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第一章

第一話 朝の公爵家。王子が侵入しないわけがなく……。

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「おっはよおおおおお! 寝顔も可愛かったよ、エリスちゅわんっ!」

 スリスリと頬を擦り付けてくるのはハルト。なんちゃって第一王子も甚だしい男である。
 朝からえらくご満悦のようだが、朝っぱらからこんな起き方したくないというのが本音だ。

「何なんですか、朝からうるさいんですけど」
「はいィィィ! ツン頂きましたあざっす!」

 太陽の様な笑みを浮かべるハルト。朝から元気なヤツだな。

「おっおっおっ? どしたの? 何で不機嫌そうな顔してるの?」
「思い当たる節は御座いませんか?」
「全然。……あっ、もしかしておはようのキスとハグしてないからかな? それとも昨日寝るときに絵本の読み聞かせしてなかったから? あっちゃー、ごめんねマイハニーエリスちゅわん!」
「ぜんっっっぜん! 違いますっ!!」

 アカン、誰かコイツとまともに会話できる人はいないものか。
 私が言葉で必死に何が原因なのか分からせようとするも、どんどん誤解はこじれていく。私が悪いのかなコレ?

「んもぅ、僕が傍にいないだけでこんなに不機嫌になるんだからぁ」
「あの、なぜここで頭を撫でるのですか?」
「惚れてまうやろ?」

 なぜ方言が混ざるのですか、なぜここであなたに惚れなくてはいけないのですか。
 様々な疑問が頭をよぎるも、幸せそうな婚約者の笑顔を見ているとそんなことどうでもいいや、と思えてしまう自分がいる。だから未だにハルトは冷酷王子のままで、私の前では変態のままなんだろうな。
 私はそんな思考を振り払うために、徐々に近づいてくるハルトの頭を向こうに押す。

「おほっ! エリスちゅわんの手の温度が頭に伝わるのおおおおお!」

 こんなことですら悶絶してしまうような王子だなんて誰も思ってないんだろうな。

 ――これは、私とハルトだけの秘密なのだ。

 だが、ハルトも思うところがあるようで何とか改善しようとしているが、中々上手くいっていない。行っていないことに安心する自分が嫌だ。


「えへへへ、僕の喜ぶポイントを的確に突きやがってこのこの~! でも、ツンばかりだと愛想尽かされちゃうよ~?」
「その発言、思いっきりブーメラン刺さっていますが」
「そうかなー?」

 ダメだ今脳内お花畑になってやがる。

「ねえねえ、この体勢幸せだよね?」
「可能ならば暑苦しいので離れて欲しいです」
「またまたぁ」

 だらしない声と共に背後から後ろに抱き着く。いくら好き好きと普段から言われてるとて急に抱き着かれるとビックリするしほんのちょっとだけドキッとするからやめてほしい。

『コンコン』

 そうしていると、専属メイドのリリーが扉を叩く音が聞こえた。正確にはリリーが叩いているのかは定かではないが。

「大変だ! このままだと僕は女子高生の部屋に無断で侵入した変態と思われてしまう!」
「ドンピシャで当たっていますが」

 むしろどこが違うの?
 わたわたとするハルトだったが、すぐ扉を開けられるのがオチというものだ。ハルトが来ない日はリリーが来るまで寝てることが大半だし。
 心配になってハルトの行き先を見ると、冷酷王子モードで窓の外を眺めていた。

「おはようございます、エリス様ああああああああ!?」

 普段はリリーが来る前に窓の外からひっそりと去る事が多いのだが……そりゃあ見つかる。
 そもそもどうやって来ているのかは謎であったが、影武者の無駄遣いをしているらしい。大変だな。

「は、ハルト、様!?」
「俺がここにいてはマズい事でもあるのか」

 いやマズいだろ、と思ったのであろうが噂には尾ひれがつくもので、実際よりもずっと酷い噂が出回っているのだろう。ひたすらコクコクと頷いていた。

「え、エリス様、これは?」
「俺の婚約者に話しかけないでもらえるか」
「私の専属メイドなんですけど」
「エリス様!?」

 ハルトにここまで恐れているという事は、ハルトの素を知らないという事だろう。
 だからリリーは自分を庇ってくれたと感じているのだろうけれど。
 大丈夫、あれただの嫉妬ですから。

「何それ超役得じゃん」
「ハルト様!?」
「俺が何かおかしなことでも言ったというのか、貴様は」
「い、いえいえいえ! 何も!! 何でもございませんっ!!」

 アンタ王子だろ。専属メイドに立候補してどうする。

「とにかく旦那様にご連絡して参りますね」
「そのような面倒な事はせんでよい。あと、エリスは今日王城に訪問させるように。いいな?」
「そ、そんな! エリス様は勉学などに励む予定で!」
「勉学? 俺が教えてやろう」

 圧倒的君主感を醸し出すハルトの眼光は一切の感情も温度も感じさせない、鋭く冷たいものだった。本当に本性は変態なのか、と疑ってしまうほど。
 まあ、それでも押し通していいラインというものがあってだね?

「ハルト様、この後私は王城に向かいます。それでいいですね?」
「分かっているならばよい」
「え、エリス様、そんな勝手に……!」
「「あ?」」
「スミマセン何でもないです」

 無茶を言っている自覚はある。だけど、ちょっとくらい遊んだって良いよね?
 二人で反抗の言葉を唱えた時、少しだけ冷たい眼光が和らいだ気がした。
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