上 下
12 / 14
第一章

第十一話 王子様の反応がかわいい

しおりを挟む
「えっと、王妃決定にはまず王妃様の意見を聞き、それを通過したら国王様や議会に話が行くのですね?」
「はい。とはいえ、議会は上院下院の各院のうち信用の高い二名を選出し行うものですので大した規模ではないのですがね。せいぜいやることとといえば、王妃に相応しい家の出身であるか、といった内容を話すだけですのでディラン様が決めた人となれば否決されることもないかと」
「なるほど……」

 メイドさんが髪を整えてくれているあいだ、私は彼女に王妃決定についての質問を投げかけていた。
 彼女は王妃様の身の回りの世話を中心に仕事をしているメイドで、名はシェリルというらしい。

 こげ茶色の髪と瞳、柔らかい表情が特徴の三十代前半に見える彼女だが、何でもディラン様から私のことを聞き、会ってみたいと思ってくれていたらしく現在に至っている。

 私の問いにも懇切丁寧に答えてくれ、言葉からは確かに気遣いが感じられたので私はシェリルさんを気に入っていた。

「ちなみに、議会に行く前――王妃様や、国王様に反対されることはないのでしょうか?」
「前例はあるのですが、そういった王妃様、国王様は大変気難しいかたで有名でございました。または、失礼ながら王妃候補様が王妃として相応しくないかただったりと。現在の王妃様と国王様はお優しいですから、反対される可能性はほぼありませんよ。それに、ソフィア様は王妃の器に相応しいと存じます。可能性はゼロと言っても過言ではありません」
「そんなに褒めても何も出せませんよ?」

 ディラン様は相当私の話をシェリルさんにしていて、それもかなりの量だったみたく『王妃に相応しい』とかなりの時間王妃様に仕えているメイドから貰ってしまった。

 それでも、どうしてここまで言ってくれるのかは謎であったが。一昨日おとといと昨日でそこまで情報量があるとは思えないし。

 疑問を感じていると、シェリルさんから「できました」と声をかけられる。
 そこでふと鏡を見ると映るのはかつてないほど綺麗な私の姿があった。

 確かに原型は留めているものの、これを私といってもいいものだろうか。いやはや、髪の印象は大事なものである、などと金色の長髪をウェーブさせ、煌びやかな花の髪飾りを付けた私を見てしみじみとそう思っていると。

「では、ディラン様を呼びますね」
「そ、そうですよね! 呼ばなきゃいけませんよねっ!」

 シェリルさんからディラン様を呼ぶことを告げられた。
 確かに、これからディラン様と二人で王妃様に会いに行かねばならないのだ。

 そもそもディラン様に「迎えに来る」と言われたことだし、呼ばなければお話にならない。
 けれど、どうしても心配になってしまう。

 今の私を見て、ディラン様に『かわいい』または『綺麗』と思ってくれるだろうか、ということが。

 ディラン様の好みであろう、今身に纏っているドレス――白く清楚なドレスを見下ろし、今度は青い宝石が印象的な白い花の髪飾り、薄く化粧された自らの顔を見る。

 前の私よりも綺麗になっているはずなのだが、果たしてディラン様に気に入ってもらえるのだろうか。

「ソフィア様、自信を持ってください」
「シェリルさん……」

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、優しさのなかに力強さを感じられる声でシェリルさんが私に言葉を向けた。

「元々、ソフィア様は国内随一の美しさを誇っておりました。今はそれに磨きがかかった状態にございます。ディラン様がお綺麗だと思わないはずがございません」
「そ、そうですかね?」
「はい!」

 シェリルさんのにこやかな笑みとともに、元気よく返事されては否定しようもない。それに、彼女の誉め言葉が一から十まで違うとも思いたくなかった。

 私は少し自信を取り戻し、「では、ディラン様をお呼びしていただけますか?」と言う。
 彼女はそれに嬉しそうな表情を浮かべながら「はい」と答えてくれる。

 シェリルさんが立ち去り、ドキドキしながらディラン様が来るのを待っていると意外にも早くドアが叩かれた。
 私はそれに緊張しつつ、聞こえるかどうかわからないながらも入室の許可を伝える言葉を告げる。

 ゆっくりとドアが開かれるのと同時に、私は完璧な姿を見せようと、指先まで気を配りながら廊下側へ向けて立つ。

 次に私の視界に移ったのは――目を見開いたまま立ち尽くす、ディラン様の姿だった。

「ディラン、様?」

 あまりにも微動だにしないディラン様が心配になって、私はその場で声を掛ける。
 だが、それでも反応がなかったので、近くに寄り再び声を掛けてみた。

「んっ、すまん。ちょっと意識が飛んでいた」
「それって大丈夫なのですか?」

 ことによっては王妃決定を進めるどころではない気がしたので、体調の確認をしておく。
 しかしその私の言葉を受け、ディラン様は恥ずかしそうにしているようだった。俯き加減になってしまったのでパッとは確認できないが、よく見ると頬が赤くなっていることが分かる。

「そういう問題ではなくてな……」

 何やらディラン様がブツブツと弁明のようなことを言っているが、イマイチ何のことを言っているのかが分からない。

 私は後ろに控えていたシェリルさんに助けを求める視線を送ると。

「ソフィア様、ご安心ください。ディラン様はソフィア様のあまりの美しさに意識を失いかけただけですから」
「えっ?」
「シェリル、お前あとで覚えてろよ」

 ディラン様はそこそこ大きな国の王子という立場上、様々な美しい人を見てきたので私なんかがそんなことできるとは思えなかったが……。反応的に正しいと見ていいだろう。

 恨めしくシェリルさんを睨みつけるディラン様に、私はなぜか頭を撫でたくなる衝動に駆られていた。
 反応が王子様というよりも少年のようだったからだろう。母性本能が湧き出ている気がする。

「仕方ないですよ、ディラン様。ソフィア様、お美しいですものね?」
「うるさい黙れ」

 面白い玩具を弄るように、ディラン様へ言葉を投げかけるシェリルさん。
 それに反応するディラン様の言葉は『冷酷無慈悲な王子』という評判に合うものだったが、声色は完全に反抗期の少年だった。やはり、ディラン様も十六歳の少年ということだろうか。

 なんだかさらにディラン様への好意が強くなってきた。

 そんなところに、まだ顔の赤いディラン様から声を掛けられる。

「……ソフィア、世界一綺麗だ」
「でぃ、ディラン様も世界一格好よく存じます」

 ストレートな誉め言葉に、私も一切の装飾もない言葉とはにかみで返した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

処理中です...