2 / 33
問題の相手
しおりを挟む
10年前のあの日ーー
煌びやかなシャンデリアが照らし、参加者全員が派手な衣装を身に纏い列席した"顔合わせパーティー"
王国中の5歳を迎えたばかりの貴族子女が招待されたパーティーで、
"男のくせに気持ちの悪いやつだ"
ボクに容赦なく放たれた言葉の矛と、パーティー参加者全員から向けられた同情の視線と笑い……
「うっ……」
過去を思い出し、体が震えたと思ったら急な吐き気がボクを襲った。
慌てて懐からハンカチを取り出し口を押さえる。
「はぁ……はぁ」
鼻ではなくゆっくりと口で呼吸すると次第に吐き気がおさまっていき、
「ふぅ……」
5分もすれば元に戻り、ハンカチを懐にしまう。
(もう10年も経つというのにボクはいまだに……)
考える余裕が出てくると、トラウマからいつまでも立ち直れずにいる自分に怒りを覚え、ガラス戸に映る自身を睨む。
あの頃と変わらない。パーティーでのことを引きずり閉じこもってしまったあの頃と何も……自分が悪いわけではないのに、周りと違いすぎる自分のことが許せなくて窓ガラスに映った自分を睨み続けたあの頃と。
「探したぞ。ユリウス」
そのとき、背後の方からうずくまるボクに声がかけられた。
「君に頼みたいことがあるのだが話を聞いてくれないだろうか?」
その人物は、チョコレート色の毛先がカールした髪をいじりながら、側仕えであるメガネをかけた生徒と屈強な肉体の生徒に紺のブレザーと灰色のズボンのシワを直させる。胸には、王族である証のドラゴンの刺繍が施されている。
「第一王子で、王太子である俺がこうしてお願いをしているのだからまさか断るなんてことはなかろう」
ボクが「はい」と言うのがさも当然のことのように話すブレイク・オーガニクスーーオーガニクス王国第一王子は、
「まずは首(こうべ)を垂(た)れろ」
床を指差し、土下座をするように指示……ではなくもはや「命令」をしてきた。
「……」
しかし今のボクにはそんなことよりも、
"男のくせに気持ちの悪いやつだ"
10年前のパーティーでいわれた言葉と、あのときと変わらない人を見下した視線がフラッシュバックして、
「どうした?さっさと這(は)いつくばれ」
イライラした様子で話すブレイクを無視して、
「っ!」
身を翻(ひるがえ)し、ガラス張りの戸を開き、体育館へと通じる渡り廊下を走った。
「っ!」
あのときのトラウマから目を背けるようにして逃げた。
「……追え!絶対に逃すな!」
ボクの突然の逃避行為に面食らっていたブレイクたちは一拍おいて、慌てるように側仕えにブレイクが命令を飛ばし、
「は、はい!」
「おう!」
その命令から瞬時に状況を理解した側仕えの二人は、慌てて走り出す。
「はぁはぁはぁはぁ」
一心不乱に青い顔で走る。
普段からあまり運動を好んでするわけではなく、どちらかと言うと読書をしている時間の方が長いので、久しぶりの全力疾走に足がもつれそうになったが、
(怖い。やだ)
それよりもトラウマと向き合うことの方が怖くて、不恰好でもなんでもいいからとにかく走り続ける。
「2、2、3、4……」
ストレッチをする運動部がいる体育館の横を駆け抜け、
「シャー!」
「きゃん!あん!」
犬と蛇が睨み合う体育館裏を抜けて、渡り廊下の横を通り校舎裏へ。
「王子の命令を無視したらどうなるか」
「二度と歩けなくなるまでその身に叩き込んでやる!」
背後から物騒な怒号が飛んでくる。
「はぁはぁ!はぁはぁ!」
捕まったらどんな目にあわされるかわかったものではない。
酸欠寸前の体に喝を入れ、落ち始めていた速度を上げる。
「ゼッ!ゼッ!」
そしてちょうど角を曲がった先で、
「うわっ!」
見知らぬ女の子とぶつかった。
煌びやかなシャンデリアが照らし、参加者全員が派手な衣装を身に纏い列席した"顔合わせパーティー"
王国中の5歳を迎えたばかりの貴族子女が招待されたパーティーで、
"男のくせに気持ちの悪いやつだ"
ボクに容赦なく放たれた言葉の矛と、パーティー参加者全員から向けられた同情の視線と笑い……
「うっ……」
過去を思い出し、体が震えたと思ったら急な吐き気がボクを襲った。
慌てて懐からハンカチを取り出し口を押さえる。
「はぁ……はぁ」
鼻ではなくゆっくりと口で呼吸すると次第に吐き気がおさまっていき、
「ふぅ……」
5分もすれば元に戻り、ハンカチを懐にしまう。
(もう10年も経つというのにボクはいまだに……)
考える余裕が出てくると、トラウマからいつまでも立ち直れずにいる自分に怒りを覚え、ガラス戸に映る自身を睨む。
あの頃と変わらない。パーティーでのことを引きずり閉じこもってしまったあの頃と何も……自分が悪いわけではないのに、周りと違いすぎる自分のことが許せなくて窓ガラスに映った自分を睨み続けたあの頃と。
「探したぞ。ユリウス」
そのとき、背後の方からうずくまるボクに声がかけられた。
「君に頼みたいことがあるのだが話を聞いてくれないだろうか?」
その人物は、チョコレート色の毛先がカールした髪をいじりながら、側仕えであるメガネをかけた生徒と屈強な肉体の生徒に紺のブレザーと灰色のズボンのシワを直させる。胸には、王族である証のドラゴンの刺繍が施されている。
「第一王子で、王太子である俺がこうしてお願いをしているのだからまさか断るなんてことはなかろう」
ボクが「はい」と言うのがさも当然のことのように話すブレイク・オーガニクスーーオーガニクス王国第一王子は、
「まずは首(こうべ)を垂(た)れろ」
床を指差し、土下座をするように指示……ではなくもはや「命令」をしてきた。
「……」
しかし今のボクにはそんなことよりも、
"男のくせに気持ちの悪いやつだ"
10年前のパーティーでいわれた言葉と、あのときと変わらない人を見下した視線がフラッシュバックして、
「どうした?さっさと這(は)いつくばれ」
イライラした様子で話すブレイクを無視して、
「っ!」
身を翻(ひるがえ)し、ガラス張りの戸を開き、体育館へと通じる渡り廊下を走った。
「っ!」
あのときのトラウマから目を背けるようにして逃げた。
「……追え!絶対に逃すな!」
ボクの突然の逃避行為に面食らっていたブレイクたちは一拍おいて、慌てるように側仕えにブレイクが命令を飛ばし、
「は、はい!」
「おう!」
その命令から瞬時に状況を理解した側仕えの二人は、慌てて走り出す。
「はぁはぁはぁはぁ」
一心不乱に青い顔で走る。
普段からあまり運動を好んでするわけではなく、どちらかと言うと読書をしている時間の方が長いので、久しぶりの全力疾走に足がもつれそうになったが、
(怖い。やだ)
それよりもトラウマと向き合うことの方が怖くて、不恰好でもなんでもいいからとにかく走り続ける。
「2、2、3、4……」
ストレッチをする運動部がいる体育館の横を駆け抜け、
「シャー!」
「きゃん!あん!」
犬と蛇が睨み合う体育館裏を抜けて、渡り廊下の横を通り校舎裏へ。
「王子の命令を無視したらどうなるか」
「二度と歩けなくなるまでその身に叩き込んでやる!」
背後から物騒な怒号が飛んでくる。
「はぁはぁ!はぁはぁ!」
捕まったらどんな目にあわされるかわかったものではない。
酸欠寸前の体に喝を入れ、落ち始めていた速度を上げる。
「ゼッ!ゼッ!」
そしてちょうど角を曲がった先で、
「うわっ!」
見知らぬ女の子とぶつかった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
政略結婚のハズが門前払いをされまして
紫月 由良
恋愛
伯爵令嬢のキャスリンは政略結婚のために隣国であるガスティエン王国に赴いた。しかしお相手の家に到着すると使用人から門前払いを食らわされた。母国であるレイエ王国は小国で、大人と子供くらい国力の差があるとはいえ、ガスティエン王国から請われて着たのにあんまりではないかと思う。
同行した外交官であるダルトリー侯爵は「この国で1年間だけ我慢してくれ」と言われるが……。
※小説家になろうでも公開しています。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
パーティからリストラされた俺が愛されすぎている件。心配だからと戻ってくるけど、このままだと魔王を倒しに行かないので全力で追い返そうと思います
たかみ
ファンタジー
少し角度の違うリストラざまぁ系です。
実際のざまぁ系とは若干違うかもしれませんので、通常のざまぁ系をお求めの方はご注意ください。
具体的に言うと、パーティのひとりがとても酷い思いをしますが、なんかズレています。
コメディ感覚で読んでいただけると良いかと思います。
魔王討伐の旅の途中、主人公のカルマはパーティから戦力外通告を受けて、交易都市クレアドールへと置き去りにされてしまう。
だが、そのリストラは優しさに満ちたものだった。
手切れ金として使い切れないほどの資金。宮殿クラスの家屋に大勢のメイドや召使い。生活に困らないよう、近隣の企業や店も買収していってくれていた。
『あいつら、俺のこと好きすぎるだろ……』
パーティのリーダーは、カルマの姉――勇者フェミル。子供の頃からの凄まじいブラコン。現在進行形でカルマを甘やかしたくて仕方がなかった。凜々しく美しい姫騎士イシュタリオンも、カルマのつくるご飯が大好きで好意を抱いている。ツンデレな賢者リーシェも、努力家のカルマのことが好きでたまらない。断腸の思いでリストラしたのだろう。そもそも、カルマは強い。ギルドではSランク判定を受けるほどの実力なのだ。チート級に強い姉たちのせいで霞むだけなのである。
しかし、姉の気持ちを察したカルマは、自分が町でぬくぬくと暮らすことこそ、姉ちゃんたちが安心して旅を続けることができると思い、この贅沢な環境を受け入れることにする。
――だが、勇者フェミルたちは、カルマ離れできないでいた。
旅の最中、カルマに会いたい衝動に駆られる。なにかと理由を付けて、彼女たちは町へと引き返してしまうのである。カルマを甘やかすため、屋敷の改築に私兵団の結成、さらなる企業の買収、交通網の整備などの内政を行い、なかなか旅に戻ろうとしない。
ひたすら発展していく町と、自分の生活環境を眺めて、カルマは思う。
――このままでは魔王討伐ができない。俺のせいで世界が滅びる。
旅に戻ってもらうため、カルマは甘やかしを振り切って、姉たちを町から追い出そうとするのだった。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる