イノセント・ライト〜潜伏特殊部隊HAC〜

してぜろ

文字の大きさ
上 下
5 / 12
プロローグ 始動

車に揺られ

しおりを挟む
 HACの新入隊員三人は自動運転の車に乗りながら会話をしていた。目的地は作戦本部であるTGOB本社。ロンドンから少し南に行った森の中にある。
 試験から数日間、この三人で親睦を深めろと言われたのでご飯を一緒に食べたり、クリケットの観戦をしたり。頑張って仲を深めたはずだ。
 これからそこがみんなの家になるわけだし、わだかまりがあってもダメだろうという気遣いだろう。
 集合場所のロンドンから車に乗って少し経った後、みんなそれぞれの荷物を抱えながら会話をしていた。
 最初はモーガンから喋り始めた。
 「なあ、二人。お前どこに住んでんだ?…いやもう住んでたになるのか。」
 「…えーっと。僕はローストフトっていうイングランドの東の港町から。」
 「あー。あそこか!ローストフトなら俺の親戚が住んでるとこだ!ウォータースポーツがなんか凄かったような…」
 「うん、そうそう。うちの親も一回大会に出てさ…」
 窓からの眺めは緑が太陽の光を反射させて心地よい空間を作っている。音楽のないただただ人の声をBGM代わりに外を見るこの時間がとても落ち着く。この景色…昔を思い出すな。
父と母。父が運転して母の上に座っていたっけ。ピクニックに行ったあの日を今でも覚えている。
 そんなことを思っていると。
 「マックスくんはどこ生まれなの?」
 …ああ、そうだった。普段は一人で車に乗っているので他に誰かが乗っているのはあまり慣れない。バスかと勘違いしてしまった。
 「僕は…ウェールズのトレビル、っていう田舎。父さんがでっかい射撃場家に作ってさ、幼い頃から銃声を聞いて育ったんだよ。」
 ヴィクターは微笑みながら
 「ははっ。英才教育、ってやつだね?」
 モーガンがそれに付け加えるように、
 「そうか、道理で射撃が抜群にうまいわけだな?」
 「…まあ、そういうこと…なのかな?」
 そうやってみんなで談笑していると、ナビが目的地到着を知らせた。
 建物の向かい側のガレージのシャッターが自動でゆっくり開き、車が駐車し、またゆっくりと閉まっていく。
 モーガンは一つ、ふう、とため息をついて、
 「よっし、気合入れていきますか!」
 「あ、こういうのは第一印象が大事…だと思うよ。」
とヴィクター。
 それに僕が付け足す。
 「たしかに。やっぱりそういうの大事だと思うな。」
 軽く掛け合いをするがみんな緊張している。それもそうだ。HACは国の最前線といってもいい。おそらくSAS(イギリスの特殊部隊)より厳しいだろう。だからといって逃げ出すわけにはいかない。
 ここは自分から行こう。
 パンっと手を叩き、扉へと向かう。
 「よし、じゃあ開けるよ。」
 「...ああ。」
 「うん。わかった。」
 建物は仰々しい雰囲気ではなく、一般的な三階建ての雑居ビルのような大きさだ。とても訓練するスペースがあるようには思えない。
 その横には寮のようなものがある。
 コンコンと扉ををノックし、「失礼します」とビルに入っていく。
 内装は至って普通の受付といった感じで、カウンターや机と椅子などが並んでいる。
 その中に一人椅子に座っている人間がいた...イアンだ。
 イアンは椅子から立ち上がりこちらを振り返って喋り始めた。
 「やあみんな。待ってたよ。ようこそThe Guardian of Britishへ。改めて、社長兼総司令のイアン・ワトソンだ。…自己紹介は後にして、他の隊員はみんな下で待っている。さあ、行こうか。」
 軽い口調で話しかけてきた。…まあこの人は大体こんな感じだと想像はついていたが、もっと厳粛な感じかと思っていたので少し拍子抜けした。
 「おはようございます」とそれそれ挨拶をすると、モーガンが口を開いた。
 「あの~。下っていうのはどういうことですか?」
  イアンは声色を高くして、
  「ああ、そうか。たしかに最初はわかんないよね。…じゃあ、着いてきてよ。」
 そう言うと、イアンはエレベーターの方に向かっていき、乗り込む。
 エレベーターは2つあり、イアンが乗ったのは1と書かれた方だった。
 モーガンが、
 「じゃ、2人とも、行くぞ。」
 というと、僕とヴィクターは少し表情を引き締めてエレベーターに乗り込んだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ᚷᚺᛟᛋᛏ ᛁᚾ ᛏᚺᛖ ᚨᚢᛏᛟᛗᚨᛏᛟᚾ

ダグアウトグループ
SF
あなたが生まれる遥か未来 、人類は再建のため機械人間を新人類として宇宙へと送り込んだ。

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎
歴史・時代
 国力で遙かに勝るアメリカを相手にするべく日本は様々な手を打ってきた。各地で善戦してきたが、国力の差の前には敗退を重ねる。  そして決戦と挑んだマリアナ沖海戦に敗北。日本は終わりかと思われた。  だが、それでも起死回生のチャンスを、日本を存続させるために男達は奮闘する。 カクヨムでも投稿しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

蘭癖高家

八島唯
歴史・時代
 一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。  遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。  時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。  大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを―― ※挿絵はAI作成です。

処理中です...