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ハモった

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「昔から言いたいことだけいったら寝ちゃうんだから」

「ぐあ!」

 自分の髪を吸い込んで鼻を詰まらせ息苦しそうにする、オルナ。

「こう言うところも本当に変わってないわね」

 昔と変わらないオルナの姿に浮かべながら、ベッド脇の椅子から立ち上がって、鼻に入った髪を丁寧に出してあげる。

「倒れたから一時はどうなるかと思ったけど何もなさそうでよかったぁ」

 私が座る椅子の横に立つユリウスはオルナの無事を確認して胸を撫でおろしていた。

「それじゃボクは行くよ」

 顔を上げたユリウスは私にそう告げると、返事も聞かずに部屋から出ていった。

「人の話を聞かずに行ってしまう……顔は好みだけどどこかオルナに似ていて異性としては完璧になしね」

 理想的すぎる造形美の顔に一時は舞い上がり「王子様」なんて呼称していたけど、すっかり冷めた。

「ん……」

 ユリウスが出て行った直後、眠っていたオルナがピクリと体を動かした。

「スゥゥ……ここ……は?」

 目をこすりながらオルナは起き上がり、左目だけを開いて部屋を見渡す。

「……あれ?これってまだ夢の世界? 幻覚であらわらたエリーがなんでいつまでも見えてるん」

「誰が幻覚だ」

 つい反射的に動いてしまった。

「いっ!」

 昔のように失礼なことを言うオルナの頭を手のひらで、スパァァン!!と鋭く鞭のように叩いた。

「……たくはない。……え?まさかほん」

「そうよ、エリザベス。昔より綺麗になりすぎてわからな」

「え、昔と何も変わってないよ」

 食い気味に否定する、オルナ。

 オルナの素直な性格も昔から変わっていない……そこは嘘でもいいから少しくらい綺麗になったとかいうところでしょ。

「……ふん!」

 だらんと脱力した状態で振り上げた腕をオルナの頭に向かって振り下ろす。

「いっ!」

 オルナは再び頭を抑えた。

「そんなわけないでしょ?よく見なさいよ」

 わたしは、オルナの頭を鷲掴みにして、

「ほら!変わってるでしょ!主に胸とか!胸とか!!胸とか!!!」

 ふっくらと盛り上がった胸を何度も何度も目に焼き付けてあげた。

「……いや、なんか形が綺麗すぎないか?」

 頭を揺さぶられながらも疑問符を浮かべたオルナは手を伸ばしてわたしの胸を鷲掴みにして、

「うん、やっぱりパットじゃん」

 頷きながら答えた。

「……ああそうですよ!正解!……どうせわたしなんていつまで経っても擬似巨乳ですよ!」

 オルナの頭から手を離して、その場に泣き崩れる。

「胸のことを聞くと落ち込む癖……変わってないね」

「そんな簡単に人は変わらないわよ……でも」

 わたしは立ち上がると、

「その……あの時あんなに酷いことを言ってしまった手前、本当はこんなこと言うのはおかしいんだけど……」

 ブレザーの裾を握りしめて、

「ごめんなさい!誰だって隠し事の一つや二つくらいあって当たり前なのに……」

 頭を下げてギュッと目を瞑り、

「むしがいいのはわかってる……だけど……私はオルナともう一度友達になりたい!あの頃のように仲の良かった!」

 オルナに想いを伝えた。

 そんなわたしに、

「……エリー」

 オルナは明るい声でわたしの名前を読んでくれた。その声に顔をあげると、

「私の方こそ本当はずっとエリーと仲直りしたかったんだ。こんな私だけどよろしくお願いします!」

 そう言い、私に向かって頭を下げた。

「いやいや!わたしの方こそ!」

「いやいや!私の方こそ!」

 オルナの言葉と私の言葉が重なった。

「……ハモったね」

「ハモったわね」

 互いに顔を見合わせて頷き、

「ぷっ……あはははは!」

「ふふふふ……あの頃もよくハモってたわね」

 わたしたちは4年ぶりに笑い合った。


◇◇◇


(女子寮の管理人さんは……)
 
 オルナさんの部屋を出たボクは、生徒用玄関へと来ていた。
 
 普段は玄関横にある小さな受付窓口から管理人さんが部外者が入らないように見張っているのだけど……

 下駄箱の陰から少しだけ顔を出して窓口の方を確認。

「はぁ……よかったぁ」

 管理人さんとおぼしき人は誰もおらず事務所はもぬけの殻だった。

 そのことにホッと胸を撫で下ろす。が、噂をすればなんとやら。

「油断大敵」

 とすたこらさっさと女子寮を後にし、来た道をまっすぐと戻り守衛さんの目を盗んで校門を静かに通り抜けて、生徒用玄関へと伸びる一本道を走る。

(どうやらお昼休みはもう終わったのかな)

 静かな校舎を見つめて走っていた。その時、

「邪魔だ!そこをどけ!」

 背後から怒号が。

「ん?」

 振り返ると、

「わあ!」

 ボクめがけてものすごい勢いで馬車が迫ってきた。
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