アウトロー ~追憶~

白川涼

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一章 ミュラー若かりし頃の過ち

目覚めた先は②

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 あの透き通ったなまめかしい背中に、首から腰の先まで白銀の入れ墨、しかも狼が掘られていた。
 俺は小さな少女に恐怖を覚えた。

 これが獣族、狼の女だ......。

「あんな墨、背中に彫ってるなんて、アイツ、マフィアの女だぜ……」
 チンピラの言葉よりも初めて見た女体の印象がごつい狼だったことに軽く俺は眩暈がした。
 下半身が急激に萎んでいくのが伝わる。

 ん? よく見ると、さっき対峙した時は気づかなかったが……。

 「お前にも入れ墨があるぞ、お前も狼だな。色は黒だ」
 チンピラはぎょっとした顔になって背中見ようする。

 こいつ、本当に馬鹿だな。
 人間の首がそこまで曲がるわけないだろ。
 
 するとチンピラが俺に指を指す。
「テメーの背中にもあるぞ! 青い毛色のワンちゃんがよー!」
 気づいたら俺もチンピラと同じように首を曲げて背中を見ようとしていた。
 そしてその滑稽な二人の様子をシーツに包まった狼の女が恨みがましそうな目で見る。
「ねぇ、あたしの服知らない?」
 チンピラと目が合うと同時に二人で首を横に振る。
 狼の女が深くため息をしてぼやく。
「つまり、三人とも昨日の記憶がなく、ここがどこかもわからない状態でいる。しかも服は行方不明のすっぽんぽん。そしてなぜかいるゴブリン」
「いー――」
 チンピラに吊らされたゴブリンが返事をした。

 この国のゴブリンは人語がわかるのか?

 そこで俺は提案する。
「この部屋で手がかりを探さないか?」
 チンピラと狼の女が頷いた。
 俺も辺りを見渡す。
 まず第一にこのメルヘンチックな部屋に男女三人が全裸という状況が異常なのだが……。

 散乱する少女趣味の衣服、人形、ぬいぐるみ、絵本、倒れたタンスに本棚、実家の母上が見たら絶句して倒れるぐらいの散らかり具合だ。

 そして床の上にのたうちまわる鯉、水槽はどこだ? 
 ん!? 
 鯉!? 
 何故鯉がいる? 
 部屋には似つかわしくないオブジェだ。
 思わず鯉に手を伸ばす。

 金ぴかの錦鯉だ……。

 部屋の奥には肖像画がある煌びやかな服に高級そうなマントをはおった中年だ。
 頭頂部が剥げて白髪交じり、体形も太っている。
 この部屋の主とは思えないが、部屋の中でこれだけ異質な存在感を出している。
「おい、ムチなんかあるぞ……」
 チンピラがバラムチを手に取りながら狼狽している。
「あのシャンデリアの上に飾られてるのひょっとしてウエディングドレス?!」
 狼の女がわなわなと絶句する。
 チンピラがそれをみてせせら笑う。
「服があっていーじゃねーか、着てみろよ」
「それより、あたしの下着! 部屋の中、フリフリな女の子の服ばっかだけど、小さくてどれもサイズ合わないんですけど!」
 よく観察すると、布面積の少ない、いわゆるキワドイ下着まで散乱していた。
 しかし全体を見渡すと、基本的な内装はメルヘンだ。
 床に散らかってるものはともかく……。
 ミュラーはふとため息を吐く。
「なんかお姫様がいそうな部屋だな……」
 チンピラが頷く。
「あー、いー趣味してるぜ。この部屋の主はよ! 汚部屋に引き籠って、鯉がデザート、趣味はSMで、結婚願望丸出しで、おまけにペットはゴブリンときたもんだ!」
 チンピラがイラつきながら悪態を吐いた。
 狼の女が頭を抱えながら嘆く。
「やっぱりあたしの服がないよー、下着すらはけないよー……」

 ミュラーは熟考する。
 何故俺たちは全裸でこの部屋にいる?
 部屋の主は?
 そもそもこの二人は何者だ?
 昨日の記憶がさっぱりないのは何故だ?
 
 するとチンピラが提案する。

「こういう展開だと俺たちは閉じ込められてるパターンだけど、一応あの扉開くか試してみるか?」
 俺たちは恐る恐る部屋のドアに近づき、注意を払ってドアノブを握り、施錠を確認した。
 ガチャリと音を立てると同時に、扉が空いた。

 出れる! 

 そう確信と安堵にほっとした。
 思い切りよく扉を開く。

 部屋の外の景観が見えた。

 そこには武装した衛兵の集団が待ち構えていた。
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