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第四十六話 御一行様顔合わせ

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「なぁに、アタシの一番大事なモンっつったら、そりゃアタシの忠誠心と、命さ。そいつはくれてやるからよ、これがアタシなりの感謝ってことさ」
「いや、こんな物凄いモノ貰えませんって」
「貰うも貰わないも、もう受け取っちまったからね。そいつは無理な相談さ」
「ぐぅ……」
「いいんだよ。アンタが死ななきゃいいのさ。そしてアンタが死なないようにするには、アタシがアンタの目の前にくる敵を全員のしちまえばいいのさ。な? 簡単だろ?」
 あっ、そう考えると確かに簡単な気がしてきた。
「あと、今後アタシの事は名前で呼んどくれ。姫とか様とか、仲間から呼ばれても背中がかゆくなっちまう」
「えっと……」
 なんかさっき名乗ってたけど、ふわっとしか聞けなかった。
「ナッシグルペ。アタシの名だよ。シグとかシグルとか、好きに呼んどくれ」
「じゃあ……シグさんで」
 そういうと、北の氷結姫様ことシグさんはフッと笑った。やべぇかわゆい。いつもは強そうな顔してるけどそういう人のふと見せる優しさって……いいよね。
「さてさっきの誓いの話だけど、アタシからするとさぁ、アタシの忠誠を受け取った、ってトコの方を大事にして欲しいもんだねぇ」
「確かに。『北の氷結姫』といえば『仕えず』で有名だったからな」
 今度はどういうことなのよ……。
 ギンシュに目を合わせると、彼女はふぅと一息ついて、説明してくれた。
 もうなんか段々いい呼吸になってきたね私達。ツーカーだねツーカー。ギンシュに言ったら多分怒るけど。
「北の氷結姫は、誰かに仕えて、誰かに命令されて戦場に向かうのではなく、あくまで自分の意志のまま、気の向くままに戦場を駆け、気に入った方に味方に付き、気に入らない方の敵を蹂躙する。そういうことなのだ」
「それでその強さだと、敵対されちゃったら大変だね」
「エリィの言う通りだ。だから、戦乱期の中盤以降は、『北の氷結姫が相手側にいる』というだけの意味を示す旗が世界中で決まったのだ。あれだけ揉めていた沢山の国が、どこぞの国が出したこの意見に皆で即合意に至るというのがこれまた実に面白い話でな、戦乱期を通しても意見が満場一致で決まったことはこれくらい、という逸話だ」
「どんだけ恐れられてたのさ……」
「それだけ、氷結姫様は怖い存在だったということだ。ちなみに味方にいる、の旗や合図はそれぞれ違って、逆に相手に分からないように隠したりする国もあったらしい。勿論威圧行為で各国に自分から教えに行く国もあったりしたらしいがな」
 なんか……凄いなぁ。本当に一人で戦場の風向きを変えちゃうなんて。
「それで中盤は活躍が減るのだが……戦乱期も終わりに差し掛かると、今度はその旗を使っての騙しあいが始まるのだ。お互いの国が姫が相手側にいるとか、味方にいるとかいう出鱈目の合図を行い、軍が混乱したりされたり、とな」
 既に互いの国の戦術にまで組み込まれる氷結姫様。なんかもう……そりゃ伝説にもなる訳だ。
「もういいだろう昔話は。そういう訳で、今後はアンタがアタシの主様あるじさまさ。どこまででも着いてってやるから覚悟するんだね」
 どうして私が覚悟をしなくてはいけないのか。なんか立場逆じゃない? あれ?
「さあーって、アタシはこの辺でひと眠りしてるさね。揃ったら好きに出しとくれよ。いちいち起こさなくていいからね。じゃ、おやすみ~」
 そう言って荷馬車の一番後ろの所にのぼり、足を荷台から出してぶらぶらさせながら、体を傾けてすやすやし始めた。
 なんか無防備に見えなくもないけど、きっと不意打ちとか絶対出来なさそうだな……おおこわいこわい。
 えっと、荷台には既に奴隷賢者のハジメ君を乗せてあるし、ミレイとギンシュもいつでも大丈夫だし、リンドゥーさんは御者台に座って貰ったし……残るは、あの人かな。
 とかやってると、遠くからあの人こと、とある男性の声がする。
「よぉエリィ! おはようさん! 皆揃ってるかぁー!?」
 アシンさんも登場だ。これで全員かな?
「おはようございますアシンさん。アシンさんで全員ですかね」
「なんだよ俺が最後かよ。だったらもう少し早くこれ……ば……」
 アシンさんがざっと見回して……ふと目が止まった先は。
「きっききき……『北の氷結姫』さまぁあああ!?」
 慌ててバッと土下座をするアシンさん。
「こっここここれは失礼致しました! 氷結姫様がいらっしゃるとは露知らず! どうか! どうかお許しを!」
「あーアタシはそーゆーの構わねぇから、今も今後ともずっと普通にしてていいよ。割と大抵のことは許すから。気にすんな」
「でっ、では……お言葉に甘えまして……」
 そろーっと顔を上げ、ゆっくりと立ち上がり、そして限りなく早足で私の目の前までやってくる。
 そんでぼそぼそと小声で話し出す船長。
「おいどういうことだよ!? 北の氷結姫様がいるなんて聞いてねぇぞ!?」
「アシンさんが来たら話そうと思っていたんですよ」
「遅ぇよ! 相手は『ドの御方』だぞ!? 俺にだって心の準備ってもんがあるんだよ!」
「こっちにも色々と事情があったんですよ……すみません」
「すみませんで済む訳ねぇだろうが! 危うく俺の首が飛ぶどころか俺の一族皆チリになるところだったんだぞ!?」
「シグさんなら大丈夫ですよ」
「それはおまえが決めることじゃねぇ。ってかなんでそんなに親しげな呼び方してんだよぉおい……。なぁ頼むからもう少し俺の心臓を労わってくれ。このままじゃ西の海に着く前に俺の心臓がどうにかなっちまうよ」
「もしどうにかなったら私が【光魔法】で治してあげますよ」
「そうじゃねぇんだよなぁ……」
「さぁさぁ、馬車に乗ってください」
「あ、俺は前だろ。この面子だと御者は俺くらいしかいなさそうだしな」
「え、御者は既にもう……」
 私が告げる間もなく御者台に向かっていったアシンさん。すると前から
「なぁぁあああああっっ!?」
「きゃぁあああああっっ!?」
 と二人の悲鳴が轟いた。今度はどうしたのさ……
 覗いてみると、リンドゥーさんとアシンさんがお互いを見て指さして固まっていた。
「なぁんでアシンがここにいるのよぅ!?」
「そりゃこっちの台詞だ! どうしてリンドゥーがこんなトコに!?」
「私はエリィさんとご一緒する話になってたのよ!」
「俺だってそうだ! おい嬢ちゃん、どういうことだ!?」
 いやまってそもそもの所が聞きたいよ私は。
「えっと……二人は知り合いなんです?」
 すると二人、再度固まって一言。
「「違う!!」」
 ……なんだよそれ。んな訳ねーでしょーが。
「いやだったらそんな声上げないでしょ。どう見ても知り合いでしょ。好きか嫌いかはともかくとして」
「なぁ……その話、しないと駄目か?」
「少なくとも、今後揉める可能性があるかもしれないので、一応簡単でいいので教えて貰えます?」
「分かったわよ。話すわ」
「おいリンドゥー!?」
 どうやらリンドゥーさんは話してくれるようだ。何があったかは知らないけれど。
「別に大した話じゃないの。私と彼がお互い冒険者だった頃に、西の港町で出会って、それで色々あってお互いに依頼を受けたりして、最終的にこの国の王都まで一緒にやってきて、お互い冒険者を辞めて自由に生きてた、って話。ね、大した話じゃないわ」
「おい俺とお前が付き合ってたって話はいいのか!?」
 えっなにそれ!? なにそれちょー聞きたい!
「アシン! 馬鹿! 今そんなこと言わなくたっていいでしょ!?」
「いやでも揉める可能性のある話は、って」
「別にそんなことでこれから揉めることはないでしょ! はい終わり終わり」
「そんな言い方無いだろうが! それに『そんなこと』なんて言い方はないだろ! 俺は一応当時もそれなりにだな」
「あーもう未練がましくて嫌になるわ。私は今はこれっぽっちもそーゆーのないから!」
 そう言いながら一瞬ちらりと私に目線を合わせるリンドゥー。あっそーかリンドゥー的には私に変な事思ってほしくないとか昔の男の話とかされたくないのか! それであんなに噛みついてるのか!
 むふふ。かわええやつめ。
 ……でもあれ? アシンさんって確か……。
「あの、一ついいです? アシンさんって確か、誰かを好きな人しか好きになれない、って以前聞いたですけど……違うんですぅ?」
「あー……それはな」
「アシン駄目ぇ! その話は駄目ぇ!」
「でもしねぇと誤解されちまうだろうが! 確かに俺と彼女は付き合っていたが……彼女は他にも恋人がいたんだ」
 リンドゥーさん顔を両手でふさいで俯いちゃってる……あぁ。
「それって……二股ってことですぅ?」
「外からみるとそう見えるかもな。でも、中から見るとちょっと違う。彼女は……西の町にいた男共全員と付き合っていたんだ」
 えっ……なにそれ。
「ぶっちゃけ、毎日男をとっかえひっかえどころか、二人三人同時は当たり前、まあ要するに『乱交の中心人物にいるただ一人の女』って訳よ」
 うわぁ……凄いなそれ。
「リンドゥーさん……全然そんな風には見えないですぅ」
「やめてぇ……もう……若気の至りよ……」
「で、こっちに来る時も冒険者の仲間達全員と彼氏みたいなそういう仲になってたって訳よ。ややこしいんだが、そんな感じだな」
「リンドゥーさん凄いですぅ。尊敬しますぅ」
「そんな、尊敬だなんて……うふふっ」
 もうそれだけで色っぽいんですけどリンドゥーさん。
 まあつまりあれですな。色々と溜まり申し候、ってことですな。
 そりゃ私との色々でもあれだけハッスルしまくる訳だよ。
 ミレイの事もあるし、夜は私が頑張らないとなぁ……でもどうしようかなぁ……うーん。

 ……ま、なんとかなるか。
 とゆーわけで御者はリンドゥーさんに任せて、私達は王都の西門へと向かい、ついに王都から脱出? 撤退?
 いえいえ『出発』するのだった。

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