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第三章 未知なるもの

第三章 未知なるもの6

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 どうにかロベルトを城へ連れて帰ってきたカメリアだったが、あの後のセロイスの言動は目を覆いたくなるほどにひどかった。

 兵の指導をすればどこから持ってきたのかわからないパンを手に指導にあたろうとする。昼食をとろうとすれば、ナイフの代わりに剣を抜く。

 普段となにひとつ変わらない姿で、奇妙な言動を繰り返すセロイスの姿は兵達をある種の恐怖に陥れ、城の中は一時騒然とした。
 
 バルドをはじめとするセロイスを慕う兵達からは「セロイスになにをした。なにがあった」となぜかカメリアが詰め寄られる始末だ。

 なにかならばたしかにあった。セロイスの奇妙な言動の原因もカメリアは知っている。
 しかし原因について話すということはセロイスの想いについても話さなければならない。
 そんなことはできないとカメリアはどれだけ詰め寄られても、無言を貫いていた。

 騎士として約束を破るわけにもいかないというのもカメリアが無言をつらぬいた理由のひとつだが、カメリアとセロイスの仲についての誤解が広まることを避けたかったとこともある。

 今朝のセロイスとカメリアの宣言を聞いていた兵達は表立っては何も言ってはこないものの、セロイスの奇妙な言動はカメリアとの婚約のせいだと思っているようで「元のセロイスを返せ」と念のこもった視線をカメリアに送ってきた。

 ただでさえよく思われていないというのに、誤解から面倒なことになるのはご免だと思っていたカメリアにとって、ロベルトからの「色々と疲れているようだから、今日はふたりとも帰れ」と言われた時はひどく助かった。

 たとえセロイスとともに、いつの間にか手配されていた馬車でセロイスの屋敷に帰ることになったとしても、あのような視線をあびながら、セロイスの奇妙な言動を見ているよりもマシだ。
 しかもその原因にカメリアの身内が関わっているとなると、余計につらい。

 部屋に戻ってきたカメリアはそのままベッドの端に腰を降ろし、そんなことを考えていた。セロイスはカメリアとは反対側のベッドの端に腰を降ろし、組んだ手の上に額を乗せてうつむいたまま何も言わない。

(無理もないか)

 最初セロイスは叶わない恋だと、そう言っていた。
 どこかあきらめていたにも関わらず、ルベールと青年が仲睦まじい姿を見せられた衝撃は想像以上のものだろう。

(しかし、あの青年は何者だ?)

 ロベルトを捕まえるために街を駆け回ることが多いカメリアだが、あのような青年に見覚えはない。
 そうなると青年は兵か騎士、あるいは貴族の関係者という可能性が高くなってくる。

(だとすると、密会というのも考えられるが……なぜあの場所で、それもあんな形でする必要がある)

 兵達に関することはセロイスの方が詳しいのだが、先程からこの調子だ。
 そっとしておきたい気持ちはあるが、そういうわけにもいかない。

「おい……」

 セロイスからの返事はない。

 あまりの反応のなさに次第に焦れてくるが、どうにか我慢して返事を待ち続けた。
 セロイスから反応が返ってきたのは、それからしばらくしてのことだった。

「……何だ?」

 聞こえてきたセロイスの声には力がなかった。
 こんなセロイスの姿を一体誰が想像出来るだろうか。カメリアですらこんな姿は想像出来なかった。

(恋というものは、こんなにも人を変えてしまうものなのか……)

 胸に込み上げてきた未知のものへの恐怖を押し殺し、カメリアは声をかけた。
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