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第一章 戦いの合図は教会の鐘で
第一章 戦いの合図は教会の鐘で1
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その昔、まだ国という形すらなかった頃。
初代王は仲間達と共に理想の地を探し求めていた。
長い旅の途中で空にかかった虹を見付けた初代王は虹に導かれるようにして、その虹の麓に向かった。そこで見付けたのは美しい土地であり、初代王の理想の土地でもあった。
その場所に国を創ったことがバレーノ王国の始まりとされて
いる。初代王の話は今も語り継がれており、以来、バレーノ王国では虹が国のシンボルとされ、空にかかる虹は吉事の象徴とされている。
そんな言い伝えを持つバレーノ王国の空には虹がかかるどころか、まだ夜も明け切っていない。夜の余韻を色濃く残す中、とある部屋の中で一人の少女が目を覚まそうとしていた。
女性にしては珍しく肩に毛先がようやく届くくらいの長さで整えられた赤い髪が真っ白なシーツの上に広がるその様は雪の中に咲く椿の花を思い起させる。
寝返りを打つと共に開かれた少女の深い緑色の瞳は寝起きのせいかうっすらと潤んでいる。その髪と瞳の色は少女の椿の意味を持つ名前・カメリアにふさわしいものであった。
カメリアは二度三度、瞳を瞬かせていたが、意識が覚醒した途端、叫び声をあげた。
「……どこだ、ここは!?」
いつもと同じように目を覚ましたはずのカメリアの目に飛び込んできたものは、自分の部屋の天井にはないはずの磨き抜かれたシャンデリアがぶら下がっている天井だった。
驚きのあまり、思わずベッドから飛び起きたカメリアはあたりを見回した。
カメリアが身につけているものは普段の就寝時に着ているシャツにズボンだったが、カメリアに馴染みのあるものといえばそれくらいで、今、目に映るものはどれもまったく見覚えのないものばかりだ。
部屋の中央にはカメリアが眠っていた天蓋の付いた大きな白いベッドが置かれ、壁際には細やかな装飾のほどこされた化粧台やクローゼットといった調度品の数々が配置されており、太陽の光を余すことなく取り込むことのできるであろう大きな窓には真っ白なレースのカーテンが揺れている。
年頃の女性ならば誰もが憧れるおとぎ話にでも出てきそうな部屋だったが、カメリアはベッドから降りると、調度品には目もくれずにまっすぐに部屋の扉に向かうとドアノブに手をかけてみた。
しかしドアノブはガチャガチャと虚しい音を立てるだけで扉が開くことはなかった。
「やはり、鍵がかかっているか……」
駄目元でのことではあったが、外側から鍵がかけられた扉にカメリアはため息をついた。扉を強引に破る方法もなくはないが、ここがどこであるのか、何故自分がここにいるのかわからない以上、ここはおとなしくしておいた方が得策だろう。
(行動に出るのはそれからでも遅くはないはずだ)
そうなると今できる行動は限られている。カメリアはベッドに戻ると、おもむろに枕を持ち上げた。枕の下には何もない。
次にカメリアは床に膝をついて、ベッドの下をのぞき込むがそこにもほこりひとつもない。
その後もカメリアは使い方のわからない化粧品の入った化粧台の引き出しや、自分とはまったく縁のないドレス達が吊るされたクローゼットを次々と開けていく。
その一連の行動は年頃の娘とは思えないものだったが、カメリアはこのような部屋に目を輝かせるような愛らしい娘でもなければ、このような部屋の主にふさわしくもない。そのことは他の誰でもないカメリア自身が一番理解していた。
初代王は仲間達と共に理想の地を探し求めていた。
長い旅の途中で空にかかった虹を見付けた初代王は虹に導かれるようにして、その虹の麓に向かった。そこで見付けたのは美しい土地であり、初代王の理想の土地でもあった。
その場所に国を創ったことがバレーノ王国の始まりとされて
いる。初代王の話は今も語り継がれており、以来、バレーノ王国では虹が国のシンボルとされ、空にかかる虹は吉事の象徴とされている。
そんな言い伝えを持つバレーノ王国の空には虹がかかるどころか、まだ夜も明け切っていない。夜の余韻を色濃く残す中、とある部屋の中で一人の少女が目を覚まそうとしていた。
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寝返りを打つと共に開かれた少女の深い緑色の瞳は寝起きのせいかうっすらと潤んでいる。その髪と瞳の色は少女の椿の意味を持つ名前・カメリアにふさわしいものであった。
カメリアは二度三度、瞳を瞬かせていたが、意識が覚醒した途端、叫び声をあげた。
「……どこだ、ここは!?」
いつもと同じように目を覚ましたはずのカメリアの目に飛び込んできたものは、自分の部屋の天井にはないはずの磨き抜かれたシャンデリアがぶら下がっている天井だった。
驚きのあまり、思わずベッドから飛び起きたカメリアはあたりを見回した。
カメリアが身につけているものは普段の就寝時に着ているシャツにズボンだったが、カメリアに馴染みのあるものといえばそれくらいで、今、目に映るものはどれもまったく見覚えのないものばかりだ。
部屋の中央にはカメリアが眠っていた天蓋の付いた大きな白いベッドが置かれ、壁際には細やかな装飾のほどこされた化粧台やクローゼットといった調度品の数々が配置されており、太陽の光を余すことなく取り込むことのできるであろう大きな窓には真っ白なレースのカーテンが揺れている。
年頃の女性ならば誰もが憧れるおとぎ話にでも出てきそうな部屋だったが、カメリアはベッドから降りると、調度品には目もくれずにまっすぐに部屋の扉に向かうとドアノブに手をかけてみた。
しかしドアノブはガチャガチャと虚しい音を立てるだけで扉が開くことはなかった。
「やはり、鍵がかかっているか……」
駄目元でのことではあったが、外側から鍵がかけられた扉にカメリアはため息をついた。扉を強引に破る方法もなくはないが、ここがどこであるのか、何故自分がここにいるのかわからない以上、ここはおとなしくしておいた方が得策だろう。
(行動に出るのはそれからでも遅くはないはずだ)
そうなると今できる行動は限られている。カメリアはベッドに戻ると、おもむろに枕を持ち上げた。枕の下には何もない。
次にカメリアは床に膝をついて、ベッドの下をのぞき込むがそこにもほこりひとつもない。
その後もカメリアは使い方のわからない化粧品の入った化粧台の引き出しや、自分とはまったく縁のないドレス達が吊るされたクローゼットを次々と開けていく。
その一連の行動は年頃の娘とは思えないものだったが、カメリアはこのような部屋に目を輝かせるような愛らしい娘でもなければ、このような部屋の主にふさわしくもない。そのことは他の誰でもないカメリア自身が一番理解していた。
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