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第一章
贄 五
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龍彦の髪が背を撫でる。ただそれだけでみなほはぞくりと肌を粟立てた。
「あ……」
「快いか……?」
指の間に蕾を挟みながら、胸の小さな膨らみを龍彦の掌が揺する。みなほは身体を震わせる。
ふ、と龍彦が笑う声がする。その吐息が首筋を撫でた。
胸を掴んだまま身体が少し持ち上げられる。
「……っ、」
背の肌に龍彦の唇が滑り降りた。目蓋の中に星が散る。呼吸が途切れ、息が吸えない。
解き放てない熱がまた、みなほの中に灯って熾る。華奢な肢体が柳のようにうねって反った。
裸体のみなほが乗る膝に、じわりと水気が染みている。
「そなた……過敏だな……」
びく、とみなほが跳ね上がる。その腿の間に、龍彦が触れた。
先ほど触れられて身体中を痺れさせたその花芽を、龍彦が強く摘む。小刻みな悲鳴を上げながら、みなほがひどく波立った。声を恥じるのか、唇を手が押さえていた。
「熱いようだ」
懐をくつろげた龍彦の胸にみなほの背中が包まれた。汗ばみ、湿っている。堪えがたく震えているのは、彼の手にまた花芯を穿たれているからだろう。内股の筋がびくりと跳ねる。身体の内で龍彦の指の形を全てなぞった。震えるたびにその感触が明瞭になる。
「嫌……っ! そんな、の……」
忙しなく吐息を荒げ、幾度となく喉を反らす。退かれるたびに、突かれるたびに、みなほの肢体が頼りなく揺らいで止まらない。
「抜いて……っ!」
その指を。
「やめて、……もう触らないで」
血の色に肌を染めて震えていた。頬に涙が散る。惑乱してすすり泣く。
身体に巻き付き拘束する龍彦の腕の中で、みなほが大きく跳ね上がる。跳ね上がり、痙攣し、やがて震えながら沈んでいった。
艶やかに肌を染めて、甘い声で歌うように啼いた。痛いと怯えた姿が既に遠い。
「なんと、可愛らしいことだ……」
嘆息するように龍彦が言った。青白い瞳の光が先ほどよりも強くなった。
「……ふたとせ、これで、良いようだ」
どくどくと血流の音が耳の中でひどく早い。鼓動が早い。苦しいほどだ。
龍彦が触れる感覚でそれらが誘われているのはわかってきた。恥ずかしいような箇所を暴かれ、そうして触れる彼の手で、意識が乱されて戻らない。
仰向けに置いたみなほのうえにまだ龍彦が居る。
「みなほ……」
額の髪を撫で上げながら彼の唇がまた落ちる。みなほの舌の裏を彼の舌先が持ち上げ、落として上あごを舐めている。
息が、苦しい。苦しくて恥ずかしくてたまらないのに、また、肌が熱くなる。龍彦が触れるところが熱くなる。
「だめ、……もうだめです」
「何を申す……。まだ始まったばかりだと言うに、夜が」
笑うような声を立てながら龍彦がみなほの首筋を吸っている。
「気に入った。気に入ったぞ、みなほ……」
「お願い、苦しい……」
胸に触れる手を、抗うようにみなほが掴んだ。
その手の下の鼓動が速い。速すぎて苦しい。
「そなたの血を感じる」
低い声をみなほの耳朶に注ぎながら、龍彦が掌を淡い膨らみの上で遊ばせる。ゆるく掴み、押し上げ、様々に表情を変えるそれを光る目に映した。
「や、……いた、い……」
白い膨らみを彩るように濃い紅色に尖った蕾を龍彦の指先が摘まむ。指先で弾き、くるりと円を描く。
みなほの吐息がなお忙しなくなる。その吐息を龍彦の唇が覆った。
見たか、と山の麓で囁きあうのは輿の担い手に選ばれた男たちだ。
辰年の大祭に、贄を運ぶ担い手を買って出る若者は多い。
「見たか、あのみなほが」
「見たぞ。驚いた。婆のように痩せた汚いガキとおもうておったら」
喉の奥を鳴らすように、彼らは笑う。
御子ヶ池の精霊を祭神とする麓の村は六カ村。辰年の大祭に贄を出すのは一つの村では七十二年に一度になる。その贄の祭りの伝承は、村ごとに定められた祭式があり隣の村には訊かない物だ。
が、狭い世間のことである。ひそかに先の祭りのことを隣の村に聞いてきた者が居た。
「御下がり、を知っているか」
その若者はそう言った。
知らぬ者は居ないだろう。男ならば皆そうだ。
神の一夜の妻と捧げられた贄。
それをしつらえた社に運び入れ、運び出すのは担い手の役。
担い手に選ばれた者には、役得があるという。祭神をまつる村の総社の宮司は、それをむしろ否定する。してはならぬ悪行だと言う。
が、密かに伝わっている伝承である。
一つの村で、直近に贄を出したのは七十二年の過去になる。前の大祭を経験した古老も死に絶える頃だ。しかしそういうことは根強く伝わる。
御下がりの風習。
捧げられた贄を、神の御下がりとして担い手がもらう。
役を終えた神の妻を、御下がりと称して皆で頂く。皆で贄を嬲る。輪姦する。
豊穣をもたらす御子ヶ池の神に、あやかる。そういう意味の風習であるとされている。
その隠微な風習故に、娘が贄に選ばれることを家の者は皆嫌う。
そしてその風習故に、担い手を買って出る若者が絶えない。
空の輿を担いで山を下りながら、担い手の男たちはにやりと笑う。
「真由様でのうて無念じゃと思うたが……。あのみなほも」
「見たぞ。美しゅうなった」
楽しめそうだと破顔する。
井桁に組まれた輿の担い棒の、担ぎ手は八人になる。
八人が、よだれを拭わんばかりの顔で笑っている。
「朝が待ち遠しいのう」
明くる朝、贄のみなほを迎えに、御子ヶ池へ彼らは行く。
「あ……」
「快いか……?」
指の間に蕾を挟みながら、胸の小さな膨らみを龍彦の掌が揺する。みなほは身体を震わせる。
ふ、と龍彦が笑う声がする。その吐息が首筋を撫でた。
胸を掴んだまま身体が少し持ち上げられる。
「……っ、」
背の肌に龍彦の唇が滑り降りた。目蓋の中に星が散る。呼吸が途切れ、息が吸えない。
解き放てない熱がまた、みなほの中に灯って熾る。華奢な肢体が柳のようにうねって反った。
裸体のみなほが乗る膝に、じわりと水気が染みている。
「そなた……過敏だな……」
びく、とみなほが跳ね上がる。その腿の間に、龍彦が触れた。
先ほど触れられて身体中を痺れさせたその花芽を、龍彦が強く摘む。小刻みな悲鳴を上げながら、みなほがひどく波立った。声を恥じるのか、唇を手が押さえていた。
「熱いようだ」
懐をくつろげた龍彦の胸にみなほの背中が包まれた。汗ばみ、湿っている。堪えがたく震えているのは、彼の手にまた花芯を穿たれているからだろう。内股の筋がびくりと跳ねる。身体の内で龍彦の指の形を全てなぞった。震えるたびにその感触が明瞭になる。
「嫌……っ! そんな、の……」
忙しなく吐息を荒げ、幾度となく喉を反らす。退かれるたびに、突かれるたびに、みなほの肢体が頼りなく揺らいで止まらない。
「抜いて……っ!」
その指を。
「やめて、……もう触らないで」
血の色に肌を染めて震えていた。頬に涙が散る。惑乱してすすり泣く。
身体に巻き付き拘束する龍彦の腕の中で、みなほが大きく跳ね上がる。跳ね上がり、痙攣し、やがて震えながら沈んでいった。
艶やかに肌を染めて、甘い声で歌うように啼いた。痛いと怯えた姿が既に遠い。
「なんと、可愛らしいことだ……」
嘆息するように龍彦が言った。青白い瞳の光が先ほどよりも強くなった。
「……ふたとせ、これで、良いようだ」
どくどくと血流の音が耳の中でひどく早い。鼓動が早い。苦しいほどだ。
龍彦が触れる感覚でそれらが誘われているのはわかってきた。恥ずかしいような箇所を暴かれ、そうして触れる彼の手で、意識が乱されて戻らない。
仰向けに置いたみなほのうえにまだ龍彦が居る。
「みなほ……」
額の髪を撫で上げながら彼の唇がまた落ちる。みなほの舌の裏を彼の舌先が持ち上げ、落として上あごを舐めている。
息が、苦しい。苦しくて恥ずかしくてたまらないのに、また、肌が熱くなる。龍彦が触れるところが熱くなる。
「だめ、……もうだめです」
「何を申す……。まだ始まったばかりだと言うに、夜が」
笑うような声を立てながら龍彦がみなほの首筋を吸っている。
「気に入った。気に入ったぞ、みなほ……」
「お願い、苦しい……」
胸に触れる手を、抗うようにみなほが掴んだ。
その手の下の鼓動が速い。速すぎて苦しい。
「そなたの血を感じる」
低い声をみなほの耳朶に注ぎながら、龍彦が掌を淡い膨らみの上で遊ばせる。ゆるく掴み、押し上げ、様々に表情を変えるそれを光る目に映した。
「や、……いた、い……」
白い膨らみを彩るように濃い紅色に尖った蕾を龍彦の指先が摘まむ。指先で弾き、くるりと円を描く。
みなほの吐息がなお忙しなくなる。その吐息を龍彦の唇が覆った。
見たか、と山の麓で囁きあうのは輿の担い手に選ばれた男たちだ。
辰年の大祭に、贄を運ぶ担い手を買って出る若者は多い。
「見たか、あのみなほが」
「見たぞ。驚いた。婆のように痩せた汚いガキとおもうておったら」
喉の奥を鳴らすように、彼らは笑う。
御子ヶ池の精霊を祭神とする麓の村は六カ村。辰年の大祭に贄を出すのは一つの村では七十二年に一度になる。その贄の祭りの伝承は、村ごとに定められた祭式があり隣の村には訊かない物だ。
が、狭い世間のことである。ひそかに先の祭りのことを隣の村に聞いてきた者が居た。
「御下がり、を知っているか」
その若者はそう言った。
知らぬ者は居ないだろう。男ならば皆そうだ。
神の一夜の妻と捧げられた贄。
それをしつらえた社に運び入れ、運び出すのは担い手の役。
担い手に選ばれた者には、役得があるという。祭神をまつる村の総社の宮司は、それをむしろ否定する。してはならぬ悪行だと言う。
が、密かに伝わっている伝承である。
一つの村で、直近に贄を出したのは七十二年の過去になる。前の大祭を経験した古老も死に絶える頃だ。しかしそういうことは根強く伝わる。
御下がりの風習。
捧げられた贄を、神の御下がりとして担い手がもらう。
役を終えた神の妻を、御下がりと称して皆で頂く。皆で贄を嬲る。輪姦する。
豊穣をもたらす御子ヶ池の神に、あやかる。そういう意味の風習であるとされている。
その隠微な風習故に、娘が贄に選ばれることを家の者は皆嫌う。
そしてその風習故に、担い手を買って出る若者が絶えない。
空の輿を担いで山を下りながら、担い手の男たちはにやりと笑う。
「真由様でのうて無念じゃと思うたが……。あのみなほも」
「見たぞ。美しゅうなった」
楽しめそうだと破顔する。
井桁に組まれた輿の担い棒の、担ぎ手は八人になる。
八人が、よだれを拭わんばかりの顔で笑っている。
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