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第三章 精霊の御霊
#48 決着(後編)
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────シェレブ城3階・礼拝堂────
イアリは辺りに気を巡らせる。相手の姿が見えない。迷彩竜の能力でラドールは姿を消している。気配は確かに感じるのに、攻撃は一向に当たらない。
「こっちだよ」
「!」
声のする方に短剣を振る。だが、刃は虚しく空を切る。
「くそっ……出てこい!」
「へたくそだ」
「!」
一瞬だけ姿が見えたそこへ飛び込み短剣を突き立てるがやはり床を穿つだけだった。
「怖いねぇ」
「馬鹿にしやがって!」
〈イアリ落ち着け、相手の思うつぼだ〉
グリフがそう宥めるが、イアリは苛立って仕方ない。こちらを攻撃して来るでもなく揶揄っているだけのラドールに、どう対処していいのか分からない。
「……攻撃して来い! 時間稼ぎだけが目的か⁈」
と、不意に背後に気配を感じてイアリは振り向き様に斬りつける。するとようやく手応えがあった。頬を抑えたラドールが後ろへよろめきながら姿を現す。
「おっと……傷ついちゃった」
と、そこへ滑空して来たグリフがラドールの体をうつ伏せに抑えつける。
「う……!」
〈捕らえたぞ〉
強靭な爪によって身動きが取れないラドール。イアリは今までのイライラが吹き飛ぶ。
「よくやったグリフ!」
〈隙を作ったお前の手柄だ……ッ⁈〉
突然グリフは抑えていた手を上げると、しゅるしゅると身を縮めて行く。人型に戻ったグリフは胸を抑えている。
「お、おい⁈」
「あーあ、あまり変身したくなかったんだけどな〉
気が付けばラドールに尖った尾が生えている。見る見る内にその姿がカメレオンのような姿に変化する。尾の先についた血を振り払うと、ぎょろぎょろとした目をラド―ルは動かしながら立ち上がる。
〈やっぱりこっちの方が戦いやすいか〉
奇妙な姿に呆気に取られていたイアリの足首を、伸びて来た長い舌が捉える。
「……うおっ!」
引っ張られて後頭部を強打する。星が舞う視界の中、引きずられる先を見ると大きな口が空いている。
「げっ! ちょっと待て! やだ! 放せ! 冗談じゃねェぞ!」
じたばたしながらなんとか短剣を床に突き刺す。しかし力が強く長くは持ちそうにない。
「くっ……“スラッシュ”!」
〈!〉
迷彩竜の顔目掛けて風の斬撃を放つ。少し狙いからはずれたが、竜の鼻先を傷付け舌が足から離れる。
「やった!」
〈ヤロ……〉
「てか普通に喋んのか、何竜族だ?」
「……白竜族の一種だ」
「え⁈」
グリフの返答にイアリはびっくりする。何せ迷彩竜は白くない。腕は翼腕になってはいるが体格からして飛ぶのはそれほど得意ではなさそうだった。全体の見た目も白竜族の優美なイメージにそぐわない。
「見えねーよ!」
〈うるさい! 僕の容姿にとやかく言うな!〉
「迷彩竜は光を操り姿を消す……紛れもなく光の竜だ」
「まじで……」
と、そう応えながらイアリはグリフの方を見る。
「てかお前大丈夫かよ」
「構うな……少し休めば治る」
「本当かよ……」
「来るぞ」
「!」
再び舌を放って来る迷彩竜。それをしっかりイアリは短剣で斬り払う。舌が切れて血が噴き出る。舌を引っ込めた竜はそのまま姿を消す。
「あっ!」
イアリは辺りを探す。図体は人型の時より大きい。足音などの気配は感じやすくなっているはずだが……。
「どこ行った……」
気配がない。きょろきょろ見回した末にはたと思い当たる。
「……グリフ!」
グリフが頭を下げると同時に、イアリは短剣をそちらへ突き出す。
「“風槍”!」
放たれた突撃が、そこにいた何かを穿つ。鮮血と共にグリフを吞み込もうとしていた迷彩竜が姿を現す。
〈ぐあ……!〉
突撃が穿ったのは迷彩竜の脇腹だった。ごろごろと転がって止まった時には人型に戻っていた。
「……くっ」
「あれ、戻った?」
「核まで通ったな、さすがだ」
グリフはラドールに向かって片手を上げる。その先に炎と風を纏った羽根が生成される。
「“爆裂羽”」
「!」
羽根が衝撃波を放ちながら射出される。それは逃げようとしたラドールに容赦なく襲いかかり、爆裂した。あまりの威力にイアリは思わず頭を腕で覆う。大きさは鷲獅子竜の羽根一枚くらいなものだったが、ミサイルでも撃ち込まれかのようだ。
「……絶対それ人に向けて撃つなよ」
「無論だ」
煙が晴れる。そこにラドールの姿はなかった。
「……やったか?」
「いや、逃げられた」
「え」
「竜族が爆発四散するほどの威力ではないからな」
そう言いながらグリフは竜化し鷲獅子竜の姿になる。どこからかイアリ目掛けて飛んで来た舌をその嘴が捉える。
〈ぐぇ〉
〈鷲の目、侮らんことだ〉
そのままぐりんと振り回して迷彩竜は柱に激突する。パラパラと塵が落ちる。起き上がったラドールは頭を振ると向かって来たグリフに言う。
〈ふうん、じゃあこういうのは苦手だろ〉
〈!〉
一瞬、眩く迷彩竜の前身が眩く発光した。鷲獅子竜が怯む。イアリはチカチカする目を何度か瞬きして視界を戻す。
「グリフ!」
〈ぐぅ……すまん、何も見えん!〉
「まったく、目が良いのも考えもんだな」
ラドールの姿がまたない。核への打撃からまだそれほど経っていないはずだがもう竜の姿に戻っていた。先ほどの竜化解除は浅かったのか、それとも演技だったのか。どちらにせよ相手は未だ万全──────否、先ほどのダメージは通っているだろうし、爆発による負傷も先ほど見て取れた。隠れて正面切って来ないところを見る辺り、ラドールはそれほど強くはない。
(……まぁ正面切ってが苦手なのは俺も同じか)
短剣を握りしめる。武器はこれだけ。それから、風の力。
「……少し頑張ってみるか」
きっ、と何もない空間を睨みつける。手を広げる。辺りの空間全てと一体化するように──────精霊の身である今は、いつもより色濃く辺りの風のエレメントを感じる気がする。
「──────見つけた」
そちらの方へ視線を移す。薄っすらと、見える。光を反射し姿を消しているものの周りを、風のエレメントが動いて輪郭を形作っている。
「見えりゃこっちのモンだ!」
大きな影がこちらに向かっているのが、びくりとした。見えていないと思っていた相手に見据えられている。それだけで牽制するのには十分だった。
「次は甘くないぞ!」
ぶわりと、突き出した短剣の周りに大風が渦巻く。いつもより多くの力が集まるのをイアリは感じた。
「“風霊の大槍!”」
一度収束した風が槍となって空間を裂く。何もないそこで血飛沫が上がる。遅れてぐにゃりと空間がゆがんで迷彩竜の姿が現れた。どうとその巨体が倒れる。イアリは短剣を降ろすと大きく息を吐いた。迷彩竜が動かないことを確認してからグリフの方へ向かう。
「大丈夫か」
「……斃したのか……」
まだ視界がちかちかするのかグリフは頭を振りながら言う。うっすら開いているその目に向かってイアリは頷く。
「あぁ」
「大したものだ。俺の助けがなくとも十分やれるな」
「いやいや! 一人じゃ無理だったよ。俺は……グリフがいないとダメダメだ」
「ふん。少しくらい自身を持て。お前の技は見れなかったが……風のエレメントたちが騒めいているのを感じた」
「それってどういう……」
イアリが訊き返すと、グリフはやれやれと肩を竦めて座りなおした。
「休むか」
「え、でもエレンたちの加勢に行った方がいいんじゃ……」
……と思ったが、一度ライナーに歯が立たなかったのを思い出して語尾がすぼむ。
「……そうだな。俺たちの役割は果たしたか」
そう言って、イアリもグリフの隣に座り込む。こうしてみるとだいぶ疲れが溜まっているのが分かる。
「──────精霊の身って、結構疲れる?」
「慣れん身で大量のエレメントを行使したからな」
「そうか……」
やっぱりもう一歩も動きたくない。そう思いながらイアリは項垂れ、目を瞑った。
* * *
────シェレブ城4階・玉座の間────
エレンは棒を手に突進する。
「おおおぉぉ!」
「“天装”」
後方からリリスの声がして、その途端ぐんと体が加速した。スピード系の補助魔術らしい。
「真正面から来るなんてさ!」
エレンが振り下ろした棒を、ライナーは腕で受けた。硬く黒光りする鱗がその腕にびっしりと生えている。まるで鋼のようだ。
「かってぇ……」
「当たり前だろ、竜の鱗だ。特に僕は黒鉄の竜、鉄の鱗なんでね」
火花を散らして、エレンは距離を取る。そして構え直すと竜を見据える。
「……鉄も叩けば割れるだろ」
「どうかな」
右手だけを竜化させたライナーが走って来る。その爪を棒で受ける。ギギ、と擦れる音がする。ものすごい力だ。エレンは両手で堪える。
「これくらいへし折れるよ!」
「……こちとら特別製だ、そう簡単には折れねェよ」
「“地装”」
またリリスが唱える。全身に力が籠るのが分かった。筋力補助系の魔術だ。ありったけの力を籠めて、ライナーを弾き飛ばす。後ろによろけるライナー。棒を持ち換え、その脇腹に叩き込む。
「がっ……!」
そのまま薙ぎ払ってライナーを吹き飛ばす。棒の先に影を纏わせ刃を創ると、エレンは追撃する。腹目掛けて刃を突き出す。が、カキィンと高い音がした。
「!」
「……全く……人型で戦ってやってるとすぐに調子に乗るな……」
見る見る内にライナーの体が鱗に覆われて行く。と同時に大きくもなっていく。
「……げ」
やばいと感じたエレンは距離を取る。直後、爆発的に広がった闇のエレメントがライナーを包み、属性風を生み出す。
「余興は終わりだ。さっさと踏みつぶして引き裂いてやる」
見上げるほどになったライナー。その巨躯はラフェリアルよりずっと大きい。
「……こんなでけェのかよ」
ローフィリアなどが可愛く思える大きさだ。おまけに全身鎧を纏っているかのようで、重圧感がすごい。
ライナーが大きく吠えた。空間に反響してビリビリと空気が震える。全身を襲う威圧感。これが闇竜族を統べる竜皇というわけだ。耳を塞がなければ、鼓膜が破れそうだ。精神的にもマズい。
「ぐっ……」
「ぎゃっ……無理……」
エレボスがフードを抑えて縮こまっている。聴覚の良いエレボスにはかなり効いているだろう。
「……っ…“風装”!」
リリスが堪えながらそう唱えた。音が和らぐ。
「……さんきゅー…」
「空間を平均化する魔術です……声は普通に聞こえます!」
ライナーがその翼で飛ぶ。風圧で飛ばされそうになる。
「“バインド”!」
リリスが上空に向かって唱える。光の帯が伸びてライナーを捕らえようとするが、届かない。くるりと旋回してきたライナーが猛スピードで滑空して来る。
「げっ」
「危ねェ!」
エレボスがエレンの身をさっと庇い跳ぶ。床にどっと倒れ込んだが巻き込まれずに済んだ。
「……助かった……」
「エレボスさん! エレンさん! ブレスが来ます!」
「!」
リリスの言葉に二人は竜の飛び去った方を見上げる。こちらを向いたライナーの口元に黒い靄が集まっている。
「まずっ……」
立ち上がったエレボスが強引にエレンの手を引くとその場から素早く逃げ出した。直後、寸前まで二人がいた場所を闇の霧が襲いかかる。
「……! 何だこれ……」
床は気味の悪い黒い煙を出しながら、抉れていた。その断面は酷く滑らかだった。
物理的なダメージではない。そもそもあのブレスは霧状だったし、そうでなくともこんな綺麗に抉れるはずがない。
「竜皇の闇のブレスは全てを無に帰します……呑まれたものは跡形もなく消滅すると思って下さい」
「やばすぎるだろ!」
「ゼイアさんが来るまでは持ち堪えましょう。私も攻撃に転じます」
「おう、頼む……」
棒を持ち、エレンは自然な姿勢で立つ。エレボスも横で大鎌と剣を構えた。
ライナーは依然として滞空している。遠距離攻撃を飛ばしてそれが致命的なダメージを与えられるとも思えない。ならば。
カン、とエレンは棒を床に突き立てる。
「“シャドウイリュージョン”!」
棒の細長い影の先が、地面を離れて細い針となるとぐんと空を駆け上がる。笑ったような黒鉄竜はひょいとそれを避ける。
「……いいよ避けられても!」
エレンがそう叫ぶと、伸びた影が横に広がった。たちまち上まで届く影の道になった。
「行くぞエレボス!」
「おう!」
影の力で固定された棒を手放し、エレンは影の道を駆けのぼる。その後をエレボスも続くとやがて横並びになる。
「借りるぞ!」
「ん!」
エレンは両手を後ろに伸ばす。その手に影の大鎌と剣──────エレボスの武器の複製品が現れる。
「“影ノ複製品”」
影の道の端から二人は同時に飛び出す。ライナーの頭上。
「「いっけェ!」」
二人で剣を振り下ろす。エレボスの力で強い影の力を纏った二振りの剣が、ライナーの額を穿つ。
「グオオオオオォ!」
硬い鱗が砕け散り、エレンとエレボスの体を傷付ける。頭の上に着地した二人はさらなる追撃を──────と思ったところで大きく竜が頭を振った。二人は宙に投げ出される。
「うおっ!」
なんとか影の翼を出して体勢を立て直し、エレボスをキャッチする。と、そこへ竜の尾が振り下ろされる。
「!」
避けられない。直前でエレボスの手を放して逃がす。エレンは地面に叩きつけられた。
「エレンさん!!」
「エレン!」
「あがっ……」
土煙の中、エレンはなんとか意識を取り戻す。全身が軋んでいる。しばらく体を動かせなかったが、徐々に痛みと共に回復しているのを感じる。
(……不死身で良かった……)
リリスが駆け寄って来る。と、その後ろから宙返りしたライナーがやって来ている。リリスは気付いていない。
「リ……リー……後ろッ」
「え」
なんとか声を出した時には少し遅かった。痛む体に鞭打って僅かに体を起こすと、リリスの腕を引いて倒すと覆いかぶさる。間一髪のところですぐ上を黒鉄竜の体躯が過ぎ去って行った。
「……あぶね……」
「え、エレンさん……」
「あ?」
体を起こしてリリスを見ると、なぜか彼女は顔を赤くしている。
「……ごめん、どこか打ったか」
「い、いえ! 大丈夫です!」
「……そっか。俺は大丈夫だから離れてろ」
「はい」
エレンは立ち上がる。黒鉄竜が着地する。エレボスが隣にやって来る。
「……大丈夫かお前」
「もう治った」
「ひぇー。我が宿主ながら流石に引くぜ」
小声でそんなことを言うエレボス。その時、ライナーが再びブレスを吐き出した。二人は左右に分かれてそれを躱す。
「なぁ! お前完全に消滅しても死なねェのか?!」
「知るか!」
それはさすがにゾッとする。どこまで死ねない体なのかは未知数だ。
首の下まで入り込む。ライナーが上体を上げ、踏みつぶしの体制を取るがその前に合流した二人は同時に大鎌で胸元を斬りつけた。腹側はのような鱗に覆われていない。簡単に刃が通った。だが硬い鱗はやはり硬い。飛んだ破片が足元を傷付ける。
「イテッ……」
黒鉄竜が叫ぶ。そしてその体躯がどんどん収縮して行く。
「……クソッ、やりやがったな!」
人型に戻ったライナーの両腕が硬化し竜の腕になる。しばらく全身の竜化は出来ないらしい。弱点はどの竜も同じなようだ。
エレンは影の大鎌と剣を消すと走り出す。正面からやって来たライナーの腕の大振りをスライディングで潜り抜けると立てたままだった棒を回収する。追って来たライナーを迎え撃つ。ギィン! と火花を散らしながら両の爪を受け止める。
「生意気なんだよ!」
「よく言われるよっ!」
力を籠め、ライナーを弾き飛ばす。棒に影を纏わせ両刃剣と化す。
「“黒蝶演舞・五連華”!」
「ぐあっ!」
影の刃による五連撃。刃が弱体化したライナーの身を切り裂く。
「……っざけるな!」
ライナーの手が棒を掴む。ぐっ、とエレンは引き寄せられた。放して離脱するより先に、ライナーのもう片方の手がエレンの腹に突き刺さった。
「がっ……は」
「はははははははは!」
そのまま押し倒され、さらに深く突き刺さる。気が飛びそうになるほどの痛みが全身を襲う。
「がああぁぁ!」
「そうだもっと喚け! その顔が見たかったんだよ! この僕に楯突こうだなんて100年、いや1000年早い!」
「エレン!」
ロレンが叫ぶ。大丈夫、と叫びたい気持ちと助けを叫びたい気持ちがぶつかって声が出ない。
「クッ……はっ……」
ズブズブと爪がめり込んで来る。内臓が抉れる感覚が気持ち悪い。同時に修復が始まっているのも感じる。体が動かない。
「“レッドライズ”!」
突然、ボォッとライナーの体が燃え上がる。リリスの魔術だ。
「アッ! つっ!」
ライナーが離れる。爪が抜ける時に一際大きな痛みが襲って来た。
「……ハァ……ハァ……」
異物がなくなったことによって急速に再生が始まる。それはそれでまた別の痛みがある。
何とか炎を振り払ったライナーが立ち上がったエレンを見て目を細める。
「……全く……不死身なのはいいとして、どうしてそんな心が保つんだ……?」
「──────折れるわけにはいかねェんで……」
跳ぶ。ライナーの頭へと棒を振り下ろす。避けられるがそれは想定済みだった。ジリ、と足を踏みしめる。その下にはライナーの影。びくんと竜の動きが止まる。
「……てめ……」
「“牙狼突き”!」
顎の下へのクリーンヒット。フェールが使っていた棒術の再現だが、そう上手くは行ってないなと思う。通りが甘い。普通の人間なら脳震盪くらい起こしていただろうが……。
「小癪なっ!」
仰け反ったままのライナーが蹴りを放つ。人型でも竜は竜だ。そのパワーに受けた棒ごと吹っ飛ばされる。
「いっ!」
背中を打ち付け、転がる。目が回り、息が詰まる。
「死ね!」
ライナーが飛び掛かって来る。が、エレンは体勢をまだ整えられていない……。
「“スパイク・シールド”!」
突然オレンジ色の盾がエレンの前に出現して、ライナーを弾き返した。
「リリー!」
「忘れないで下さい、私も戦ってるんです!」
「……ありがとう、助かった!」
リリスにそう叫び、駆け出す。竜型になれない今が一番のチャンスだ。ライナーへと棒を薙ぎ払う。が、それは何かに阻まれる。
「……外は片付いたのかい」
ライナーが冷静な様子でその“何か”に問いかける。
「はい」
静かに答えたのは骨の刃で棒を受け止めているレギだった。……ゼイアが外で戦っていたはずの。
「……何でお前がここに」
エレンは絶句する。レギは静かに答えた。
「あの神徒もどき……いや、堕天使もどきか。あれは殺した。もう助けは来ない」
「なんだと……?!」
「大人しく諦めて降伏しろ。お前たちに勝ち目はない」
「……!」
嘘だ、あいつが簡単に死ぬわけない。エレンはそう思う。
「諦めるわけ、ねェだろ!」
そう叫んで、レギを押し飛ばす。その姿が小さな影の蝙蝠となって消え、空中で逆さになって現れる。
「信じていないな。奴は俺の毒牙によって斃れた。あれを受けて助かるものなどいない」
「!」
「ならばその目で確かめて来るか」
逆さのその姿をリリスの放った火球が撃ち抜く。だが再びその姿は影の蝙蝠となって消え、地上に帰って来る。
「レギ、さっさと片付けてくれ。僕は疲れた。竜化もしばらく出来ないしね」
「御意」
ライナーは高見の見物、とでも言うように闇と化すとロレンの側へ行き、ぱちんとガーデンテーブルとティーセットを呼び出して座る。
「……っ、待て!」
「主は休息中だ。その邪魔はさせん」
追おうとした足元に骨の刃がいくつも刺さる。足を止めて振り向いたエレンはレギに背後から襲いかかるエレボスの姿を見る。
「がら空きだッ!」
「……」
レギが片手を上げる。と、その手の先から小さな蝙蝠たちが飛び立ちエレボスに纏わりついた。
「がっ、何だ……! うっ……」
地に落ちたエレボスはしばらく身を捩っていたが徐々に動きが弱り耳も力なく垂れ下がる。
「エレボス!」
「“血肉蝕む天鼠の毒”」
「!」
あっという間にエレンもそれに呑まれる。力が抜けていく。全身が酷く痛み、意識が朦朧とし始める。
(ゼイアもこれに……)
「さて、残るは女か」
と、レギはリリスに目を向ける。リリスは杖をレギに向けてじりじりと後ずさる。
「……やめろ! ……ッ!」
なんとか体を動かそうとするが、すると激しい痛みが体を襲って思わずうずくまる。動けない。
「やめておけ。動けば苦痛は増すばかりだ」
そうエレンの方を一瞥したレギの姿が消える。そして一瞬でリリスの目の前に現れた彼はリリスを蹴飛ばす。
「きゃ!」
「リリー!」
「軟弱だ。我が毒牙に数分も耐えられそうにないな」
「!」
ぬめりとした骨の刃がその手にある。恐らく毒が塗られている。リリスの手元には杖がない。蹴られた時に離れたところに飛んで行ってしまった。
「……っ」
「まずはお前からだ、魔導師」
その時だった。どこからか飛んで来た光の槍がレギの胸を背後から貫いた。
「な……」
「レギ!」
思わずライナーが立ち上がる。エレボスとエレンの拘束が解ける。しかしエレボスは既にぐったりとしていて起き上がる力がないようだった。不死の力で僅かに回復したエレンはその槍が飛んで来た方を見る。
「……馬鹿な……お前は確かに毒で斃れたはず……」
膝をついたレギが目を見開いて部屋の入口の方を見る。そこには黒い翼を持った堕天使の姿があった。
「毒、だぁ~? あんなもん、とっとと解毒してやったよ! 治癒魔術系は不得意だから少し時間が掛かっちまったけどな。トカゲ風情が俺を斃そうなんて、夢見たこと抜かしてんじゃねーよ」
ややギラついた目をしたゼイアが大剣を肩に担いでそう言う。
「ゼイア……!」
「ようお前ら、待たせたな」
ゼイアはこちらへ歩いて来ると通りがかりに指を振り、倒れているエレボスへ治癒魔術を掛ける。そしてその目は瀕死のレギを捉えている。
「しぶといな……光属性で胸貫いてやったのに。まったく」
「!」
さっと振られた大剣が、レギの首を刎ねた。飛んだ首が落ちる前に、その体が黒い塵となってあっという間に消滅する。
「……さて、ゴミが消えたな」
「──────堕天使……お前、なぜ光の力を扱える?」
「てめェに関係あることか?」
つかつかとライナーに向かって歩いて行くゼイア。そして大剣を上へと振り上げる。
「“Koryan Clad Sharonelphy Dag”!」
ピカッと剣の切っ先が閃いた。直後、天から降って来た雷がライナーを撃ち抜いた。
「がっ……!」
体を硬直させたライナーはどさりと倒れ込む。ピクピクとしながら、それでもライナーは立ち上がろうとする。
「……この……僕が……」
「“Phana Selag”」
「ッ!」
びく、としてライナーは今度こそ意識を失ったようだった。
「……なんて」
リリスの言葉は続かなかった。何とも言えない恐怖と、畏怖。あれほど苦戦した相手がこんなにも呆気なく。
「“Gleana”」
ライナーの体が光に包まれ小さくなると、ガラス玉に閉じ込められゼイアの手に収まった。ゼイアはそれをポケットに入れると、大剣から手を放す。大剣は光の粒となって消えた。
「さてと、これで目的は果たせたな」
その言葉で、エレンはロレンのことを思い出す。敵のいなくなった広間を駆け抜け、ロレンが磔になっている壁へ向かう。
「ロレン!」
「エレン……ごめん」
その手錠の鍵はこの辺りにはないようだった。ライナーの体ももうゼイアが回収してしまったし……探すのも面倒だと思ったエレンはポーチから針金を出すとさっさと解錠した。足と手を放すと、ロレンが落ちて倒れそうになるのでエレンはそれを支えて抱き止める。
「おっ、大丈夫かっ」
「う、うん。安心しただけだから……」
「良かった……」
エレンもほっとして、思わずロレンを抱きしめた。
「……まるで泥棒みたいですね……」
ボソッとリリスがそう言ったのを、聞いたのは多分エレンだけだった。
#48 END
To be continued....
イアリは辺りに気を巡らせる。相手の姿が見えない。迷彩竜の能力でラドールは姿を消している。気配は確かに感じるのに、攻撃は一向に当たらない。
「こっちだよ」
「!」
声のする方に短剣を振る。だが、刃は虚しく空を切る。
「くそっ……出てこい!」
「へたくそだ」
「!」
一瞬だけ姿が見えたそこへ飛び込み短剣を突き立てるがやはり床を穿つだけだった。
「怖いねぇ」
「馬鹿にしやがって!」
〈イアリ落ち着け、相手の思うつぼだ〉
グリフがそう宥めるが、イアリは苛立って仕方ない。こちらを攻撃して来るでもなく揶揄っているだけのラドールに、どう対処していいのか分からない。
「……攻撃して来い! 時間稼ぎだけが目的か⁈」
と、不意に背後に気配を感じてイアリは振り向き様に斬りつける。するとようやく手応えがあった。頬を抑えたラドールが後ろへよろめきながら姿を現す。
「おっと……傷ついちゃった」
と、そこへ滑空して来たグリフがラドールの体をうつ伏せに抑えつける。
「う……!」
〈捕らえたぞ〉
強靭な爪によって身動きが取れないラドール。イアリは今までのイライラが吹き飛ぶ。
「よくやったグリフ!」
〈隙を作ったお前の手柄だ……ッ⁈〉
突然グリフは抑えていた手を上げると、しゅるしゅると身を縮めて行く。人型に戻ったグリフは胸を抑えている。
「お、おい⁈」
「あーあ、あまり変身したくなかったんだけどな〉
気が付けばラドールに尖った尾が生えている。見る見る内にその姿がカメレオンのような姿に変化する。尾の先についた血を振り払うと、ぎょろぎょろとした目をラド―ルは動かしながら立ち上がる。
〈やっぱりこっちの方が戦いやすいか〉
奇妙な姿に呆気に取られていたイアリの足首を、伸びて来た長い舌が捉える。
「……うおっ!」
引っ張られて後頭部を強打する。星が舞う視界の中、引きずられる先を見ると大きな口が空いている。
「げっ! ちょっと待て! やだ! 放せ! 冗談じゃねェぞ!」
じたばたしながらなんとか短剣を床に突き刺す。しかし力が強く長くは持ちそうにない。
「くっ……“スラッシュ”!」
〈!〉
迷彩竜の顔目掛けて風の斬撃を放つ。少し狙いからはずれたが、竜の鼻先を傷付け舌が足から離れる。
「やった!」
〈ヤロ……〉
「てか普通に喋んのか、何竜族だ?」
「……白竜族の一種だ」
「え⁈」
グリフの返答にイアリはびっくりする。何せ迷彩竜は白くない。腕は翼腕になってはいるが体格からして飛ぶのはそれほど得意ではなさそうだった。全体の見た目も白竜族の優美なイメージにそぐわない。
「見えねーよ!」
〈うるさい! 僕の容姿にとやかく言うな!〉
「迷彩竜は光を操り姿を消す……紛れもなく光の竜だ」
「まじで……」
と、そう応えながらイアリはグリフの方を見る。
「てかお前大丈夫かよ」
「構うな……少し休めば治る」
「本当かよ……」
「来るぞ」
「!」
再び舌を放って来る迷彩竜。それをしっかりイアリは短剣で斬り払う。舌が切れて血が噴き出る。舌を引っ込めた竜はそのまま姿を消す。
「あっ!」
イアリは辺りを探す。図体は人型の時より大きい。足音などの気配は感じやすくなっているはずだが……。
「どこ行った……」
気配がない。きょろきょろ見回した末にはたと思い当たる。
「……グリフ!」
グリフが頭を下げると同時に、イアリは短剣をそちらへ突き出す。
「“風槍”!」
放たれた突撃が、そこにいた何かを穿つ。鮮血と共にグリフを吞み込もうとしていた迷彩竜が姿を現す。
〈ぐあ……!〉
突撃が穿ったのは迷彩竜の脇腹だった。ごろごろと転がって止まった時には人型に戻っていた。
「……くっ」
「あれ、戻った?」
「核まで通ったな、さすがだ」
グリフはラドールに向かって片手を上げる。その先に炎と風を纏った羽根が生成される。
「“爆裂羽”」
「!」
羽根が衝撃波を放ちながら射出される。それは逃げようとしたラドールに容赦なく襲いかかり、爆裂した。あまりの威力にイアリは思わず頭を腕で覆う。大きさは鷲獅子竜の羽根一枚くらいなものだったが、ミサイルでも撃ち込まれかのようだ。
「……絶対それ人に向けて撃つなよ」
「無論だ」
煙が晴れる。そこにラドールの姿はなかった。
「……やったか?」
「いや、逃げられた」
「え」
「竜族が爆発四散するほどの威力ではないからな」
そう言いながらグリフは竜化し鷲獅子竜の姿になる。どこからかイアリ目掛けて飛んで来た舌をその嘴が捉える。
〈ぐぇ〉
〈鷲の目、侮らんことだ〉
そのままぐりんと振り回して迷彩竜は柱に激突する。パラパラと塵が落ちる。起き上がったラドールは頭を振ると向かって来たグリフに言う。
〈ふうん、じゃあこういうのは苦手だろ〉
〈!〉
一瞬、眩く迷彩竜の前身が眩く発光した。鷲獅子竜が怯む。イアリはチカチカする目を何度か瞬きして視界を戻す。
「グリフ!」
〈ぐぅ……すまん、何も見えん!〉
「まったく、目が良いのも考えもんだな」
ラドールの姿がまたない。核への打撃からまだそれほど経っていないはずだがもう竜の姿に戻っていた。先ほどの竜化解除は浅かったのか、それとも演技だったのか。どちらにせよ相手は未だ万全──────否、先ほどのダメージは通っているだろうし、爆発による負傷も先ほど見て取れた。隠れて正面切って来ないところを見る辺り、ラドールはそれほど強くはない。
(……まぁ正面切ってが苦手なのは俺も同じか)
短剣を握りしめる。武器はこれだけ。それから、風の力。
「……少し頑張ってみるか」
きっ、と何もない空間を睨みつける。手を広げる。辺りの空間全てと一体化するように──────精霊の身である今は、いつもより色濃く辺りの風のエレメントを感じる気がする。
「──────見つけた」
そちらの方へ視線を移す。薄っすらと、見える。光を反射し姿を消しているものの周りを、風のエレメントが動いて輪郭を形作っている。
「見えりゃこっちのモンだ!」
大きな影がこちらに向かっているのが、びくりとした。見えていないと思っていた相手に見据えられている。それだけで牽制するのには十分だった。
「次は甘くないぞ!」
ぶわりと、突き出した短剣の周りに大風が渦巻く。いつもより多くの力が集まるのをイアリは感じた。
「“風霊の大槍!”」
一度収束した風が槍となって空間を裂く。何もないそこで血飛沫が上がる。遅れてぐにゃりと空間がゆがんで迷彩竜の姿が現れた。どうとその巨体が倒れる。イアリは短剣を降ろすと大きく息を吐いた。迷彩竜が動かないことを確認してからグリフの方へ向かう。
「大丈夫か」
「……斃したのか……」
まだ視界がちかちかするのかグリフは頭を振りながら言う。うっすら開いているその目に向かってイアリは頷く。
「あぁ」
「大したものだ。俺の助けがなくとも十分やれるな」
「いやいや! 一人じゃ無理だったよ。俺は……グリフがいないとダメダメだ」
「ふん。少しくらい自身を持て。お前の技は見れなかったが……風のエレメントたちが騒めいているのを感じた」
「それってどういう……」
イアリが訊き返すと、グリフはやれやれと肩を竦めて座りなおした。
「休むか」
「え、でもエレンたちの加勢に行った方がいいんじゃ……」
……と思ったが、一度ライナーに歯が立たなかったのを思い出して語尾がすぼむ。
「……そうだな。俺たちの役割は果たしたか」
そう言って、イアリもグリフの隣に座り込む。こうしてみるとだいぶ疲れが溜まっているのが分かる。
「──────精霊の身って、結構疲れる?」
「慣れん身で大量のエレメントを行使したからな」
「そうか……」
やっぱりもう一歩も動きたくない。そう思いながらイアリは項垂れ、目を瞑った。
* * *
────シェレブ城4階・玉座の間────
エレンは棒を手に突進する。
「おおおぉぉ!」
「“天装”」
後方からリリスの声がして、その途端ぐんと体が加速した。スピード系の補助魔術らしい。
「真正面から来るなんてさ!」
エレンが振り下ろした棒を、ライナーは腕で受けた。硬く黒光りする鱗がその腕にびっしりと生えている。まるで鋼のようだ。
「かってぇ……」
「当たり前だろ、竜の鱗だ。特に僕は黒鉄の竜、鉄の鱗なんでね」
火花を散らして、エレンは距離を取る。そして構え直すと竜を見据える。
「……鉄も叩けば割れるだろ」
「どうかな」
右手だけを竜化させたライナーが走って来る。その爪を棒で受ける。ギギ、と擦れる音がする。ものすごい力だ。エレンは両手で堪える。
「これくらいへし折れるよ!」
「……こちとら特別製だ、そう簡単には折れねェよ」
「“地装”」
またリリスが唱える。全身に力が籠るのが分かった。筋力補助系の魔術だ。ありったけの力を籠めて、ライナーを弾き飛ばす。後ろによろけるライナー。棒を持ち換え、その脇腹に叩き込む。
「がっ……!」
そのまま薙ぎ払ってライナーを吹き飛ばす。棒の先に影を纏わせ刃を創ると、エレンは追撃する。腹目掛けて刃を突き出す。が、カキィンと高い音がした。
「!」
「……全く……人型で戦ってやってるとすぐに調子に乗るな……」
見る見る内にライナーの体が鱗に覆われて行く。と同時に大きくもなっていく。
「……げ」
やばいと感じたエレンは距離を取る。直後、爆発的に広がった闇のエレメントがライナーを包み、属性風を生み出す。
「余興は終わりだ。さっさと踏みつぶして引き裂いてやる」
見上げるほどになったライナー。その巨躯はラフェリアルよりずっと大きい。
「……こんなでけェのかよ」
ローフィリアなどが可愛く思える大きさだ。おまけに全身鎧を纏っているかのようで、重圧感がすごい。
ライナーが大きく吠えた。空間に反響してビリビリと空気が震える。全身を襲う威圧感。これが闇竜族を統べる竜皇というわけだ。耳を塞がなければ、鼓膜が破れそうだ。精神的にもマズい。
「ぐっ……」
「ぎゃっ……無理……」
エレボスがフードを抑えて縮こまっている。聴覚の良いエレボスにはかなり効いているだろう。
「……っ…“風装”!」
リリスが堪えながらそう唱えた。音が和らぐ。
「……さんきゅー…」
「空間を平均化する魔術です……声は普通に聞こえます!」
ライナーがその翼で飛ぶ。風圧で飛ばされそうになる。
「“バインド”!」
リリスが上空に向かって唱える。光の帯が伸びてライナーを捕らえようとするが、届かない。くるりと旋回してきたライナーが猛スピードで滑空して来る。
「げっ」
「危ねェ!」
エレボスがエレンの身をさっと庇い跳ぶ。床にどっと倒れ込んだが巻き込まれずに済んだ。
「……助かった……」
「エレボスさん! エレンさん! ブレスが来ます!」
「!」
リリスの言葉に二人は竜の飛び去った方を見上げる。こちらを向いたライナーの口元に黒い靄が集まっている。
「まずっ……」
立ち上がったエレボスが強引にエレンの手を引くとその場から素早く逃げ出した。直後、寸前まで二人がいた場所を闇の霧が襲いかかる。
「……! 何だこれ……」
床は気味の悪い黒い煙を出しながら、抉れていた。その断面は酷く滑らかだった。
物理的なダメージではない。そもそもあのブレスは霧状だったし、そうでなくともこんな綺麗に抉れるはずがない。
「竜皇の闇のブレスは全てを無に帰します……呑まれたものは跡形もなく消滅すると思って下さい」
「やばすぎるだろ!」
「ゼイアさんが来るまでは持ち堪えましょう。私も攻撃に転じます」
「おう、頼む……」
棒を持ち、エレンは自然な姿勢で立つ。エレボスも横で大鎌と剣を構えた。
ライナーは依然として滞空している。遠距離攻撃を飛ばしてそれが致命的なダメージを与えられるとも思えない。ならば。
カン、とエレンは棒を床に突き立てる。
「“シャドウイリュージョン”!」
棒の細長い影の先が、地面を離れて細い針となるとぐんと空を駆け上がる。笑ったような黒鉄竜はひょいとそれを避ける。
「……いいよ避けられても!」
エレンがそう叫ぶと、伸びた影が横に広がった。たちまち上まで届く影の道になった。
「行くぞエレボス!」
「おう!」
影の力で固定された棒を手放し、エレンは影の道を駆けのぼる。その後をエレボスも続くとやがて横並びになる。
「借りるぞ!」
「ん!」
エレンは両手を後ろに伸ばす。その手に影の大鎌と剣──────エレボスの武器の複製品が現れる。
「“影ノ複製品”」
影の道の端から二人は同時に飛び出す。ライナーの頭上。
「「いっけェ!」」
二人で剣を振り下ろす。エレボスの力で強い影の力を纏った二振りの剣が、ライナーの額を穿つ。
「グオオオオオォ!」
硬い鱗が砕け散り、エレンとエレボスの体を傷付ける。頭の上に着地した二人はさらなる追撃を──────と思ったところで大きく竜が頭を振った。二人は宙に投げ出される。
「うおっ!」
なんとか影の翼を出して体勢を立て直し、エレボスをキャッチする。と、そこへ竜の尾が振り下ろされる。
「!」
避けられない。直前でエレボスの手を放して逃がす。エレンは地面に叩きつけられた。
「エレンさん!!」
「エレン!」
「あがっ……」
土煙の中、エレンはなんとか意識を取り戻す。全身が軋んでいる。しばらく体を動かせなかったが、徐々に痛みと共に回復しているのを感じる。
(……不死身で良かった……)
リリスが駆け寄って来る。と、その後ろから宙返りしたライナーがやって来ている。リリスは気付いていない。
「リ……リー……後ろッ」
「え」
なんとか声を出した時には少し遅かった。痛む体に鞭打って僅かに体を起こすと、リリスの腕を引いて倒すと覆いかぶさる。間一髪のところですぐ上を黒鉄竜の体躯が過ぎ去って行った。
「……あぶね……」
「え、エレンさん……」
「あ?」
体を起こしてリリスを見ると、なぜか彼女は顔を赤くしている。
「……ごめん、どこか打ったか」
「い、いえ! 大丈夫です!」
「……そっか。俺は大丈夫だから離れてろ」
「はい」
エレンは立ち上がる。黒鉄竜が着地する。エレボスが隣にやって来る。
「……大丈夫かお前」
「もう治った」
「ひぇー。我が宿主ながら流石に引くぜ」
小声でそんなことを言うエレボス。その時、ライナーが再びブレスを吐き出した。二人は左右に分かれてそれを躱す。
「なぁ! お前完全に消滅しても死なねェのか?!」
「知るか!」
それはさすがにゾッとする。どこまで死ねない体なのかは未知数だ。
首の下まで入り込む。ライナーが上体を上げ、踏みつぶしの体制を取るがその前に合流した二人は同時に大鎌で胸元を斬りつけた。腹側はのような鱗に覆われていない。簡単に刃が通った。だが硬い鱗はやはり硬い。飛んだ破片が足元を傷付ける。
「イテッ……」
黒鉄竜が叫ぶ。そしてその体躯がどんどん収縮して行く。
「……クソッ、やりやがったな!」
人型に戻ったライナーの両腕が硬化し竜の腕になる。しばらく全身の竜化は出来ないらしい。弱点はどの竜も同じなようだ。
エレンは影の大鎌と剣を消すと走り出す。正面からやって来たライナーの腕の大振りをスライディングで潜り抜けると立てたままだった棒を回収する。追って来たライナーを迎え撃つ。ギィン! と火花を散らしながら両の爪を受け止める。
「生意気なんだよ!」
「よく言われるよっ!」
力を籠め、ライナーを弾き飛ばす。棒に影を纏わせ両刃剣と化す。
「“黒蝶演舞・五連華”!」
「ぐあっ!」
影の刃による五連撃。刃が弱体化したライナーの身を切り裂く。
「……っざけるな!」
ライナーの手が棒を掴む。ぐっ、とエレンは引き寄せられた。放して離脱するより先に、ライナーのもう片方の手がエレンの腹に突き刺さった。
「がっ……は」
「はははははははは!」
そのまま押し倒され、さらに深く突き刺さる。気が飛びそうになるほどの痛みが全身を襲う。
「がああぁぁ!」
「そうだもっと喚け! その顔が見たかったんだよ! この僕に楯突こうだなんて100年、いや1000年早い!」
「エレン!」
ロレンが叫ぶ。大丈夫、と叫びたい気持ちと助けを叫びたい気持ちがぶつかって声が出ない。
「クッ……はっ……」
ズブズブと爪がめり込んで来る。内臓が抉れる感覚が気持ち悪い。同時に修復が始まっているのも感じる。体が動かない。
「“レッドライズ”!」
突然、ボォッとライナーの体が燃え上がる。リリスの魔術だ。
「アッ! つっ!」
ライナーが離れる。爪が抜ける時に一際大きな痛みが襲って来た。
「……ハァ……ハァ……」
異物がなくなったことによって急速に再生が始まる。それはそれでまた別の痛みがある。
何とか炎を振り払ったライナーが立ち上がったエレンを見て目を細める。
「……全く……不死身なのはいいとして、どうしてそんな心が保つんだ……?」
「──────折れるわけにはいかねェんで……」
跳ぶ。ライナーの頭へと棒を振り下ろす。避けられるがそれは想定済みだった。ジリ、と足を踏みしめる。その下にはライナーの影。びくんと竜の動きが止まる。
「……てめ……」
「“牙狼突き”!」
顎の下へのクリーンヒット。フェールが使っていた棒術の再現だが、そう上手くは行ってないなと思う。通りが甘い。普通の人間なら脳震盪くらい起こしていただろうが……。
「小癪なっ!」
仰け反ったままのライナーが蹴りを放つ。人型でも竜は竜だ。そのパワーに受けた棒ごと吹っ飛ばされる。
「いっ!」
背中を打ち付け、転がる。目が回り、息が詰まる。
「死ね!」
ライナーが飛び掛かって来る。が、エレンは体勢をまだ整えられていない……。
「“スパイク・シールド”!」
突然オレンジ色の盾がエレンの前に出現して、ライナーを弾き返した。
「リリー!」
「忘れないで下さい、私も戦ってるんです!」
「……ありがとう、助かった!」
リリスにそう叫び、駆け出す。竜型になれない今が一番のチャンスだ。ライナーへと棒を薙ぎ払う。が、それは何かに阻まれる。
「……外は片付いたのかい」
ライナーが冷静な様子でその“何か”に問いかける。
「はい」
静かに答えたのは骨の刃で棒を受け止めているレギだった。……ゼイアが外で戦っていたはずの。
「……何でお前がここに」
エレンは絶句する。レギは静かに答えた。
「あの神徒もどき……いや、堕天使もどきか。あれは殺した。もう助けは来ない」
「なんだと……?!」
「大人しく諦めて降伏しろ。お前たちに勝ち目はない」
「……!」
嘘だ、あいつが簡単に死ぬわけない。エレンはそう思う。
「諦めるわけ、ねェだろ!」
そう叫んで、レギを押し飛ばす。その姿が小さな影の蝙蝠となって消え、空中で逆さになって現れる。
「信じていないな。奴は俺の毒牙によって斃れた。あれを受けて助かるものなどいない」
「!」
「ならばその目で確かめて来るか」
逆さのその姿をリリスの放った火球が撃ち抜く。だが再びその姿は影の蝙蝠となって消え、地上に帰って来る。
「レギ、さっさと片付けてくれ。僕は疲れた。竜化もしばらく出来ないしね」
「御意」
ライナーは高見の見物、とでも言うように闇と化すとロレンの側へ行き、ぱちんとガーデンテーブルとティーセットを呼び出して座る。
「……っ、待て!」
「主は休息中だ。その邪魔はさせん」
追おうとした足元に骨の刃がいくつも刺さる。足を止めて振り向いたエレンはレギに背後から襲いかかるエレボスの姿を見る。
「がら空きだッ!」
「……」
レギが片手を上げる。と、その手の先から小さな蝙蝠たちが飛び立ちエレボスに纏わりついた。
「がっ、何だ……! うっ……」
地に落ちたエレボスはしばらく身を捩っていたが徐々に動きが弱り耳も力なく垂れ下がる。
「エレボス!」
「“血肉蝕む天鼠の毒”」
「!」
あっという間にエレンもそれに呑まれる。力が抜けていく。全身が酷く痛み、意識が朦朧とし始める。
(ゼイアもこれに……)
「さて、残るは女か」
と、レギはリリスに目を向ける。リリスは杖をレギに向けてじりじりと後ずさる。
「……やめろ! ……ッ!」
なんとか体を動かそうとするが、すると激しい痛みが体を襲って思わずうずくまる。動けない。
「やめておけ。動けば苦痛は増すばかりだ」
そうエレンの方を一瞥したレギの姿が消える。そして一瞬でリリスの目の前に現れた彼はリリスを蹴飛ばす。
「きゃ!」
「リリー!」
「軟弱だ。我が毒牙に数分も耐えられそうにないな」
「!」
ぬめりとした骨の刃がその手にある。恐らく毒が塗られている。リリスの手元には杖がない。蹴られた時に離れたところに飛んで行ってしまった。
「……っ」
「まずはお前からだ、魔導師」
その時だった。どこからか飛んで来た光の槍がレギの胸を背後から貫いた。
「な……」
「レギ!」
思わずライナーが立ち上がる。エレボスとエレンの拘束が解ける。しかしエレボスは既にぐったりとしていて起き上がる力がないようだった。不死の力で僅かに回復したエレンはその槍が飛んで来た方を見る。
「……馬鹿な……お前は確かに毒で斃れたはず……」
膝をついたレギが目を見開いて部屋の入口の方を見る。そこには黒い翼を持った堕天使の姿があった。
「毒、だぁ~? あんなもん、とっとと解毒してやったよ! 治癒魔術系は不得意だから少し時間が掛かっちまったけどな。トカゲ風情が俺を斃そうなんて、夢見たこと抜かしてんじゃねーよ」
ややギラついた目をしたゼイアが大剣を肩に担いでそう言う。
「ゼイア……!」
「ようお前ら、待たせたな」
ゼイアはこちらへ歩いて来ると通りがかりに指を振り、倒れているエレボスへ治癒魔術を掛ける。そしてその目は瀕死のレギを捉えている。
「しぶといな……光属性で胸貫いてやったのに。まったく」
「!」
さっと振られた大剣が、レギの首を刎ねた。飛んだ首が落ちる前に、その体が黒い塵となってあっという間に消滅する。
「……さて、ゴミが消えたな」
「──────堕天使……お前、なぜ光の力を扱える?」
「てめェに関係あることか?」
つかつかとライナーに向かって歩いて行くゼイア。そして大剣を上へと振り上げる。
「“Koryan Clad Sharonelphy Dag”!」
ピカッと剣の切っ先が閃いた。直後、天から降って来た雷がライナーを撃ち抜いた。
「がっ……!」
体を硬直させたライナーはどさりと倒れ込む。ピクピクとしながら、それでもライナーは立ち上がろうとする。
「……この……僕が……」
「“Phana Selag”」
「ッ!」
びく、としてライナーは今度こそ意識を失ったようだった。
「……なんて」
リリスの言葉は続かなかった。何とも言えない恐怖と、畏怖。あれほど苦戦した相手がこんなにも呆気なく。
「“Gleana”」
ライナーの体が光に包まれ小さくなると、ガラス玉に閉じ込められゼイアの手に収まった。ゼイアはそれをポケットに入れると、大剣から手を放す。大剣は光の粒となって消えた。
「さてと、これで目的は果たせたな」
その言葉で、エレンはロレンのことを思い出す。敵のいなくなった広間を駆け抜け、ロレンが磔になっている壁へ向かう。
「ロレン!」
「エレン……ごめん」
その手錠の鍵はこの辺りにはないようだった。ライナーの体ももうゼイアが回収してしまったし……探すのも面倒だと思ったエレンはポーチから針金を出すとさっさと解錠した。足と手を放すと、ロレンが落ちて倒れそうになるのでエレンはそれを支えて抱き止める。
「おっ、大丈夫かっ」
「う、うん。安心しただけだから……」
「良かった……」
エレンもほっとして、思わずロレンを抱きしめた。
「……まるで泥棒みたいですね……」
ボソッとリリスがそう言ったのを、聞いたのは多分エレンだけだった。
#48 END
To be continued....
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