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何で?
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私は自分の髪が嫌いだった。この白い髪のせいで両親からは冷遇されて、妹ーーマリアベルが可愛がられる姿をいつも遠くから眺めてた。
どんなに勉強を頑張って良い点を取っても褒めてくれる人はいなくて、熱を出しても助けてくれる人は誰もいなかった。
ずっと一人ーー何のために生きているのかわからず悩んでいた八歳の時、私はマイクと出会った。
その日は、私の家ーーレバノン男爵家とマイクの家ーードールマン男爵家が月に一度開催している懇親パーティーの日だった。
"部屋から絶対に出るな"
使用人づてに父からそう命じられた私は部屋に閉じ込められた。だけど、その日はあまりにも月が綺麗だったから部屋を抜け出して中庭のベンチに腰掛けて眺めた。
妖しく輝く灰色の月ーー完全に私は魅了された。
「綺麗……」
そんな時、私の背後から微かに人の声がした。
「っ!」
いつもなら人の気配を敏感に察知するはずなのに、この時は月に魅了されるあまりに全然気づかなかった。
(まずい)
部屋を抜け出していることがバレたら、父に命令を受けた使用人から鞭で打たれる。そう思った私は慌てて踵を返すと、部屋に向かって走った。
「美しい髪だ」
が、男子の横を通り過ぎる時に不意に聞こえたその言葉に足が止まった。
(私の髪が美しい……)
思わず男子を凝視した後に、
「そんなわけない!」
と、男子の言葉を否定してから再び部屋へと走った。
(この髪が美しい……私がこの髪のせいでどれだけ苦しんでると思ってるの)
男子の言葉に対して嬉しいよりも、私のことを何も知らないくせに、という怒りが込み上げてきた。
(まあ、どうせもう会わない)
部屋に戻った私はそう切り替えてベッドへと潜り込んだ。だけど、1ヶ月後にその男子はまた私の前に姿を現した。
「君の髪は美しい」
その男子は会うたびに私の髪を褒めた。その度にふざけるなと思った。面白がってるだけだ、と。だけど会うたびに真剣な顔で言われ続けるうちに嘘ではなく本心から言ってるのだと感じた。
「ありがとう……」
その男子ーー「マイク」と名前で呼ぶようになった頃に照れながらお礼を言った。嬉しかったから。コンプレックスでしかなかった、大嫌いだった自分の白い髪が少しだけ好きになれたから。
「お礼なんていいよ。本当に綺麗だったからそう言っただけだから」
マイクはそう言って満面の笑みを浮かべた。でも照れ臭かったのか頬を指先でかいていた。
それからはマイクに会うのが楽しみで、パーティーのたびに抜け出して部屋へとやってくるマイクと勉強の話、領地の話をした。たまに私の髪が綺麗だと褒めたりもしてくれた。
気づけばマイクと将来の話をするようになっていて、両親の反対もあったけど義務教育制度で王立学院に入る直前の十二歳の時にマイクと婚約した。
「これからよろしく」
「こちらこそ」
嬉しかった。それに両親のもとを離れて暮らす学院でのマイクとの生活は、中傷や嫌がらせはされたけど幸せだった。あんなに長かった1日があっという間に過ぎていった。
「学院を卒業したらすぐにでも一緒になろう」
「うん!」
そう誓い合った。なのに……、
(どうして)
私は突然の婚約破棄という現実を受け入れられないまま、それでも半日授業の1時間目が始まる予鈴に反応して教室へと向かっていた。
"君との日々は苦痛でしかなかった。さよなら、醜い老婆さん"
マイクの去り際の言葉が頭から離れないまま扉を開いて一歩踏み出したーーというところまでは覚えているのですが、
「だ、第三王子のお尻に」
その後のことがよく思い出せません。
「手をめり込ませやがったぁぁ!!」
騒然となる教室。口々に悲鳴をあげるクラスメイトから視線が注がれる中で、私は第三王子のお尻にめり込んだ左手を見つめたまま、
「何で?」
と首を傾げた。そしてその直後、
「……」
無言で私へと振り返った第三王子と目が合った。
「?」
どんなに勉強を頑張って良い点を取っても褒めてくれる人はいなくて、熱を出しても助けてくれる人は誰もいなかった。
ずっと一人ーー何のために生きているのかわからず悩んでいた八歳の時、私はマイクと出会った。
その日は、私の家ーーレバノン男爵家とマイクの家ーードールマン男爵家が月に一度開催している懇親パーティーの日だった。
"部屋から絶対に出るな"
使用人づてに父からそう命じられた私は部屋に閉じ込められた。だけど、その日はあまりにも月が綺麗だったから部屋を抜け出して中庭のベンチに腰掛けて眺めた。
妖しく輝く灰色の月ーー完全に私は魅了された。
「綺麗……」
そんな時、私の背後から微かに人の声がした。
「っ!」
いつもなら人の気配を敏感に察知するはずなのに、この時は月に魅了されるあまりに全然気づかなかった。
(まずい)
部屋を抜け出していることがバレたら、父に命令を受けた使用人から鞭で打たれる。そう思った私は慌てて踵を返すと、部屋に向かって走った。
「美しい髪だ」
が、男子の横を通り過ぎる時に不意に聞こえたその言葉に足が止まった。
(私の髪が美しい……)
思わず男子を凝視した後に、
「そんなわけない!」
と、男子の言葉を否定してから再び部屋へと走った。
(この髪が美しい……私がこの髪のせいでどれだけ苦しんでると思ってるの)
男子の言葉に対して嬉しいよりも、私のことを何も知らないくせに、という怒りが込み上げてきた。
(まあ、どうせもう会わない)
部屋に戻った私はそう切り替えてベッドへと潜り込んだ。だけど、1ヶ月後にその男子はまた私の前に姿を現した。
「君の髪は美しい」
その男子は会うたびに私の髪を褒めた。その度にふざけるなと思った。面白がってるだけだ、と。だけど会うたびに真剣な顔で言われ続けるうちに嘘ではなく本心から言ってるのだと感じた。
「ありがとう……」
その男子ーー「マイク」と名前で呼ぶようになった頃に照れながらお礼を言った。嬉しかったから。コンプレックスでしかなかった、大嫌いだった自分の白い髪が少しだけ好きになれたから。
「お礼なんていいよ。本当に綺麗だったからそう言っただけだから」
マイクはそう言って満面の笑みを浮かべた。でも照れ臭かったのか頬を指先でかいていた。
それからはマイクに会うのが楽しみで、パーティーのたびに抜け出して部屋へとやってくるマイクと勉強の話、領地の話をした。たまに私の髪が綺麗だと褒めたりもしてくれた。
気づけばマイクと将来の話をするようになっていて、両親の反対もあったけど義務教育制度で王立学院に入る直前の十二歳の時にマイクと婚約した。
「これからよろしく」
「こちらこそ」
嬉しかった。それに両親のもとを離れて暮らす学院でのマイクとの生活は、中傷や嫌がらせはされたけど幸せだった。あんなに長かった1日があっという間に過ぎていった。
「学院を卒業したらすぐにでも一緒になろう」
「うん!」
そう誓い合った。なのに……、
(どうして)
私は突然の婚約破棄という現実を受け入れられないまま、それでも半日授業の1時間目が始まる予鈴に反応して教室へと向かっていた。
"君との日々は苦痛でしかなかった。さよなら、醜い老婆さん"
マイクの去り際の言葉が頭から離れないまま扉を開いて一歩踏み出したーーというところまでは覚えているのですが、
「だ、第三王子のお尻に」
その後のことがよく思い出せません。
「手をめり込ませやがったぁぁ!!」
騒然となる教室。口々に悲鳴をあげるクラスメイトから視線が注がれる中で、私は第三王子のお尻にめり込んだ左手を見つめたまま、
「何で?」
と首を傾げた。そしてその直後、
「……」
無言で私へと振り返った第三王子と目が合った。
「?」
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