婚約(無理矢理)を解消するために恋を応援するとは言ったけれど、私の兄を好きとは聞いてないが!?

結来月ひろは(ゆくづきひろは)書籍化希望

文字の大きさ
上 下
1 / 57
第一章 戦いの合図は教会の鐘で

第一章 戦いの合図は教会の鐘で1

しおりを挟む
 その昔、まだ国という形すらなかった頃。
 初代王は仲間達と共に理想の地を探し求めていた。

 長い旅の途中で空にかかった虹を見付けた初代王は虹に導かれるようにして、その虹の麓に向かった。そこで見付けたのは美しい土地であり、初代王の理想の土地でもあった。

 その場所に国を創ったことがバレーノ王国の始まりとされて
いる。初代王の話は今も語り継がれており、以来、バレーノ王国では虹が国のシンボルとされ、空にかかる虹は吉事の象徴とされている。

 そんな言い伝えを持つバレーノ王国の空には虹がかかるどころか、まだ夜も明け切っていない。夜の余韻を色濃く残す中、とある部屋の中で一人の少女が目を覚まそうとしていた。

 女性にしては珍しく肩に毛先がようやく届くくらいの長さで整えられた赤い髪が真っ白なシーツの上に広がるその様は雪の中に咲く椿の花を思い起させる。

 寝返りを打つと共に開かれた少女の深い緑色の瞳は寝起きのせいかうっすらと潤んでいる。その髪と瞳の色は少女の椿の意味を持つ名前・カメリアにふさわしいものであった。
 カメリアは二度三度、瞳を瞬かせていたが、意識が覚醒した途端、叫び声をあげた。

「……どこだ、ここは!?」

 いつもと同じように目を覚ましたはずのカメリアの目に飛び込んできたものは、自分の部屋の天井にはないはずの磨き抜かれたシャンデリアがぶら下がっている天井だった。

 驚きのあまり、思わずベッドから飛び起きたカメリアはあたりを見回した。
 カメリアが身につけているものは普段の就寝時に着ているシャツにズボンだったが、カメリアに馴染みのあるものといえばそれくらいで、今、目に映るものはどれもまったく見覚えのないものばかりだ。

 部屋の中央にはカメリアが眠っていた天蓋の付いた大きな白いベッドが置かれ、壁際には細やかな装飾のほどこされた化粧台やクローゼットといった調度品の数々が配置されており、太陽の光を余すことなく取り込むことのできるであろう大きな窓には真っ白なレースのカーテンが揺れている。

 年頃の女性ならば誰もが憧れるおとぎ話にでも出てきそうな部屋だったが、カメリアはベッドから降りると、調度品には目もくれずにまっすぐに部屋の扉に向かうとドアノブに手をかけてみた。
 しかしドアノブはガチャガチャと虚しい音を立てるだけで扉が開くことはなかった。

「やはり、鍵がかかっているか……」
 駄目元でのことではあったが、外側から鍵がかけられた扉にカメリアはため息をついた。扉を強引に破る方法もなくはないが、ここがどこであるのか、何故自分がここにいるのかわからない以上、ここはおとなしくしておいた方が得策だろう。

(行動に出るのはそれからでも遅くはないはずだ)
 そうなると今できる行動は限られている。カメリアはベッドに戻ると、おもむろに枕を持ち上げた。枕の下には何もない。

 次にカメリアは床に膝をついて、ベッドの下をのぞき込むがそこにもほこりひとつもない。

 その後もカメリアは使い方のわからない化粧品の入った化粧台の引き出しや、自分とはまったく縁のないドレス達が吊るされたクローゼットを次々と開けていく。

 その一連の行動は年頃の娘とは思えないものだったが、カメリアはこのような部屋に目を輝かせるような愛らしい娘でもなければ、このような部屋の主にふさわしくもない。そのことは他の誰でもないカメリア自身が一番理解していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

Knight―― 純白の堕天使 ――

星蘭
ファンタジー
イリュジア王国を守るディアロ城騎士団に所属する勇ましい騎士、フィア。 容姿端麗、勇猛果敢なディアロ城城勤騎士。 彼にはある、秘密があって……―― そんな彼と仲間の絆の物語。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...