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Chapter 2 The [C]apricious
Act8:神は、移ろいやすいものだけを美しくした
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月が海上に昇った頃。ヒルダの家のチャイムが鳴る。意を決して玄関ドアを開けると、そこには見たくもない顔がいる。でも、彼女は“彼”が言ったことを信じて────その腕を受け入れて、家の中へその男を招き入れた。
「あぁヒルダ……会いたかった」
玄関でぎゅうと男が抱き締めてくる。ヒルダは目を瞑る。愛おしさと支配欲に満ちたその力が緩むのを待って、ヒルダは笑って見せる。
「食事を用意したの。向こうで喋りましょ」
ソファに着いたアダンは捲し立てるように喋る。
「どうして店を辞めてしまったんだい? 俺に連絡もなく! お陰で探すのにとても苦労したんだよ」
ヒルダは二つのグラスにワインを注ぐ。隣の男はただ、彼女の視線を求めて続ける。
「嫌な客でもいたのかい。もしそうなら、俺が守ってあげるよ」
ええそうよ。どの口が言っているの。……その言葉をぐっと堪えて。ヒルダは彼に笑いかける。
「心配かけたわね。でも、もう大丈夫」
「そう? 良かった。怖いことがあったら何でも相談してくれ、俺は君のためなら何でもするよ」
「……何でも……ね」
ヒルダが小さくそう繰り返すと、アダンは思い出したように指を差した。
「そうだ! この前君の家の前に来てた男! アレは何だ」
「アレ? 何のこと?」
「栗色の長い髪の男だよ! 随分と若い男だった。もしかして君のストーカー? 彼が怖くて店を辞めたの?」
リアンだ。ヒルダが口を結んだのを見て、アダンは彼女の両肩を掴む。
「分かった。俺があいつを片付けてやる。俺の手にかかれば、アイツなんか二度と君の目の前に現れなくしてやれる」
そう言う彼に、ヒルダはワインを渡した。受け取る彼の目を見ながら、答える。
「そんなことして。お父様にバレたら大変よ。次期社長でしょ」
「大丈夫だよ。俺自身は何もしやしないんだから────」
「危ない付き合いは、やめた方が身のためよアダン」
「うるさいな。どれもこれも会社のため、ひいては君のためだよヒルダ。金がなきゃ世の中生きていけないじゃないか。これはビジネスだ、何も持たない者から喰われていく。……あの馬の骨もそうさ」
ワインを飲みながら、陶酔した様子でアダンは語る。
「大体、親父の事業はせせこましいんだ。鉄を安く仕入れて、安く船を作ったり……派手さが足りないだろ? 俺はそれがつまらない。折角でかい会社なのに」
テーブルの上に用意されていた料理をアダンはつまむ。その様子をヒルダは見ている。
「……俺の事業は順風満帆だ。親父より稼いでる。あとは……料理が上手でイケてる女がいれば…………」
「…………」
じっと自分を見ているヒルダに気が付いて、アダンは首を傾げる。
「食べないのか?」
「……食べるわ。あなたの横顔につい、見惚れてたの」
アダンは照れた様子もなく、その腕の中にヒルダを抱き寄せた。
「あぁ、本当にいい女だなヒルダ。俺と結婚しよう。そうしたら、何不自由ない生活を送らせてやれるし、俺はとても幸せだ」
「そう。素敵な話ね」
気持ちを込めようと思っても、篭らなかった。心臓がどきんどきんと鳴っている。指先が冷える。アダンの腕から抜け出して、テーブルの上のフォークを手に取った。
「この料理、あなたのために作ったんだから。たくさん食べてね」
ニコリと笑う。ぎこちない笑みだった。だけど、恋は目を曇らせる。男は何も気付かずに、嬉しそうにしていた。
*
カラン、とフォークが床に落ちる。それをリアンは拾い上げた。
ソファの上で二人の男女が眠りに落ちている。ソファで天井を向いてイビキをかいているスーツの男。その隣で、ヒルダはまるで死んでしまったかのように静かに眠っていた。
「……助かるけどさ……」
ヒルダの作った料理には、睡眠薬が盛ってあった。ルチアーノから貰ったものだ。知り合いの闇医師が作った特製の強力な睡眠薬だと言う。それをヒルダに渡しておいた。しばらくは起きないだろう。
そっと、リアンはソファの後ろに回ってヒルダの頬を撫でた。
「……ごめんね」
会話は聞いていた。ずっとこの部屋のクローゼットの中に身を潜めていた。ヒルダはきっと怖かっただろう。不快だっただろう。でも、もうそんな思いをさせなくて済む。
何も知らないで眠っている男の手足を縄で縛った。漁師の男たちに教えてもらった強い結び方────こんなことに使うなんて、とリアンは心の内で笑った。男を肩に抱える。意識のない人間の重さを感じる。
チラリとヒルダを見た。…………これが最後になるかもしれない。そう思うと急に愛おしくなって────その思いを噛み潰して、リアンは踵を返した。
*
男は目を覚ました。いつの間に眠ってしまっていたのか、記憶がない。ソファの上にいたはずなのに、固くて冷たい地面を感じる。身じろぎしようとして、縛られていることに気が付いた。
「…………ヒルダ⁈ ヒルダ!」
叫ぶ。そうしてようやく、そこが外であることに気が付いた。
暗い夜の港。停泊した船と港の間で揺れる波が、不気味な音を立てている。灯りは港に点々と立つ街灯だけで、昼間と違って人の気配のない港の海は、命を飲み込む深淵の様だった。
「なん……」
「ようやくお目覚め? いっぱい食べたのね、最後の晩餐のお味はどうだった?」
「! お前は……」
リアンは男の目の前で屈み、笑う。
「昨日はどうも。…………あぁ、もう日付が変わるか……まぁ、俺のことは覚えてるでしょ」
「ヒルダのストーカー!」
「……ストーカーはお前でしょ。自覚がないって怖いよねぇ」
アダンはリアンが自分の後方に目を向けたのを見て、身を捻る。そこにもう一人立っているのを見て、勢いで飛び起きた。
「だっ、何だ!」
「……うるさいのは嫌いなんだ。静かに出来ねェなら今すぐ沈める」
ルチアーノの手にある拳銃に、アダンは気が付いて慌てる。
「殺し屋か⁈ どこの組織のモンだ……! 俺に手を出したらタダじゃ済まねェぞ!」
「あぁ、それなら心配ない。お前のお仲間の所にもお迎えが行ってる。だから安心して死ね」
真っ黒な銃口を向けられて、アダンが甲高い悲鳴を上げる。リアンは立ち上がってルチアーノを一旦制止する。
「まぁ待ってよ。ちょっと話がしたい」
「早く片付けねェと人が来る。目撃者がいたら消さなきゃならねェんだよ俺たちは。それに、これから死ぬ奴と話したって何にもならねェぞ」
「少しだけ。少しだけだから」
リアンは笑ってルチアーノを宥めると、アダンを見た。
「……ヒルダはお前から逃げたんだよ。分かってる?」
「そんな訳ない! 俺はヒルダを愛してるんだ! 今日だって家に招いて……」
はたとアダンは気付いたようだった。目の色を変えて、唸る。
「…………ヒルダが料理に薬を? それで俺は眠ってたのか⁈」
「そうだよ」
「お、お前が唆したんだろ! お前が、あいつを自分のものにしたいから──……!」
「いいや。俺のものにはならないよ。彼女には幸せになって欲しいけど────彼女の隣に、俺はいない」
「は……?」
屈んで目を見る。男の目を見ていると、自分の芯が冷たく、静かに冷めて行くのを感じた。
「お前さ────女のコと仲良くなりたいたら、優しくしないと」
「何……」
「この町の女のコたちは、皆んな俺の恩人なんだ。俺を育てて養ってくれた人達だ。漁師たちだってそう。お前はその全てを脅かす」
この胸に感じるのは、怒りだ。自分の大切なものを穢す者への憤り。ポケットからナイフを取り出し、刃を展開させて握り締める。鈍色の刃が、街灯の光を返す。
「初めてが、お前みたいなので良かったよ」
ドッ。刃が肉を貫く感触がする。ルチアーノが言っていたことを思い出す。イヤな感触だ、とリアンは思った。アダンは何が起こったのかよく分かっていないようだった。
「あえ……え……?」
アルヴァーロに貰ったナイフを引き抜いた。使われていたものらしく、刃に血が馴染んでいる。アダンが倒れるより先に、ルチアーノが彼の体を蹴り飛ばした。呆気なく男は真っ黒な海に落ちて、見えなくなった。ドボン、という音は幻の様に闇の中へ消えて行った。
「……俺の仕事がなかった」
「いや。いてくれて良かったよ。俺一人じゃ……押し潰されそうだ」
不満げなルチアーノに、立ち上がったリアンはそう言って笑う。足元に血痕が遺っている。ナイフを握る手がぬめりとしている。男が消えた深淵を見遣るリアンに、ルチアーノはため息を吐く。
「今回ばかりは……アレだが。あまり仕事に私情を挟むな」
「分かってる」
「俺たちの仕事は、人を助けることじゃない。依頼のままにターゲットを殺すことだ。俺たちが、そいつを何と思おうが、だ。“殺したい”って感情を、俺たちは持っちゃいけない」
「……それは依頼主の役割?」
「そうだ」
ルチアーノの隻眼は冷徹だった。本来なら、自分とは関わらない種の人間だったろうと思う。どうして関わることになってしまったのか不思議なくらい────でも、だからこそ、彼と近付きたいと思う。
「帰ろう。見られたらマズイんだろ」
リアンはルチアーノを促して歩き出す。が、立ち止まったままのルチアーノが後ろから言った。
「彼女の様子、見て行かなくていいのか」
「…………うーん。こんなだしさ」
暗がりの中。街灯に照らされた右手と胴は、血に汚れていた。酷い臭いだな、とリアンは思った。
「……そうか」
ルチアーノは隻眼を伏せると、リアンの後を歩き出した。
*
帰るとまだアルヴァーロはいなかった。彼が帰って来たのは、翌日の昼前だった。足音なく帰って来て、ケロッとしているアルヴァーロに、リアンは何というか、驚いた。
「……そっちは無事に済んだんですか?」
「うん? 勿論。いやぁ、骨のない連中だった」
「アルヴァーロさんにしてみれば、どいつもそんなものでしょう」
ルチアーノがソファで新聞を読みながらそう言う。そんなルチアーノに近付くと、アルヴァーロは後ろからぎゅむと彼を抱きしめた。
「あぁ~でもちょっと寂しかった~!」
「やっ、めて下さい苦しっ……」
わしゃわしゃと頭を撫でている。こうして見ると親子のようだなと思う。
「そっちは? 首尾良く行ったの?」
「まぁ……」
「アルヴァーロさん。ほら」
と、ルチアーノは読んでいた新聞をアルヴァーロに見せる。
「…………水死体発見……あぁ、アダンの死体が見つかったのか。早いとこ引き上げないとな」
「次はどこに行くんですか」
「ウィスタリアだよ。少し遠いけど」
「ウィスタリア……」
二人の会話を聞いて、リアンは急に寂しさを覚えた。そうか。本当に、もうここにはいられないのか。分かっていたことだが。
この町から出たことはない。海には出たことがあるが。他の町に行ったことが、リアンにはなかった。だから、ここを出ることには少しのワクワクと惜しさを感じていた。
「……あ、リアン。香水付けてくれたんだ?」
「ん、あぁ、はい……」
血の臭いが消えるかと思って。と、そうは言わなかった。爽やかな香りが自分の周りに漂っている。アルヴァーロはにこりと笑うと、頷いた。
「うん、俺の見立て通り似合うね。良かったよ」
「あの、いつ出るんですか」
「ここを? そうだね、元から一週間の滞在だったから……明日には出るよ。それまでに荷物とかまとめといてね」
「……荷物は何も無いです」
「そっか。良かった」
自分は何も持っていない。持ち物も、家も、何もかも────いつだって、この身一つだ。アルヴァーロに貰ったものが、初めて自分の所有物と呼べるものだ。この香水とナイフさえあればそれでいい。
「……挨拶とか、して行かなくていいの?」
「!」
思いがけず、アルヴァーロにそう言われてリアンは驚いた。彼の顔を見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。
「…………なんすか」
「いや。俺たちの都合で君を外に連れ出すわけだからさ────」
「気にしなくていいすよ。俺がいなくたって誰も困りゃしないし」
「でも、寂しがるんじゃない?」
そんなこと。そんなことない。自分は、誰の一番でもない。そりゃ、しばらく顔を見せなくなったら少しの間は寂しがるかもしれないが。彼女たちには皆他に大切なものがある。自分一人がいなくなったって、そんな────。
と、俯いたリアンの肩をアルヴァーロは優しく叩く。
「まぁ、もう二度と来ないってわけじゃないからさ。君が良いっていうなら、良いんだけど。後悔だけはしないようにね」
「…………」
ヒルダのことを思う。彼女は、数多くいる関係を持った女性の中の一人に過ぎない。特段特別な感情を抱いているわけじゃない。でも、嫌なことを強いてしまったことに罪悪感があるのは確かだ。このまま、何も言わずに去っていいのか。他の、女たちにも────。
「……迷うくらいなら行っとけば」
「!」
ルチアーノが言う。少しの苛立ちが籠ったような声だったが、リアンは不快には思わなかった。
「分かった。……“荷物”を、まとめて来るよ」
*
とは言ったものの、どうしたら良いのか具体的に分からないまま──顔を合わせて、彼女たちに何と言ったら良いのか分からないまま、リアンはフラフラと歓楽街を歩いていた。
昼間だ。まだどこも開いていない。一人一人の家に行く気力もない。そうなると、具体的に誰の所に行こう、とか浮かばなかった。浮かぶとしたらヒルダだが────それこそ、合わせる顔が無かった。
見慣れた町並みを眺める。夜は賑わうが昼は静かだ。住み込みの嬢たちの気配はするが────。
「リアン? リアンじゃない」
「!」
上から声が降って来て、リアンは視線を上へ向けた。娼館のバルコニーから、髪の短い女が手を振っている。リアンはいつものように笑おうとして、どこかぎこちなくなる。
「……こんにちは」
「どうしたの? お腹空いてる? なんか作ろっか」
「ええと……いや」
「あれ、いつもの服じゃない! カッコいいじゃん、どうしたの」
答えを迷っていると、女の後ろから新たに金髪の女が顔を出す。
「なになに、リアン? おーい! 上がって行きなよ」
そんな調子で────その内目の前の店の扉からも女が出て来て、リアンの腕を引いた。振り解く訳にも行かず、そのまま中へ招かれた。
「えーっ、リアン、この街出てくの」
「うん……誰かには、伝えとかなきゃって思って」
「そっかぁ、寂しくなるねー」
三人の女たちは、誰もリアンを止めようとはしなかった。少し早い昼食を摂っている。リアンも食べるように勧められたが、そんな気分じゃない。
「まぁ、リアンももう大人だもんねー。大きくなったねほんと」
彼女たちは、リアンを小さい頃から知っている人たちだ。歳は皆40を過ぎている。
「ほんとほんと。あたしら皆んなで面倒見てたもんね。ヤンチャだったなぁ小さい頃は」
「今でもヤンチャだけど。でも良かったよ、心配してたんだから私たち……」
「?」
俯いていたリアンは顔を上げる。彼女はにこりと笑う。
「リアンももう大人でしょ。このままじゃ、あんたのために良くないと思っててさ……無理矢理にでも何か仕事につけて……漁師に弟子入りさせようとか、なんとか考えてたわけ……だから安心してさ」
「えっ……と」
「居場所、見つけたんでしょ」
ぐ、と喉が支えた。何で、という思いが頭を駆け巡る。
「ごめんね。あんたの母親を見つけてあげられなくてさ。寂しい思いさせてたんじゃない」
「そっ……そんなことない……!」
口を突いて出た言葉。それはきっと本音だった。孤独感がなかったと言えば嘘になる。だけど。
彼女たちは皆優しく笑う。リアンは胸がぎゅっと締まる。あぁ、こんなにも。こんなにも自分は。
「行っておいで。あんたなら大丈夫だよ」
「帰って来たら顔見せてね。それで、また話聞かせてよ」
「そーそ。お腹いっぱいご馳走するからさ」
胸が痛い。顔を伏せる。ぎゅっと、隣の女に抱き寄せられて頭を撫でられる。
「泣いてるの? ふふ、まだ子供だったなぁ」
「……俺……ここで育って良かった」
「そっか」
町を出る理由を、正確に彼女たちに話すことは出来ない。でも、せめて、この町で受けて来た愛を忘れないでいようと、リアンは誓った。
*
女は町を駆けた。目が醒めると、そこには誰もいなかった。締め切られたカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。
その日のうちに、きっとリアンから連絡があるか、顔を出してくれると思っていた。でも、そんなことはなくて───夜、玄関ポストに刺さっていた朝刊に気が付いて、見て、背筋が凍った。
翌日に、胸騒ぎがして歓楽街に行った。そこで、リアンが町を出るという噂を聞き────早朝の今、走っている。海から離れて、山へ向かうただ一つの街の出口へ。向かう先の空は、山の陰に隠れた朝日で白んでいる。心臓が爆発しそうなくらい、足がもつれそうになるくらい、走って。彼女はリアンの後ろ姿を見つけた。他にも二人、知らない人がいる。
「…………リアンっ!」
息も切れ切れに、なんとか叫んだ。リアンたちが振り向く。ハァ、ハァと激しく息を吐いている彼女の元に、リアンは近づこうとして……やめた。
「……ハァッ、なんっで……」
「ごめん」
「私のせいで、出てくの……?」
「違う。……これは、その。たまたまだよ。巻き込んだのもさ」
「────」
へら、と笑って見せるリアン。ヒルダは言葉を失くす。もうそれは、ヒルダが知っている笑みではないような気がした。
「おおよそ、多分、君が想像してる通りだ。アダンのことは────もう心配いらない。俺のこともさ」
「……リアン」
「俺なんか、相手にしてたってしょうがないからさ。忘れてよ。全部」
少し歳下の青年は、そんな残酷なことを言って、笑う。彼は元々、流れて行くものだった。誰の元にも止まらない。気まぐれにやって来て、抱いて、食べて、去って行く。そういうものだと分かっていた。でも。
「………そんな悲しいこと、言わないで」
「ごめん」
「忘れたりしないわ、リアン」
「……ごめん」
青年は、謝ることしかしなかった。その海のような瞳が揺れている。あぁ。あなたは。
「────いいの? 私、全部喋っちゃうかもしれないわよ」
青年はただ笑って、向こうで待っている二人の元へ歩いて行った。全てを見透かされている様な気がして、ヒルダはただ立ち尽くしていた。
#8 END
「あぁヒルダ……会いたかった」
玄関でぎゅうと男が抱き締めてくる。ヒルダは目を瞑る。愛おしさと支配欲に満ちたその力が緩むのを待って、ヒルダは笑って見せる。
「食事を用意したの。向こうで喋りましょ」
ソファに着いたアダンは捲し立てるように喋る。
「どうして店を辞めてしまったんだい? 俺に連絡もなく! お陰で探すのにとても苦労したんだよ」
ヒルダは二つのグラスにワインを注ぐ。隣の男はただ、彼女の視線を求めて続ける。
「嫌な客でもいたのかい。もしそうなら、俺が守ってあげるよ」
ええそうよ。どの口が言っているの。……その言葉をぐっと堪えて。ヒルダは彼に笑いかける。
「心配かけたわね。でも、もう大丈夫」
「そう? 良かった。怖いことがあったら何でも相談してくれ、俺は君のためなら何でもするよ」
「……何でも……ね」
ヒルダが小さくそう繰り返すと、アダンは思い出したように指を差した。
「そうだ! この前君の家の前に来てた男! アレは何だ」
「アレ? 何のこと?」
「栗色の長い髪の男だよ! 随分と若い男だった。もしかして君のストーカー? 彼が怖くて店を辞めたの?」
リアンだ。ヒルダが口を結んだのを見て、アダンは彼女の両肩を掴む。
「分かった。俺があいつを片付けてやる。俺の手にかかれば、アイツなんか二度と君の目の前に現れなくしてやれる」
そう言う彼に、ヒルダはワインを渡した。受け取る彼の目を見ながら、答える。
「そんなことして。お父様にバレたら大変よ。次期社長でしょ」
「大丈夫だよ。俺自身は何もしやしないんだから────」
「危ない付き合いは、やめた方が身のためよアダン」
「うるさいな。どれもこれも会社のため、ひいては君のためだよヒルダ。金がなきゃ世の中生きていけないじゃないか。これはビジネスだ、何も持たない者から喰われていく。……あの馬の骨もそうさ」
ワインを飲みながら、陶酔した様子でアダンは語る。
「大体、親父の事業はせせこましいんだ。鉄を安く仕入れて、安く船を作ったり……派手さが足りないだろ? 俺はそれがつまらない。折角でかい会社なのに」
テーブルの上に用意されていた料理をアダンはつまむ。その様子をヒルダは見ている。
「……俺の事業は順風満帆だ。親父より稼いでる。あとは……料理が上手でイケてる女がいれば…………」
「…………」
じっと自分を見ているヒルダに気が付いて、アダンは首を傾げる。
「食べないのか?」
「……食べるわ。あなたの横顔につい、見惚れてたの」
アダンは照れた様子もなく、その腕の中にヒルダを抱き寄せた。
「あぁ、本当にいい女だなヒルダ。俺と結婚しよう。そうしたら、何不自由ない生活を送らせてやれるし、俺はとても幸せだ」
「そう。素敵な話ね」
気持ちを込めようと思っても、篭らなかった。心臓がどきんどきんと鳴っている。指先が冷える。アダンの腕から抜け出して、テーブルの上のフォークを手に取った。
「この料理、あなたのために作ったんだから。たくさん食べてね」
ニコリと笑う。ぎこちない笑みだった。だけど、恋は目を曇らせる。男は何も気付かずに、嬉しそうにしていた。
*
カラン、とフォークが床に落ちる。それをリアンは拾い上げた。
ソファの上で二人の男女が眠りに落ちている。ソファで天井を向いてイビキをかいているスーツの男。その隣で、ヒルダはまるで死んでしまったかのように静かに眠っていた。
「……助かるけどさ……」
ヒルダの作った料理には、睡眠薬が盛ってあった。ルチアーノから貰ったものだ。知り合いの闇医師が作った特製の強力な睡眠薬だと言う。それをヒルダに渡しておいた。しばらくは起きないだろう。
そっと、リアンはソファの後ろに回ってヒルダの頬を撫でた。
「……ごめんね」
会話は聞いていた。ずっとこの部屋のクローゼットの中に身を潜めていた。ヒルダはきっと怖かっただろう。不快だっただろう。でも、もうそんな思いをさせなくて済む。
何も知らないで眠っている男の手足を縄で縛った。漁師の男たちに教えてもらった強い結び方────こんなことに使うなんて、とリアンは心の内で笑った。男を肩に抱える。意識のない人間の重さを感じる。
チラリとヒルダを見た。…………これが最後になるかもしれない。そう思うと急に愛おしくなって────その思いを噛み潰して、リアンは踵を返した。
*
男は目を覚ました。いつの間に眠ってしまっていたのか、記憶がない。ソファの上にいたはずなのに、固くて冷たい地面を感じる。身じろぎしようとして、縛られていることに気が付いた。
「…………ヒルダ⁈ ヒルダ!」
叫ぶ。そうしてようやく、そこが外であることに気が付いた。
暗い夜の港。停泊した船と港の間で揺れる波が、不気味な音を立てている。灯りは港に点々と立つ街灯だけで、昼間と違って人の気配のない港の海は、命を飲み込む深淵の様だった。
「なん……」
「ようやくお目覚め? いっぱい食べたのね、最後の晩餐のお味はどうだった?」
「! お前は……」
リアンは男の目の前で屈み、笑う。
「昨日はどうも。…………あぁ、もう日付が変わるか……まぁ、俺のことは覚えてるでしょ」
「ヒルダのストーカー!」
「……ストーカーはお前でしょ。自覚がないって怖いよねぇ」
アダンはリアンが自分の後方に目を向けたのを見て、身を捻る。そこにもう一人立っているのを見て、勢いで飛び起きた。
「だっ、何だ!」
「……うるさいのは嫌いなんだ。静かに出来ねェなら今すぐ沈める」
ルチアーノの手にある拳銃に、アダンは気が付いて慌てる。
「殺し屋か⁈ どこの組織のモンだ……! 俺に手を出したらタダじゃ済まねェぞ!」
「あぁ、それなら心配ない。お前のお仲間の所にもお迎えが行ってる。だから安心して死ね」
真っ黒な銃口を向けられて、アダンが甲高い悲鳴を上げる。リアンは立ち上がってルチアーノを一旦制止する。
「まぁ待ってよ。ちょっと話がしたい」
「早く片付けねェと人が来る。目撃者がいたら消さなきゃならねェんだよ俺たちは。それに、これから死ぬ奴と話したって何にもならねェぞ」
「少しだけ。少しだけだから」
リアンは笑ってルチアーノを宥めると、アダンを見た。
「……ヒルダはお前から逃げたんだよ。分かってる?」
「そんな訳ない! 俺はヒルダを愛してるんだ! 今日だって家に招いて……」
はたとアダンは気付いたようだった。目の色を変えて、唸る。
「…………ヒルダが料理に薬を? それで俺は眠ってたのか⁈」
「そうだよ」
「お、お前が唆したんだろ! お前が、あいつを自分のものにしたいから──……!」
「いいや。俺のものにはならないよ。彼女には幸せになって欲しいけど────彼女の隣に、俺はいない」
「は……?」
屈んで目を見る。男の目を見ていると、自分の芯が冷たく、静かに冷めて行くのを感じた。
「お前さ────女のコと仲良くなりたいたら、優しくしないと」
「何……」
「この町の女のコたちは、皆んな俺の恩人なんだ。俺を育てて養ってくれた人達だ。漁師たちだってそう。お前はその全てを脅かす」
この胸に感じるのは、怒りだ。自分の大切なものを穢す者への憤り。ポケットからナイフを取り出し、刃を展開させて握り締める。鈍色の刃が、街灯の光を返す。
「初めてが、お前みたいなので良かったよ」
ドッ。刃が肉を貫く感触がする。ルチアーノが言っていたことを思い出す。イヤな感触だ、とリアンは思った。アダンは何が起こったのかよく分かっていないようだった。
「あえ……え……?」
アルヴァーロに貰ったナイフを引き抜いた。使われていたものらしく、刃に血が馴染んでいる。アダンが倒れるより先に、ルチアーノが彼の体を蹴り飛ばした。呆気なく男は真っ黒な海に落ちて、見えなくなった。ドボン、という音は幻の様に闇の中へ消えて行った。
「……俺の仕事がなかった」
「いや。いてくれて良かったよ。俺一人じゃ……押し潰されそうだ」
不満げなルチアーノに、立ち上がったリアンはそう言って笑う。足元に血痕が遺っている。ナイフを握る手がぬめりとしている。男が消えた深淵を見遣るリアンに、ルチアーノはため息を吐く。
「今回ばかりは……アレだが。あまり仕事に私情を挟むな」
「分かってる」
「俺たちの仕事は、人を助けることじゃない。依頼のままにターゲットを殺すことだ。俺たちが、そいつを何と思おうが、だ。“殺したい”って感情を、俺たちは持っちゃいけない」
「……それは依頼主の役割?」
「そうだ」
ルチアーノの隻眼は冷徹だった。本来なら、自分とは関わらない種の人間だったろうと思う。どうして関わることになってしまったのか不思議なくらい────でも、だからこそ、彼と近付きたいと思う。
「帰ろう。見られたらマズイんだろ」
リアンはルチアーノを促して歩き出す。が、立ち止まったままのルチアーノが後ろから言った。
「彼女の様子、見て行かなくていいのか」
「…………うーん。こんなだしさ」
暗がりの中。街灯に照らされた右手と胴は、血に汚れていた。酷い臭いだな、とリアンは思った。
「……そうか」
ルチアーノは隻眼を伏せると、リアンの後を歩き出した。
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帰るとまだアルヴァーロはいなかった。彼が帰って来たのは、翌日の昼前だった。足音なく帰って来て、ケロッとしているアルヴァーロに、リアンは何というか、驚いた。
「……そっちは無事に済んだんですか?」
「うん? 勿論。いやぁ、骨のない連中だった」
「アルヴァーロさんにしてみれば、どいつもそんなものでしょう」
ルチアーノがソファで新聞を読みながらそう言う。そんなルチアーノに近付くと、アルヴァーロは後ろからぎゅむと彼を抱きしめた。
「あぁ~でもちょっと寂しかった~!」
「やっ、めて下さい苦しっ……」
わしゃわしゃと頭を撫でている。こうして見ると親子のようだなと思う。
「そっちは? 首尾良く行ったの?」
「まぁ……」
「アルヴァーロさん。ほら」
と、ルチアーノは読んでいた新聞をアルヴァーロに見せる。
「…………水死体発見……あぁ、アダンの死体が見つかったのか。早いとこ引き上げないとな」
「次はどこに行くんですか」
「ウィスタリアだよ。少し遠いけど」
「ウィスタリア……」
二人の会話を聞いて、リアンは急に寂しさを覚えた。そうか。本当に、もうここにはいられないのか。分かっていたことだが。
この町から出たことはない。海には出たことがあるが。他の町に行ったことが、リアンにはなかった。だから、ここを出ることには少しのワクワクと惜しさを感じていた。
「……あ、リアン。香水付けてくれたんだ?」
「ん、あぁ、はい……」
血の臭いが消えるかと思って。と、そうは言わなかった。爽やかな香りが自分の周りに漂っている。アルヴァーロはにこりと笑うと、頷いた。
「うん、俺の見立て通り似合うね。良かったよ」
「あの、いつ出るんですか」
「ここを? そうだね、元から一週間の滞在だったから……明日には出るよ。それまでに荷物とかまとめといてね」
「……荷物は何も無いです」
「そっか。良かった」
自分は何も持っていない。持ち物も、家も、何もかも────いつだって、この身一つだ。アルヴァーロに貰ったものが、初めて自分の所有物と呼べるものだ。この香水とナイフさえあればそれでいい。
「……挨拶とか、して行かなくていいの?」
「!」
思いがけず、アルヴァーロにそう言われてリアンは驚いた。彼の顔を見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。
「…………なんすか」
「いや。俺たちの都合で君を外に連れ出すわけだからさ────」
「気にしなくていいすよ。俺がいなくたって誰も困りゃしないし」
「でも、寂しがるんじゃない?」
そんなこと。そんなことない。自分は、誰の一番でもない。そりゃ、しばらく顔を見せなくなったら少しの間は寂しがるかもしれないが。彼女たちには皆他に大切なものがある。自分一人がいなくなったって、そんな────。
と、俯いたリアンの肩をアルヴァーロは優しく叩く。
「まぁ、もう二度と来ないってわけじゃないからさ。君が良いっていうなら、良いんだけど。後悔だけはしないようにね」
「…………」
ヒルダのことを思う。彼女は、数多くいる関係を持った女性の中の一人に過ぎない。特段特別な感情を抱いているわけじゃない。でも、嫌なことを強いてしまったことに罪悪感があるのは確かだ。このまま、何も言わずに去っていいのか。他の、女たちにも────。
「……迷うくらいなら行っとけば」
「!」
ルチアーノが言う。少しの苛立ちが籠ったような声だったが、リアンは不快には思わなかった。
「分かった。……“荷物”を、まとめて来るよ」
*
とは言ったものの、どうしたら良いのか具体的に分からないまま──顔を合わせて、彼女たちに何と言ったら良いのか分からないまま、リアンはフラフラと歓楽街を歩いていた。
昼間だ。まだどこも開いていない。一人一人の家に行く気力もない。そうなると、具体的に誰の所に行こう、とか浮かばなかった。浮かぶとしたらヒルダだが────それこそ、合わせる顔が無かった。
見慣れた町並みを眺める。夜は賑わうが昼は静かだ。住み込みの嬢たちの気配はするが────。
「リアン? リアンじゃない」
「!」
上から声が降って来て、リアンは視線を上へ向けた。娼館のバルコニーから、髪の短い女が手を振っている。リアンはいつものように笑おうとして、どこかぎこちなくなる。
「……こんにちは」
「どうしたの? お腹空いてる? なんか作ろっか」
「ええと……いや」
「あれ、いつもの服じゃない! カッコいいじゃん、どうしたの」
答えを迷っていると、女の後ろから新たに金髪の女が顔を出す。
「なになに、リアン? おーい! 上がって行きなよ」
そんな調子で────その内目の前の店の扉からも女が出て来て、リアンの腕を引いた。振り解く訳にも行かず、そのまま中へ招かれた。
「えーっ、リアン、この街出てくの」
「うん……誰かには、伝えとかなきゃって思って」
「そっかぁ、寂しくなるねー」
三人の女たちは、誰もリアンを止めようとはしなかった。少し早い昼食を摂っている。リアンも食べるように勧められたが、そんな気分じゃない。
「まぁ、リアンももう大人だもんねー。大きくなったねほんと」
彼女たちは、リアンを小さい頃から知っている人たちだ。歳は皆40を過ぎている。
「ほんとほんと。あたしら皆んなで面倒見てたもんね。ヤンチャだったなぁ小さい頃は」
「今でもヤンチャだけど。でも良かったよ、心配してたんだから私たち……」
「?」
俯いていたリアンは顔を上げる。彼女はにこりと笑う。
「リアンももう大人でしょ。このままじゃ、あんたのために良くないと思っててさ……無理矢理にでも何か仕事につけて……漁師に弟子入りさせようとか、なんとか考えてたわけ……だから安心してさ」
「えっ……と」
「居場所、見つけたんでしょ」
ぐ、と喉が支えた。何で、という思いが頭を駆け巡る。
「ごめんね。あんたの母親を見つけてあげられなくてさ。寂しい思いさせてたんじゃない」
「そっ……そんなことない……!」
口を突いて出た言葉。それはきっと本音だった。孤独感がなかったと言えば嘘になる。だけど。
彼女たちは皆優しく笑う。リアンは胸がぎゅっと締まる。あぁ、こんなにも。こんなにも自分は。
「行っておいで。あんたなら大丈夫だよ」
「帰って来たら顔見せてね。それで、また話聞かせてよ」
「そーそ。お腹いっぱいご馳走するからさ」
胸が痛い。顔を伏せる。ぎゅっと、隣の女に抱き寄せられて頭を撫でられる。
「泣いてるの? ふふ、まだ子供だったなぁ」
「……俺……ここで育って良かった」
「そっか」
町を出る理由を、正確に彼女たちに話すことは出来ない。でも、せめて、この町で受けて来た愛を忘れないでいようと、リアンは誓った。
*
女は町を駆けた。目が醒めると、そこには誰もいなかった。締め切られたカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。
その日のうちに、きっとリアンから連絡があるか、顔を出してくれると思っていた。でも、そんなことはなくて───夜、玄関ポストに刺さっていた朝刊に気が付いて、見て、背筋が凍った。
翌日に、胸騒ぎがして歓楽街に行った。そこで、リアンが町を出るという噂を聞き────早朝の今、走っている。海から離れて、山へ向かうただ一つの街の出口へ。向かう先の空は、山の陰に隠れた朝日で白んでいる。心臓が爆発しそうなくらい、足がもつれそうになるくらい、走って。彼女はリアンの後ろ姿を見つけた。他にも二人、知らない人がいる。
「…………リアンっ!」
息も切れ切れに、なんとか叫んだ。リアンたちが振り向く。ハァ、ハァと激しく息を吐いている彼女の元に、リアンは近づこうとして……やめた。
「……ハァッ、なんっで……」
「ごめん」
「私のせいで、出てくの……?」
「違う。……これは、その。たまたまだよ。巻き込んだのもさ」
「────」
へら、と笑って見せるリアン。ヒルダは言葉を失くす。もうそれは、ヒルダが知っている笑みではないような気がした。
「おおよそ、多分、君が想像してる通りだ。アダンのことは────もう心配いらない。俺のこともさ」
「……リアン」
「俺なんか、相手にしてたってしょうがないからさ。忘れてよ。全部」
少し歳下の青年は、そんな残酷なことを言って、笑う。彼は元々、流れて行くものだった。誰の元にも止まらない。気まぐれにやって来て、抱いて、食べて、去って行く。そういうものだと分かっていた。でも。
「………そんな悲しいこと、言わないで」
「ごめん」
「忘れたりしないわ、リアン」
「……ごめん」
青年は、謝ることしかしなかった。その海のような瞳が揺れている。あぁ。あなたは。
「────いいの? 私、全部喋っちゃうかもしれないわよ」
青年はただ笑って、向こうで待っている二人の元へ歩いて行った。全てを見透かされている様な気がして、ヒルダはただ立ち尽くしていた。
#8 END
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