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2章 ミュラー青春の謳歌
ナイトハント
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一年後
ゴバ草原の北端にある森林地帯、その森の中でテントを設営し、陽が暮れるのを待った。
夜の森は暗闇に視界を奪われるため危険だが、今回の獲物は夜行性、しかも動きが素早いため逃げられる。
だから夜を待った。
何しろ今回の獲物は森の狩人、ラプトルだ。
小型で人間の大人程度の大きさだが肉食性で、知恵もあり、群れで狩りをする。
二本の前足が発達し、鉤爪を器用に使って獲物を捕食する。
単体ならせいぜいD級程度の獲物だが群れの規模が大きくなれば、A級相当の潘てハンティングになる。
今回のハントでは50匹程度の群れが報告されているが、日中は姿をくらまし、森の奥深くに潜んでいる。
ブシュロンの発案で罠張り、待ち伏せして狩るという方針になった。
夜になればラプトルの警戒も解き、向こうからこちらに仕掛ける可能性が高い、という判断だった。
しかしジラールやクロエは引いていた。
流石に獲物を誘き寄せるためとはいえ、生け捕りにしたラプトルの子供を逆さ吊りして磔にしている光景に。
ラプトルの子供の悲痛な叫びが森に響き渡る。
周囲はオルマの糸で張り巡らせており、獲物が近づけば、ミュラーとアーペルが事前に仕掛けて置いた魔法陣が発動し、周囲を発光させる。
獲物への目くらましとこちらの視界が確保できる算段だ。
チームは静かに待つ、獲物が奇襲する瞬間を。
クロエは自慢の槍を磨き、デルヴォーは矢の手入れをしていた。
ジラールはのんきにブシュロンとスゴロクを楽しんでいた。
かくいうミュラーもくつろいでいた。
アーペルと一緒に魔導書を読み、魔法理論を語り合っていた。
同じ魔法を扱える者同士なのか、不思議と彼女とミュラーはウマが合った。
アーペルの得意魔法にミュラーは興味を持った。
なんでも植物を操作する魔法を使うようだ。
どうやらこの国だけでなく、西側諸国の攻撃魔法は物質を操作するのが主流らしい。
ミュラーが基本魔法なら全系統を使用できると話すと、彼女は逆に驚いていた。
この狩りが終われば結界術について指導してもらう約束をした。
デルヴォーにも複体修術を教えて貰うという話をした。
彼は大陸で数少ない治療術式を使用できた。
切り傷や骨折程度なら問題なく治療できるらしい。
そんな話をしていたら、寝ていたオルマが目を覚まし、呟く。
「……かかったよ」
全員が瞬時に臨戦態勢を取った。
しかしブシュロンが制する。
「まだだ、奴らが逃げられない所まで誘い込む、オルマ、何匹かわかるか?」
「……だいたい10匹、どんどん近づくし、増えてきてる」
「……ふむ、では数は30で仕掛けた魔法陣を発動させよう。距離は私が目視確認できるところだ。合図をしたら仕掛ける。前衛はクロエとフェンディだ。突っ込んでいけ」
二人が神妙な面持ちで頷く。
「アーペルとミュラーは獲物を逃さないためにオルマが仕掛けた糸を利用して周囲を結界で張ってくれ」
ただの結界魔法ならアーペル一人で充分だが範囲の広さとその結界に電撃を付与させるためにミュラーが必要になる。二人は詠唱をはじめた。
「クロエとフェンディで撃ち漏らしたところをデルヴォーとジラールが狙撃して援護だ」
ブシュロンがそう指示すると、オルマが緊張した声で叫ぶ。
「ごめん、もう50も集まって来てる」
ブシュロンは目視確認できなかったが、すぐに合図を送る。
森の中が閃光に包まれた。
その中をクロエとフェンディが駆け出した。
同時に雷の結界が森に出現する。
森の中で、ラプトルの叫び声が響きわたる。
迫り来る肉食竜の群れに臆することなく、クロエとフェンディは切り込んでいく。
ラプトルの大群は斬撃の波状攻撃とともに散りぢりになる。
群れからはぐれたラプトルたちをジラールとデルヴォ―が容赦なく撃ち殺す。
怯み森から逃げるラプトルたちは電撃を帯びた結界で黒焦げになる。
その地獄絵図を見てもブシュロンは表情を崩さない。
すると大型のラプトルが現れ、奇襲をかける。
鋭利な鉤爪がブシュロンに迫る。
しかしブシュロンはラプトルの存在に気付いても、一瞥もくれない。
ミュラーの巨大なランスがそのラプトルの腹を貫いていたからだ。
ランスを引き抜き、死んだラプトルをオルマの方へ蹴り飛ばし、ミュラーはオルマに笑みを浮かべながら、語りかける。
「お前の仕掛け損じゃないか?」
オルマが笑顔で返す。
「大丈夫、まだ5匹。君の真後ろにいるよー」
ミュラーが振り返ると、群れなすラプトルがミュラーに襲い掛かる。
「ま、もうアタシの中じゃもう生きてけないんだけどねー」
オルマがぐん、と金属性の糸を引っ張ると、5匹のラプトルが細切れに引き裂かれ、次々と地に伏す。
その様子を見て、ブシュロンがふっと微笑む。
「今日も狩りは絶好調だな」
森の中でラプトルの絶叫と断末魔が虚しくこだまする。
そして森に無法者たちの高らかな笑い声が響き渡っていった。
ゴバ草原の北端にある森林地帯、その森の中でテントを設営し、陽が暮れるのを待った。
夜の森は暗闇に視界を奪われるため危険だが、今回の獲物は夜行性、しかも動きが素早いため逃げられる。
だから夜を待った。
何しろ今回の獲物は森の狩人、ラプトルだ。
小型で人間の大人程度の大きさだが肉食性で、知恵もあり、群れで狩りをする。
二本の前足が発達し、鉤爪を器用に使って獲物を捕食する。
単体ならせいぜいD級程度の獲物だが群れの規模が大きくなれば、A級相当の潘てハンティングになる。
今回のハントでは50匹程度の群れが報告されているが、日中は姿をくらまし、森の奥深くに潜んでいる。
ブシュロンの発案で罠張り、待ち伏せして狩るという方針になった。
夜になればラプトルの警戒も解き、向こうからこちらに仕掛ける可能性が高い、という判断だった。
しかしジラールやクロエは引いていた。
流石に獲物を誘き寄せるためとはいえ、生け捕りにしたラプトルの子供を逆さ吊りして磔にしている光景に。
ラプトルの子供の悲痛な叫びが森に響き渡る。
周囲はオルマの糸で張り巡らせており、獲物が近づけば、ミュラーとアーペルが事前に仕掛けて置いた魔法陣が発動し、周囲を発光させる。
獲物への目くらましとこちらの視界が確保できる算段だ。
チームは静かに待つ、獲物が奇襲する瞬間を。
クロエは自慢の槍を磨き、デルヴォーは矢の手入れをしていた。
ジラールはのんきにブシュロンとスゴロクを楽しんでいた。
かくいうミュラーもくつろいでいた。
アーペルと一緒に魔導書を読み、魔法理論を語り合っていた。
同じ魔法を扱える者同士なのか、不思議と彼女とミュラーはウマが合った。
アーペルの得意魔法にミュラーは興味を持った。
なんでも植物を操作する魔法を使うようだ。
どうやらこの国だけでなく、西側諸国の攻撃魔法は物質を操作するのが主流らしい。
ミュラーが基本魔法なら全系統を使用できると話すと、彼女は逆に驚いていた。
この狩りが終われば結界術について指導してもらう約束をした。
デルヴォーにも複体修術を教えて貰うという話をした。
彼は大陸で数少ない治療術式を使用できた。
切り傷や骨折程度なら問題なく治療できるらしい。
そんな話をしていたら、寝ていたオルマが目を覚まし、呟く。
「……かかったよ」
全員が瞬時に臨戦態勢を取った。
しかしブシュロンが制する。
「まだだ、奴らが逃げられない所まで誘い込む、オルマ、何匹かわかるか?」
「……だいたい10匹、どんどん近づくし、増えてきてる」
「……ふむ、では数は30で仕掛けた魔法陣を発動させよう。距離は私が目視確認できるところだ。合図をしたら仕掛ける。前衛はクロエとフェンディだ。突っ込んでいけ」
二人が神妙な面持ちで頷く。
「アーペルとミュラーは獲物を逃さないためにオルマが仕掛けた糸を利用して周囲を結界で張ってくれ」
ただの結界魔法ならアーペル一人で充分だが範囲の広さとその結界に電撃を付与させるためにミュラーが必要になる。二人は詠唱をはじめた。
「クロエとフェンディで撃ち漏らしたところをデルヴォーとジラールが狙撃して援護だ」
ブシュロンがそう指示すると、オルマが緊張した声で叫ぶ。
「ごめん、もう50も集まって来てる」
ブシュロンは目視確認できなかったが、すぐに合図を送る。
森の中が閃光に包まれた。
その中をクロエとフェンディが駆け出した。
同時に雷の結界が森に出現する。
森の中で、ラプトルの叫び声が響きわたる。
迫り来る肉食竜の群れに臆することなく、クロエとフェンディは切り込んでいく。
ラプトルの大群は斬撃の波状攻撃とともに散りぢりになる。
群れからはぐれたラプトルたちをジラールとデルヴォ―が容赦なく撃ち殺す。
怯み森から逃げるラプトルたちは電撃を帯びた結界で黒焦げになる。
その地獄絵図を見てもブシュロンは表情を崩さない。
すると大型のラプトルが現れ、奇襲をかける。
鋭利な鉤爪がブシュロンに迫る。
しかしブシュロンはラプトルの存在に気付いても、一瞥もくれない。
ミュラーの巨大なランスがそのラプトルの腹を貫いていたからだ。
ランスを引き抜き、死んだラプトルをオルマの方へ蹴り飛ばし、ミュラーはオルマに笑みを浮かべながら、語りかける。
「お前の仕掛け損じゃないか?」
オルマが笑顔で返す。
「大丈夫、まだ5匹。君の真後ろにいるよー」
ミュラーが振り返ると、群れなすラプトルがミュラーに襲い掛かる。
「ま、もうアタシの中じゃもう生きてけないんだけどねー」
オルマがぐん、と金属性の糸を引っ張ると、5匹のラプトルが細切れに引き裂かれ、次々と地に伏す。
その様子を見て、ブシュロンがふっと微笑む。
「今日も狩りは絶好調だな」
森の中でラプトルの絶叫と断末魔が虚しくこだまする。
そして森に無法者たちの高らかな笑い声が響き渡っていった。
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