魔王様は世界を支配したい!〜異世界で魔王になったので本気で魔王やる〜

ばにく

文字の大きさ
上 下
43 / 44
帝国編

第5話 神槍

しおりを挟む
 ーーープロヴァンスーーー


 プロヴァンスはキャメロット王国領の大きな街だ。レンガで造られた建物や、一面に咲き渡る綺麗なラベンダーが有名である。


 「綺麗な街ですね。」


 「だろ?この街のラベンダーはより一層美しく咲くんだ。」


 そして一行は街に入ってからずっと見えている大きな城に向かう。
 城のふもとまで来ると、遠くから見ていたのより倍くらい大きい城に驚いた。
入口に立っていた兵士がこちらに気付く。


 「アーサー様、お入りください。中で公爵様がお待ちです。」


 中は赤色の絨毯が真っ直ぐ敷かれていて、まるで城の中にもラベンダー畑があるようだった。
 応接間に入り、しばらく待っていた時。カチャと扉が開く。入ってきたのは赤と黒のガラガラとした鎧を着た赤髪の男であった。


 「アーサー様!久しぶりだな。」


 そう言って愉快にこちらに寄ってくる。


 「パロミデス、元気にしてたか?」


 そしてパロミデスは豪快に席に座る。


 「マーリンもいるじゃねえか!元気そうだな。」


 「ええ、なんとかね。」


 挨拶を終えたパロミデスは興奮気味に話を始めた。


 「なあ聞いてくれよ!さっき街を歩いてたら数年ぶりにドラゴニュートがいたんだよ!」


 それを聞いたアーサーはハッとした。


 「そのドラゴニュートは女か?」


 「ん?ああ。3人組の嬢ちゃんらだったよ。いやぁ、3人ともべっぴんさんだったなぁ。」


 「そいつらをどこで見た!?」


 「どうしたよ急に。あ、もしかしてアーサー様、ドラゴニュートがタイプだったのかー?笑」


 「いいから言え!」


 「んだよもう、嬢ちゃんらは魚市場の西側で見かけたよ。」


 それを聞いたアーサーはみんなと目を合わせ頷いた。パロミデスは急いで部屋を出ていくみんなに困惑していた。ようやく自分も部屋から出た時には、既に皆の姿はなかった。
 奴らを目撃した場所で捜索を開始する。


 「いいか、もし戦いになったら市民の安全を優先しろ。」


 「わかりました!」


 「俺はこっちのほうを探す。お前達はそっちを頼む。」
 

 その後分かれたアーサーは、1人で探して街を歩いていると黒髪のドラゴニュートを見つけた。だが後ろからではまだ判別できない。ゆっくりと進み、女の肩に触れようとする。


 「嬢ちゃん、ちょっといいか…」


 肩に触れた瞬間、アーサーの手を女が力強く掴むと、その腕を捻り上げた。
 そしてその女の顔はまさに、家を襲った時のドラゴニュートの女だった。
 アーサーは急いで奴に前蹴りをして距離を取ると、腰の剣を抜き取る。相手も同じく剣を手にする。


 「クレアー、魔王様がうちらを呼んでるらしいっすよーって…」


 そこへ運悪く他の2人が来てしまった。そして2人はアーサーを見ると状況を理解し、武器を手にした。


 「いやー、運がいいのか悪いのか。とにかくここで殺しておいた方がいいっすね。」
 

 (あの女、魔王って言ってたな。やっぱり奴はまだ生きてやがるのか。)


 「武器だ!武器を持ってるぞ!」


 武器を目にした市民達が次々とパニックになって逃げていく。
 

 「これで3対1でも少しは戦いやすくなったか。」


 「さすがにこれで負けたら、うちら切腹案件っすよー。」


 先に攻撃を仕掛けたのはアーサーだった。素早い踏み込みと共に剣を細かく振る。大きく振ってしまうと対人数戦で不利になるからだ。相手は3人。囲まれているが、アーサーの素早く小回りの利いた剣さばきのせいで、奴らはなかなか近づけずにいる。


 「やっぱりあんたただもんじゃないっすよねー。」


 しかし相手は相当の猛者。表情を一切変えることなく余裕のままだ。
 激しく剣と剣がぶつかり合う。時間が経てば経つほどアーサーの疲れは増していき、振りが甘くなっていく。これまで持ちこたえていたアーサーだったが、ついに懐に入られてしまう。


 「もうバテたの?人間。」


 マリアンヌの恐ろしいほど強力な一振。その振り下ろした大剣は地面を意図も容易く粉々にした。なんとか避けたアーサーだったが、避けた先にはクレアが待ち構えていた。


 「次は私だ!」


 クレアの素早い戦斧を避けることは出来ないアーサーは、それを間一髪剣で受け止める。だが、それからすぐに横からセレーナの力強い蹴りが飛んでくる。
ドゴ!と鈍い音がなると同時にアーサーは遠くまで蹴り飛ばされる。屋台を次々と破壊していき、やがて住宅の壁にまで飛ばされ、そのまま家に突っ込んでしまった。壁は粉々に崩れ落ち、砂埃が舞う。


 「さーて、さささっ!と終わらせるっすよー。」


 3人がアーサーの方に歩いていった時だった。


 「お前らかー!俺の街を荒らしてんのはー!」


 元気いっぱいのわんぱくな少年のような声が聞こえ、その声のほうを3人が向くと、ごつい鎧を着た赤髪の男が音速かと思うほどの速さでこちらに向かってきていた。


 「あちゃー、いつもこれなんすよねー。」


 パロミデスは大きな槍を手に持つと勢いよくジャンプした。そのままセレーナに向けて槍を振り下ろす。
カキーンと音がなり、刃と刃がジリジリと音を鳴らす。
セレーナは最初余裕の笑みを浮かべていたが、やがてそんなことをしてる暇が無いほど、パロミデスの馬鹿力を体で感じてきた。


 「一旦まずいっすー!」


 そう言ってセレーナはバックステップを踏み、パロミデスから距離をとる。


 「強い奴が来ちゃったっすから、お前たちは早く逃げた方がいいっすよ!」


 そう2人に言うと、セレーナは背中に生えている赤い翼を広げる。
それを見た2人は急いで撤退の準備をする。


 「先輩、セレーナさんがあんなに焦ってるのは見た事がないです。そんなにやばい奴なんでしょうか、あの男は…!」


 「そんなこと今気にしてどうするの、早く撤退するよ。」


 翼を広げたセレーナは、バサバサと音を立て全速力でパロミデスに攻撃する。尋常じゃない速さ、凡人ではとても見えないそれをパロミデスは正確にとらえていた。
セレーナが奴に斬り掛かる。だがそれと同時だった。


 「うっしゃぁぁ!」


 雄叫びをあげたパロミデスは、セレーナの攻撃を受け流すと同時に、瞬時に攻撃をし彼女の翼を斬り落とした。
翼を落とされたセレーナは勢いよく地面に滑り落ちる。


 「セレーナさん!」


 武器を落としたセレーナには為す術がない。必死に立ち上がろうと踏ん張る。そこへパロミデスがゆっくりと近づいていく。その間もクレアは必死にセレーナの名を呼ぶ。
 なんとか立ち上がり奴に殴りかかったが、さっきの攻撃を見切った奴にとって、それはゴミを捨てるような作業だった。
 その小さな拳を握り止めると、彼女の腹を槍で突き刺した。勢いよく吐血するセレーナ。


 「セレーナさん!」


 何度も叫ぶクレアを必死に抱き抱えて連れていくマリアンヌ。セレーナは逃げていく2人を見て安心した。


 (そんなに悲しい顔するもんじゃないっすよ。また…また絶対に会えるっすから。絶対に…)


 槍を引き抜くと、それが命綱だったようにばたりと倒れた。


 「ドラゴニュート…初めて戦ったが強い相手だった。」


 戦いが終わった頃には他のみんなも合流していた。パロミデスはみんなに状況を話し終えると、急いでアーサーを医者まで連れて行った。
 

 

 


 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...