桜のかえるところ

響 颯

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四話

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「あっつーい!」

参拝を終えて参道に降りると、
途端に強い陽射しが肌を焼く。

偶然にも二人揃って、
Tシャツとジーンズの上に
日除け用の薄手のカーディガンという
シンプルな服装をしていたが、
カーディガンが風をさえぎり
熱がこもった感じがつらかった。

顔や首、身体をひっきりなしに汗がつたい、
Tシャツは背中に張り付いている。

「ねえ、コンビニないかな?
 アイス食べたい!」

「いいね、食べたい!
 あと飲み物買わないと、乾き死ぬー」

「よし、コンビニ探そう」

広々とした参道はきれいな石畳で、
端の方に行かないと日陰を作る樹木がない。
わずかな日陰に駆け込み、携帯電話を開く。
こんな陽射しの中を探して歩いたら、
それこそ倒れてしまう。

「アイスの実とかスイカバー
 好きなんだよね」

「私も! 暑いときにいいよねー」

「あと最近コンビニで見つけたんだけどね。
 冷凍の果物! おいしかったよ」

携帯でマップを開く間に、
話だけがどんどん進む。

「そういえば、
 桜の家ってブドウ育ててたよね?」

「え、うん」

「じゃあブドウのおすそ分けとか
 期待していい?」

「ええええ?」

「お弁当のときに。ね?」

ちゃっかりしてるなあ、
と思いつつ笑ってしまう。

「いいけど、収穫は秋だよ?」

「あれ? 夏じゃないっけ?」

「九月から十月。年によって違うけどね」

答えながら、
故郷の見慣れた景色が脳裏に浮かんだ。

一面に広がるブドウ畑。
棚には、
薄い赤紫色のいくつもの房が下がっている。
今頃はたぶん、袋かけ作業をすすめていて、
白い袋がたくさん下がっているのだろう。

九月にはブドウ狩りも始まる。
訪れた親子が棚の下で、
もぎたてのブドウを食べている様子が
思い出された。

繁忙期に接客を手伝わされるのは
面倒だったが、
おいしそうに食べてくれる人々を眺めるのは
悪い気はしなかった。

もしお弁当にブドウを持っていったら……。

真詞まこと
うれしそうに飛びつく様子が想像できて、
思わず吹き出しそうになる。

「うん。
 その時は学校に持ってくから食べてね。
 うちのブドウ」

「やった! 楽しみにしてる」

ようやく開いたマップで
コンビニを見つけた。
境内から出た通りにいくつもあるようだ。

「あとさ。
 今度フルーツパーラー行かない?」

「もう、食べることばっかり!」

「食べること、すなわち生きること!
 これ大事!」

笑い合いながら、足取り軽く歩き始め、
ふと気が付いた。

――セーラー服の女子学生がお辞儀をしている。

たぶん同じ年頃の高校生だろう。
鳥居の向こうから
拝殿に向かって一礼すると、歩み去っていく。
気負った様子のない慣れた動きが
何か気になった。

すぐに、今度は同じ制服の二人連れが来た。
普通におしゃべりしながら歩いてくると、
同じように
鳥居の前で一礼して通り過ぎていく。

……学校で指導されてやってるのかな。

その時はそう思っただけだった。

「桜、どうした?」

つい立ち止まって見ていたようだ。

「ううん。さあコンビニだ!」

歩き出しながら私は、
また司おじいちゃんの横顔を
思い出していた。

いつも苦しそうに
何を思っていたんだろう……。
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