独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう

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第十一章 独身おじさんの平和な日々

サンドローネと休日

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 さて、今日は休日だ。
 俺は屋敷で新聞を読み、煙草を吸いながらコーヒーを飲む。
 太腿の上では大福が寝そべり、たまに撫でるとゴロゴロ喉を鳴らす……猫はいいなあ。
 新聞を置き、俺は大きく欠伸をした。

「さ~て、今日は何すっかなあ」

 トレセーナのところでオムライスの作り方を教えるのもいいし、飲み屋街で新しい居酒屋を開拓するのもいい。運動するために庭で木人椿を叩くのもいいな。ああ、バイクで王都の外周ツーリングするのもいい。アーマーの新武器開発とかもいいなあ。
 と、悩んでいると……インターホンが鳴った。
 玄関を開けると、そこにいたのはサンドローネだ。

「おう、朝から何だ?」
「あなた、今日は休日?」
「ああ。休みだけど」
「そう。なら、私に付き合いなさい」
「……え」

 いきなりすぎる。
 やや警戒すると、サンドローネが言う。

「別に、厄介ごとじゃないわ。ユストゥスに商会の一部を任せられるようになってから、私にも休日が増えたの……で、今日は仕事休みなのよ」
「へー」
「リヒターも休みで、朝からどこかに出掛けちゃったし……正直、暇なの。というわけで付き合いなさい」
「……何するんだよ」
「特に決めていないわ」

 お嬢様らしいなあ……まあ、たまにはいいか。
 
「よし。じゃあ、今日は俺に付き合え。庶民のおっさんの休日、満喫させてやる」
「……」
「な、なんだよその顔」
「言っておくけど、いかがわしいお店とかに行くなら殴るからね」
「お前、俺を何だと思ってんだよ!!」

 というわけで、今日はサンドローネと過ごすことにした。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、サンドローネと二人で町を歩いていた。

「で、何するの」
「そーだな……まずは冒険者ギルドだ」
「は? なんで?」
「いいから行くぞ」

 俺たちは冒険者ギルドへ。
 ギルド内は相変わらず人がいない。まあそうだ、賑わうのは朝で、依頼を受けたら冒険者たちはみんな出かけてしまう。
 俺は受付のヘクセンの元へ。

「おうヘクセン」
「ようゲントク。ん? なんだ、今日はデートか?」
「ははは、そう見えるか? それより、いつもの素材、用意しておいてくれ」
「おう。グロリアに伝えておく。それと、今夜どうだ?」
「いいね。ああ、こいつも一緒に連れて行くから」
「わかった。ホランドとグロリアには俺が伝えておく」

 ヘクセンと別れ、再び町を歩きだすと、サンドローネが言う。

「で、冒険者ギルドの用事って何だったの?」
「魔道具用の素材注文だよ。いつもまとめて、使えそうな素材を注文してるんだが、昨日やるの忘れててな……ついでに、今夜飲みに行く誘いをしただけだ」
「ふーん……仕事じゃない」
「いいんだよ。さーて、次はアズマの店に行くぞ」
「……アズマ?」
「いいから行くぞ」

 歩くこと三十分、サスケに教えられたアズマの店へ到着した。
 サンドローネはずっと歩きだったのに不満そうだったが、到着した店を見て驚く。

「へえ、ここって……」
「アズマの陶器を扱ってる店だ。すげぇだろ?」

 エーデルシュタイン王国の観光区画にある土産物屋。趣のある木造建築で、入口の引き戸は全開になっており暖簾が下がっている。
 店に入ると、いろいろな陶器が並んでいた。

「あなた、こんなオシャレなお店で何を買うの?」
「雑酒用の徳利とかお猪口、ずっと買おうと思ってたんだよな」
「ふぅん……いいわね」

 店内は、いろいろな焼き物が置いてあった。
 箸置き、花瓶、皿に湯呑、マグカップもあるし動物を模した置物もあった……すげえ、ゴブリンの置物とか陶器で初めて見たぞ。
 さっそく俺は目的のモノを探す。

「徳利、いいデザインのあればいいな~と……」

 サンドローネは、動物の置物に夢中になっている。まあ放っておいていいか。
 俺は雑酒用の徳利を三つ、それぞれ柄と大きさの違うものをチョイス。徳利に合わせたお猪口も三つ選ぶ。
 するとサンドローネ、猫の置物を手にしていた。

「なんだ、買うのか?」
「ええ。部屋に飾るわ……こういう調度品も面白いわね」
「お前、やっぱり猫好きなんだな。エディーがいるのに」
「うるさいわね」

 ちなみに、オータムパディードッグのエディフィスことエディー。今日はトリミングサロンに行ってるそうだ。もふもふのチャウチャウみたいな愛らしい犬なんだよな……また触りたいぜ。
 焼き物の会計を済ませ店を出た。
 ちなみに……俺が奢るようなことはない。別に恋人とかじゃないし、そういう気の使い方はサンドローネも嫌がるしな。

「ねえ、お腹減ったわ」
「じゃあ昼飯だな……そうだ、せっかくだしお前の意見も聞くか」
「何?」

 俺たちが向かったのは『オダ屋』だ。
 店に行く前に俺の家に寄って調味料を取り、オダ屋へ。
 お昼前なので客は少ない。トレセーナが厨房で野菜をカットしていた。
 俺たちを見て微笑んでくれる。

「いらっしゃい、ゲントクにお嬢。お昼食べに来たの?」
「ああ、それもあるけど……少し厨房借りていいか?」
「その言い方、新メニュー?」
「それもある。まあ見ててくれ」

 サンドローネにカウンター席に座ってもらい、俺はさっそく調理開始。
 作ったばかりのトマトピューレに近いトマトケチャップを出すと、トレセーナが興味津々になる。

「なにこれ? 匂いからして……マトマの実?」
「マトマって言うのか……ああそうだ。そいつで作ったトマト……マトマケチャップだ」
「どうやって作るの?」
「まあ待て。いいか、ザツマイに痛めたオークベーコン、マトマケチャップを合わせて混ぜる。そして卵を二個割って……」

 俺はオムレツを作る。トレセーナが「へえ」と面白そうに見ていた。
 サンドローネも驚いたように俺の手つきを見ている。ふふふ、オムレツの職人芸をしかと見よ!!
 ケチャップライスの形を整え、オムレツを乗せ、包丁で割ってケチャップライスを包み込む。
 そして、最後に上からケチャップをかけて完成!!

「オムライスだ。さ、食ってくれ」

 ちなみに、ちゃんと三人前作ったぞ。
 サンドローネ、トレセーナが食べ始めると……おお、トレセーナのヒョウ耳がピクピク動く。尻尾もごきげんに揺れているぞ。
 サンドローネは眉をピクリと動かし、手をせわしなく動かしていた。

「おいしいね、これ」
「……確かに。ゲントク、レシピがあるなら店舗で共有するわ」
「まてまて。まずはオダ屋でやらせてくれ。トレセーナ、マトマケチャップの作り方とオムレツの作り方教えるよ」
「ケチャップだけでいいよ。オムレツだっけ、それはもう覚えたから」

 トレセーナはフライパンを手に取ると、一度見ただけのオムレツを完璧に作りました……何故だろう、すげえ悔しいんだが!!
 俺はケチャップのレシピを教えると、トレセーナが「改良できるかもね」とレシピを見てブツブツ言いだす。そしてお昼時になり、お客さんが大勢入って来た。
 俺たちは退散……あとはトレセーナに任せるか。

 ◇◇◇◇◇◇

 この日は夕方まで、トレセーナとサンドローネの三人で、オムライスについて話をした。
 マトマケチャップの改良や、ザツマイだけじゃなくアズマの食料品店で仕入れた麺に絡めてスパゲッティみたいにしたり、麺の流れでラーメンスープの話をしたり、小麦があるなら俺が麺打ちをするって話にもなった。
 あっという間に夜になり、俺とサンドローネ、ついでにトレセーナも飲み屋へ。
 向かったのは、いつも俺が行く居酒屋だ。
 そこには、ヘクセンにホランド、グロリア、ビンカちゃんがいた。

「おうゲントク。美人二人も連れていい御身分じゃねぇか」
「うっせ。お前ら初めてだよな、紹介するぜ。サンドローネにトレセーナだ」
「初めまして、サンドローネよ」
「トレセーナ。オダ屋って飲食店で店長やってる」

 それぞれ自己紹介し、さっそく居酒屋へ。
 いつもの感じで飲み始めると、サンドローネが言う。

「あなたの交友関係、けっこう広いのね。いつもイェランたちばかりと飲んでると思ったわ」
「まあ、あいつらともよく飲むし、こいつらともよく飲むな。他にも一人でバーに入ったり、いい感じのツマミを思いついたら家で作ってそのまま晩酌ってパターンもあるぞ」

 俺は焼き鳥を齧る……うめえ。
 サンドローネはウイスキーを飲みながら、小さいマトマの実……プチマトマを食べる。

「今日は、あなたの休日を知ることができたわ。なんというか……面白かった」
「だろ? やりたいことやって、稼いだ金は自分のためだけに使う。これが俺の独身ライフさ。お前も似たようなモンだろ?」
「私の場合は少し違うわね。そうね……今度の休みは私に付き合いなさい。私の休日の過ごし方を教えてあげるわ」
「……なんか堅苦しそうだからパス」

 こうして、俺はサンドローネと休日を過ごしたのだった。
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