桜のかえるところ

響 颯

文字の大きさ
上 下
5 / 11
四話

しおりを挟む
 エマは、痛いほどの視線を感じながら、話をした。

「私は……、その“日本”という国にいた記憶があるの」

 ヴァルと、シエロが、押し黙る気配がする。

「この、『メモアーレン』という、学園長が作ったゲームをやってた。すごく、好きなゲームだった。その……ジーク様が…………、好きで…………」

 ああ、こんな話をすることになるとは……。
 ヴァルの方が向けずに、若干シエロの方を向いて話していると、シエロが、「ふむ……」と口元に手を当てて神妙な顔をするのが見えた。
 そして、シエロが呟く。
「僕じゃ、ない……」

 その一言やめてええええええええ。いたたまれない!!

「でも、たまたま、交通事故で、死んでしまったの」

 ヴァルとシエロが、息を呑む。

「気付いたら……、この国の、クレスト子爵の家に、前世の記憶を持ったまま生まれていた」

「転生……?」
 と、呟いたのは、シエロだった。

「そう、転生」
 言うと、エマは顔を上げた。
「私を転生させたのは、学園長なんですか?」

 学園長は少しの沈黙の後、口を開いた。
「そうじゃ」
 それは、それが当たり前だというような口調だった。
「エマ……。お前さんは、死んだ後、ジークの魂に惹かれ、自分で異界の門をくぐってきたんだ」

 エマは、頭を抱えた。
 また、ジーク…………!
 どうなってるの、私のジーク愛……。
 それも、門をくぐったのが、自分で、なんて。
 恥ずかしすぎて、もうヴァルの方が見られない。
 お父様、お母様、マリア……、もし助け出してもらえるなら今がいい……。

「ジークの魂と、エマの魂。二人を拾ったワシは……、残っていた秘術を使って、二人を転生させた」
 学園長は、顔を上げた。
「それが全てだ」

「…………」
 三人は、茫然と学園長を見た。

 話はそこで終わりだった。

 部屋を出る直前、エマは、ふと思いついたことを口にした。
「もしかして……、『メモアーレン』を作ったマループロジェクトというサークルさんは……」
「ふふふ」
 大魔術師が今日一番楽しそうに笑った。
「そうじゃ。ワシのサークルじゃ。多忙な身ゆえ、イベントなどには参加できんかったが……。エマ、お前さんのメッセージは、ちゃんとワシに届いておった。ありがとうな」
「…………」

 そうだった。
 嬉しかったことはちゃんと伝えなきゃと思って、通販する時や機会がある時には、よかったこと、感動したことなんかを必ず、言葉で伝えていたんだ。

「ふあっ……」とエマが小さな声をあげたかと思うと、そのままぼろぼろと泣き出した。

 なんだか、衝撃だった。

 ただただ、嬉しかった。

 私が生まれ変わる前に生きた人生は、それほどいいことはなかったけれど。
 ジークという心の支えがあったこと以外は、あまりいいものもなかったけれど。

 全部、繋がってたんだ。

 私がいた場所と、ジークが……ヴァルがいる場所が。

 私の人生はちゃんと、ここまで繋がっていたんだ。

 ……ずっと、ジークを好きでいてよかった。



◇◇◇◇◇



恋愛シミュレーションゲーム『メモアーレン』の音楽は、精霊たちが歌った歌を、録音したり、大魔術師自ら編曲したりしたものが使われています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アメ上がり

夜色シアン
ライト文芸
雨が降り注ぐ街の中、迷子の彼は、自分の声が誰にも届くことなく、誰も自身の存在に気づいてはくれない。 そう思っていたーー

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

鎌倉古民家カフェ「かおりぎ」

水川サキ
ライト文芸
旧題」:かおりぎの庭~鎌倉薬膳カフェの出会い~ 【私にとって大切なものが、ここには満ちあふれている】 彼氏と別れて、会社が倒産。 不運に見舞われていた夏芽(なつめ)に、父親が見合いを勧めてきた。 夏芽は見合いをする前に彼が暮らしているというカフェにこっそり行ってどんな人か見てみることにしたのだが。 静かで、穏やかだけど、たしかに強い生彩を感じた。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...