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第1章 黒の川
アルガナバード油田 1
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トルクメニスタン アルガナバード油田
『よし、チャーリー部隊、全員位置についた。司令部、いつでもいいぞ。』
『アルファ部隊も同じく。』
『ブラボー部隊も問題ない。』
『…バックアップチーム、準備完了だ。』
今日がHACとしての初の任務。作戦内容は油田の崩壊の誘導。
『こちら司令部。総員のHMDに問題は発生していない。作戦を開始せよ。』
女性オペレーターがそう言った。
ヘルメットに固定されたヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display)には戦闘に役立つ様々な情報が表示される。
周辺の地図であったり味方の位置情報…とにかく色々だ。
「行くぞ。みんな。」
全員が「了解。」と言うと、チャーリー部隊の隊長、スティーヴンは先行して行動を始めた。
アルガナバード油田はトルクメニスタン東部の山脈の麓にある油田だ。
この辺りのブラックライン地域では最大規模の採掘量を誇っている。
何十機もの油井が統制されたコンピューターによって効率的に運び出されている。張り巡らされたパイプラインに現代的な設備が、油田の中でも異質の雰囲気を放っている。
「ここには地元軍も雇われPMC共も混じって守りが硬い。ありとあらゆる場所に気を配れ。」
副隊長のランドルフがそう言うと、僕、マックスとモーガンは頷く。
時刻は3:00。明かりは少々古びたライトに弱い光で照らされたオイルタンクぐらいで、紛れ込むのは容易だが、小さい軍事基地も隣接しているため見つかった際は悲惨なことになるだろう。
HMDに表示された地図で味方の位置を確認する。
アルファとチャーリー部隊が油田を制御しているコンピューターがあるビルへ向かい、ブラボーが退路を確保。バックアップチームは敵の監視と緊急時の狙撃。そういう手筈になっている。
雑多に置かれたコンテナや荷物の影に潜みながら慎重に進んでいく。
この任務、SASがやってもいいとは思うのだが…イアン総司令が言うに、「潜伏なんて形骸化してるようなもんだからいいの。俺たちは動かしやすいから使われてるだけ。」ということらしい。
前を行くスティーヴンがとマレのハンドサインをした。
『こちらチャーリー1より司令部。目標の建物の近くにいる。兵士が外に3名。1階の中には…見える限りでは5名だ。監視カメラが扉についている。』
室内で兵士たちがトランプをしている。こんな深夜なのに元気なことだ。
ビルの構造は狭いが5階建てで入り口は地上からのみ。油田での事故があった場合の損傷を防ぐため油田とは分かれた僻地にある。
「こちらアルファ1より司令部。こちらも目標に接近している。裏口には兵士はいない。左右に動く監視カメラのみだ。』
三日月が微かな光を発している。程よく風が吹いていて、鼻歌を歌っている兵士もいる。
『こちら司令部よりアルファ、チャーリーへ通達。アルファ部隊、その監視カメラは旧式で左右への駆動が遅い。その隙を狙え。チャーリー部隊はフェンス側の窓が開いている。ちょうど突入しやすいだろう。』
かなり無茶があるように思うが、この状況ではこの作戦が一番合理的だと言える。
『了解。』
外の道路からでも見えるこのビルの屋上に置いてある巨大なアンテナ、あれはドローン対策のジャマーだ。現状あれを無効化する手段はない。つまり、ドローンを利用した工作は不可能だということ。
『こちらアルファ1。チャーリー1、応答を求む。』
『こちらチャーリー1。いつでもいける。』
壁に張り付くようにして突入する体制を取っている。高さはそれほどなく、簡単に乗り越えられそうな窓だ。
無言でトランプのカードを捲る音が聞こえる。声はラジオぐらいだ。…退屈しているんだろう。
『俺たちは3、2、1で突入する。お前らは1秒ほどずらしてから突入しろ。』
「チャーリー1、了解した。』
「みんな、聞こえたな?…こいつの現場実験と行こうじゃないか。」
後の3人は頷いて拳銃を取り出した。
ハンドガンといっても、銃弾を発射するものではない。SF小説に出てくるような針を発射する銃。いわばニードルガンだ。釘打ち銃の原理を利用していて、通常の自動拳銃と似たような扱い方ができる。
「この銃、おととい撃った時全然ダメだったじゃないですか。大丈夫なんです?」
モーガンが懸念を口にする。
この拳銃…XC-11はこのような限定的な作戦での使用のみを考えられた銃だ。
針には記憶混濁剤も混ざっているので、潜入にはうってつけだと言えよう。
しかし、命中精度は低く、10m先の的にすらまっすぐ飛ばない。かなり癖のある銃だ。
しっかりと針が装填されていることを確認し、待機する。
これが初任務で、初の突入だ。緊張しないはずはない。
…感情を殺せ。
どこからか、そんな声が聞こえた。
朧げな記憶に残っている、父親の声。
「兵士は、感情を殺す。結局のところ、敵は同じ人間だ。情が芽生えることがあるかもしれない。…そんなこと、あってはならないんだ。
兵士は従順なしもべだ。上からの命令に背いてはいけない。そんなことが起きたら、全てが崩れてしまう。だから、マックス。お前がもし、戦う道を選んだとしたらー」
(感情を殺せ…か。)
幼い頃は意味がわからなかったが、記憶に強く残っている。
緊張は消え失せた。ただ、突入するだけだ。今まで何度も訓練してきたことだ。他愛もない。
『アルファ部隊。行くぞ…3、2、1!』
ドアが開く音がした。
『よし、チャーリー部隊、全員位置についた。司令部、いつでもいいぞ。』
『アルファ部隊も同じく。』
『ブラボー部隊も問題ない。』
『…バックアップチーム、準備完了だ。』
今日がHACとしての初の任務。作戦内容は油田の崩壊の誘導。
『こちら司令部。総員のHMDに問題は発生していない。作戦を開始せよ。』
女性オペレーターがそう言った。
ヘルメットに固定されたヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display)には戦闘に役立つ様々な情報が表示される。
周辺の地図であったり味方の位置情報…とにかく色々だ。
「行くぞ。みんな。」
全員が「了解。」と言うと、チャーリー部隊の隊長、スティーヴンは先行して行動を始めた。
アルガナバード油田はトルクメニスタン東部の山脈の麓にある油田だ。
この辺りのブラックライン地域では最大規模の採掘量を誇っている。
何十機もの油井が統制されたコンピューターによって効率的に運び出されている。張り巡らされたパイプラインに現代的な設備が、油田の中でも異質の雰囲気を放っている。
「ここには地元軍も雇われPMC共も混じって守りが硬い。ありとあらゆる場所に気を配れ。」
副隊長のランドルフがそう言うと、僕、マックスとモーガンは頷く。
時刻は3:00。明かりは少々古びたライトに弱い光で照らされたオイルタンクぐらいで、紛れ込むのは容易だが、小さい軍事基地も隣接しているため見つかった際は悲惨なことになるだろう。
HMDに表示された地図で味方の位置を確認する。
アルファとチャーリー部隊が油田を制御しているコンピューターがあるビルへ向かい、ブラボーが退路を確保。バックアップチームは敵の監視と緊急時の狙撃。そういう手筈になっている。
雑多に置かれたコンテナや荷物の影に潜みながら慎重に進んでいく。
この任務、SASがやってもいいとは思うのだが…イアン総司令が言うに、「潜伏なんて形骸化してるようなもんだからいいの。俺たちは動かしやすいから使われてるだけ。」ということらしい。
前を行くスティーヴンがとマレのハンドサインをした。
『こちらチャーリー1より司令部。目標の建物の近くにいる。兵士が外に3名。1階の中には…見える限りでは5名だ。監視カメラが扉についている。』
室内で兵士たちがトランプをしている。こんな深夜なのに元気なことだ。
ビルの構造は狭いが5階建てで入り口は地上からのみ。油田での事故があった場合の損傷を防ぐため油田とは分かれた僻地にある。
「こちらアルファ1より司令部。こちらも目標に接近している。裏口には兵士はいない。左右に動く監視カメラのみだ。』
三日月が微かな光を発している。程よく風が吹いていて、鼻歌を歌っている兵士もいる。
『こちら司令部よりアルファ、チャーリーへ通達。アルファ部隊、その監視カメラは旧式で左右への駆動が遅い。その隙を狙え。チャーリー部隊はフェンス側の窓が開いている。ちょうど突入しやすいだろう。』
かなり無茶があるように思うが、この状況ではこの作戦が一番合理的だと言える。
『了解。』
外の道路からでも見えるこのビルの屋上に置いてある巨大なアンテナ、あれはドローン対策のジャマーだ。現状あれを無効化する手段はない。つまり、ドローンを利用した工作は不可能だということ。
『こちらアルファ1。チャーリー1、応答を求む。』
『こちらチャーリー1。いつでもいける。』
壁に張り付くようにして突入する体制を取っている。高さはそれほどなく、簡単に乗り越えられそうな窓だ。
無言でトランプのカードを捲る音が聞こえる。声はラジオぐらいだ。…退屈しているんだろう。
『俺たちは3、2、1で突入する。お前らは1秒ほどずらしてから突入しろ。』
「チャーリー1、了解した。』
「みんな、聞こえたな?…こいつの現場実験と行こうじゃないか。」
後の3人は頷いて拳銃を取り出した。
ハンドガンといっても、銃弾を発射するものではない。SF小説に出てくるような針を発射する銃。いわばニードルガンだ。釘打ち銃の原理を利用していて、通常の自動拳銃と似たような扱い方ができる。
「この銃、おととい撃った時全然ダメだったじゃないですか。大丈夫なんです?」
モーガンが懸念を口にする。
この拳銃…XC-11はこのような限定的な作戦での使用のみを考えられた銃だ。
針には記憶混濁剤も混ざっているので、潜入にはうってつけだと言えよう。
しかし、命中精度は低く、10m先の的にすらまっすぐ飛ばない。かなり癖のある銃だ。
しっかりと針が装填されていることを確認し、待機する。
これが初任務で、初の突入だ。緊張しないはずはない。
…感情を殺せ。
どこからか、そんな声が聞こえた。
朧げな記憶に残っている、父親の声。
「兵士は、感情を殺す。結局のところ、敵は同じ人間だ。情が芽生えることがあるかもしれない。…そんなこと、あってはならないんだ。
兵士は従順なしもべだ。上からの命令に背いてはいけない。そんなことが起きたら、全てが崩れてしまう。だから、マックス。お前がもし、戦う道を選んだとしたらー」
(感情を殺せ…か。)
幼い頃は意味がわからなかったが、記憶に強く残っている。
緊張は消え失せた。ただ、突入するだけだ。今まで何度も訓練してきたことだ。他愛もない。
『アルファ部隊。行くぞ…3、2、1!』
ドアが開く音がした。
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