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プロローグ 始動
卒業式
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「番号226、マックス・ベル!」
「はい!」
授業で習った通りに返事をして、立ち上がり、しっかりとした足取りで卒業証書を受け取りに向かう。
今日は士官学校の卒業式。イギリスの郊外、緑が広がる広大な土地で行われる。とてつもない規模だ。
医療から兵力まで全てを育てるこのハーグランド国立士官学校は世界一の規模を誇る。…といっても、大抵の国はそれぞれの分野で分かれているだけだ。この国は昔からの伝統を捨てきれずにいる現れとも言えるだろう。
普通は一年間で教育を受け終わるのだが、陸軍限定の紅小隊(レッド・コース)は違う。
高校一年生の時期から士官学校に入学し、四年間ありとあらゆる戦術、技術、体力などを身につける。所謂青春をドブに捨てることになるのでよほどの信念がないとなかなか厳しいし、訓練を途中で離脱する者もいる。
僕はようやく紅小隊を卒業し、後日の陸軍試験に備えることになる。試験は殆ど受かることが決まっているような形式的なものに過ぎないので心配していない。
校長が言う。
「…えー。マックス・ベル。貴官はハーグランド士官学校紅小隊教育において、四年間全ての教育課程を修了し、教育に見合う能力を習得したことをここに記す。…6月21日、ハーグランド国立士官学校校長、ピーター・クリスティ少将。」
僕は紅小隊で一番最初に証書を受け取ることになっている。教官曰く、成績が一番優秀だったからだそうだ。…あまり目立つのは好きではないが、一番優秀ということは誇ってもいいだろう。
「ありがとうございました。」
教官たちに挨拶を交わしていく。
最後はクリス教官。白くなった髪の毛に数多の修羅場をくぐってきたと伺える皺が特徴的だ。
「マックス、卒業おめでとう。」
「ありがとうございます、クリス教官。」
「君は優秀だ…いろんな状況下での戦術も、苦しい訓練もこなし、銃の整備もスマートにこなす。…だがな。」
「なんでしょうか?」
「私には、君の"信念"が少し違うように見える。愛国心であったり、自分自身の正義がないように思える。…別に悪いことではない、兵士として任務を遂行する上でその冷徹さは大事だ。しかし、だ。心の中で何か熱いものが君にはある…自分ではわからないかもしれないが、君の目は何か熱いものが宿っている。」
…激励として受け取っておこう。自分は人の背中を追ってここまで来た。全て合っている。この人はすごい人だ。紛争地域から民間人を救出したり、テロ事件の対応に当たったこともある。優秀な人だし、教えるのも非常に上手だ。自分も信頼している。
「はい。これからも精進していきます。」
「すまない。少しポエムっぽくなってしまった。何はともあれ、これから大変だろうが、頑張ってくれ。」
「はい、ありがとうございました。」
握手を交わして席に戻る。
…少し会場は異質な雰囲気だ。紅小隊は制服が他の生徒とは違うし、オーラも異なっている。
少し緊張から解き放たれ、気づかれないようにため息をついた。この後にパーティーがあるらしいが、友達がいるわけでもないので参加しなくてもいいだろう。あまり仲良くしすぎてもダメだと前に教わった。
兎にも角にも今日は疲れた。早く家に帰って寝るとしよう。
「はい!」
授業で習った通りに返事をして、立ち上がり、しっかりとした足取りで卒業証書を受け取りに向かう。
今日は士官学校の卒業式。イギリスの郊外、緑が広がる広大な土地で行われる。とてつもない規模だ。
医療から兵力まで全てを育てるこのハーグランド国立士官学校は世界一の規模を誇る。…といっても、大抵の国はそれぞれの分野で分かれているだけだ。この国は昔からの伝統を捨てきれずにいる現れとも言えるだろう。
普通は一年間で教育を受け終わるのだが、陸軍限定の紅小隊(レッド・コース)は違う。
高校一年生の時期から士官学校に入学し、四年間ありとあらゆる戦術、技術、体力などを身につける。所謂青春をドブに捨てることになるのでよほどの信念がないとなかなか厳しいし、訓練を途中で離脱する者もいる。
僕はようやく紅小隊を卒業し、後日の陸軍試験に備えることになる。試験は殆ど受かることが決まっているような形式的なものに過ぎないので心配していない。
校長が言う。
「…えー。マックス・ベル。貴官はハーグランド士官学校紅小隊教育において、四年間全ての教育課程を修了し、教育に見合う能力を習得したことをここに記す。…6月21日、ハーグランド国立士官学校校長、ピーター・クリスティ少将。」
僕は紅小隊で一番最初に証書を受け取ることになっている。教官曰く、成績が一番優秀だったからだそうだ。…あまり目立つのは好きではないが、一番優秀ということは誇ってもいいだろう。
「ありがとうございました。」
教官たちに挨拶を交わしていく。
最後はクリス教官。白くなった髪の毛に数多の修羅場をくぐってきたと伺える皺が特徴的だ。
「マックス、卒業おめでとう。」
「ありがとうございます、クリス教官。」
「君は優秀だ…いろんな状況下での戦術も、苦しい訓練もこなし、銃の整備もスマートにこなす。…だがな。」
「なんでしょうか?」
「私には、君の"信念"が少し違うように見える。愛国心であったり、自分自身の正義がないように思える。…別に悪いことではない、兵士として任務を遂行する上でその冷徹さは大事だ。しかし、だ。心の中で何か熱いものが君にはある…自分ではわからないかもしれないが、君の目は何か熱いものが宿っている。」
…激励として受け取っておこう。自分は人の背中を追ってここまで来た。全て合っている。この人はすごい人だ。紛争地域から民間人を救出したり、テロ事件の対応に当たったこともある。優秀な人だし、教えるのも非常に上手だ。自分も信頼している。
「はい。これからも精進していきます。」
「すまない。少しポエムっぽくなってしまった。何はともあれ、これから大変だろうが、頑張ってくれ。」
「はい、ありがとうございました。」
握手を交わして席に戻る。
…少し会場は異質な雰囲気だ。紅小隊は制服が他の生徒とは違うし、オーラも異なっている。
少し緊張から解き放たれ、気づかれないようにため息をついた。この後にパーティーがあるらしいが、友達がいるわけでもないので参加しなくてもいいだろう。あまり仲良くしすぎてもダメだと前に教わった。
兎にも角にも今日は疲れた。早く家に帰って寝るとしよう。
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