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第一章
第三話 王子の試練
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「えへへへへへ! もっと、もっとぉ……」
「そんな声出さないでください。誰かに見られたらどうするつもりですか」
「誰かに見られた場合僕凄く危ないよね。キャラ崩壊待ったなし!」
「キャラ崩壊とかそういう次元でもない気がしますが」
今まで恐怖政治敷こうとしていた困った王子が婚約者にだけデレデレしてたら王宮の皆さんビックリですわ。
そんな時だった。
「親父に言われて進捗を見に来た。ハルト、お前エリスに何かしてないだろうなって……え?」
会話練習の進捗を聞きに来たハルトの双子の弟、ハルキが扉を開けたのは。
兄の部屋だろうか、ノックもせずにいきなり扉を開けるものだから私達は距離を取る事すらできなかった。
私に頭を撫でられたまま、固まる兄を見て弟は何を思ったのだろうか。
とりあえずそーっとハルトの頭から手を放す。
「「「……」」」
静寂が辺りを満たしていた。
だが、永遠に続くものはないようで、当然何事にも終わりが来る。永遠に続くとも思われた何とも言えぬ空気を打ち破ったのはハルキだった。
「何やってたの?」
「「……」」
だが私達には破る事は出来なかったようだ。どう答えるかと悩んだものの、ここはハルトが答えを出す場面であるとの結論に至ったので、そのまま放置。決して面倒くさくなったとかではない。
ここで真実、本性を打ち明けるか。はたまた隠し通すか。それはハルトが決めることだからだ。
「な、何でもない。第一、勝手にドア開けるとかマジあり得ないから。とりあえず土下座して俺と奴隷契約でも結べば? お前みたいな塵芥並みの存在価値すらない奴隷なんていらないけど」
どうやら隠し通す方針を固めたようだった。
俯き加減になっているハルトの姿は、普段とは違うとっつきにくさがあった。
「何でもないって……何でもあるだろこれは。それといらないのに奴隷契約しろとか言うなよな」
至極当然の事を言うハルキ。兄が婚約者に頭を撫でられるなど想像すらつかない出来事なのだろう。動転している様子が読み取れる。
「なあエリス、何があったか教えてくれないか」
兄から情報を聞くのをあきらめたのだろうか、質問の矛先を私に向けたようだ。
これは……そうだ。
「実は、そこそこ進捗が良くて会話練習の発展もやってましてですね。ふとした拍子に頭を撫でられたらというシチュエーションで練習をしてて」
身振り手振りで何とか説得しようと試みるも、そのムーブはあっさりと打ち切られてしまった。
「さっき俺に奴隷になれとか言ってきたのって兄弟だからか? とてもじゃないけど順調とはいいがたそうじゃないか」
やはりそこを突かれてしまったか。もう空気でも読んで下がっていて欲しいと感じるのは悪い事なのだろうか。
「俺も無理に聞き出そうとしてるんじゃないんだ。何か特殊な事情でもあったのか?」
「な、なんでもありませんよ!」
夫唱婦随というわけではないが、ハルトが黙るという方針を出したのならば私もそれに従うまでだ。
まあ、ハルキが『実はハルトってツンデレらしいぞ!』と言ったところで信じてくれるかも危ういが、それでも。
ハルトがみんなと普通の会話を交わせるようになるまでは協力してやろうじゃないか。事実の隠蔽とやらを。
「先ほど言った通り、これは会話練習の一環です。さきほどは結構上手く行っていたのですが、兄弟だからか突発的な出来事だったからかこうなっただけです。順調ですのでお引き取り下さい」
私は言いたい事だけ言ってハルキを追い返した。
「そ、そうか。ならばそう報告しておく。ハルト、本当に合ってるのか?」
「お前はエリスの発言を疑うというのか? そんなクズはここには入って来るな。散れ」
片手でしっしと追い払う仕草をした兄を見て、不服そうな顔をしながらも何とか部屋から出てくれたハルキ。
一時はバレるかもと思ったが、どうにか煙に巻くことに成功したようだ。恐らく16年分の積み重ねがこの疑惑を決定的なものと至らしめなかったのが大きいのだろう。
扉が閉まる音が聞こえると、ハルトは地面に倒れてしまった。
恐らく緊張が弛緩したことによって一気に疲労が襲ってきたのだろう。家族くらい素で接したらいいのに。
「つーかーれーたーよー! エリスちゅわんのラブラブパワーで回復させてよー!」
足をバタバタさせながら大胆なおねだりをかますハルト。先ほどの近寄りがたい雰囲気はとっくに消え失せ、いつものハルトがそこにいるだけだった。
「ラブラブパワーなんてありませんっ!」
「本当にそうかなぁ?」
むふふ、と笑いながらこちらへ這い寄って来るハルト。ハルトの体温などが間近で感じられて正直居心地は最悪だ。心臓がうるさいほど鳴っているのが分かる。
「じゃあ勝手に補給しまーす。え~い」
『ガチャ』
「「「……」」」
静寂が辺りを満たす。(さっきぶり二回目)
ハイライトの消えた目で弟を見つめるハルト。ご愁傷様である。
「なあ。本当に正直に言って欲しいんだけど。何があった?」
こうしてハルトとハルキの攻防戦(第二ラウンド)が始まるのであった――。
「そんな声出さないでください。誰かに見られたらどうするつもりですか」
「誰かに見られた場合僕凄く危ないよね。キャラ崩壊待ったなし!」
「キャラ崩壊とかそういう次元でもない気がしますが」
今まで恐怖政治敷こうとしていた困った王子が婚約者にだけデレデレしてたら王宮の皆さんビックリですわ。
そんな時だった。
「親父に言われて進捗を見に来た。ハルト、お前エリスに何かしてないだろうなって……え?」
会話練習の進捗を聞きに来たハルトの双子の弟、ハルキが扉を開けたのは。
兄の部屋だろうか、ノックもせずにいきなり扉を開けるものだから私達は距離を取る事すらできなかった。
私に頭を撫でられたまま、固まる兄を見て弟は何を思ったのだろうか。
とりあえずそーっとハルトの頭から手を放す。
「「「……」」」
静寂が辺りを満たしていた。
だが、永遠に続くものはないようで、当然何事にも終わりが来る。永遠に続くとも思われた何とも言えぬ空気を打ち破ったのはハルキだった。
「何やってたの?」
「「……」」
だが私達には破る事は出来なかったようだ。どう答えるかと悩んだものの、ここはハルトが答えを出す場面であるとの結論に至ったので、そのまま放置。決して面倒くさくなったとかではない。
ここで真実、本性を打ち明けるか。はたまた隠し通すか。それはハルトが決めることだからだ。
「な、何でもない。第一、勝手にドア開けるとかマジあり得ないから。とりあえず土下座して俺と奴隷契約でも結べば? お前みたいな塵芥並みの存在価値すらない奴隷なんていらないけど」
どうやら隠し通す方針を固めたようだった。
俯き加減になっているハルトの姿は、普段とは違うとっつきにくさがあった。
「何でもないって……何でもあるだろこれは。それといらないのに奴隷契約しろとか言うなよな」
至極当然の事を言うハルキ。兄が婚約者に頭を撫でられるなど想像すらつかない出来事なのだろう。動転している様子が読み取れる。
「なあエリス、何があったか教えてくれないか」
兄から情報を聞くのをあきらめたのだろうか、質問の矛先を私に向けたようだ。
これは……そうだ。
「実は、そこそこ進捗が良くて会話練習の発展もやってましてですね。ふとした拍子に頭を撫でられたらというシチュエーションで練習をしてて」
身振り手振りで何とか説得しようと試みるも、そのムーブはあっさりと打ち切られてしまった。
「さっき俺に奴隷になれとか言ってきたのって兄弟だからか? とてもじゃないけど順調とはいいがたそうじゃないか」
やはりそこを突かれてしまったか。もう空気でも読んで下がっていて欲しいと感じるのは悪い事なのだろうか。
「俺も無理に聞き出そうとしてるんじゃないんだ。何か特殊な事情でもあったのか?」
「な、なんでもありませんよ!」
夫唱婦随というわけではないが、ハルトが黙るという方針を出したのならば私もそれに従うまでだ。
まあ、ハルキが『実はハルトってツンデレらしいぞ!』と言ったところで信じてくれるかも危ういが、それでも。
ハルトがみんなと普通の会話を交わせるようになるまでは協力してやろうじゃないか。事実の隠蔽とやらを。
「先ほど言った通り、これは会話練習の一環です。さきほどは結構上手く行っていたのですが、兄弟だからか突発的な出来事だったからかこうなっただけです。順調ですのでお引き取り下さい」
私は言いたい事だけ言ってハルキを追い返した。
「そ、そうか。ならばそう報告しておく。ハルト、本当に合ってるのか?」
「お前はエリスの発言を疑うというのか? そんなクズはここには入って来るな。散れ」
片手でしっしと追い払う仕草をした兄を見て、不服そうな顔をしながらも何とか部屋から出てくれたハルキ。
一時はバレるかもと思ったが、どうにか煙に巻くことに成功したようだ。恐らく16年分の積み重ねがこの疑惑を決定的なものと至らしめなかったのが大きいのだろう。
扉が閉まる音が聞こえると、ハルトは地面に倒れてしまった。
恐らく緊張が弛緩したことによって一気に疲労が襲ってきたのだろう。家族くらい素で接したらいいのに。
「つーかーれーたーよー! エリスちゅわんのラブラブパワーで回復させてよー!」
足をバタバタさせながら大胆なおねだりをかますハルト。先ほどの近寄りがたい雰囲気はとっくに消え失せ、いつものハルトがそこにいるだけだった。
「ラブラブパワーなんてありませんっ!」
「本当にそうかなぁ?」
むふふ、と笑いながらこちらへ這い寄って来るハルト。ハルトの体温などが間近で感じられて正直居心地は最悪だ。心臓がうるさいほど鳴っているのが分かる。
「じゃあ勝手に補給しまーす。え~い」
『ガチャ』
「「「……」」」
静寂が辺りを満たす。(さっきぶり二回目)
ハイライトの消えた目で弟を見つめるハルト。ご愁傷様である。
「なあ。本当に正直に言って欲しいんだけど。何があった?」
こうしてハルトとハルキの攻防戦(第二ラウンド)が始まるのであった――。
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