婚約破棄されたばかりの私の手が第三王子のお尻にめり込んでしまった。

さくしゃ

文字の大きさ
上 下
1 / 20

婚約破棄と、、

しおりを挟む
「…………」

 魔術師の男の、後ろ姿を睨み付ける。そして、その男に手を引かれる、戸惑った表情の女学生に視線を向けた。

「(アイツは……)」

 初めは変なヤツだと思っていた。妙に俺に突っかかってくるし。だが、それらはきっと彼女なりの心配だったに違いない。態度の忠告とか。
 彼女に出会ったのは運命だと思った。さっき、あの腕をつかんだ時に、そう感じた。
 触れた温かみが、もっと触れていたいと思えるようなその心地が、間違いなくそうだと思わざる得ない。

 彼女に触れた手を握り締める。
 あの女学生はなぜか、やけに背の高い視察の魔術師に付きまとわれているようだった。確かに、顔も整っている……というより、整い過ぎて作り物のような顔をしているし、それでいて明るく素直な様子だからな。
 よく一緒にいる友人達との会話によると、少しおっちょこちょいで天然な部類に入るらしい。
 見た目の良さや性格の可愛らしさも相まって、男達もあまり放っておいてくれなさそうだ。しっかりと好意を示しているヤツや遠巻きに見ているヤツも割といるようだし。

 そして、あの魔術師の男は危険な部類だ。妖艶、というか怪しい雰囲気の、女性のような顔の男。
 初めて見た時からあの男は危険だと、そう直感が告げていた。
 だから、思ったのだ。あのまま、彼女のそばに置いているとやがて彼女が危険な目に遭うだろうと。

「(彼女は、守らなければならない)」

 他にもならない、『勇者』である自分が。

 今まで『勇者』として生まれ、前世の記憶を頼りに生きてきた。これからも、そうするつもりだ。

「(……それの中に、アイツが加わるだけだ)」

 二人の後ろ姿は、いつのまにか見えなくなっていた。

×

「(どうすれば、アイツをあの男から守れるだろうか)」

 そう考えながら、街の中を歩いた。今日歩いた街の中には剣やナイフなどを販売している店の姿はなかったものの、きっと何処か少し離れた場所で売られているはずだ。

 俺が通っている魔術アカデミーには、門限が存在している。夕方の6時だ。時間の感覚は前の世界とほとんど同じで、俺は特に不自由は感じていない。
 なぜ夕方の6時までに帰らないといけないのかというと、それは簡単に、魔獣が出るからだ。逆を返せば、魔獣を倒せるならば夕方6時を過ぎても外を出歩いてもいいわけだが……。

「(門限を破るのは、あんまり良くないよな)」

 うっすらと、赤く色付き始めた空を見上げる。前世の世界よりも、紫っぽい色の夕焼けだ。

 記憶の中の世界は、この世界とは違い魔法はなかったけれど、魔法に似た科学力があり、それはこの世界のものを凌駕していた……ような気がする。この世界にも家電製品のようなものはあるが。

「(テレビのような、画面に映像を映し出す技術はあるんだよな)」

 店じまいをするのか、映像を映し出していた看板の色が消えた。

 逆に、何時から外に出ても良いことになっているのかというと、法律では『太陽が出始めた頃』となっているらしいが、魔術アカデミーでは朝5時からだ。

「……!」

 そこで、ふと彼女を守る方法を思い付いた。

 身体を鍛えて、自分自身が更に強くなれば良いのだと。
 とりあえず、体力をつける為に早朝の走り込みを始めることにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました

楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。 王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。 アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。 薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。 魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。 ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。 婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

殿下が大好きすぎるので横恋慕令嬢のお世話がしたい

IchikoMiyagi
恋愛
「シェリリアーナ=グルマリア! お前との婚約を破棄する!!」  皆の前で婚約破棄を告げられた公爵令嬢は、わきまえていた。  自分と王太子殿下との仲がうまくいっていないことを自覚しており、ただひたすら彼の隣に侍る令嬢のお世話をすることに心血を注いでるのだ。  そんなある日、シェリリアーナの前に慈悲深いローズリリス公爵令嬢が現れる。  負けた、と思い殿下への恋心を無くそうとしたところでとある場面に出くわしてしまい?  これは、ただひたすら想い続けた女の子と、惹かれていることに無自覚な男の子の、二転、三転まではしないラブストーリー。 「ぼくはうさぎのローリー。きみのなまえは?」  いつかの優しさは、きっとこれからも続いていくーー。  旧主題 拗らせ令嬢は今日も断罪を回避する(副題をタイトルにしました)

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました

天宮有
恋愛
 魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。  伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。  私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。  その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。

婚約解消と婚約破棄から始まって~義兄候補が婚約者に?!~

琴葉悠
恋愛
 ディラック伯爵家の令嬢アイリーンは、ある日父から婚約が相手の不義理で解消になったと告げられる。  婚約者の行動からなんとなく理解していたアイリーンはそれに納得する。  アイリーンは、婚約解消を聞きつけた友人から夜会に誘われ参加すると、義兄となるはずだったウィルコックス侯爵家の嫡男レックスが、婚約者に対し不倫が原因の婚約破棄を言い渡している場面に出くわす。  そして夜会から数日後、アイリーンは父からレックスが新しい婚約者になったと告げられる──

公爵令嬢の一度きりの魔法

夜桜
恋愛
 領地を譲渡してくれるという条件で、皇帝アストラと婚約を交わした公爵令嬢・フィセル。しかし、実際に領地へ赴き現場を見て見ればそこはただの荒地だった。  騙されたフィセルは追及するけれど婚約破棄される。  一度だけ魔法が使えるフィセルは、魔法を使って人生最大の選択をする。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...