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第九章 玄徳、第二のロマン

スタンアーム、ヒートブレード(自分用)

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 ロッソたちが出て行ってから数十分後、ヴェルデが来た。

「あれ? ロッソたちは?」
「……とんでもないことになったぞ」

 俺は事情を説明すると、ヴェルデは「はあ?」と愕然。
 そして、頭を押さえ考え込み、首を振る。

「はぁ~……最近はそうでもないと思ったけど、やっぱり意識してるのね」
「おいおい、よくわからんけど、『討伐不可能』の魔獣ってまずいんじゃないのか?」
「そりゃね。私たち四人でもギリ勝てるか勝てないか……みたいな魔獣なのよ。でも、あの六人が揃えばもしかしたら……」
「お前は?」
「なんか仲間外れっぽくてムカつくけどさ!!」

 ヴェルデはキーキー怒っていた。
 ちなみに遅れた理由、討伐魔獣の査定が長引くとのことで、一人残りじゃんけんで負けたそうだ。異世界にもジャンケンあるんだな……ちょっと驚いた。
 ヴェルデはソファに座る。

「三対三。私も参加するって言ってもダメって言われそうだし、今回はいいわ。ちょっとムカつくけどね……」
「じゃあお前はお休みか」
「ええ。せっかくだし、シュバンとマイルズの二人を連れて、ショッピングでもしようかしら。それと、ユキたちも連れて町で遊ぶのもいいわね」
「ははは。まあ、楽しむといいさ」
「ゲントクは?」
「俺は仕事。あと、趣味かな」
「……趣味?」

 まさか、『俺専用自動着脱式アーマー作るよ』なんて言いにくい……なんか俺、この世界に来てから若返ったような気がするぜ。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 俺は作業場で、アーマーに取り付ける専用武器を開発していた。

「武器は作らん、なーんて偉そうなこと言ったけど……自衛用の、俺だけが使う武器ならいいかな~と」

 異世界にも法はある。でも、武器を持つのを禁止する法律はない。
 武器を持つのはいい。でも、それを使って危害を加えることは禁止されている。自衛のために武器を持つことはむしろ、推奨されている。
 リヒターとか、あのコートの内側に投げナイフ何本も隠しているし、超切れ味のよさそうなサバイバルナイフを腰に差しているしな。
 ちなみにリヒター、ロッソも認めるナイフ格闘術の達人らしい。

「俺の場合は……やっぱり近接、中距離用の武器かな」

 とりあえず、雷の力を利用した武器を作る。
 まず、実験を繰り返し、ラバーコブラの表皮は電気を通さない……ゴムっぽいしな。
 それで手袋を作り、十つ星の魔石に『放電』と彫り、仮初の装甲版で覆う。
 手袋をはめ、空き地に木の枝を刺し、それに向かって手をかざす。

「さて、どうなるか……発射」

 手のひらに埋め込んだ魔石から、拡散された電気が放出された。

「うぉぉぉ!?」

 珊瑚みたいに拡散した放電だ。
 メチャクチャビビった。木の枝に電気が直撃し、シュボッと一瞬で燃え尽きた。
 これは危険すぎる。

「『放電』だけじゃ危険か。そうだ。『収束』って文字を合わせてみるか」

 これまでの経験上、一つの魔石に彫れる魔導文字は四文字。これを超えると機能しない。
 俺は魔石に『収束放電』と彫り、再び空き地で木の枝に手のひらを向ける。
 魔力を込め、狙いを定め……。

「うおっ!!」

 収束されたビームが発射され、木の枝を貫通した。
 だいたい、十メートルくらいの射程だ。タメも少なくていいし、悪くない。
 とりあえず完成。あとは微調整。もしロッソたちがウルツァイト・メタルドラゴンの外殻を持ってきたらガワを付けるか。
 両手の手のひらに、十ツ星の『収束放電』の魔石をセット……やばいなこれ、ちょっとマジでアイアンな男っぽい武装が完成した。
 
「……人には絶対向けられんな。というか、マジで」

 さて、気を取り直して。

「近接武器といえばやっぱりブレードだよな。俺は手に持つ剣より、手甲からシャキンと伸びる剣が好きだ。手の甲から一メートル……いや、ばね仕掛けで二の腕くらいの長さの刃が飛び出す仕掛けを作るか。これは簡単にできそうだ」

 誤射しないよう、魔力をスイッチに刃が飛び出す仕掛けを作成。
 ブレードの素材は、ロッソたちに期待しよう。
 
「あとは……両足の裏に『風噴射』の魔石を埋め込んで飛べるように……うーんでも、風を噴射しただけで飛べるかな……両手の雷噴射で補助して……映画じゃそれで飛んでたけど。あと凍結防止……まあ魔石は凍っても使えるか」

 ブツブツ言っていると、サンドローネが作業場に乗り込んできた。

「ゲントク、仕事中かしら」
「ん? おお、サンドローネ。どうした?」
「……今度は何を作ってるの?」

 作業台にある作りかけの『スタンアーム』と『ヒートブレード』を融合させた手甲を見て首をかしげるサンドローネ。
 俺は迷わず言うね。

「ふふふ、男のロマン、セカンドステージさ」
「は?」

 何言ってんだこいつ……みたいな顔で見られた。
 サンドローネは言う。

「あなた、最近画期的な魔道具を作らないから、スランプにでもなったのかと思ったけど」
「別にそういうわけじゃないぞ。それに、今まさに必要な魔道具とか別にないだろ?」
「まあそうね。自転車の販売も始まったし、飲食店の始まりも近いから、新製品の開発に回す人員の余裕は正直ないわ」
「ならいいだろ。俺も、持ち込み修理や出張修理がようやく根付いてきたしな。しばらくはそっちをメインにして、自分の趣味を優先したい」
「で……何を作ってるの?」

 サンドローネが手甲を眺める。

「俺専用の武器……というか、鎧だな」
「はあ? あなた、冒険者にでもなるの?」
「違う違う。俺も身を守るための武器でも持とうかと思ってな」
「……だったら、護衛でも雇ったら? 特に公表はしていないけど、あなたがアレキサンドライト商会の専属魔道具技師っていうのは、少しずつ広まってるわよ。その腕前を狙う不届き者がいるかもね」
「え」
「まあ、今は『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』が出入りしているのをみんな知っているから、あなたを狙うなんてことはないと思うけど。まあ……自衛の武器というなら安心ね。どういうコンセプト?」
「……自動着脱式の全身鎧。武器内蔵型」
「は?」
 
 言ってもわからねぇよな!! 男のロマンだ馬鹿野郎!!

 ◇◇◇◇◇◇

 サンドローネが帰り、仕事場には俺と大福だけになる。

「…………」

 その腕前を狙う不届き者がいるかもね。
 その言葉がどうも気になってしまう……というか、俺を狙うってマジか。
 素手での喧嘩。素人一人なら負ける気はしない、二人ならなんとか、三人ならわからん、四人なら負ける……と、俺は思ってる。
 
「な、なんか意識しちまうな……今日は早く仕事切り上げて、イェランと飲むかな」
『にゃ』

 大福を撫でる。うう、安心するなあ。

「あの、すみませ~ん」
「うおおおおおおおおお!!」
「ひっ!?」

 いきなり背後から声をかけられ驚きで死ぬかと思った。
 思わず構えを取って振り返ると、そこにはミスト噴霧器を抱えた男性がいた。

「あ、あの……娘のなんですけど、修理をお願いしたいんですが」
「え、ああはい。す、すみません、驚かせまして」

 作業台にミスト噴霧器を置き、俺は外装を外す。
 やっぱり、魔石の破損だ。落としたのか、噴射口にも亀裂が入っている。
 俺は魔石を外し、噴射口も新しいのに交換しようとした。

『フシャーッ!!』
「えっ」

 大福が急に威嚇。
 ハッとして男性を見ると、手にハンカチのような物を持っていた。
 俺は道具を放し回し受け。
 木人椿での訓練を再開していたおかげで、スムーズに身体が動いた。

「ちっ!!」
「なっ、あんた……」
「一緒に来てもらおうか」

 男はナイフを出し構える。
 素人じゃない。
 サンドローネが言った『不届き者』の言葉がリフレイン。
 やばい。俺、狙われてる……やるしかないのか。

「ほう、お前……腕利きの魔道具技師ってだけじゃないな」
「ああ、こう見えて、空手の大会で全国大会出たことあるんだよ。ベスト16で終わったけどな」

 じりじりと距離を詰められる。
 こいつ、プロっぽい……いつの間にか、俺は作業デスクまで下がっていた。
 そして、作りかけの『スタンアーム』が視界に入る。

「安心しろ、殺しはしない……寝てろ!!」
「ッ!! お前がな!!」

 男が向かって来た。
 俺はスタンアームを右手にはめ、『収束放電』を男に向かって放つ。
 放電は、男の腹部に直撃。感電し、ノーバウンドで五メートルほど吹っ飛んだ。
 声も出せなかったのか、泡を吹いてピクピク痙攣している。

「し、死んでは、ないよな……っはぁ、はぁ、び、ビビったぁ」
「ゲントク、いるー……って、何こいつ!?」
「い、イェラン……悪い、警備兵呼んでくれ」

 こうして、俺は襲撃者を撃退。
 男はイェランの呼んだ警備兵に連れて行かれた。
 俺も事情聴取を受けた。俺を狙ったこと、一緒に来いとか言われたことを話し、釈放。
 イェランと二人、居酒屋で飲んで帰ることにした。

「あー……マジで怖かったぜ」
「アタシも驚き。そういや……最近、魔道具技師が誘拐とかされてるみたい」
「……マジで?」
「うん。ヤバイ組織とかあったりして」

 おいおいおいおい、そういうのマジで勘弁。
 でも……そうはいかない感じになるんだよなあ。ほんと。
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