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大脱出!②

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 「さあ!観念を!始末書、聖女様!」 
 「さあ!観念を!女風呂覗き聖女様!」
 「さあ!観念を!パンツのぞいてくる聖女様!」

 さあ!さあ!と迫りながら、ここぞとばかりに普段の本音をぶつけてくる聖騎士達。

 おい!おい!……すみませんでしたぁ!パンツの中が気になってしまうのは男の性(さが)なんです!

 「って、私は女じゃん!自分でもたまに忘れてしまうけど……ていうか人望ねぇ。私」

 まあ、しょうがない。私は私の生きたいように生きてる。その結果だからな……
 
 切り替えて、私へと近づいてくる聖騎士達をじっと待つ。

 「門までの道順は……」

 聖騎士達の動きを見て、右斜前方にある門までの落とし穴の位置を把握、ルートを導き出す。

 「なるほどなるほど」

 その間に聖騎士達は距離を詰めてきていており、私までは残り20m。

 「ふっふっふっ!バカどもめ!…とう!」

 脱走ルートを新たに組み直し終わった私は、茂みから飛び出して、近くの聖騎士へと飛びかかる。

 「うきぃぃぃ!」
 「うああ!!」

 茂みから門までは500m(目視換算)
 5mを等間隔として配置された聖騎士達が門へのルート上に重なる。

 「うきぃぃ!」
 「うわぁ!聖女様が猿になられたァァ!」

 木の上を飛び跳ねる猿のように、聖騎士から聖騎士へと飛び移っていく。
 次々に布で姿を隠していた穴へと聖騎士達が落ちていく。

 「うきぃ!」
 「うわぁ!」

 出口までは残すところ5人!(25m)しかも、最後は女性聖騎士!俄然(がぜん)飛びつきたい!
 私は、一気に4人飛ばしで、高く宙へと舞い上がり、女性聖騎士へと飛び移る。

 「うっきぃ!」
 「ぎゃあああ!触らないで!変態!」

 女性聖騎士は、私が接近すると身を屈めて震えて泣き出してしまう。
 しかも、涙目でキ!ッと睨んでくる。汚物を見るように……

 「……すみません!」

 女性の手前で着地して、頭を下げて謝る。
そして、よく見ると私がいつものぞいているお気に入りの子「パンツちゃん」だったので、

 「いつもお世話になっております!」

 と、感謝も伝えた。

 「……うるさい!早く行っちゃえ!変態!」

 門を指差す「パンツちゃん」

 「失礼します!」

 そんな彼女の黒いパンツを横目で確認して……って、今日は勝負パンツの日か。ふむふむ。
 と、日課であることもしっかりと済ませつつ門を潜る。

 「よし!あとは最後の門を潜るだけだ!」

 馬車が行き違いできる大きな石造橋の上を駆け抜ける。
 途中、トラップ魔法が発動し、火炎球(ファイアボール)が四方八方から飛んでくる。

 「ふ……脱走歴5年!称号「脱走の達人」が最近、追加された私に、この程度のトラップ魔法など通用すると思うなぁ!」

 氷上のバレリーナのように鮮やかに、「イナバウアー!」で正面と背後から来る火炎球を避け、「クアトロアクセル!」で4方向からくる飛来する火炎球を避け、最後に「1オイラ!からの~トリプルアクセル!」で8方向から向かってきていた火炎球を避けて見せる。

 「しゃあ!金メダル!」

 ガッツポーズを決めて、最後の門をくぐる。

 「よっしゃ!脱獄……じゃなくて!脱走成功!」
 
 飛び跳ねて喜ぶ私。

 「今日こそは溜まりに溜まった5年分の始末書を書いてもらう!」

 門を潜った先では、愛刀のレイピアである「雪華」を構えたリサが待ち構えていた。

 「いやだ!私はいく!私を待っている数量限定!新作コマ!「白龍モデル」の元へ!絶対に行くんだ!」
 「この勝負はもう終わっている。私がこのレイピアを手にした瞬間から終わっているんだ!」

 愛刀「雪華」を胸の前で構え、足を前後に開き、腰を落とすリサ。刺突の構え。

 「終わらせない!私は諦めない!」

 私は必殺のヤクザキック(前蹴りです!)をいつでも打ち出せるように右足を構える。

 私とリサは同じ勇者PTの仲間。互いの手の内などわかっているし、実力も把握している。

 はっきりと言って、実力はリサの方が上……だけど、私は諦めない!

 「……」
 「……」
 
 互いの殺気がぶつかり、周りの空気が重くなる。

 「……フ!」
 
 リサがレイピアを打ち出す。

 「は!」

 それに反応して私も右足でヤクザキック(前蹴りです!)を打ち出す。

 「やったあ!新作のコマが買えた!ありがとう!ママ!」
 「お手伝いを頑張ってくれたご褒美よ。パパには内緒ね?」
 「うん!」

 私とリサの攻撃が交差する瞬間、一組の親子が商店街の方から歩いてきた。
 そんな親子の子供の方の手には、通常のコマを白いペンキで加工しただけの数量限定!新作コマ「白龍モデル」が握られていた。

 な、な、なっ!ぬあぁぁんですとぉぉぉ!

 時計を見る。

 「9時15分……」

 私は、背中から地面に倒れ込む。

 「う、売り切れたァァ!」

 雲ひとつない晴れ渡る空に私の絶叫がこだまする。

 そんな倒れた私を見たリサは、

 「かくほぉぉぉ!」

 と、私とリサの戦いの様子を伺っていた聖騎士達に大声で命じる。

 「……いくぞぉぉ!」

 リサの命令に聖騎士達は動き出し、私は、網によって捉えられた。

 後日……

 「どうだ?数量限定!即日完売した新作コマ「白龍モデル」だぞ!いいだろ!」

 日曜日の公園で、友達のマークス君
(8歳)に自慢されまくった。

 「ぐあああ!いいなぁぁ!私も欲しかったァァ!」

 私(30歳)は羨ましさのあまり頭を抱えて地面を殴りまくった。

 まあ、手に入らなかったものはしょうがないから。いっか……よくねぇぇ!
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