹が減るので購買でパンを買ってくるというのが僕の昼休み最初にすること。あのいちごジャムのパンは誰にも譲れねぇ
教室を飛び出し階段を急いで降りると
「こんにちは~」
と、すごくハキハキとした挨拶をうけた
聞いたことない声、だけどすごく惹かれる声だった。誰の声かすごく気になった僕はとっさに階段の少し上にいるであろうその人を見たいがために振り向いた。

あの人だ
あの新開先輩がそこにいた
あの新開先輩が僕に挨拶をしてくれた

「こ、こんにちは」

僕も焦って挨拶を返した
先輩はニコッとして教室に戻っていった

この状況、多くの人は「これ脈ありかな?」って思うだろう。そしてその日からその人の事が気になって仕方なくなるだろう

だが僕は違う
そもそも関わりがない、そして学校1美女と言われるあの人と
趣味と言えば観葉植物の世話と楽器をいじることくらいしかないこの僕が
さっきからなんどもなんども繰り返すようだが、こんな一瞬のことでドラマのような展開には発展しないことは知っている
だけど
別にそーゆーわけじゃないけど
少し嬉しかったのは確かだ。

あの日から数ヶ月
学校で挨拶し合う関係にはなれた
しかし他は何も無い。
LINEも生徒会に質問がある時たまーに送るだけだ
本当に何も無かったのだ。まぁ当たり前か

今日は待ちに待った休日。ただゆっくりとした時間を過ごす前に部活があるから学校に行かなきゃならない。
学校に着くと先輩たちが何か大がかりなものを作っていた
あぁ、そろそろ学校祭じゃないか
あと3週間後に迫った学校祭。
(ちなみにうちのクラスは喫茶店をやるらしい)
「おいおい、うちのクラスはやらなくていいのかよ、、、」
小言をひとつ呟いて体育館に向かった

きつい部活が終わってこれから楽しい午後の時間。
だかさっき先輩方が準備してるのを見てしまったからには何故か準備しなきゃいけないような気がした
「僕、学祭準備してくるから先に帰ってていいよ」
そう部活の仲間に言い残して4階にある教室へ向かった。


なぜだ。
なぜなんだ。
確かに、やらなくていいのかよと軽い感じで思った。
だけどなぜなんだ。

本当にひとつも終わってない。
そもそも誰ひとりとして残ってないじゃないか。

もうまじで泣きそうになった。
だってこれじゃあ間に合うわけないじゃないか。とりあえず、委員長にこんどクレームをつけてやろう
おかげてなにをやればいいのかもわからない
とりあえずみんなで決めた内装のイラストでも見て作業しよう


進まない。作業が進まない。なにもかもわからない。まるで初めて東京に飛び出した若者のように右も左もわからない。
ちょっと先輩方の作業を見て参考にしよう
ちょうど飲み物も欲しかったところだし。

廊下に出るとすごくたくさんの荷物を持った女の子がふらふらしながら歩いていた
あれ絶対に落ちるよな~...
バサッ。
ほら、落とした。
気は進まないが助けに行くか

「あちゃ~...やっちゃった...」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!ごめんありがとう」
「あ、新開先輩じゃないですか...?」
「あ、三上くん!」

そうそう、僕は三上って言うんだ
そんなことはどうでもよくて
なんで新開先輩がここにいるんだろう。

「それ運ぶの手伝いますよ」
「ありがと~」

いま一緒に荷物を運んでいるわけだが
やっぱり新開先輩はすごく美人だと思う
髪はふわっとしてるし目はぱっちりしてるし

「ん?どうした?」

いけない。少し見すぎたようだ。

「これ何に使うんですか?」

とっさに話を変える。

「生徒会で使うの。学祭の時にね」
「この時期生徒会も大変っすね~」
「でもやりがいあるから楽しいな
そう言えば三上君なんで学校に?バスケ部もう終わってるよね?」

そうそう、僕はバスケ部なんだ
そんなことはどうでもいい。

「学祭準備で残ったんですけどなにやればいいかわからなくてこれから先輩方の作業見に行こうと思ってたとこなんです」
「そーゆーことなら私に任せて~
去年の学祭の写真とか見せてあげるよ!」
「あ、ほんとですか!ありがとございます!


僕は感動している。
なぜならこんな普通に新開先輩と話せているからだ
そしてまた少し胸が高鳴っているのがわかった。
荷物を運んでちょっとすると生徒会室に着いた

「中入っていいよ!先生も他の人もいないから怒られないはずだから!」

それって2人きりじゃん!?
そんな言葉が頭をよぎる。
いつもはこんなこと感じないんだけどなぁ
そう思って生徒会室に入る。


「この写真かな~1番見やすいの」
「あ、すごい!お化け屋敷ですね」
「ここ1番怖かったんだ~」
「先輩なんか怖いの弱そうっすね」
「私すごく得意よ!!」

近い。距離が近い。
すごく緊張するっていうかなんていうか。
表し用のない感じ。
写真を眺めてる僕のすぐそばで新開先輩が一緒に写真を見ている
こんなこと言うと気持ち悪いがシャンプーのいい匂いがするのだ。


「ありがとうございました!作業戻りますね!」
「うん!頑張ってね三上くん!」
「新開先輩も頑張って!」

さぁ。作業頑張ろう。なんだかすごく頑張れそうな気がした。


時は流れとうとう学祭本番!
しかし大きな問題があった。
僕の親友である駿平とシフトが異なるため一緒に店をまわれないのだ
クラスで駿平以外のやつとあんまり話さないからまわれる人がいない。

これってぼっちでまわれということか!?
学祭なのに!?

はぁ...そりゃないぜ...
そうおもって校庭のベンチに腰掛けて落胆していると
あの人が来た
新開先輩が、校庭に、あきらかに僕の方に来ている。

「こんにちは~どうしたのそんな浮かない顔して~」
「学祭だっていうのにまわるひとがいないんですよ....」
「かわいそうに...あ、私がまわってあげようか??」
「先輩ばかにしてるんですか??」
「いや~...ここだけの話私いきなり生徒会の方の仕事のシフト変わっちゃってまわるひとがいないの。三上くんと同じだね」

なんだろう。またあの感じだ。言い表す言葉が出てこないけど、すごく嬉しい。だから勇気を持って

「じゃあ行きますか先輩」
「うん!」


僕はいまとても幸せだ。
こんな綺麗な人と学祭をまわっている
周りの人もみんなこの人を見ているのがわかる
「ねぇあれはいろうよ!」
「お化け屋敷じゃないっすか、先輩大丈夫なんすか?」
「大丈夫って言ってるしょ!」

バシッ

いたい。背中を割と強めに叩かれた。
でもなぜか少し嬉しい。
僕がMであるということはないから安心して欲しい。

とりあえず列に並ぶことにした
思ったよりそのお化け屋敷は人気らしくかなり列が長かった
まぁでも新開先輩とこうやって並ぶのもいいな...なんて
あの入学当初とは打って変わった感情
人って不思議だなぁ

そしてとうとう僕らの番がきた
やっぱ緊張するなぁと思ってたら

「やっぱちょっと怖いかも」
って新開先輩が袖を引いてきた

もうここで死んでもいい。後悔はない。

ガラッとドアが開いて中に入ると定番の怖い曲が流れてたり真っ暗だったり。高校の学祭ってこんなにレベル高いのかって思うほどの内容だった

「じゃあ行きますか」
「うん」

やっぱ先輩怖いんじゃないか
小声で呟く。
バシッ
強めに叩かれる

中を進んでいくと手術室みたいなところに出た。
絶対怖いヤツだよね

ガタガタッ

物音がした
それに驚いた先輩がまた袖を引っ張る

ここで考えるのもなんだけど
僕はもう自分の気持ちに気づいているのかもしれない。
もうわかっている。だからさっきよりも難しいことかもしれないけど今しかない

僕は先輩の手を繋いだ。

嫌がってるかな

そう思った

その時先輩から握り返して来るのがわかった

もうその瞬間のことは忘れない
周りのお化けたちなんて気にならないほど
僕は僕の右手に集中していた
そしてお化け屋敷を出た後も繋いだままで
お互いはっとしてすぐに離した。


そして気づけばお互いシフトの時間になっていた。

「じゃあ仕事してきますね」
「うん!じゃあね!」

離れた後もまだ感覚があった
すごく嬉しかった


学祭は終わって残すのは打ち上げ花火だけ

やっぱり今日だよな

そう決めて校庭にでた

そして新開先輩を探す

人を探すためにこんなに一生懸命になったことがあっただろうか

どこにいるんだろう

あの人のことだからもしかしたら...

僕は学校に戻って真っ先に生徒会室に向かった

やっぱり電気がついていた

こういう時のカンはいいんだ。

ガラッ

ドアを開けた
まずなんとなく窓をみた

ここから校庭見えるんだ...

「三上くんどうしたの?」
「先輩こそどうしてここに?」
「この学祭の会計が終わらなくて...花火あるから行きたかったんだけど行けないからここから見えるので我慢かな」

またあの時と同じ

この生徒会室に2人きり

でもあの時と違うのは

あきらかに僕が先輩を意識してるってこと

今すぐにでも笑い話に変えてしまいたいこの空気

でもやっぱり今しかないんだ

あの時より大きな勇気を持って

「先輩、あのっ」




校庭では花火が始まったようだ
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