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作戦会議①
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「今のままでは5分もすればお前達との戦いは終わるか……よかろう。10分だ。これまでの戦いを振り返り対策を練り、俺を楽しませろ。そして死ね」
腕を組み、見下すように仁王立ちのブギはそう言い放つと目を瞑って「1,2……」とカウントを始めた。
「調子に乗りやがって……」
全てがあの野郎ーーブギの手のひらで転がされているこの状況に納得がいかず、怒りが加速する。
「ほら!ワタルさん!」
今すぐにその舐め切った態度を後悔させてやる!
「だから放せ!放しやがれ!」
普段はビビり散らしていざ戦闘になると防御だけに徹する癖にこんな時だけ馬鹿力を発揮しやがって!
俺を歯がいじめにして楽々持ち上げてサンが待つ場所へと移動させられてしまった。
「くそ!放せって!」
どんなに抵抗してもビクともしない。
「くそ!」
と心の中で叫ぶ。すると、怒りのボルテージが上がり、さらに炎が燃え盛り、3割ほど残っていた理性も怒りの感情に飲まれていった。
魔王を殺せるのは勇者のみ。死んだらこの世界は魔族の思うツボ。それに今俺が死ねば勇者パーティーは瓦解してサンもハンスも死ぬ……平静だったら見えていたものも「怒り」にのまれ見えなくなった。ただあるのは、
"調子に乗るあの野郎をぶん殴る"
それだけだった。歯がいじめが解けた途端、すぐにでも殴りに行く……そう決めた。
「……」
その時だった。ずっと下を向いていたサンと目があった。鋭く俺を見据える目と。
「……」
不思議だった。一度頭に血が昇ると自分を抑えられなくなって気が済むまで暴れるのが俺なのに、サンの目を見た瞬間燃え上がった炎は火力を弱めていき、ロウソクの火くらいに小さくなった。
(……ああ。またやっちまった)
冷静になると自分を客観視できるようになり後悔した。
"うるせえ!いいから金を寄越せば良いんだよ!"
小さい時、まだ両親が離婚する前。クソ親父と暮らしていた。ギャンブルの金欲しさに母ちゃんや俺に暴力を振るった。
一度頭に血が昇ると気が済むまで暴れる。俺はそうはならないと決めていた。だけど、母ちゃんが死んで一人になって給食費すらまともに払えなくなったらいじめられるようになってむかついて気がついたら……
(あの時、2度とクソ親父のようにはならないと決めた。なのに母ちゃんが死んでからの俺は……)
あのクソ親父と同じだ。結局俺も……。
「ワ、ワタル……聞いてほしい」
下を向く俺にサンが話しかけてきた。本当は話なんて聞きたいとは思わなかった。なのに、なぜかその声に反応して顔を上げた。
「あ、あのね!」
俺が顔を上げるとサンは、
「今から……あ、あの!」
言葉を絞り出すように話し出した。揺れる視線、目の端には涙が滲み、体を震わせながら……普段は自分の意見なんて何一つ言わないサンがこの状況を打開する"何か"を言おうとしている。しかしそれを自分の中の何かが邪魔をしているように見えた。
「さ、作戦が……あるの!」
そして今はその邪魔をしてくる「何か」と必死で戦っている中で「負けない」と覚悟を決めたから必死に戦っている。
"大丈夫だからね"
本当は怖くて震えているくせに小さかった俺を必死で守った母ちゃんの姿と重なって見えた。
「ふぅぅ」
俺は「怒り」の感情に呑まれる中で、いつの間にか止めていた呼吸を再開した。鼓動が落ち着くまで何度も空気を取り込み、吐き出した。
"人間なんだから失敗して当たり前。大事なことは腐らずに「諦めない」って覚悟を決めるだけ"
(母ちゃん……)
いつから忘れていたんだろう……母ちゃんとした大事な最初で最後の約束だったのに。
「ふぅぅ……うし!」
やってしまったことは後悔しても仕方ない。時間は戻らねえから。大事なのは反省したんならいつだって今ここから踏み出していくだけ。
閉じた目を開き、
「悪かった」
と2人に謝罪した。
「気にしてないから頭を上げてよ。ね、聖女様」
「あ、う、うん。大丈夫だから」
二人は許してくれた。こんな馬鹿な俺のことを。
(俺は幸せものだな)
腕を組み、見下すように仁王立ちのブギはそう言い放つと目を瞑って「1,2……」とカウントを始めた。
「調子に乗りやがって……」
全てがあの野郎ーーブギの手のひらで転がされているこの状況に納得がいかず、怒りが加速する。
「ほら!ワタルさん!」
今すぐにその舐め切った態度を後悔させてやる!
「だから放せ!放しやがれ!」
普段はビビり散らしていざ戦闘になると防御だけに徹する癖にこんな時だけ馬鹿力を発揮しやがって!
俺を歯がいじめにして楽々持ち上げてサンが待つ場所へと移動させられてしまった。
「くそ!放せって!」
どんなに抵抗してもビクともしない。
「くそ!」
と心の中で叫ぶ。すると、怒りのボルテージが上がり、さらに炎が燃え盛り、3割ほど残っていた理性も怒りの感情に飲まれていった。
魔王を殺せるのは勇者のみ。死んだらこの世界は魔族の思うツボ。それに今俺が死ねば勇者パーティーは瓦解してサンもハンスも死ぬ……平静だったら見えていたものも「怒り」にのまれ見えなくなった。ただあるのは、
"調子に乗るあの野郎をぶん殴る"
それだけだった。歯がいじめが解けた途端、すぐにでも殴りに行く……そう決めた。
「……」
その時だった。ずっと下を向いていたサンと目があった。鋭く俺を見据える目と。
「……」
不思議だった。一度頭に血が昇ると自分を抑えられなくなって気が済むまで暴れるのが俺なのに、サンの目を見た瞬間燃え上がった炎は火力を弱めていき、ロウソクの火くらいに小さくなった。
(……ああ。またやっちまった)
冷静になると自分を客観視できるようになり後悔した。
"うるせえ!いいから金を寄越せば良いんだよ!"
小さい時、まだ両親が離婚する前。クソ親父と暮らしていた。ギャンブルの金欲しさに母ちゃんや俺に暴力を振るった。
一度頭に血が昇ると気が済むまで暴れる。俺はそうはならないと決めていた。だけど、母ちゃんが死んで一人になって給食費すらまともに払えなくなったらいじめられるようになってむかついて気がついたら……
(あの時、2度とクソ親父のようにはならないと決めた。なのに母ちゃんが死んでからの俺は……)
あのクソ親父と同じだ。結局俺も……。
「ワ、ワタル……聞いてほしい」
下を向く俺にサンが話しかけてきた。本当は話なんて聞きたいとは思わなかった。なのに、なぜかその声に反応して顔を上げた。
「あ、あのね!」
俺が顔を上げるとサンは、
「今から……あ、あの!」
言葉を絞り出すように話し出した。揺れる視線、目の端には涙が滲み、体を震わせながら……普段は自分の意見なんて何一つ言わないサンがこの状況を打開する"何か"を言おうとしている。しかしそれを自分の中の何かが邪魔をしているように見えた。
「さ、作戦が……あるの!」
そして今はその邪魔をしてくる「何か」と必死で戦っている中で「負けない」と覚悟を決めたから必死に戦っている。
"大丈夫だからね"
本当は怖くて震えているくせに小さかった俺を必死で守った母ちゃんの姿と重なって見えた。
「ふぅぅ」
俺は「怒り」の感情に呑まれる中で、いつの間にか止めていた呼吸を再開した。鼓動が落ち着くまで何度も空気を取り込み、吐き出した。
"人間なんだから失敗して当たり前。大事なことは腐らずに「諦めない」って覚悟を決めるだけ"
(母ちゃん……)
いつから忘れていたんだろう……母ちゃんとした大事な最初で最後の約束だったのに。
「ふぅぅ……うし!」
やってしまったことは後悔しても仕方ない。時間は戻らねえから。大事なのは反省したんならいつだって今ここから踏み出していくだけ。
閉じた目を開き、
「悪かった」
と2人に謝罪した。
「気にしてないから頭を上げてよ。ね、聖女様」
「あ、う、うん。大丈夫だから」
二人は許してくれた。こんな馬鹿な俺のことを。
(俺は幸せものだな)
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