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俺たちの……存在意義。

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ワタルの言葉で心が軽くなって3日……。

「調子に乗るんじゃねぇ!」

 天気は雲一つない快晴。時刻は10時。私たち勇者パーティーは街道を東へと進んでいた。

「ワタルさん大振りは!」

 が、魔王軍の一部と出くわしたことで本日3度目の戦闘へと突入した。

「グアアア!!」

 相手はレベル40台のホブゴブリン10体。前衛にヒット・アンド・アウェイ戦法の剣士タイプが3体。後方に弓矢使いが6体と魔法使いタイプが1体。

 前衛3体が敵を翻弄して大振りの攻撃を誘発したら射線上から離脱し、後衛6体が矢を放つ。

 魔法タイプのホブゴブリンは支援魔法を得意としているらしく味方の肉体強化と防衛魔法のみに集中している。

「オラァァァ!!」

 何度目になるかわからないワタルの大振りの右ストレートを前衛のホブゴブリンが交わし、

「グアア!!」
 
 後衛のホブゴブリンが6本の矢を放った。

「パリィ!」

 ハンスがワタルの前に立ち、大楯で矢を受け流した。

「ファイアボール」

 ワタル達に肉体強化などの魔法を掛け直しつつ初級攻撃魔法ーー「ファイアボール」を放った。

 通常なら40センチメートル級の大きさが一般的だけど、私の場合は常人の半分程度の魔力量しかないため10センチメートルサイズに抑えて目や心臓などの急所を狙って放つことが多い。

「グア!」

 しかし前衛のホブゴブリンに直撃する前に魔法タイプのホブゴブリンが防御魔法「障壁」を出現させたことで防がれてしまい、その間に体勢を整えられてしまった。

「グアア!」

「何だこら!」

 そして互いに睨み合い、相手の出方を伺う……というようなことを何度も繰り返している。

 三日前の出来事でワタルへの苦手意識がなくなりチーム連携が向上したといっても私たちはまだパーティーを組んで日が浅く相手のチーム力に押され始めてきている。

(でも、これまでの戦闘で相手の弱点は見えた。すごいチーム力だけどそれを支えているのは……)

 タイミングを伺う。予想通りに行くかわからない。けど、チャンスが来ると信じて杖を構える。

「……」

「……」

 それからしばらくの睨み合いの後、

「ニヤニヤしやがって……調子に乗るんじゃねぇ!」

 これまでのやり取りでワタルには挑発目的のニヤけ顔が効果的だと理解したボブゴブリンは小馬鹿にしたような笑顔を浮かべて挑発、それに対して案の定、我慢できずワタルは怒り出した。

「死ね!オラァァ!」

 怒りのままにホブゴブリンへと突撃、

「何回同じ手に引っ掛かれば気が済むんですかぁ!」

 その後をハンスが慌てて追いかけた。

「グアア」

 そんな二人を見たホブゴブリン達は笑みを浮かべた。その笑顔から伝わってくるのはこちらを見下すような感情と勝利を確信したことからくる"油断"だった。

「土槍(ディススピア)」
 
 そしてその隙は私が狙っていたもの。少し前までは背後も警戒して「障壁」を展開していたけど、勝利を確信した瞬間、それを解いた。

「グア?」

 魔法使いタイプのホブゴブリンがピクリと何かに反応し振り返った。が、一足遅い。

「終わり」

 隙を見せた瞬間に背後へ出現させた30本の土の槍がホブゴブリン達へと飛来し、

「グアアアア!!」

 一体残らず串刺しにした。

「……え?」

「……終わった」

 突然の幕引きに呆気に取られるワタルとハンスは取り付けの悪い引き戸のように「ギギギ」と首を動かして背後の私へ振り返った。

「ふふ」

 それからお互いの顔を見合って、

「俺たちの……」

「出番が……」
 
 と言って肩を落とした。







 その頃、ワタルたちがゴブリンを倒した地点から10キロメートル離れた森の中……、

「ははは!いいな!」

 中性的な顔立ちの華奢な少年が、

「少しは楽しい殺し合い(遊び)ができそうだ!」

 野太い声で笑っていた。
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