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「理事長……いえ、国王陛下」

「うむ、頼んだぞクロエ」

「はい、ライリーのことはお任せください。学園の方は頼みました」

「任せておけ。必ず辛酸を飲ませてやる。それから最後。あやつは自分と校長の因縁と言っておるがそんなことはない。わしが目をかけてしまった為に俺を嫌うあのたぬきに目をつけられてしまったんだ。悪いのは全て俺。だから「悪かった」と一言伝えてくれ」

私の父である国王陛下は頭を下げる。
申し訳なさそうに。

その姿に無性にムカムカした私は頭を殴ってやった。

「ライリーは必ず私が連れてきます。だから、本人の前で直接謝ってください。私は伝えませんから」

「仮にも父である俺の頭を叩くとは」

「そんなことは父親らしいことをしてから言ってください。それでは行って参ります」

私は一頭の馬を西へと走らせる。

「クロエも気をつけるんだぞ!」

生まれて初めて父と親子らしい会話をした。
憎かったような、しかしここまで頑張ってこれたのは父の「出来損ない」という言葉を見返したかったから。

剣帝大会本戦への出場を決めた昨日の試合で見にきた父の度肝を抜いてやった。

目が飛び出そうなほどの驚き顔は傑作だったから思わず吹き出してしまった。

「後は本戦であなたにリベンジするだけ。待っていてライリー」

私は馬の腹を蹴って速度を上げる。


◇◇◇◇◇


朝に砦を放り出されて半日くらい歩いた。
学園まで三分の一の地点にある森に到達した。
夕日は沈み完全に夜が訪れ足元しか見えない。
しかし幸いなことに2ヶ月間何度も何度も通ったおかげで道に迷わず体が勝手に進んでくれる。

「ヴォフ!」

街道を進む僕の前に一頭の魔物が現れる。
風になびく銀のふわふわした毛並み。それとは対照的な鋭い爪、牙、とてつもない殺気を放つ赤い目。

「アオオオン!」

相手を威嚇する狼の遠吠え。

「……魔狼」

それも通常個体である魔狼より倍の大きさの体躯は魔狼の中でも特殊個体に当たる「魔狼王」

B級モンスターであるオーガ10体に相当する強さ。

それでも万全な状態なら倒せる相手ではある。が、砦で受けた傷とそれによる感染症で高熱が出ている。
さらに寝不足と空腹で体はとうに限界を迎えている現状を考えると……

「砦でのことを乗り越えたと思ったら今度は別の障害……か」

思い返せば幼い頃から。

領主による重税、税金の私的使用とそれにより魔法騎士が雇えず防げたであろう魔物の大規模侵攻に襲われ故郷と両親を失った。

この大規模侵攻時に無償で助けてくれた魔法騎士に憧れたことがきっかけで魔法騎士を目指したら差別された。

やっとの思いで学園に入学したが1年間の嫌がらせ。それを乗り越えてやっと掴んだチャンス。夢を叶えるまで後もう少し……なのに、

「全くいつもいつも……」

心に灯っていた残り火がついえていく。

「ヴォフ!」

地面に両膝を付いた僕を見て戦意を失ったと感じ取った魔狼王が駆け出す。

確実に一撃で仕留めるために鋭い牙で僕の首筋を狙う。

「ごめん、おばあちゃん……クロエ」

前方から迫る死。

それを迎え入れるように両手を広げる。

これでもう頑張らなくていい……

そう思うと心が楽に……楽に……ならなかった。

内側から溢れ出してくるのはそれとは逆の「諦めたくない!」という思いばかり。

涙が溢れた。

死にたくない。

そんな思いに応えるように体が自然と回避行動をとって後ろに下がる。

しかし首筋に魔狼王の牙が迫る。

到達までおよそ1秒。

死にたくない僕は思考を巡らせる。
が、なかなか打開策が思い浮かばない。

「顕現せよ、地獄の業火『イフリート』」

その時魔狼王の背後で紅い魔力がはじけあたりを照らす。

「焼き尽くせ!」

紅い魔力は収束し業火へと姿を変え魔狼王だけを包み込む。

「キャイ!キャイーン!」

炎に焼かれる魔狼王は苦悶の声を上げる。

「ライリー!」

死の緊張から解放され放心状態の僕のお腹に何かが飛びついてきた。

「おわ!」

受け止めきれずにその場に倒れ込む僕と誰か。

「つー……え?クロエ?どうしてここに?」

紅い魔力を見た時まさかとは思ったけど。ルビーを思わせる紅い髪に石鹸の香り……それと柔らかい布団のように包み込む豊満な……ぐふん!は確かにクロエしかいない。

「よかった!間に合った!」
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