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初めてのアルバイト「壊滅!闇武器商人」②

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 剣や斧、ハンマー、魔法の杖、メリケンサック……

 一人一人、それぞれの体格や職業に合わせた武器を構え、全身鎧から最低でも革の軽鎧と万全の戦闘体制で戦いに臨む相手。

 対するは……

 「ほっ!よっ!……おーし!準備運動おわり!」

 サンダル、半袖、半ズボンと超軽量の
「過ごしやすさー」を重視した格好の私。

 「うっし!……かかってきな!」

 そして、最強の武器「拳」を構え、どんな相手も向けられたら最後。一発でハートを射抜かれて私にメロメロになってしまうウインクを前方の男達に放つ。

 私に惚れた瞬間に、取り合いだけ始めるなよ?

 セクシーさを意識してウインクする。

 「ひ!…ぁ…」

 前方の3人が気を失って倒れる。

 それを見た周りの者達は

 「え!」

 と、顔を驚愕で染め上げる。

 その中の1人、ピーク・マッケンリーは逮捕されたのちにこう語っている。

 「噂には聞いたことがあった。でも、単なる作り話だと思っていた」

 震え上がるピーク……

 兵士は酒を呑ます……アル中!

 「おおー。これこれ。酒が抜けるとどうも震えるんだよな……で、話を戻すけどあれは武術の極みと呼ばれるS級冒険者「牧師のセラス」が一睨みでB級冒険者を気絶させたって噂を聞いたことがあったけどまさにそれと同じだったぜ」

 と、のちに彼は供述する。

 「な、」

 固まったまま動きを見せない警備兵達……

 「なぜだ……私はハートを射抜くつもりでやったのに……あれだけ「セクシィ」について勉強したのに……」

 そんな警備兵達を置き去りにして、クミは絶望に顔を染め、血の涙を流す。

 「どうしてだぁ!どうしてどいつもこいつも!私がウインクを飛ばした奴は全員!片っ端から気を失ってしまうんだぁ!」

 両手を握りしめて、吹き付ける突風に抗う時のように踏ん張り、空に向かって叫ぶ。

 「1人くらい顔を染める奴がいてもいいだろう!というか!照れろ!もう演技でもいいから!照れてくれ!お願いします!」

 自身を囲む警備兵達にキレながら頭を下げる。

 「…え…えっ…え?」

 戸惑いを見せる警備兵達。

 いつもなら、敵が攻撃を仕掛けてきた時点で生死をかけた戦いが始まるという流れがあった。

 しかし、現在。仲間がやられて戦闘意欲満々で仕掛けようとしたら、急に血の涙を流し、よくわからん理由で空に向かって叫び、よくわからないお願いをしてくる女

 ……戦う気あんの?

 「…え?これって仕掛けていいの?」

 戸惑う男達はキョロキョロしながら、クミに指をさして、自身の右隣の奴に確認する。

 「え?わからねぇよ!なぁ、お前はどう思う?」

 聞かれたやつは更に右隣のやつへ聞いていく。

 山手線ゲームのように隣から隣へと一周し、最終的に一番初めに質問した男へ質問が返ってくる。

 「え?どうしたらいいの?」

 困り果てる警備兵達……

 「な、なぁ……」

 困り果てる警備兵の中で、
ビクトリア・ラッセル(25)が話し始める。

 「とりあえず武器は捨ててさ、話を聞いてやろうぜ?なんか見てたら可哀想な奴な気がしてきた」

 ラッセルは武器をその場に投げて、クミの元へ歩き出す。

 「……ラッセルが話を聞くっていうなら、行くか?」

 他の警備兵達も武器を捨て、クミの元へ集まり、皆が集まったところでその場に腰掛ける。

 「ほら、何があったか知らなぇけどさ。元気だせって!」
 「そうだぜ。おじさん達もみんな辛いことばかりだけどなんとか生きてるからよ」
 「そうそう!辛いことがあったら、聞いてくれる人にぶちまけちまえばいいんだよ」
 「おーい!誰か酒、持ってたよな?」
 「ああ、少しだけならあるぜ」
  
 ピーク・マッケンリーは、懐から鉄製携帯酒瓶を、

 「えっと袖口の裏、胸ポケットに2つ、背中、襟首の裏、裾の裏、おっと!靴の中だ!」

 合計10個も取り出した。

 「お前……靴の中から取り出した奴は自分で飲めよ!」
 「ええ!バジリスク酒と同じで俺の足で熟成されてうまいぜ!そこらの酒なんかより奥深くて臭くてたまらねぇー1品なんだぞ!街に出て酔っ払った奴に飲ませたら逆に金をよこせぇ!って迫られたほどの一品だぞ!」

 自身の足によって熟成された「ピーク足酒」の出来に自信があるようでみんなに飲ませようとする。

 「……普通の酒にするわ」

 勧められた足酒を断って少し臭う方の酒瓶を手にする兵士たち。

 「……ああ!ずりぃ!みんなで酒飲んでるじゃねぇか!私も晩酌したい!」

 怒りの治ったクミは楽しそうに酒を飲む警備兵達を見て羨ましくなり、亜空間から酒瓶を取り出して一緒に飲む。
 
 「ぷはぁ!良いねぇ!大勢で飲む酒はやっぱり美味いぜ!」

 そして、綺麗な月を眺める。

 「お!そーだ!」

 酒のつまみとしてハンナが大量に持たせてくれた弁当10コ、取り出す。

 「ウヒョオ!うまそうだぜ!お前達も食おうぜ!」
 「おお!いいのか!」
 「いやぁ、ちょうど腹が減ってたんだわ」
 「上がらせてもらうぜ」

 警備兵達と酒とつまみを食べて満月を楽しむ。

 「ぷはぁ!」
 「この料理うめえな!」

 ハンナの料理を褒めてくれる警備兵達。

 「だろ!うちの自慢シェフの料理だからな!」

 嬉しくてついつい自慢しちゃう私。

 「くー羨ましいぜ。うちのシェフはピークだからよ。臭い!けど、うまーい……って料理が多くて困ってんだよ」

 肩を落とす警備兵のおっちゃん。

 「ふーん。大変だなー知らんけど」

 鼻をホジホジ……うおぉぉ……小せぇなぁ

 「でも、それなら、もっと食えって!たくさんあるから!お前達も食えよ!」

 鼻ホジホジした手で肩を叩く。

 「「「侵入者さん!ありがとう!」」」

 警備兵一同からお礼を言われた。

 「おお!いいって事よ!」
 
 侵入者と警備兵による満月鑑賞会&酒盛りがスタートする。

 と、その頃の館……

 「くそ!ここもハズレか」

 館の取引名簿を見たクラウドは目的の商人ではなかったようだが、それでも証拠の一つなので懐にしまう。

 「しかし、武器を秘密裏に売っていた商人の大元だ!これを潰せば技術の流出がしばらくはなくなる」

 館の主人が過ごすであろう広々とした部屋を後にしようとすると、入り口のところにクラウドと変わらぬ体格の男が仁王立ちしていた。
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