20 / 21
4ー4
しおりを挟む
「理事長……いえ、国王陛下」
「うむ、頼んだぞクロエ」
「はい、ライリーのことはお任せください。学園の方は頼みました」
「任せておけ。必ず辛酸を飲ませてやる。それから最後。あやつは自分と校長の因縁と言っておるがそんなことはない。わしが目をかけてしまった為に俺を嫌うあのたぬきに目をつけられてしまったんだ。悪いのは全て俺。だから「悪かった」と一言伝えてくれ」
私の父である国王陛下は頭を下げる。
申し訳なさそうに。
その姿に無性にムカムカした私は頭を殴ってやった。
「ライリーは必ず私が連れてきます。だから、本人の前で直接謝ってください。私は伝えませんから」
「仮にも父である俺の頭を叩くとは」
「そんなことは父親らしいことをしてから言ってください。それでは行って参ります」
私は一頭の馬を西へと走らせる。
「クロエも気をつけるんだぞ!」
生まれて初めて父と親子らしい会話をした。
憎かったような、しかしここまで頑張ってこれたのは父の「出来損ない」という言葉を見返したかったから。
剣帝大会本戦への出場を決めた昨日の試合で見にきた父の度肝を抜いてやった。
目が飛び出そうなほどの驚き顔は傑作だったから思わず吹き出してしまった。
「後は本戦であなたにリベンジするだけ。待っていてライリー」
私は馬の腹を蹴って速度を上げる。
◇◇◇◇◇
朝に砦を放り出されて半日くらい歩いた。
学園まで三分の一の地点にある森に到達した。
夕日は沈み完全に夜が訪れ足元しか見えない。
しかし幸いなことに2ヶ月間何度も何度も通ったおかげで道に迷わず体が勝手に進んでくれる。
「ヴォフ!」
街道を進む僕の前に一頭の魔物が現れる。
風になびく銀のふわふわした毛並み。それとは対照的な鋭い爪、牙、とてつもない殺気を放つ赤い目。
「アオオオン!」
相手を威嚇する狼の遠吠え。
「……魔狼」
それも通常個体である魔狼より倍の大きさの体躯は魔狼の中でも特殊個体に当たる「魔狼王」
B級モンスターであるオーガ10体に相当する強さ。
それでも万全な状態なら倒せる相手ではある。が、砦で受けた傷とそれによる感染症で高熱が出ている。
さらに寝不足と空腹で体はとうに限界を迎えている現状を考えると……
「砦でのことを乗り越えたと思ったら今度は別の障害……か」
思い返せば幼い頃から。
領主による重税、税金の私的使用とそれにより魔法騎士が雇えず防げたであろう魔物の大規模侵攻に襲われ故郷と両親を失った。
この大規模侵攻時に無償で助けてくれた魔法騎士に憧れたことがきっかけで魔法騎士を目指したら差別された。
やっとの思いで学園に入学したが1年間の嫌がらせ。それを乗り越えてやっと掴んだチャンス。夢を叶えるまで後もう少し……なのに、
「全くいつもいつも……」
心に灯っていた残り火がついえていく。
「ヴォフ!」
地面に両膝を付いた僕を見て戦意を失ったと感じ取った魔狼王が駆け出す。
確実に一撃で仕留めるために鋭い牙で僕の首筋を狙う。
「ごめん、おばあちゃん……クロエ」
前方から迫る死。
それを迎え入れるように両手を広げる。
これでもう頑張らなくていい……
そう思うと心が楽に……楽に……ならなかった。
内側から溢れ出してくるのはそれとは逆の「諦めたくない!」という思いばかり。
涙が溢れた。
死にたくない。
そんな思いに応えるように体が自然と回避行動をとって後ろに下がる。
しかし首筋に魔狼王の牙が迫る。
到達までおよそ1秒。
死にたくない僕は思考を巡らせる。
が、なかなか打開策が思い浮かばない。
「顕現せよ、地獄の業火『イフリート』」
その時魔狼王の背後で紅い魔力がはじけあたりを照らす。
「焼き尽くせ!」
紅い魔力は収束し業火へと姿を変え魔狼王だけを包み込む。
「キャイ!キャイーン!」
炎に焼かれる魔狼王は苦悶の声を上げる。
「ライリー!」
死の緊張から解放され放心状態の僕のお腹に何かが飛びついてきた。
「おわ!」
受け止めきれずにその場に倒れ込む僕と誰か。
「つー……え?クロエ?どうしてここに?」
紅い魔力を見た時まさかとは思ったけど。ルビーを思わせる紅い髪に石鹸の香り……それと柔らかい布団のように包み込む豊満な……ぐふん!は確かにクロエしかいない。
「よかった!間に合った!」
「うむ、頼んだぞクロエ」
「はい、ライリーのことはお任せください。学園の方は頼みました」
「任せておけ。必ず辛酸を飲ませてやる。それから最後。あやつは自分と校長の因縁と言っておるがそんなことはない。わしが目をかけてしまった為に俺を嫌うあのたぬきに目をつけられてしまったんだ。悪いのは全て俺。だから「悪かった」と一言伝えてくれ」
私の父である国王陛下は頭を下げる。
申し訳なさそうに。
その姿に無性にムカムカした私は頭を殴ってやった。
「ライリーは必ず私が連れてきます。だから、本人の前で直接謝ってください。私は伝えませんから」
「仮にも父である俺の頭を叩くとは」
「そんなことは父親らしいことをしてから言ってください。それでは行って参ります」
私は一頭の馬を西へと走らせる。
「クロエも気をつけるんだぞ!」
生まれて初めて父と親子らしい会話をした。
憎かったような、しかしここまで頑張ってこれたのは父の「出来損ない」という言葉を見返したかったから。
剣帝大会本戦への出場を決めた昨日の試合で見にきた父の度肝を抜いてやった。
目が飛び出そうなほどの驚き顔は傑作だったから思わず吹き出してしまった。
「後は本戦であなたにリベンジするだけ。待っていてライリー」
私は馬の腹を蹴って速度を上げる。
◇◇◇◇◇
朝に砦を放り出されて半日くらい歩いた。
学園まで三分の一の地点にある森に到達した。
夕日は沈み完全に夜が訪れ足元しか見えない。
しかし幸いなことに2ヶ月間何度も何度も通ったおかげで道に迷わず体が勝手に進んでくれる。
「ヴォフ!」
街道を進む僕の前に一頭の魔物が現れる。
風になびく銀のふわふわした毛並み。それとは対照的な鋭い爪、牙、とてつもない殺気を放つ赤い目。
「アオオオン!」
相手を威嚇する狼の遠吠え。
「……魔狼」
それも通常個体である魔狼より倍の大きさの体躯は魔狼の中でも特殊個体に当たる「魔狼王」
B級モンスターであるオーガ10体に相当する強さ。
それでも万全な状態なら倒せる相手ではある。が、砦で受けた傷とそれによる感染症で高熱が出ている。
さらに寝不足と空腹で体はとうに限界を迎えている現状を考えると……
「砦でのことを乗り越えたと思ったら今度は別の障害……か」
思い返せば幼い頃から。
領主による重税、税金の私的使用とそれにより魔法騎士が雇えず防げたであろう魔物の大規模侵攻に襲われ故郷と両親を失った。
この大規模侵攻時に無償で助けてくれた魔法騎士に憧れたことがきっかけで魔法騎士を目指したら差別された。
やっとの思いで学園に入学したが1年間の嫌がらせ。それを乗り越えてやっと掴んだチャンス。夢を叶えるまで後もう少し……なのに、
「全くいつもいつも……」
心に灯っていた残り火がついえていく。
「ヴォフ!」
地面に両膝を付いた僕を見て戦意を失ったと感じ取った魔狼王が駆け出す。
確実に一撃で仕留めるために鋭い牙で僕の首筋を狙う。
「ごめん、おばあちゃん……クロエ」
前方から迫る死。
それを迎え入れるように両手を広げる。
これでもう頑張らなくていい……
そう思うと心が楽に……楽に……ならなかった。
内側から溢れ出してくるのはそれとは逆の「諦めたくない!」という思いばかり。
涙が溢れた。
死にたくない。
そんな思いに応えるように体が自然と回避行動をとって後ろに下がる。
しかし首筋に魔狼王の牙が迫る。
到達までおよそ1秒。
死にたくない僕は思考を巡らせる。
が、なかなか打開策が思い浮かばない。
「顕現せよ、地獄の業火『イフリート』」
その時魔狼王の背後で紅い魔力がはじけあたりを照らす。
「焼き尽くせ!」
紅い魔力は収束し業火へと姿を変え魔狼王だけを包み込む。
「キャイ!キャイーン!」
炎に焼かれる魔狼王は苦悶の声を上げる。
「ライリー!」
死の緊張から解放され放心状態の僕のお腹に何かが飛びついてきた。
「おわ!」
受け止めきれずにその場に倒れ込む僕と誰か。
「つー……え?クロエ?どうしてここに?」
紅い魔力を見た時まさかとは思ったけど。ルビーを思わせる紅い髪に石鹸の香り……それと柔らかい布団のように包み込む豊満な……ぐふん!は確かにクロエしかいない。
「よかった!間に合った!」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる