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私のこの気持ち……?
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「マジかよ……ここって本当に異世界なんだな」
雨上がりの森ーー雲の切れ目から太陽が顔を出し、大地を照らした。木の葉から雫が垂れ、地面の水溜りを揺らした。
「ひっ……やぁぁぁ!? ホブゴブリン!」
森の真ん中に作られた街道を東へ進む私たち勇者パーティーの前に、3体の緑の怪物が立ちはだかった。
「……」
一体は、ところどころ錆びた直剣を構え、軽鎧を身に纏った屈強な体躯のホブゴブリンが、
「き、切り掛かってきぎゃあああああ!!」
派手な黄色の髪に似合わず、ひどく臆病な性格の勇者パーティーのタンクーーハンス・ミネルヴァへと切り掛かった。
「グアア!!」
「ぎゃあああ!!」
彼は腰を抜かし悲鳴をあげながらも器用に斬撃を受け流していく。
「そいつ頼むわ」
ハンスの受け流しに体勢を崩されたボブゴブリンの隙をついて、後方で矢を構える2体のボブゴブリンへと勇者ーーナカムラ・ワタルが接敵、
「サン。なんか適当に支援魔法頼む」
異世界人特有の黒髪を靡かせ、ナックルをはめた拳を振りかぶり、勇者パーティー後方支援担当の聖女の私に指示を飛ばした。
「……」
即座に「攻撃力上昇」「俊敏上昇」「防御力上昇」の支援魔法を発動しようと杖を構えた。
「……え、ちょ」
だけど、
「支援魔法……?」
勇者のサポートをするのが聖女の使命……なのに、
「……」
支援魔法を発動しようとするも何故だか躊躇してしまう。
(……なぜ?)
ワタルに声をかけられると毎回こうなってしまう。考えてみるけど原因がわからない。
(ワタルがこの世界に召喚された時に声をかけられてからずっと……なぜ?)
首を傾げる。
「サンさん!支援魔法お願いしまーす!」
そんな時、考えている私にワタルが叫んだ。
・
・
・
・
・
異世界の勇者が15歳となった瞬間、王国宮廷魔法使い総出で勇者召喚が行われ、彼ーーナカムラ・ワタルは眩い光の中から姿を現した。
「お前は女神様の代理者である『聖女』そのことをゆめゆめ忘れるな」
いきなりのことに戸惑うワタルへ王様が事情説明する横で、私の育ての親である教皇様に耳打ちされた。低く強い口調で。鋭い視線を向けられながら。
「……はい」
女神様と唯一話すことのできる聖女は「女神の代理者」と言われる。故に、女神様のように「献身的な自己犠牲」「完全無欠」であるようにと育てられた。
「聖女として」「女神の代理者として」
そこに私の「感情」や「意思」は邪魔でしかない。女神様の考えが記された聖典を誰よりも深く理解する教皇様の言うことを聞いていればいいだけ……「聖女」として。
「単車も買ったばかりで早く乗りてーからな……わかった。さっさと魔王の討伐に行こう」
ワタルはそう言うとパーティーメンバーになるハンスへ笑いかけた。
「よろしくな!」
その次に私に向かって笑って、
「よろしく!」
初対面の人間に対する挨拶にしては軽い感じで話しかけてきた。
「……」
「……?」
返事をしない私にワタルは首を傾げた。
「……っ!」
それからしばらくワタルの顔をじっと見つめていた私は我に帰ると慌てて顔を逸らしてしまった。
「人見知りか……?」
そんな私を見たワタルは今度は逆に首を傾げた。
「……」
あのとき、何で顔を逸らしてしまったのかいくら考えても分からなかった。ただ、これまで聖女として出会ってきた人々とは異なる視線だった。
それからというもの、なぜかワタルに苦手意識のようなものがあり、最低限しか接していない。
雨上がりの森ーー雲の切れ目から太陽が顔を出し、大地を照らした。木の葉から雫が垂れ、地面の水溜りを揺らした。
「ひっ……やぁぁぁ!? ホブゴブリン!」
森の真ん中に作られた街道を東へ進む私たち勇者パーティーの前に、3体の緑の怪物が立ちはだかった。
「……」
一体は、ところどころ錆びた直剣を構え、軽鎧を身に纏った屈強な体躯のホブゴブリンが、
「き、切り掛かってきぎゃあああああ!!」
派手な黄色の髪に似合わず、ひどく臆病な性格の勇者パーティーのタンクーーハンス・ミネルヴァへと切り掛かった。
「グアア!!」
「ぎゃあああ!!」
彼は腰を抜かし悲鳴をあげながらも器用に斬撃を受け流していく。
「そいつ頼むわ」
ハンスの受け流しに体勢を崩されたボブゴブリンの隙をついて、後方で矢を構える2体のボブゴブリンへと勇者ーーナカムラ・ワタルが接敵、
「サン。なんか適当に支援魔法頼む」
異世界人特有の黒髪を靡かせ、ナックルをはめた拳を振りかぶり、勇者パーティー後方支援担当の聖女の私に指示を飛ばした。
「……」
即座に「攻撃力上昇」「俊敏上昇」「防御力上昇」の支援魔法を発動しようと杖を構えた。
「……え、ちょ」
だけど、
「支援魔法……?」
勇者のサポートをするのが聖女の使命……なのに、
「……」
支援魔法を発動しようとするも何故だか躊躇してしまう。
(……なぜ?)
ワタルに声をかけられると毎回こうなってしまう。考えてみるけど原因がわからない。
(ワタルがこの世界に召喚された時に声をかけられてからずっと……なぜ?)
首を傾げる。
「サンさん!支援魔法お願いしまーす!」
そんな時、考えている私にワタルが叫んだ。
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異世界の勇者が15歳となった瞬間、王国宮廷魔法使い総出で勇者召喚が行われ、彼ーーナカムラ・ワタルは眩い光の中から姿を現した。
「お前は女神様の代理者である『聖女』そのことをゆめゆめ忘れるな」
いきなりのことに戸惑うワタルへ王様が事情説明する横で、私の育ての親である教皇様に耳打ちされた。低く強い口調で。鋭い視線を向けられながら。
「……はい」
女神様と唯一話すことのできる聖女は「女神の代理者」と言われる。故に、女神様のように「献身的な自己犠牲」「完全無欠」であるようにと育てられた。
「聖女として」「女神の代理者として」
そこに私の「感情」や「意思」は邪魔でしかない。女神様の考えが記された聖典を誰よりも深く理解する教皇様の言うことを聞いていればいいだけ……「聖女」として。
「単車も買ったばかりで早く乗りてーからな……わかった。さっさと魔王の討伐に行こう」
ワタルはそう言うとパーティーメンバーになるハンスへ笑いかけた。
「よろしくな!」
その次に私に向かって笑って、
「よろしく!」
初対面の人間に対する挨拶にしては軽い感じで話しかけてきた。
「……」
「……?」
返事をしない私にワタルは首を傾げた。
「……っ!」
それからしばらくワタルの顔をじっと見つめていた私は我に帰ると慌てて顔を逸らしてしまった。
「人見知りか……?」
そんな私を見たワタルは今度は逆に首を傾げた。
「……」
あのとき、何で顔を逸らしてしまったのかいくら考えても分からなかった。ただ、これまで聖女として出会ってきた人々とは異なる視線だった。
それからというもの、なぜかワタルに苦手意識のようなものがあり、最低限しか接していない。
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