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何故だ?
どうしてこうなった。
昨日までの俺の言動を反芻する。だが、わがままなゼーダ姫に献身的に仕えたことや、国のために十人の敵兵を一人で薙ぎ倒したことが思い出されるだけで、自分の非が一向に出てこない。
それなのに、俺は今、城の地下牢に閉じ込められ、処刑を待つ身となっている。
「どう考えたって、おかしいだろ......」
俺はひとり呟く。
これまで俺は、人知れず努力を重ねてきた。訓練も一日も怠ることはなかったし、戦場でも果敢に戦った。死線もいくつもくぐり抜けてきた。
全て国と姫のためにやったことだ。
感謝こそすれ、殺されるいわれなんてない。
姫はなぜあんな嘘をついたんだ?
いくら姫の性格が悪いとはいえ、理由もなく俺を陥れるとは考えにくい。第一、国王を殺した真犯人が野放しになってしまう。
答えがみつからないまま、時間だけが過ぎていった。
「......なぁ」
突然、隣の牢から声が聞こえた。
驚いて見ると、髪はぼさぼさ、髭は伸びっぱなしの中年男が座っていた。元からそうだったというより、俺よりも牢生活が長いせいでこうなったのだろう。
「あんた、ガウェインだろ。『王国の剣』。知らない者はいない有名人が、なんでこんな所に」
「......冤罪だ!俺は何も悪いことはしていない」
俺はあったことを全て男に話す。
男は納得した口ぶりで、ぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。
「そりゃあ、姫様にはめられたんだな」
「はめられた?俺が、ゼーダ姫に?」
男は諦めたような表情で頷いた。
「俺は姫の護衛を長いことしていてな。彼女の愚痴をずっと聞かされてきた」
「愚痴、というと」
「父上が私を自由にさせてくれない、アストラ帝国の王子から求婚されているが、ガウェインが邪魔だ......。そんなところだ」
俺はショックを受けた。
アストラ帝国といえば、このドラケン王国と友好関係にある帝国だ。友好関係といっても、こちらより規模はずっと大きく、今のドラケン王国はアストラ帝国に養ってもらっている状態だ。
そんな国の王子の求婚を受ければ、姫のわがままはほとんどすべて叶えられるだろう。少なくとも、一介の騎士と結婚するよりははるかに良い。
「それで、俺を?」
「それも理由も一つだろうが、王様が殺されたんだろ?だとしたら、本命はそっちだ」
「......まさか、姫様が王を?」
あり得ない、とは言い切れない。
計画的な犯行ではないにしろ、時として人間は簡単に死ぬ。姫様の突発的な行動が、王を死に至らしめた可能性は充分にある。
だが、それもまた楽観的な観測だということを、俺は男の次の言葉で知った。
「ああ。だから俺は、三ヶ月前にこの牢に入れられた。ありもしない罪でな」
「......あんたも?」
「要は口封じだ。俺は姫様の愚痴を聞いてたからな。王を殺した後に、べらべら喋られたんじゃ困るんだろ」
何ということだ。
だとしたら、姫は自分の父親の殺害を、三ヶ月も前から計画していたことになる。
その頃から、俺に罪を着せる事も決めていた。だとしたら、あの夜ベッドの中で、姫はどんな思いだったのだろう。
「このまま死ぬ訳にはいかない」
「なら、真実を告発しろ。俺なんぞは人知れずこのまま牢獄で暮らすだけだが、あんたは違う。国王殺しとなれば、必ず断頭台に立たされ、広場に処刑の様子が晒される。そこが、最後のチャンスだ」
俺の告発の結果によって、男の命運も変わる。
だというのに、男はどこか他人事のようだった。
どうしてこうなった。
昨日までの俺の言動を反芻する。だが、わがままなゼーダ姫に献身的に仕えたことや、国のために十人の敵兵を一人で薙ぎ倒したことが思い出されるだけで、自分の非が一向に出てこない。
それなのに、俺は今、城の地下牢に閉じ込められ、処刑を待つ身となっている。
「どう考えたって、おかしいだろ......」
俺はひとり呟く。
これまで俺は、人知れず努力を重ねてきた。訓練も一日も怠ることはなかったし、戦場でも果敢に戦った。死線もいくつもくぐり抜けてきた。
全て国と姫のためにやったことだ。
感謝こそすれ、殺されるいわれなんてない。
姫はなぜあんな嘘をついたんだ?
いくら姫の性格が悪いとはいえ、理由もなく俺を陥れるとは考えにくい。第一、国王を殺した真犯人が野放しになってしまう。
答えがみつからないまま、時間だけが過ぎていった。
「......なぁ」
突然、隣の牢から声が聞こえた。
驚いて見ると、髪はぼさぼさ、髭は伸びっぱなしの中年男が座っていた。元からそうだったというより、俺よりも牢生活が長いせいでこうなったのだろう。
「あんた、ガウェインだろ。『王国の剣』。知らない者はいない有名人が、なんでこんな所に」
「......冤罪だ!俺は何も悪いことはしていない」
俺はあったことを全て男に話す。
男は納得した口ぶりで、ぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。
「そりゃあ、姫様にはめられたんだな」
「はめられた?俺が、ゼーダ姫に?」
男は諦めたような表情で頷いた。
「俺は姫の護衛を長いことしていてな。彼女の愚痴をずっと聞かされてきた」
「愚痴、というと」
「父上が私を自由にさせてくれない、アストラ帝国の王子から求婚されているが、ガウェインが邪魔だ......。そんなところだ」
俺はショックを受けた。
アストラ帝国といえば、このドラケン王国と友好関係にある帝国だ。友好関係といっても、こちらより規模はずっと大きく、今のドラケン王国はアストラ帝国に養ってもらっている状態だ。
そんな国の王子の求婚を受ければ、姫のわがままはほとんどすべて叶えられるだろう。少なくとも、一介の騎士と結婚するよりははるかに良い。
「それで、俺を?」
「それも理由も一つだろうが、王様が殺されたんだろ?だとしたら、本命はそっちだ」
「......まさか、姫様が王を?」
あり得ない、とは言い切れない。
計画的な犯行ではないにしろ、時として人間は簡単に死ぬ。姫様の突発的な行動が、王を死に至らしめた可能性は充分にある。
だが、それもまた楽観的な観測だということを、俺は男の次の言葉で知った。
「ああ。だから俺は、三ヶ月前にこの牢に入れられた。ありもしない罪でな」
「......あんたも?」
「要は口封じだ。俺は姫様の愚痴を聞いてたからな。王を殺した後に、べらべら喋られたんじゃ困るんだろ」
何ということだ。
だとしたら、姫は自分の父親の殺害を、三ヶ月も前から計画していたことになる。
その頃から、俺に罪を着せる事も決めていた。だとしたら、あの夜ベッドの中で、姫はどんな思いだったのだろう。
「このまま死ぬ訳にはいかない」
「なら、真実を告発しろ。俺なんぞは人知れずこのまま牢獄で暮らすだけだが、あんたは違う。国王殺しとなれば、必ず断頭台に立たされ、広場に処刑の様子が晒される。そこが、最後のチャンスだ」
俺の告発の結果によって、男の命運も変わる。
だというのに、男はどこか他人事のようだった。
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