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第一章

第6話 お茶

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「うへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「はよ飲んでくれません?」

 恍惚の表情でティーカップを頭上にかかげ気色の悪い笑い声をさきほどからずっとあげている。

「ヤダ! 家宝にする!! うへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「蒸発しますし菌が増殖して大変な事になりますよ」

 すると、カイルは突然目を爛々と輝かせ。

「僕の事心配してくれるんだね!?」
「いえ、私は紅茶の心配をしているんです」

 この人私が悪口言っても愛情表現と捉えられるわよね。
 私が飲んでいたティーカップを机の上の小皿に置いた刹那。

『スッ……』

 カイル様が私の頭の横に右手を差し伸べて来た。

「何ですコレ」
「壁ドン」

 あれ、なんかわけの分からないことを言ってるよこの人?

「壁が無いのですが」

 私が極めて理知的にそう言うも。

「ぼ……俺、お前の事好きだぜ……」

 この変態にはそんなもの効果がなかった。

「何事もなかったかのように告白を始めるカイルさん流石です」
「そ、そう?」

 頬を赤らめモジモジし始めた変態王。
 幸せそうな人生ですね。
 あ、そういえばカイル様に言ってなかったことがあったな。
 悪役令嬢と言う自覚があまりにもない私だけど、回避方法くらいは思いつく。
 何の違和感もなくカイル様から離れ、学園のイベントも遠ざけることのできるこの手段!

「私、隣国のシュナイダー・ノアール国に留学しようと思うのです」
「奇遇だね、僕もそこに留学を検討していたんだけど、ラミから離れたくなくて……。でもラミも来てくれるんだね、嬉しいよ」
「!!??」

 えっえっえっ?
 そんなイベントあったっけ?

『ヒロインは美術が得意』
『我が国は美術で有名』
     ↓
『なら留学する必要はない』

 じゃあ元々カイル様が隣国のシュナイダーに留学を検討していたら?
 ていうかゲームの影響なのかしら。この国は日本語で、何故か隣国はフランス語設定なのよね。
 というかなんでか分からないけど私の知っているヒロインは美術得意じゃないんだけど!?
 そんな現実逃避をしていると。

「シュナイダーに愛の巣をつくりに行こう……」

 ホストか、と間違ってしまうほどの色気に圧倒される私。ホストクラブ行ったことないけど。

「あなた王位継承権1位でしょう」

 それでもなんとか己を持って言い返した。

「2位に譲る!」

 王子こんな駄々っ子でいいの? と国王に問いたくもなったが国王も似たようなものなので普通に許可されるんだろうなぁ。私現実逃避すること多いなぁ、とか思いながら。

「勝手なこと言わないで下さいよ! 私は留学の末はここに住む予定なのですから!」
「そう? じゃあ王位継ぐ」
「……」

 ホントに何でここまで私の事が好きなのかしらこの王子。

「あ、結婚式は隣国で挙げたい? もー、しょうがないなぁ」

 なにを言っているのこのド変態は。

「そもそも結婚するなんて言ってません!」
「もう婚約してるようなものじゃん?」
「書類上はクリーンです、私!」

 そう、私はしつこく王家からも親からも『正式に婚約しろ』ともはや脅しレベルのことをされながらも正式な婚約は全力で阻止したのだ。

「じゃあその書類を俺の名前で汚してやるよ……」
「どうして急に俺様系的な感じになったのですか!?」
「そういうのがタイプなのかなぁって」
「好きになった人がタイプに決まってるでしょう!」

 しまった、余計な事を言ってしまったのかもしれない。

「じゃあ僕の事を好いてくれる確率は……高い!?」
「決して高くは無いと思います」

 最難関キャラの面影はどこへやら、完全にルートに入った後の好き好きストーカーになってしまった。

「結婚してください。それか婚前交しょ」
「この国では貴族が婚前交渉したら責任として婚約することとなってます!」
「知ってる」

 デスヨネー。
 その後も『スカッ、スカッ』と連続で壁無し壁ドンを繰り返すカイル様。
 残念……!
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