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第二章
祈 四
しおりを挟む四半刻も泣いたわけではない。ほんの少しの間だっただろう。
ふと顔を上げて、空腹を覚えた。
与えらた粟や稗を収めた笊から、食べる分を拾って鍋に入れる。
囲炉裏の火をおこし、薪をくべ、鍋を自在鍵に釣る。やがてことことと粥が煮え、それを椀に掬う。水甕からひしゃくで掬った水をこぼさぬようにまた鍋に入れ、残った滓を水に溶かし火に乗せ続ける。
壷に味噌がある。最初は上の屋敷のばあやが以前与えてくれた。その後は、糧を届けてくれる侍女らが「味噌まで?」と嫌な顔をしながら置いていってくれる。味噌の残りは少ない。またお願いをして、もらわねばと思いながら、粥に少し乗せて食べた。
鍋が沸く。その粥の滓のわずかに混じる湯を、椀に注ぎ、一滴も無駄にせずに啜る。みなほの食事とは、ただそれだけだ。
山の草にも食べられるものがある。この桜の季節には美味な物が取れる。普段より遅くなったが、これから山に行こうと考えた。
御子ヶ池の龍彦様の贄となる。
先ほどの話を思い出す。初めて耳にした話だ。本当のことだろうか。村長に確かめるべきなのだろうか。
だが、贄に選ばれたと聞いても、特別に悪い気はしない。御子ヶ池は好きだ。初めて聞いたことで驚きはあった。それだけである。
みなほは贄にまつわる悪い噂を知らなかった。
さあ、と龍彦はまたみなほの肌に手を触れる。
「あと、やつとせ……、いやななとせか?」
彼が数えていると、解った。果てしなく与えられる刺激への感応で乱された頭の中で、やっとそれだけ解ってきた。
「次はどのように……? 否、どのようにしても、そなたは良い姿をする。快い気を放つ」
楽しい、と龍彦は言った。
「可愛い、贄。……一夜の妻よ」
腫れ上がったような胸の蕾を舌先で弾く。
はぁ、と吐息を漏らしながら、みなほの肌身がゆるくうねった。冷めぬ熱が、知能を冒してしまいそうに、怖い。
抗ってそむけたみなほの身体を、伏せさせたままに背の肌を吸う。
「なめらかで心地よいな」
「あ、……」
背筋を龍彦の舌が滑り降りる。みなほは褥をつかみ締めて身体を反らせた。弾むようだと言いながら、みなほの臀部を彼の掌が包んでいる。白桃の形をしたその割れ目から、するりと指の先が忍び入る。
短い悲鳴がみなほの唇を割った。その手で、龍彦がみなほの腰を持ち上げた。臀部の左右の丘に手をかけて、ぐい、と両側に開く。
「いやぁっ!」
「違う生き物のようだな」
ここは、と笑うような声がする。龍彦が笑っている。
恥ずかしい形で、花芯を押し開かれた感触にみなほは泣いた。
「……嫌ぁ……」
「嫌なものか。喜んで咥えている」
「……うそ、よ……うそ……」
揶揄が、耐えがたい。褥の中に顔を埋めて喘ぎを隠した。中に、龍彦がまた指を入れている。うごめいている。感触が、わかる。脳裏をかき混ぜられる。
(見られている)
そうやってかき混ぜる姿を、龍彦が見ている。恥ずかしいところを開いて、暴いて、彼はそんなみなほを、見ている。
「い……ぁ……!」
嫌だと、本当に思っているはずなのに。
みなほは乖離した感応に戸惑った。辱めに耐えがたいのに、身体が、昂ぶって熱い。がくがくと震えるほど、熱い。
激しい水音を立てながら、龍彦の指先がみなほを出入りしている。ぐちゅり、と突き立て、ぬらり、と引き抜く。その箇所が、何かを感じる器官だと思ったことがなかった。今は、その鋭敏すぎる感覚にただ狂わされている。
どくどくとまた鼓動が高くなった。
「あ、……や、あ……」
含まされた龍彦の指を、身体が締め付けた感覚がある。あらぬ声を上げながら、みなほはまた得体の知れない痺れを覚え、爪先からつむじまで戦慄を走らせた。
何がなにやら、解らない。どうにもならないほど、肌が震える。
龍彦の手で。唇で。舌で。
そうされている。狂わされていく。
「この気色、たまらぬな……」
みなほを仰臥に返しながら、龍彦が嘆声をあげた。
唇を手の甲で覆ったまま、みなほの嗚咽が止まらない。
激しく上下を繰返す胸に龍彦の手が伸びる。微かな膨らみの上に、蕾が二つ尖っている。掌の中にそれを押しつぶす。
みなほの顔が、弾けるように仰け反った。
「……い……た……」
「嘘だ」
龍彦の言葉が酷い。みなほは、痛いと言うより他に、その痺れを言い表すすべが解らない。
息を吸うことも、吐くことも、みなほの自由にならない。龍彦の手に為される感触が、勝手に呼吸を止める。
みなほの首筋に龍彦が唇をつけている。彼の着る綾絹をみなほの手が震えながら掴む。
「ん……っ」
強く吸われて、みなほが震えた。唇が離れた後に赤い痕が残る。頬を赤くして、固く閉ざした目蓋の下に涙が滲む。涙を、褥に沈めるように伏せさせ、同じようにうなじに吸い痕をつけていく。
華奢な背を掌で撫で上げながら、龍彦はみなほの肌に痕を幾つも散らした。
「いや、……」
小刻みな震動を走らせる躯体に腕を巻き付けて起こし、龍彦が濡れた腿を撫で上げて熱い蜜の源に触れていく。
みなほが鮎のように撥ねる。身体を巻く龍彦の腕に縋った。逃れることを許されず、身を横たえることも出来ず、ただ身悶えた。その過敏な襞を穿つ指先が二本になったことを感じた。
「怖い……!」
怖い、とみなほは口走る。
自分の身体は、どうなってしまったのか。絶えず龍彦の手を濡らす蜜が、失禁とは違う物だとは解ってきた。
しかしその箇所は、どうなっているのだろう。
暴かれ、触れられ、何度も彼の指が周囲を擦りつけながら往来している。時折、ふとした弾みに体内で侵入者をぎゅうと締め付けることがあるのも、解る。
もう、痛いとは感じない。ただ痺れた。
身体中が溶けていくような感覚に、みなほの胸の中が麻痺し始めていた。
「あ、……あれ……が」
みなほの意識をばらばらに解体して飲み込むような。
あの得体の知れない衝動が、また襲ってくる。波浪のように、その予兆を感じた。
「怖……い……!」
その感覚が怖い。意識を、真っ白に飲み込む、何もわからなくなる感覚が怖い。
怖いと口走りにながら、うねうねとみなほの華奢な肌身がたわむ。
目を細めて、龍彦はそれを見守る。
瞳の灯る光に、濃く熱い色合いを帯びてきた。
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