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三章 ミュラー最後の事件簿
断れぬ依頼
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「くぅ…………ッ! うっ! うぅっ! うぅぅぅッ!」
オルマは云い知れぬ痛みと快感に言葉を失い、何とか声はだすまいと呻いた。
しかし一番敏感なところに指が這い、そこを責められる。
「はふぅうッ!? ひっ、んっ! あぁあっああああぁぁッ!!」
オルマは喜悦を止められなくなり、はしたなく喘ぎ悶えた。
それを横目にミュラーは溜息をつく。
「……足裏マッサージぐらいで下品な声を上げるな。はしたない」
ジラールも喘ぎ声こそ上げないが、みっともなく身を震わせていた。
「な、なんでこんなことされてんだよっ!!」
もっともな言葉である。
何故俺達は足裏マッサージを受けているんだ。
少年兵に連れられて、街の下水路を走り、案内された先には階段があった。
その階段を太ももがパンパンになるまで登らされ、辿り着いた先のドアを開けると薄暗い密室があった。
その中に入り、言われるがままに置かれたベッドの横になった。
少年兵達はしばらくここで待て、と言うと入れ替わりに施術師たちが俺達の靴を脱がし、足をほぐし始めた。
そのマッサージを受けてかれこれ一時間はたつ。
ミュラーは深く溜息をつく。
「ルカは無事だろうか……」
その不安をかき消す言葉が出てくる。
「ご安心を。無事ですよ。彼女もあなたの仲間もこちらが手配して護衛しています」
艶やかな女の声。声の方へ目を向けると、この国では上流階級特有の金髪の美しい女性が俺達と同じように、ベッドで優雅にくつろいでいた。
「誰だ?」
「失礼、挨拶が遅れました。ホルン=アレスグーテです。この街の副市長を勤めています」
この街の副市長?
俺達を追う側の人間ではないか。
「……役人が何の用だ?」
ミュラーは警戒し、身を起こす。
その姿を見たホルンと名乗った女性は微笑みながら答える。
「私は貴方の味方ですよ。その証拠にベガスでの貴方の手配は取り下げて頂きました。貴方には自由に動いてもらいたいですから」
ミュラーが険しい顔で聞く。
「質問に答えろ。俺に何の用だ?」
「私たちには貴方の協力が必要なのです」
「......俺に? この街のお偉いさんが?」
「ええ、貴方でなければいきません。貴方のことはすでに調べてあります。今日の件、昨夜あなたが暗殺をした件。それだけじゃない。この前までハンターをしていたこと、貴方が異国からの無法者(アウトロー)で、数年前にマルジェラやマフィアを相手に暴れ、この国の王女ですら誘拐した事件でさえも……」
「……誤解だ。誘拐はしていない。あの姫さんが酔って行方不明になっただけだ」
ホルンがクスリと笑う。
「そうでしたね。そうそう、この国の状況を今から説明したいのですが。少し不安が……」
「なんだ?」
「この国の王様の名前って知ってます?」
「知らん」
「……そうですか。では貴方はハンターとしてゴバ草原で狩りをしていましたが、それは何のためか理解していますか?」
「知らん」
ホルンが深く溜息を吐く。
「……少し話すのが不安になりました。聞いてた話だと貴方は多少教養があると伺ったのですが、手違いでしたね。おかしいです、代筆の仕事をして、魔法を使いこなし、策士と聞いていたのに……」
ミュラーは鷹揚に頷いた。
「それは合ってる」
「……政治に興味がないだけですか。住んでいる国の王様の名前ぐらいは覚えましょうね」
ホルンの忠告に、ミュラーは欠伸で返す。
思わずホルンは顔をしかめる。
「……貴方が嫌いな政治の話になります。ちゃんと聞いてくださいね。なるべくわかりやすく説明します。あなたがハントしているゴバ草原。あの場所でのハントはこの国の開拓事業の一環です。この国はゴバ草原を開拓し、農業地帯として開発する予定です。そうすることで貿易頼りの食料を国内で自給でき、諸外国に頼る必要もありません。だからハンター協会まで頼り、獣の王国だったゴバ草原での狩りは必須だった。貴方方の活躍もあり、獣は減り、開拓も順調に軌道に乗っていた。しかしここである問題が起きてしまいました」
ミュラーはホルンを一瞥した。
「問題?」
「ゴバ草原に住む先住民ですよ。開拓するためには、彼等の居場所を奪うことになります。国は当初、平和的に移住交渉を進めていました。しかし交渉は難航しました。無理もありません。遊牧民の彼等にベガスで暮らせと言われても抵抗があるのは目に見えてます。そんな折り、軍の一部の強硬派が先住民の一人を殺害してしまいました。それに怒った先住民達の一部が蜂起します。そして、交渉担当であった、この国の軍の将軍が殺されてしまいます。先住民の一人の男の手によってです。軍は報復に躍起です。今、ゴバ草原ではいつ戦争になってもおかしくない状態なんですよ。先住民はベガスの街に入り、テロもしているほどなんです」
ホルンは少し間を置く。
「貴方にはある人物を探してもらいたいのです」
「誰だ?」
「ラクシャイン、先ほど話した将軍を殺した男です。先住民は英雄と彼を呼んでいます。そして、もう一人います。フランツ=ヨーゼフ。貴方が昨夜殺した男の名です」
「死体なら爆破したぞ」
「……フランツ=ヨーゼフは諜報員で、ある特定人物たちがその名を使用していたらしいのです。その人物を探し出してもらいたいのです」
「人相はわかるのか」
ホルンは首を横に振る。
「いえ、しかしラクシャインは腕にサソリの入れ墨があるようです。ですがフランツ=ヨーゼフは問題ありません」
「何故だ?」
「貴方がこの街で動けば必ず接触してきます」
「どうしてだ?」
「あなたが文書の持ち主だからです」
「そんなものは無い」
ホルンはジラールの方をちらりと見て、
「ずいぶん腕のいい鍛冶屋の友人がいますね。彼にフランツの遺品を見せればわかるとおもいます」
「ジラールに?」
「さて、ご協力頂ければこちらも全力でサポートします。勿論報酬ははずみます。金貨2万でどうですか? もちろん昨夜の暗殺の件も揉み消しますよ」
「断る」
「何故です?」
「話が旨すぎる。こういう話に乗ったら、この街じゃ食い物にされる。ベガスってのはそんな街なんだ」
「なるほど……。では別の手段で貴方を動かしましょう。今この街では低い階級の女、子供がモノとして売買されているそうです。全く嘆かわしい。少しは貴方の意中の女性の身を案じてみては? 彼女は私たちの手の中にあるんですよ」
ミュラーの全身から殺気が立ち上った。
「……殺すぞ」
「誤解しないでもらいたいですね。私はそんな街の状況を憂いているのです。もしこの件が解決し、私が市長になった暁には奴隷売買を禁止するつもりなのです。お忘れなく、私は貴方の味方なのです」
ミュラーは嘆息し、ベッドから身を起こす。
「どのみち俺を利用するつもりなんだな。美人な顔して汚い脅しをしやがる。いいだろう、ラクシャインとフランツ=ヨーゼフだな。見つけてきてやるよ」
ホルンは優雅に一礼する。
「ありがとうございます。マッサージの施術後に、警護の責任者が現れます。彼と今後について打ち合わせて下さい。彼は聡い、解決策も講じてくれるでしょう」
ホルンはベッドから起き、指を鳴らす。
するとカーテンが左右に開き、窓の先から夜のベガスが映し出された。
ホルンはそれを眺めて呟く。
「どうか、この街、国の闇を暴いて下さい。彼等は必ずそこにいる……」
ミュラーが何言ってんだこいつみたいな顔をして、首をかしげる。
そしてホルンはまた一礼し、ミュラーのいる部屋から立ち去る。
すると去り際に聞こえない声で呟く。
「賽は投げられたわ……エルドラ。ロゼを知るただ一人の人間に……」
オルマは云い知れぬ痛みと快感に言葉を失い、何とか声はだすまいと呻いた。
しかし一番敏感なところに指が這い、そこを責められる。
「はふぅうッ!? ひっ、んっ! あぁあっああああぁぁッ!!」
オルマは喜悦を止められなくなり、はしたなく喘ぎ悶えた。
それを横目にミュラーは溜息をつく。
「……足裏マッサージぐらいで下品な声を上げるな。はしたない」
ジラールも喘ぎ声こそ上げないが、みっともなく身を震わせていた。
「な、なんでこんなことされてんだよっ!!」
もっともな言葉である。
何故俺達は足裏マッサージを受けているんだ。
少年兵に連れられて、街の下水路を走り、案内された先には階段があった。
その階段を太ももがパンパンになるまで登らされ、辿り着いた先のドアを開けると薄暗い密室があった。
その中に入り、言われるがままに置かれたベッドの横になった。
少年兵達はしばらくここで待て、と言うと入れ替わりに施術師たちが俺達の靴を脱がし、足をほぐし始めた。
そのマッサージを受けてかれこれ一時間はたつ。
ミュラーは深く溜息をつく。
「ルカは無事だろうか……」
その不安をかき消す言葉が出てくる。
「ご安心を。無事ですよ。彼女もあなたの仲間もこちらが手配して護衛しています」
艶やかな女の声。声の方へ目を向けると、この国では上流階級特有の金髪の美しい女性が俺達と同じように、ベッドで優雅にくつろいでいた。
「誰だ?」
「失礼、挨拶が遅れました。ホルン=アレスグーテです。この街の副市長を勤めています」
この街の副市長?
俺達を追う側の人間ではないか。
「……役人が何の用だ?」
ミュラーは警戒し、身を起こす。
その姿を見たホルンと名乗った女性は微笑みながら答える。
「私は貴方の味方ですよ。その証拠にベガスでの貴方の手配は取り下げて頂きました。貴方には自由に動いてもらいたいですから」
ミュラーが険しい顔で聞く。
「質問に答えろ。俺に何の用だ?」
「私たちには貴方の協力が必要なのです」
「......俺に? この街のお偉いさんが?」
「ええ、貴方でなければいきません。貴方のことはすでに調べてあります。今日の件、昨夜あなたが暗殺をした件。それだけじゃない。この前までハンターをしていたこと、貴方が異国からの無法者(アウトロー)で、数年前にマルジェラやマフィアを相手に暴れ、この国の王女ですら誘拐した事件でさえも……」
「……誤解だ。誘拐はしていない。あの姫さんが酔って行方不明になっただけだ」
ホルンがクスリと笑う。
「そうでしたね。そうそう、この国の状況を今から説明したいのですが。少し不安が……」
「なんだ?」
「この国の王様の名前って知ってます?」
「知らん」
「……そうですか。では貴方はハンターとしてゴバ草原で狩りをしていましたが、それは何のためか理解していますか?」
「知らん」
ホルンが深く溜息を吐く。
「……少し話すのが不安になりました。聞いてた話だと貴方は多少教養があると伺ったのですが、手違いでしたね。おかしいです、代筆の仕事をして、魔法を使いこなし、策士と聞いていたのに……」
ミュラーは鷹揚に頷いた。
「それは合ってる」
「……政治に興味がないだけですか。住んでいる国の王様の名前ぐらいは覚えましょうね」
ホルンの忠告に、ミュラーは欠伸で返す。
思わずホルンは顔をしかめる。
「……貴方が嫌いな政治の話になります。ちゃんと聞いてくださいね。なるべくわかりやすく説明します。あなたがハントしているゴバ草原。あの場所でのハントはこの国の開拓事業の一環です。この国はゴバ草原を開拓し、農業地帯として開発する予定です。そうすることで貿易頼りの食料を国内で自給でき、諸外国に頼る必要もありません。だからハンター協会まで頼り、獣の王国だったゴバ草原での狩りは必須だった。貴方方の活躍もあり、獣は減り、開拓も順調に軌道に乗っていた。しかしここである問題が起きてしまいました」
ミュラーはホルンを一瞥した。
「問題?」
「ゴバ草原に住む先住民ですよ。開拓するためには、彼等の居場所を奪うことになります。国は当初、平和的に移住交渉を進めていました。しかし交渉は難航しました。無理もありません。遊牧民の彼等にベガスで暮らせと言われても抵抗があるのは目に見えてます。そんな折り、軍の一部の強硬派が先住民の一人を殺害してしまいました。それに怒った先住民達の一部が蜂起します。そして、交渉担当であった、この国の軍の将軍が殺されてしまいます。先住民の一人の男の手によってです。軍は報復に躍起です。今、ゴバ草原ではいつ戦争になってもおかしくない状態なんですよ。先住民はベガスの街に入り、テロもしているほどなんです」
ホルンは少し間を置く。
「貴方にはある人物を探してもらいたいのです」
「誰だ?」
「ラクシャイン、先ほど話した将軍を殺した男です。先住民は英雄と彼を呼んでいます。そして、もう一人います。フランツ=ヨーゼフ。貴方が昨夜殺した男の名です」
「死体なら爆破したぞ」
「……フランツ=ヨーゼフは諜報員で、ある特定人物たちがその名を使用していたらしいのです。その人物を探し出してもらいたいのです」
「人相はわかるのか」
ホルンは首を横に振る。
「いえ、しかしラクシャインは腕にサソリの入れ墨があるようです。ですがフランツ=ヨーゼフは問題ありません」
「何故だ?」
「貴方がこの街で動けば必ず接触してきます」
「どうしてだ?」
「あなたが文書の持ち主だからです」
「そんなものは無い」
ホルンはジラールの方をちらりと見て、
「ずいぶん腕のいい鍛冶屋の友人がいますね。彼にフランツの遺品を見せればわかるとおもいます」
「ジラールに?」
「さて、ご協力頂ければこちらも全力でサポートします。勿論報酬ははずみます。金貨2万でどうですか? もちろん昨夜の暗殺の件も揉み消しますよ」
「断る」
「何故です?」
「話が旨すぎる。こういう話に乗ったら、この街じゃ食い物にされる。ベガスってのはそんな街なんだ」
「なるほど……。では別の手段で貴方を動かしましょう。今この街では低い階級の女、子供がモノとして売買されているそうです。全く嘆かわしい。少しは貴方の意中の女性の身を案じてみては? 彼女は私たちの手の中にあるんですよ」
ミュラーの全身から殺気が立ち上った。
「……殺すぞ」
「誤解しないでもらいたいですね。私はそんな街の状況を憂いているのです。もしこの件が解決し、私が市長になった暁には奴隷売買を禁止するつもりなのです。お忘れなく、私は貴方の味方なのです」
ミュラーは嘆息し、ベッドから身を起こす。
「どのみち俺を利用するつもりなんだな。美人な顔して汚い脅しをしやがる。いいだろう、ラクシャインとフランツ=ヨーゼフだな。見つけてきてやるよ」
ホルンは優雅に一礼する。
「ありがとうございます。マッサージの施術後に、警護の責任者が現れます。彼と今後について打ち合わせて下さい。彼は聡い、解決策も講じてくれるでしょう」
ホルンはベッドから起き、指を鳴らす。
するとカーテンが左右に開き、窓の先から夜のベガスが映し出された。
ホルンはそれを眺めて呟く。
「どうか、この街、国の闇を暴いて下さい。彼等は必ずそこにいる……」
ミュラーが何言ってんだこいつみたいな顔をして、首をかしげる。
そしてホルンはまた一礼し、ミュラーのいる部屋から立ち去る。
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