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妹に婚約者を取られ婚約破棄されましたが、両親に愛されているので大丈夫です
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「あっ......」
思わず、声が出ました。
ベッドの上、鬼でも見たかのような表情で私の顔を見ているのは、アンドレイ公爵。私の、愛してやまない婚約者です。その横には、とろんとした顔で私の妹が寝そべっていました。
二人の裸体を隠すものは、何もありません。乱れたシーツに付着した体液を見るまでもなく、私が仕事で王都に出かけている間に何があったのかは一目瞭然でした。
「......ばれたか。ならば、仕方ないな」
守るように妹を抱き寄せながら、アンドレイはひとつ大きなため息をつきました。
「ミレーナ。俺と、別れてくれないか」
彼の声は、先ほどと打って変わって、とても冷静でした。そのおかげで、私は彼の発言の意味を、正確に理解することができました。
「......どうしてですか。私に、何か落ち度が」
「いや。俺は最初から、あんたのことなんか好きでも何でもなかったんだ。親同士の都合で、勝手に決められて迷惑してた」
私は、そんな風には思わなかった。
かっこよくて、優しくて、素敵な方と一緒になれるって、とてもうれしかったのに。
「そんな時、シェリーがどこかの貴族から婚約を破棄されて戻ってきた。俺は一目見た瞬間、彼女に惚れてしまったんだ」
婚約を破棄された?妹は、シェリーは、そんなかわいそうな女なんかじゃありません。
ほかの男と関係を持ったのがばれて、逃げ帰ってきただけです。
シェリーはいつもそうでした。自分の立場や、良心や、常識なんてものは一切考えず、目に付いたものは全て手に入れたくて仕方がない性分なのです。
そのくせ人を惹きつける魔力を持っているものですから、小さな頃から私は、食後のデザートから親の愛情まで、すべて彼女に奪われてきました。
もう、うんざりです。
「あんたの親としても、自分の娘と結婚してくれるなら、姉でも妹でもどっちでもいいだろ。......妙なこと考えるなよ。新聞社に売ったりしても、恥をかくのはあんたとあんたの親父だぜ」
酷い捨て台詞を吐きながら、アンドレイはスーツに腕を通し、部屋を出て行きました。後に残されたシェリーは、状況が飲み込めない様子で、のんきにお姉ちゃんおはよう、なんて口にしています。
私は、今回ばかりは、私の幸せを木っ端微塵にしてくれたシェリーを本気で絞め殺したくなりました。けれどそれをぐっとこらえて、彼女に服を着せ、部屋から追い出すと、自分も忌々しい臭いに包まれた寝室を後にします。
彼女を殺したところで、私の幸せはもう、戻ってはこないのです。アンドレイの言葉は、きっと真実でしょう。私よりシェリーの方を愛している両親は、私がシェリーを殺したと告白したら、かばってくれるでしょうか。
結局のところ私は、これを、この有様を、自分の運命として受け入れるしかないのです。
ああ、考えたら泣けてきました。大の大人が、メイドも使用人もいる廊下で泣き喚くだなんて。でも、寝室には戻れません。私に、行くあてなんてどこにもないのです。
その夜、結局体調を崩して、それでも自分のベッドで寝ることをかたくなに拒んで、客間で寝込んでいる私の元に、お父様がやって来ました。
お父様は私の枕元に座ると、深く頭を下げられました。それから、ぽつりぽつりと、話し始めたのです。
あの後、私の様子を不審に感じたお父様は、私の寝室に入り、何があったのかを察知しました。すぐにシェリーを問いただし事情を把握すると、その足でアンドレイ公の屋敷に乗り込み、怒鳴りつけてきたというのです。
アンドレイの両親は平身低頭で、会話の中でアンドレイは何度も頭を下げさせられ、頬をはたかれ、婚約は正式に無しになりました。
もうひとつ、びっくりしたことがあります。なんと、シェリーがお父様に家を追い出されたのです。
お父様は、どれだけ私のことを愛しているかを語って聞かせてくれました。
できの悪いシェリーをどうにかしようと躍起になって、安心して見ていられる私にかまう時間がなかなか取れなかったけれど、お母様に似て思慮深く、お父様に似て我慢強い私のことを、両親はちゃんと愛してくれていたのです。
今回のことで、お父様は娘への接し方を改め、シェリーのことは一度世間の荒波に放り出すことにしたようです。
これだけたくさんの、大それた事を一晩も経たないうちに決断し、実行してしまうのですから、お父様はやはりすごいお方ですね。
そして、私は今、お父様と貴族の皆様が集まるパーティーに参加しています。
お父様は、ここに来ている男性の中から、好きな方を選んでいいと言ってくれました。私、世の中にこんなにも、素敵な殿方がたくさんいるだなんて知りませんでした!
つくづく、あの男と結婚しなくて良かったと思いました。
ああそうそう、あの男は結局、性格がきつすぎて三度も婚約が駄目になった女性の下で、召使い同然の扱いを受けているそうですよ。
シェリーは相変わらず、どこかで男を捕まえて暮らしているようです。でもあの性格では、どこまで長続きするやら。今度は失敗しても、逃げ場なんてありません。
でもそんなことはどうでもいいんです。なぜって、私は忙しいですから。
今度は、顔や性格だけじゃなくて、浮気しないかどうか慎重に見極めないといけませんからね。
fin.
思わず、声が出ました。
ベッドの上、鬼でも見たかのような表情で私の顔を見ているのは、アンドレイ公爵。私の、愛してやまない婚約者です。その横には、とろんとした顔で私の妹が寝そべっていました。
二人の裸体を隠すものは、何もありません。乱れたシーツに付着した体液を見るまでもなく、私が仕事で王都に出かけている間に何があったのかは一目瞭然でした。
「......ばれたか。ならば、仕方ないな」
守るように妹を抱き寄せながら、アンドレイはひとつ大きなため息をつきました。
「ミレーナ。俺と、別れてくれないか」
彼の声は、先ほどと打って変わって、とても冷静でした。そのおかげで、私は彼の発言の意味を、正確に理解することができました。
「......どうしてですか。私に、何か落ち度が」
「いや。俺は最初から、あんたのことなんか好きでも何でもなかったんだ。親同士の都合で、勝手に決められて迷惑してた」
私は、そんな風には思わなかった。
かっこよくて、優しくて、素敵な方と一緒になれるって、とてもうれしかったのに。
「そんな時、シェリーがどこかの貴族から婚約を破棄されて戻ってきた。俺は一目見た瞬間、彼女に惚れてしまったんだ」
婚約を破棄された?妹は、シェリーは、そんなかわいそうな女なんかじゃありません。
ほかの男と関係を持ったのがばれて、逃げ帰ってきただけです。
シェリーはいつもそうでした。自分の立場や、良心や、常識なんてものは一切考えず、目に付いたものは全て手に入れたくて仕方がない性分なのです。
そのくせ人を惹きつける魔力を持っているものですから、小さな頃から私は、食後のデザートから親の愛情まで、すべて彼女に奪われてきました。
もう、うんざりです。
「あんたの親としても、自分の娘と結婚してくれるなら、姉でも妹でもどっちでもいいだろ。......妙なこと考えるなよ。新聞社に売ったりしても、恥をかくのはあんたとあんたの親父だぜ」
酷い捨て台詞を吐きながら、アンドレイはスーツに腕を通し、部屋を出て行きました。後に残されたシェリーは、状況が飲み込めない様子で、のんきにお姉ちゃんおはよう、なんて口にしています。
私は、今回ばかりは、私の幸せを木っ端微塵にしてくれたシェリーを本気で絞め殺したくなりました。けれどそれをぐっとこらえて、彼女に服を着せ、部屋から追い出すと、自分も忌々しい臭いに包まれた寝室を後にします。
彼女を殺したところで、私の幸せはもう、戻ってはこないのです。アンドレイの言葉は、きっと真実でしょう。私よりシェリーの方を愛している両親は、私がシェリーを殺したと告白したら、かばってくれるでしょうか。
結局のところ私は、これを、この有様を、自分の運命として受け入れるしかないのです。
ああ、考えたら泣けてきました。大の大人が、メイドも使用人もいる廊下で泣き喚くだなんて。でも、寝室には戻れません。私に、行くあてなんてどこにもないのです。
その夜、結局体調を崩して、それでも自分のベッドで寝ることをかたくなに拒んで、客間で寝込んでいる私の元に、お父様がやって来ました。
お父様は私の枕元に座ると、深く頭を下げられました。それから、ぽつりぽつりと、話し始めたのです。
あの後、私の様子を不審に感じたお父様は、私の寝室に入り、何があったのかを察知しました。すぐにシェリーを問いただし事情を把握すると、その足でアンドレイ公の屋敷に乗り込み、怒鳴りつけてきたというのです。
アンドレイの両親は平身低頭で、会話の中でアンドレイは何度も頭を下げさせられ、頬をはたかれ、婚約は正式に無しになりました。
もうひとつ、びっくりしたことがあります。なんと、シェリーがお父様に家を追い出されたのです。
お父様は、どれだけ私のことを愛しているかを語って聞かせてくれました。
できの悪いシェリーをどうにかしようと躍起になって、安心して見ていられる私にかまう時間がなかなか取れなかったけれど、お母様に似て思慮深く、お父様に似て我慢強い私のことを、両親はちゃんと愛してくれていたのです。
今回のことで、お父様は娘への接し方を改め、シェリーのことは一度世間の荒波に放り出すことにしたようです。
これだけたくさんの、大それた事を一晩も経たないうちに決断し、実行してしまうのですから、お父様はやはりすごいお方ですね。
そして、私は今、お父様と貴族の皆様が集まるパーティーに参加しています。
お父様は、ここに来ている男性の中から、好きな方を選んでいいと言ってくれました。私、世の中にこんなにも、素敵な殿方がたくさんいるだなんて知りませんでした!
つくづく、あの男と結婚しなくて良かったと思いました。
ああそうそう、あの男は結局、性格がきつすぎて三度も婚約が駄目になった女性の下で、召使い同然の扱いを受けているそうですよ。
シェリーは相変わらず、どこかで男を捕まえて暮らしているようです。でもあの性格では、どこまで長続きするやら。今度は失敗しても、逃げ場なんてありません。
でもそんなことはどうでもいいんです。なぜって、私は忙しいですから。
今度は、顔や性格だけじゃなくて、浮気しないかどうか慎重に見極めないといけませんからね。
fin.
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