アウトロー ~追憶~

白川涼

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一章 ミュラー若かりし頃の過ち

ゴブリンバスターズ

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 ゴブリンの洞窟、いや巣穴か。
 暗闇の中から悪臭が立ち込める。
 鼻が曲がりそうだ。
 松明に火をつけて中へと入る。
 念のため俺は二人に注意喚起した。
「壁を注意深く観察して進むぞ。奴等は横穴を作って背後にまわる」
 ジラールが不満げにぼやく。
「いくらなんでも装備が棍棒とかっておかしんじゃねぇか?」
 俺はため息をついた。
「わかってないな、こんな狭い洞窟じゃ剣は振り回せない。棍棒が一番だ」
 最後尾で周囲を見渡すオルマが感心した顔で話しかける。
「ミュラーはこういう状況に詳しいんだね。こういうの慣れてるの? アタシなんてこういう暗い場所、駄目なんだよねー。なんか頼りになるよ!」
 俺は松明をかざしながら、答える。
「いや、冒険者の本で読んだだけだ」
 こういう時に学問は役に立つというものだ。
 勉強していて良かった。
 しかし二人の反応は微妙だった。
「ざけんな! 素人じゃねーか! よしよしゴブリンちゃん、ちゃんとおうちまで案内してくれよ」
 ジラールの言葉に言い返そうとしたが、喧嘩をしているところではない。
 オルマが泣き言をぼやく。
「絶対殺される……。.そもそもゴブリンの穴倉に子供たち置いてきてるなんて、傷一つどころじゃすまされないよ……。最悪種付けされてるかもしれないよー……」
 ジラールがゴブリンの尻を撫でながら、天井を仰ぐ。
「そしたらベガス湾の魚の餌だな、俺たちは。クソッタレ!」
 奥へ進むと分かれ道があった。
「物語の鉄板だと左が正解だ。左へ行くぞ」
 間髪入れずにオルマが俺の後頭部に棍棒をぶち当てる。
「素人は黙ってて!」
 いきなり何をするんだ、痛いじゃないか。
 するとジラールのゴブリンが右へ行きたそうに、ジラールの手を引っ張る。
「ゴブリンちゃんは右へ行けって言ってるぜ」
 俺を嘲笑いながら二人は右へ進みだした。
 俺も暗い巣窟野中一人は嫌なので、後へとしぶしぶ続く。

 全くこれだから学の無い連中は……。

 ほの暗い洞窟の奥へまた奥へと足を進める。
 するとジラールがぼそっと呟く。
「……なぁ……びっくりするぐらい何も出てこないな。蜘蛛がいるぐらいだ。しかもすっげーちっこいやつが……」
「……静かにしろ。この先に広間がある」
 松明をかざすと狭い通路が徐々に広がってきているのがわかる。
 俺は壁から壁にかけてロープを張る。
 その様子に不思議そうにオルマが眺める。
「ねぇ何やってんの?」
 俺は自信げに答える。
「罠を作ってる。連中は待ち伏せすることはあっても、俺たちが待ち伏せてるとは思いもしないらしい」
 ジラールがせせら笑う。
「それも絵本で書いてあったことかよ」
 無視した。
「俺がこれから詠唱を唱える。放つ光と同時に飛び込んで奴等を狩れ」
 二人は残念な顔をしながら俺を見つめる。
 しかし俺は気にせず詠唱を唱える。

『臨光刹那 常闇陽光 奉唱光現 明静暗切 出でよ聖光!』

 詠唱を始めると、ジラールとオルマが狼狽えだした。

「おい、こいつ詠唱始めやがったぞ!」
「あー、もう! 仕方ないなぁ!」

 眩い閃光が放たれ、広間を照らす。
 光と共に二人が駆け出す。

 しかし、そこには、そこには何も無かった。


「どうすんだよ、ゴブリンはいねぇ。子供もいねぇ。……マジでベガスの海に沈められるぞ」
 苛ついたジラールが松明を俺の前髪が焦げるまで近づけて、悪態を放つ。
 俺は教本に従っただけだ。
 たまたま何もいなかったんだ。
 俺は間違ってない。
 そんなに怒んなくてもいいじゃないか。

 結局三人で洞窟内をくまなく探したが、ネズミの親子がいただけで、何もいなかった。

 ああ、ゴブリン退治したかったなぁ。

 オルマがガックリと肩を落としてぼやいた。
「……もう出よう。……ここにはいないよ……」
 なお、俺が仕掛けた罠でジラールが盛大にすっころんだ。
 本当にこいつはマヌケだな。
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