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まだ……(ワタル視点)

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"それは恋ですね"

 太陽がのぼり白み始めた東の空を眺め、1週間前のことを考えていた。

"時間が経てば普通に話せるようになります"

 ハンスの言う通りサンとは普通に話せるようになった。それがめちゃくちゃ嬉しくて、俺と話している時のサンの顔が今も頭を離れず、

「へへへ」

 だらしない顔でニヤついていた。

 鏡を見なくてもわかる。今の俺は自分でも引くくらい気持ち悪い顔をしている。この世界に来るまでの俺なら絶対にしなかったであろうニヤケ顔だ。

(今までだって1人や2人好きになった子はいた)

 必ずクラスで3番目に可愛くて明るくてたまに天然っぽい部分を見せる。手が届きそうで届かない子を好きになっていた。そして友達になっていろんな場所へ遊びに行って仲を深めて告白して振られる。というのがいつもの流れ。

(今のようにニヤついたりせず友達感覚で「楽しい」を共有する)

 足元の火へと視線を落とす。

「そんな子がタイプだったんだけどな……」

 見張りを交代して眠ったばかりのサンを見る。

「リス……私はリス」

 口をムニャムニャさせて幸せそうな顔をしていた。

「ははは。どんな夢を見てんだよ」

 でも、何だろうな。今まで好きになった「智香ちゃん」「鈴ちゃん」とは一緒にいて楽しかったけどサンと一緒にいる時の胸の奥から湧き出てくるじんわりとした……幸せ?が違う。サンと一緒にいるだけで嬉しくて何も話さなくても気まずくなくて。

「……」

 ドキドキドキ……ハヤる心臓に手を当てる。

"相手に想いを伝えるのかどうかはご自身で判断して下さい"

(想いを伝える……)

 心臓に手を当てたまま足元の火を見つめる。

(この旅が終わったら俺はこの世界からは強制的に日本へ帰還させられるらしいし……それにあっちにはばあちゃんを残してきた。でも……)

 俺は奥歯を噛み締めた。
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