グータラ令嬢の私、婚約す。そしたら前世の記憶が戻った。

さくしゃ

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そんな私でも大丈夫な異性

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しかしこんな異性が苦手な私にも不思議と2人きりでいてなんともない男友達がいる。

 その男友達は、名前を「レオザ・シルヴァ」

 シルヴァ子爵家三男で歳は15と、私と同い年。

 父同士が従兄弟で仲が良く、領地が隣同士ということもあり月に一度、互いの屋敷を行き来している。

 「レオ」を一言で表すと"根暗"だ。

 カラスと見紛うほどの漆黒の長い髪で顔のほとんどを隠していて、常に自信なさげで死んだ魚のような目をしている。人と話すことも苦手。どうしても話さなければならない時も基本的に頷くだけか無言。

(暗いヤツ)

 それが私のレオに対する第一印象だった。しかし嫌な感じはせず、普段ならまともにみることができない異性の顔も不思議とレオだけは目を見て話すことができた。

(ついに私も男性恐怖症を克服したか?!)

 なんて嬉しくなってレオの兄と2人きりになって見た。

(だ、ダメ……)

 しかし2人きりになった瞬間、気を失ってしまった。

「……ダメだったか……はぁ」

 目を覚ました私は、自分がベッドで横になっている状況を一瞬で理解するとおでこに手を乗せてため息をついた。

"なんでかわからないけど、私は男性恐怖症を克服できた!いける!"

 そう思った。しかし蓋を開けてみれば期待とは裏腹な結果になってしまい、悔しさ?のようなものがこみ上げてきて自分が許せなかった。

「くそ」

 上体を起こした私は体にかかったシーツを握りしめた。シーツ越しに爪が手のひらに食い込む。握りしめるほどに鈍い痛みが絶え間なく神経を伝って脳を刺激し、怒りの炎を煽る。

「よくない」

 その時、私が自身の燃え上がる怒りを制御できなくなる寸前に横から声がかけられた。

「おまえ……」

 そこにいたのは「レオ」だった。直前まで本を読んでいたのか膝には開いたままの本が置かれていた。

「……」

 レオは私の目を物怖じすることなくまっすぐと見据え無言で首を振る。

「……」

 「よくない」という短い言葉と首を横に振っただけだから何を伝えたいのかはっきりとはわからない。けど、なんとなく「自分を痛めつけるのはよくない」と言いたいのだろうと思い、握りしめていた右手から力を抜きシーツを離した。

「……」

 私がシーツから手を離すとレオは無言で立ち上がり部屋を出ていった。

「……な、なにあいつ……?」

 ベッド横の椅子に座って本を読んでいたということは、ずっと見守ってくれていたってこと?だから私が目を覚ましたのを見て部屋を出ていった?

 寡黙……を通り越してもはやほとんど「無」なレオがなにを考えて行動しているのか理解できず首を傾げた。

 ただ一つ言えることは……、

「気になる」

 だった。

 昔から私は自分の価値観で測れないものに対して興味を持ち、疑問の正体が解明するまでしつこく行動し続ける癖があった。

 その私の悪癖と揶揄されることが多い対象に
「レオ」という新しい項目が追加された。

「朝日が昇る前……よし!」

 一度でもこの状態になった私は、誰よりも早く起きて活動を始める。対象となるモノが、なにを考え、なにを感じて、どんな行動を取るのか観察するために。

 さあ、対象者「レオ」がどんな1日を過ごしているのか……と張り切ってレオの観察を始めた。

「ず、ずっと本ばかり読んでいる」

 しかし観察を始めて3日、レオが取った行動は読書。起床後、朝食後……食事や勉強の時間以外は全て読書。日の当たらない部屋の隅っこで……私だったら頭にカビが生える。そして驚愕だったのはそれだけ読書しているのにページを捲るのはすっごく遅い!多分1日で100ページ読めているのかどうか。

 観察を始めて5日……今日も読書で終わるだろうと思った時だった。ついに読書、食事、勉強、寝る以外でレオが初めて動きを見せた。それは、

「ありがとうございます。レオ坊っちゃま」

「……」

 忙しそうに洗濯物を干すメイドをチラリと見たレオは本を自室の机に置くと部屋を飛び出しわざわざ階段を降りて中庭へ手伝いに行った。

(周りをよく見てるな)

 私はレオの行動をメモした。

「あ……」

 だけど、三日三晩ほとんど眠らずにレオのことを観察していたので急に眠気がして潜んでいた木から落ちてしまった。

「ちゃんと寝ないとだめ」

 落下直後、一瞬気を失っていた私は気がつくとレオの腕に抱かれて屋敷の階段を登っていた。そして私を心配そうに見つめるレオと目があった。

(無表情なやつだと思ったけど、こんな顔もするんだ……)

 その後、レオが地面にぶつかる前にキャッチしてくれたことで怪我一つなかった私は一晩寝て回復。次の日、遠くから観察するのをやめて私はレオと直接時間を過ごすことにした。

「おお!ナイス主人公!」

「……ナイス」

 初めは緊張していて無言だったレオも、慣れてくると短くも話したり、笑ったり、落ち込んだり、不貞腐れたりといろんな顔を見せてくれた。

 しかもそんな顔を見せてくれたのは私といる時だけだったからなおさら楽しかったし嬉しかった。

 気がつけば出会って10年、家族同然の存在となっていて今ではいろんなことを話す。と言ってもお互いに友達がいるわけではないから、

「今日の夕食美味しかったぁ!」

「そうだね」

 他愛もない日常の出来事を話すくらいだけど。それでもレオと過ごす時間は居心地が良くて、ついつい気を許してなんでも話してしまう。

「この前父様がね……」「この前父様がね……」「この前父様がね……」

 我が家の汚点ーー父のやらかしに対する愚痴ばかりだったけど。

「実はうちの父さんも……」

 私が父の話をすると、それに乗っかってレオも自身を過度に可愛がる父のやらかしを話した。

「ははは!なんだよそれ!」

「信じられなかったよ……」

 本当に居心地がいい。長く一緒にいるから気が合うというのもあるかもしれない。だけど時折、それ以上……出会って一緒に過ごした10年という歳月以上に一緒に人生を歩んだ気さえする時がある。たぶん気のせいなのだろうけど。

(結婚か……するんだったら私は……)

 レオをチラリと見た目があって「なに?」って聞きかれたから慌てて視線を逸らした。

(ってなに考えてんだか……レオは大切な友達。それに今のこの居心地のいい関係が壊れるくらいならこのまま……)

 これが私の日常でこれから続いていく現実……そう思ってた。そしてそれを疑わなかったし願った。

「な、なんだと!?東の街までも……」

 しかしそんな私の願いを未曾有の天変地異が飲み込んだ。
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