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第一章
贄 六
しおりを挟む止まらない喘ぎの下で、龍彦の掌がみなほの肌を撫でている。
「そなたが愛おしゅう思えてきたぞ、みなほ……」
「……んぁ……」
弱々しくみなほが声を上げた。
身体中が痺れている。何処を触れられても、ざわりと血が波立つ。過敏な箇所を突かれると、それだけで鼓動が止まってしまいそうになる。
(……なのに)
苦しいような気持ちになっているのは確かなのに、龍彦の手に誘われて、身体からは止めどもなく蜜が溶け出す。恥ずかしいほど腿を濡らしているのが解る。
背を反らした。下肢をよじった。
「可愛いぞ……、その、仕草」
与えられる感応から逃れようとするみなほの描く曲線を、龍彦が愛でるよう。
「や……! だめ、……いや」
放恣な形に脚を開かれた。胸に膝が付くような形に押さえられる。
既に狂わされて、腫れたように赤くなったそれを、龍彦が見ている。恥ずかしい姿の其処を、彼が見ている。
悲鳴を上げそうになって顔を覆った。龍彦の美しい顔が、そこに沈んでいった。
「……あっ……はぁっ!」
ああ、とみなほは嘆くように声を放つ。唇を、花芯に感じる。
「や、めて……!」
そんなこと、と震えた。
先ほどのように、指先で穿たれるのも感じた。同時に、すする音が聞こえた。
瞬時、沸騰したようになって、みなほは全身を揺さぶって跳ねた。身体が、侵入者を拒むように締め上げた。
びくびくと、身体が戦慄をやめない。
「……もう、達したか?」
これだけで、と龍彦が柔らかく言った。
顔などもう見れない。見られるのが恥ずかしい。首を背けて、感触に堪えた。
龍彦のなすことに、肌が高まる。取り戻した意識が、また絶える。その間隔が狭まってきたようだ。
呼吸が乱れたままだ。整いようもなく刺激を与えられて、脳裏が白く濁ってきている。
もういや。やめて、お願い。
言葉を結ばない声だけが唇を割る。
甚だしく過敏な箇所を龍彦の歯が噛んだ。
「……!」
それだけで、また意識が弾けて飛ぶ。呼吸が止まる。
「良いぞ、みなほ……。これならば」
次の辰まで祈りが届く。
楽しげに、龍彦は微笑む。
「これならば、祈りの後に、儂も楽しませてもらえそうだ」
そうだろう。そう言った。
彼の言うことの意味が、みなほにはわからない。ただ、翻弄されている。
卯年の祭礼は、辰年の大祭と並んで重要な祭である。
九月末のその日、みなほは家に居る。先年、この日に外に出て祭礼の人々に冷たい視線を向けられた。忘れられない心の痛みだ。
贄を出す村の社に、各村の宮司が寄り集まり、神籤を引く。
その籤によって翌年の贄が決まるのだ。
籤は、宮司が作る。年頃の娘の居る家の主の名を短冊に書き、祭礼の間その短冊の入った箱を社のご神体に捧げ、行事の最後に箱からそのうちの一枚だけを取り出す。
そこに書かれた家の娘が、翌年の大祭の贄となるのだ。
この年、籤を選んだ宮司達は僅かに騒然となった。
名を書かれるのは村長の家であっても例外ではない。しかし滅多にその籤を引くことは無かった。
だが、引いてしまった。
上岡工兵衛というのが、村長の名である。短冊にはその名が書かれていた。
今は、この御子ケ池の麓の六か村を束ねるような大きな存在になった彼の家の娘が、翌年の贄に選ばれてしまったということだ。
祭礼の翌朝、六か村の社の宮司達が、翌年の大祭の贄に選ばれた家を訪れる。
彼等を迎えた村長の工兵衛は、剛腹な男だが、さすがに顔色は青ざめていた。
確かに、彼には娘が一人居る。工兵衛の子は、男子が二人、そして娘が一人。娘の真由は、美しく聡明な自慢の娘である。十七歳だ。祭礼の年は十八になる。
村の青年たちにもそれは驚きであった。
真由は桜色の艶やかな肌をした、美しい娘である。猫のような丸い目を持ち、唇が赤い。どこか気品があり、それでいて気さくで、豊かな頬に笑顔を絶やさない。
彼女に憧れる若者は多かった。
昔の「御下がり」についての噂を聞きたがる青年たちが、群れた。
贄の御下がりを頂いた男達に、罰が当たったのか当たらなかったのか。そんなことを村の老人に問う者達も居た。
様々の意味で、その日から村長の工兵衛は頭を悩ませた。
そろそろ娘の真由が年頃であり、その嫁ぎ先についてのみ、先日までは悩んでいた。その上、今度は贄に選ばれてしまったという懊悩までが加わった。
浮世から隔絶したような山奥の村もまた世間の内にある。
国主の起こす戦騒ぎにときおり巻き込まれることもある。
刀狩が行われるまでは、ほとんどの武士は、農を兼業する郷士である。日常は田畑を耕し、事があるときは鎧を身に付け槍を携えて戦に出る。
工兵衛は近隣の六か村の者達を束ねて戦に行く。戦に赴くものは、たいてい六か村で百人ほどになるから、それなりの勢力ではある。
いつしか、国の重臣にも上岡工兵衛という名は知られ、戦の時にも、また平時にも重用されるようになっていた。
山奥ではあるものの、村は、現在彼等が属する国の主の城に距離としては存外近い。村と国主の城を隔てる間の勢力が鎮圧されてからは一層近く感じられる。
それゆえに、工兵衛は城に伺候することもある。そんな立場になっていた。
そういう立場になったがために、野心が生じている。
その野心の一つに、身分の高い者との縁組も含まれた。
現に、真由の兄にあたる長男には、国主に縁の続いた家の娘を迎えた。次は、真由の嫁ぎ先である。
真由は美しい。
国主の館に伺候するようになって、主人の側妾などとも会ったが、それらに真由は劣らないと工兵衛は思っている。
立場が上がるにつれて、彼は真由にそれなりの作法を教え込むようになった。彼自身がそれを指導するのではなく、そういったことに長けた人物を招き、真由の教育をさせた。真由は聡明で、彼女を指導した師匠の多くは、その父である工兵衛に賛辞を告げた。
そしてそういった師匠達は、工兵衛の狙い通り、国主の城でも真由の優れた様子を触れて回ってくれた。
あわよくば。
そう思っていた矢先の、贄の選定であった。
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