独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう

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第十章 アズマ、東方の国

これもう日本だろ

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 さて、旅が始まって十日……予定では二週間の馬車旅だったが、ヒコロクのおかげで十日で到着。
 アズマの領内に入ると、景色が一気に変わる。
 まず、小さな川がいくつも流れ、田舎道みたいな細い道になり、松や杉みたいな木々が目立つようになった。俺からすれば見慣れた光景だが、休憩馬車の二階で景色を眺めていたロッソたちは違うようだ。

「見たことない植物ね。なんかトゲトゲしてない?」
「松、杉だな……ああ、異世界名があるんだよな。そっちの名前はわからん」
「……おじさん、アズマに詳しい?」
「いや全然。そうだ、こんな時こそ案内人。おーい、サスケいるか?」

 適当に呼んでみると、階段を上ってサスケがやってきた。

「はいよ。気になることでもあったか?」
「あの木、なんていうんだ?」

 サスケは俺の隣へ。
 アオがジーっとサスケを見ているが、サスケは特に気にせず言う。

「あれはアズマの固有樹木、ウツマとグシの木だな。どっちも住居や薪とかで使われる、アズマじゃありふれた木材だぜ。もうちょっと進むと、キノッヒっていう高級な木材もあるぞ」
「ほほう、面白いな」
「…………じー」
「なんだ? まだわからないことあるなら、なんでも聞いてくれ」
「……あなた、只者じゃないね」
「ははは、そう見えるか?」

 サスケ、アオを微妙に避けているような感じだった。
 でも今は俺が呼んだおかげで隣にいる。アオ、サスケは見つめ合い……なんだなんだ、いい雰囲気になってそのまま……なんてこともあり得るのか!?
 って、俺はアホか。

「オッサン。あと半日くらい進むと、アズマ城下町が見えてくるぞ。今日中には入国できると思うぜ」
「おお、そりゃいいな。今日は宿に泊まるんだよな? じゃあ明日、不動産ギルドに案内頼むぞ」
「おう、任せておきな」

 アズマでは基本、自由行動だ。
 サンドローネ、イェラン、リヒターは休暇を満喫しつつ、アズマにアレキサンドライト商会の支店を出せないか考えるようだ。休暇なのか仕事なのかわかんねぇな。
 ロッソたちは、観光メインだが最近戦闘していないので、冒険者ギルドで討伐依頼を受けるとも言っていた。
 シュバンとマイルズさんは、アズマの食文化、調味料や食材、調理法などを仕入れるため、飲食ギルドに向かうらしい。
 サスケは、それぞれ行動する人たちに付いて案内する役目だそうだ。
 さて、残ったのはスノウさん、ユキちゃん。この二人の予定は聞いていない。
 俺は、一階の本棚近くにいたスノウさんに聞いてみた。

「スノウさんは、アズマで何かやりたいこと、ありますか?」
「そうですね……観光もですけど、ユキにいろいろ見せてあげたいですね。ロッソさんたちのお世話はしなくていいとのことですので」

 と、いいこと思いついた。
 俺は食堂車で紅茶を飲んでいるサンドローネの元へ。そこには、イェランとリヒターもいる。

「おいサンドローネ、ちょっといいか?」
「何?」
「実は、かくかくしかじか……」
「は?」
「いや冗談。実は……」

 俺は、スノウさんの予定を話すと、サンドローネは俺が言いたいことを察したようだ。
 そして、キッチンでお湯を沸かしていたリヒターを呼ぶ。

「なんでしょうか、お嬢」
「リヒター、明日、スノウさんの護衛をなさい」
「……え?」
「スノウさん、ユキの二人だけで観光も悪くないけど……何かあった場合のことを考えて、あなたが護衛に付きなさい」
「いや、しかし……お嬢の護衛は」
「忘れた? こう見えて私、強いのよ。それにイェランもいるし」
「んが……んん? お姉様、呼んだ?」

 机に突っ伏して寝ていたイェランが起きた。
 俺はリヒターと肩を組む。

「そういうわけだ。スノウさん、ユキちゃんと仲を深めてこいよ。サスケに観光名所をいろいろ聞いておいたりするといいさ」
「げ、ゲントクさん……」
「ちゃーんと誘えよ。ほれ、行ってこい」

 リヒターの背中を押し、俺とサンドローネはニヤニヤしながらリヒターを見送った。
 スノウさん、リヒター……うまくいくといいなーなんて。

 ◇◇◇◇◇◇

 アズマの『正門』が見えた時、俺は思わず言う。

「いや正門ってか鳥居じゃねぇか……」

 超・デカい鳥居だった。
 十メートル以上あるデカい鳥居だ。ちなみに現在、全員が休憩馬車の二階に集まり、その鳥居を眺めている。

「大きいですわね……」
「なにあれ? 正門? ってか門……じゃない?」
「あれは『鳥居』って言う、アズマの入口みたいなモンだ。見ての通り、門じゃないから普通に素通りできる」

 サスケの補足。
 するとロッソが言う。

「ね、城壁みたいなのってないの?」

 そう、城壁がない。
 これまで見てきた国には城壁があり、魔獣などの侵入から守っていた……が、アズマにはそれがない。
 と、今気づいた。周り一面が『田園地帯』だった。すげえ、全部田んぼじゃん!!

「エーデルシュタイン王国みたいな立派な城壁はないよ。四方は『ザツマイ地帯』っていう、アズマ人の主食であるザツマイを栽培している畑になってるんだ。遮るものがないから四方がよく見えるし、少し進めば簡易的な壁はある。魔獣が来てもすぐわかるし、必要ないんだ」
「……でも、魔獣が来たら大変」
「大丈夫。アズマの『武士』たちがいれば、魔獣なんて問題ない。そうだな……キミたちの基準で表現すれば、アズマの武士、兵士は全員、A級以上の冒険者だと思えばいいよ」
「え、そうなの?」
「うん。下級武士ですら、単独でBレートの魔獣を狩れるからね」

 すっげえ、武士って異世界でも強い……ってか、普通に『武士』なのな。
 ロッソが少しウズウズしている。

「ブシかあ……強いのなら見てみたいかも」
「……武器屋、アズマの武器とか見てみたい」
「わたくしは服が見てみたいですわ。アズマの織物はエーデルシュタイン王国では手に入らない美品とのことですわ」
「私も興味あるわね~、ブランシュ、一緒に買い物しない?」

 女子四人はキャッキャしていた。
 俺はそれを聞きつつ、田んぼに目が釘付けだ。

「オッサン、ザツマイが好きなんだっけ? 栽培方法にも興味ありか?」
「おう。稲作だよな? 爺ちゃんが田舎に土地を買って自分でやったの見たことあるけど……コンバインとかはさすがにないか。コンバインの修理したことあるし、構造もまあ……なんとなくいけるか? 植えと刈り取りができれば……考えてみるのも悪くないかも」
「えと、何言ってるかわからんけど……とにかく、ザツマイならどこでも食えるぜ」

 魔導コンバイン……ちょっと考えてみるのも悪くない。
 脳内メモにコンバインと書いておいた。

「普通の畑もあるんだねー」

 イェランが言う。
 田んぼ以外にも、普通の畑があった……が、規模がすげえ。
 というか、田畑の規模があり得ねぇ。東京ドーム何個分の田畑だよ。

「国民の四割が農民だからな。田畑が多いのは当然さ」
「へえ……ん?」

 と、アズマに近づくにつれ、見えてきた。
 大鳥居のデカさ……すっげえ、見上げないとその全貌が見えない。
 道の横幅も広くなり、多くの馬車、農民、牛や馬を連れた人たちが通って行く。当然だが、連結馬車はとんでもなく目立っていた。
 が、俺は町の奥にある建物に釘付けだった。

「し、城……和風の城じゃねぇか!!」
「わふう? ああ、あの城か。アズマを統治している『殿様』の住む『アズマ城』だ。えーと、王様、王城って意味だな」
「わ~、見たことない大きさっ!!」

 ロッソが窓から身を乗り出し喜んでいる。
 俺としてはなんか……微妙な感覚。だって俺の知る『戦国時代のお城』そのまんまなんだよな……なんとなくだが、やっぱり俺と同じ日本人が関わっている気がした。

「にゃああ」
「ふふ、楽しみだね、ユキ」
「にゃうう。おいしいものたべたいー」
「そうね。いっぱい食べて、楽しもうね」
「にゃあ」

 まあ、とりあえず……今はアズマを楽しむとしますかね。
 俺たちは大鳥居をくぐり抜け、いよいよ城下町へ入るのだった。
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