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第一章
贄 三
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みなほの生まれた家は、古くは村の長の血筋の家だった。
村の名と同じ 上岡という姓を称していた。今の村長も同じ一族の末で、姓は同じである。みなほの家のほうが本流だった。
集落の他の家に比すればずいぶんと構えの大きな「上岡の 上の屋敷」と呼ばれるその屋敷には、今の村長の工兵衛一家が住まう。
村の一番奥の山を少し上がった、鎮守の社の傍らに、屋敷はあった。
村長に引き取られるまでのみなほの住まいは、屋敷の塀の北側の脇。屋敷に比べれば納屋のようにも見える小さく粗末な建物である。
そこに、父と母と兄と姉と弟と、住んでいた。
家族が居たのは、みなほには遠い過去の事になる。家族は死に絶えた。
みなほは、八歳のとき独りになった。
独りになった後、上の屋敷の使用人たちが、雑穀の粥をみなほに朝夕に一椀ずつ与えてくれた。裏口で、犬の子に餌を与えるようなものだった。それが村長の指示だった。
その粥の冷たさはみなほだけしか知らない。
慈悲深いことよ、と村の人々は村長のことをたたえた。
彼等の慈悲とは、暖を取れと薪や藁を与えつつ、火打ち石を与え忘れるような仕業だった。
社の外を風が通る。
僅かな隙間からか、ふと吐息のような風が静かに髪を一筋、撫でて社の中から去った。
龍彦の手がみなほの胸の微かな膨らみを掴む。その指先が尖った蕾を弾いた。その感触に、みなほはびくりと膝を縮めた。
「ここが尖っている……。快いと感じているからだ」
違うか、言いながら何度もその蕾を弾き、強く摘んだ。
「い……や! ちが……」
「違うものか。認めよ。そして委ねるのだ」
「あぁ……っ!」
摘まれ、潰されて、みなほは背中を跳ねるように反らす。
「何を恥じらう? ここには儂とそなたしか居らぬ。誰も、……見てはいない」
「……う……く」
目の前に龍彦の美しい顔が迫る。唇を、奪われている。舌が絡め取られている。ぬめりとしたその感触が、みなほの身体をざわめかせた。
「何を守って頑なな顔をするか。……溶けてしまえ」
龍彦の手がみなほの帯に掛る。ほどいている。
「愉悦に、酔え。歓喜に悶えよ。……悦び、狂え。その姿が、その気色が、祈りになる」
神であろうか。魔のような囁きをみなほは悪寒とともに聞いた。
腕を押さえていた龍彦の手が、下降した。唇を貪るまま、両手がみなほの胸の膨らみを揉みしだく。痛いほど尖ったその頂きに触れ、磨り潰すように摘む。痛みのようであり、違う。違う感覚が、みなほの体内に灯る。
「ふ、……ぁ……あ」
弾かれたように膝を縮め、腿をより合わせた。その下肢が外気を覚える。絹に包まれていたはずのその肌が、身悶えている内に露呈した。
「怖がるな」
「……や!」
撚り合わせた腿の間に、龍彦の手が忍び入る。戦慄を帯びながらみなほはその手を押さえた。だが抗いの力にもならぬ。
「いや、……いや、お願い」
波打つみなほの身体を龍彦の腕が押さえている。もう一方の手が、ひそと閉じた小さな門を探る。入り口を見いだそうとするように、そろりと撫でた。
みなほが息を詰めて身体を強張らせる。
「委ねよ」
耳元に龍彦の声がする。彼の手が、みなほを触れている。
指先がみなほの花弁を開き、下から上へと繰り返しなぞっていく。円を描くように触れたとき、同時に龍彦の歯が胸の蕾を甘く噛む。みなほが身体を跳ね上げた。
身体に這入る物を知る。あらぬところにそれを覚え、みなほは凍えたように縮まった。
「やだ……! 痛い」
薄く開いた目で、あり得ぬ箇所に龍彦の指先を含んだ姿を見た。愕然と目を背ける。おびえ、凍えた。
「怖い! ……痛い、怖い!」
身体の其処が、触れ得る場所であることも知らない。
開かれることなどあろうと思ったこともない。内側をまさぐられる感覚が、ひどくみなほを混乱させた。
恐慌に泣いた。
「みなほ……」
「……嫌……」
嗚咽するみなほに低い声で龍彦が言う。
「力を抜くのだ……。痛いようにはせぬ」
「……あ、……ぁ……」
青白い光を帯びた瞳が、みなほの濡れた瞳を捉えて見据える。
人ならざる、この龍彦という存在は、何か。
身体に触れる、肌は。
怖い。
だが美しい。
「……そうだ、みなほ」
龍彦の手がみなほの額を撫で上げる。
「そなたの快いようにする……」
さあ、と呟いて、龍彦はみなほにまた唇を重ねる。唾液を与えるように、舌を、差し入れて絡めた。
裸体にされたみなほは、龍彦の下で身をくねらせた。彼の手が花芯に触れる。痛いようにはせぬ、と言われ、疑うような気持ちでいる。が、嘘ではないかもしれぬと思い始めた。
退いた龍彦の指先を、みなほの蜜が糸を引いて追った。
「……それで、良い」
「あぁ……っ」
高い声を恥じる。唇を手の甲で覆い、抑えた。
身体にまた彼の指を含んだ。腹の中にかっと熱が灯る。先ほどより奥へなめらかに侵入者が滑り込む。己から溶け出す物がそうしているのだと、悟ってみなほは恥ずかしくなる。
「良い。……なめらかになった」
「……こ、んな……」
嫌、と龍彦の唇に訴えた。
くちゅりくちゅりと水音が耳に聞こえる。その音色が、みなほを出入りする龍彦の指の動作と和している。身体が、立てる音なのだと気づき、ますます恥じらいを覚えた。
「は、……恥ずかし、いっ……!」
体内に熱が灯る。触れられる感応がますます熱を高め、内に籠もり始めた。どうすれば、この熱を解き放てるのか。戸惑っているうちにどんどん高まる。
あらぬ声で啼きながら、みなほは首を振り、肩を浮かせて身をよじる。背を反らし、顎を跳ね上げて身悶えた。それでも、まだ。
肌が熱い。汗が湧く。
「みなほ、良いぞ……。可愛い姿だ」
「や、あぁ……!」
「さあ、……」
果てよ、と龍彦が言った。
それまで触れられなかった、秘裂の上を飾る芽を、龍彦の親指が弾く。
つむじまで雷が通ったように痺れ、みなほは高い悲鳴を上げて身体を痙攣させていた。
「や、はぁ……っ! はぁ……!」
爆ぜたような意識から少し戻っても、残った震えがみなほの呼吸を乱し続ける。
(……何……? 何が、起きているの……?)
ぼう、と霞んだ瞳で、微笑む龍彦の姿を捉えた。整って美しい面差しに、僅かに紅を刷いたような昂ぶりをそこに見た。
「ひととせ、祈りは通じたことだろう」
「あ……?」
龍彦の言葉の意味が、みなほには解らない。
村の名と同じ 上岡という姓を称していた。今の村長も同じ一族の末で、姓は同じである。みなほの家のほうが本流だった。
集落の他の家に比すればずいぶんと構えの大きな「上岡の 上の屋敷」と呼ばれるその屋敷には、今の村長の工兵衛一家が住まう。
村の一番奥の山を少し上がった、鎮守の社の傍らに、屋敷はあった。
村長に引き取られるまでのみなほの住まいは、屋敷の塀の北側の脇。屋敷に比べれば納屋のようにも見える小さく粗末な建物である。
そこに、父と母と兄と姉と弟と、住んでいた。
家族が居たのは、みなほには遠い過去の事になる。家族は死に絶えた。
みなほは、八歳のとき独りになった。
独りになった後、上の屋敷の使用人たちが、雑穀の粥をみなほに朝夕に一椀ずつ与えてくれた。裏口で、犬の子に餌を与えるようなものだった。それが村長の指示だった。
その粥の冷たさはみなほだけしか知らない。
慈悲深いことよ、と村の人々は村長のことをたたえた。
彼等の慈悲とは、暖を取れと薪や藁を与えつつ、火打ち石を与え忘れるような仕業だった。
社の外を風が通る。
僅かな隙間からか、ふと吐息のような風が静かに髪を一筋、撫でて社の中から去った。
龍彦の手がみなほの胸の微かな膨らみを掴む。その指先が尖った蕾を弾いた。その感触に、みなほはびくりと膝を縮めた。
「ここが尖っている……。快いと感じているからだ」
違うか、言いながら何度もその蕾を弾き、強く摘んだ。
「い……や! ちが……」
「違うものか。認めよ。そして委ねるのだ」
「あぁ……っ!」
摘まれ、潰されて、みなほは背中を跳ねるように反らす。
「何を恥じらう? ここには儂とそなたしか居らぬ。誰も、……見てはいない」
「……う……く」
目の前に龍彦の美しい顔が迫る。唇を、奪われている。舌が絡め取られている。ぬめりとしたその感触が、みなほの身体をざわめかせた。
「何を守って頑なな顔をするか。……溶けてしまえ」
龍彦の手がみなほの帯に掛る。ほどいている。
「愉悦に、酔え。歓喜に悶えよ。……悦び、狂え。その姿が、その気色が、祈りになる」
神であろうか。魔のような囁きをみなほは悪寒とともに聞いた。
腕を押さえていた龍彦の手が、下降した。唇を貪るまま、両手がみなほの胸の膨らみを揉みしだく。痛いほど尖ったその頂きに触れ、磨り潰すように摘む。痛みのようであり、違う。違う感覚が、みなほの体内に灯る。
「ふ、……ぁ……あ」
弾かれたように膝を縮め、腿をより合わせた。その下肢が外気を覚える。絹に包まれていたはずのその肌が、身悶えている内に露呈した。
「怖がるな」
「……や!」
撚り合わせた腿の間に、龍彦の手が忍び入る。戦慄を帯びながらみなほはその手を押さえた。だが抗いの力にもならぬ。
「いや、……いや、お願い」
波打つみなほの身体を龍彦の腕が押さえている。もう一方の手が、ひそと閉じた小さな門を探る。入り口を見いだそうとするように、そろりと撫でた。
みなほが息を詰めて身体を強張らせる。
「委ねよ」
耳元に龍彦の声がする。彼の手が、みなほを触れている。
指先がみなほの花弁を開き、下から上へと繰り返しなぞっていく。円を描くように触れたとき、同時に龍彦の歯が胸の蕾を甘く噛む。みなほが身体を跳ね上げた。
身体に這入る物を知る。あらぬところにそれを覚え、みなほは凍えたように縮まった。
「やだ……! 痛い」
薄く開いた目で、あり得ぬ箇所に龍彦の指先を含んだ姿を見た。愕然と目を背ける。おびえ、凍えた。
「怖い! ……痛い、怖い!」
身体の其処が、触れ得る場所であることも知らない。
開かれることなどあろうと思ったこともない。内側をまさぐられる感覚が、ひどくみなほを混乱させた。
恐慌に泣いた。
「みなほ……」
「……嫌……」
嗚咽するみなほに低い声で龍彦が言う。
「力を抜くのだ……。痛いようにはせぬ」
「……あ、……ぁ……」
青白い光を帯びた瞳が、みなほの濡れた瞳を捉えて見据える。
人ならざる、この龍彦という存在は、何か。
身体に触れる、肌は。
怖い。
だが美しい。
「……そうだ、みなほ」
龍彦の手がみなほの額を撫で上げる。
「そなたの快いようにする……」
さあ、と呟いて、龍彦はみなほにまた唇を重ねる。唾液を与えるように、舌を、差し入れて絡めた。
裸体にされたみなほは、龍彦の下で身をくねらせた。彼の手が花芯に触れる。痛いようにはせぬ、と言われ、疑うような気持ちでいる。が、嘘ではないかもしれぬと思い始めた。
退いた龍彦の指先を、みなほの蜜が糸を引いて追った。
「……それで、良い」
「あぁ……っ」
高い声を恥じる。唇を手の甲で覆い、抑えた。
身体にまた彼の指を含んだ。腹の中にかっと熱が灯る。先ほどより奥へなめらかに侵入者が滑り込む。己から溶け出す物がそうしているのだと、悟ってみなほは恥ずかしくなる。
「良い。……なめらかになった」
「……こ、んな……」
嫌、と龍彦の唇に訴えた。
くちゅりくちゅりと水音が耳に聞こえる。その音色が、みなほを出入りする龍彦の指の動作と和している。身体が、立てる音なのだと気づき、ますます恥じらいを覚えた。
「は、……恥ずかし、いっ……!」
体内に熱が灯る。触れられる感応がますます熱を高め、内に籠もり始めた。どうすれば、この熱を解き放てるのか。戸惑っているうちにどんどん高まる。
あらぬ声で啼きながら、みなほは首を振り、肩を浮かせて身をよじる。背を反らし、顎を跳ね上げて身悶えた。それでも、まだ。
肌が熱い。汗が湧く。
「みなほ、良いぞ……。可愛い姿だ」
「や、あぁ……!」
「さあ、……」
果てよ、と龍彦が言った。
それまで触れられなかった、秘裂の上を飾る芽を、龍彦の親指が弾く。
つむじまで雷が通ったように痺れ、みなほは高い悲鳴を上げて身体を痙攣させていた。
「や、はぁ……っ! はぁ……!」
爆ぜたような意識から少し戻っても、残った震えがみなほの呼吸を乱し続ける。
(……何……? 何が、起きているの……?)
ぼう、と霞んだ瞳で、微笑む龍彦の姿を捉えた。整って美しい面差しに、僅かに紅を刷いたような昂ぶりをそこに見た。
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