独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう

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第九章 玄徳、第二のロマン

玄徳、試す

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 さて、料理指導から数日経過。
 飲食店のオープンはまだ先だ。リヒターによると、料理人たちは自分が配属される飲食店のキッチンで料理を開始したり、いろいろ改良なども始めているらしい。
 スタッフ募集などもして人員も確保したらしく、一か月後くらいにはオープン予定だとか。
 今は一月の終盤。二月の後半か三月くらいには一斉オープン予定……楽しみだ。
 まあ、俺は俺で、自己流の丼飯を楽しませてもらうがな。

「テイクアウトも考案したけど、繁盛するといいな……」

 現在、俺は事務所で魔石の加工をしていた。
 ちょっと思いついたことがあり、魔石に魔導文字を彫っていた。
 完全な思い付きなので、失敗してもいいように一つ星の魔石で実験する……と、ドアがノックされた。

「はい、どうぞー」
「やほやほー、おっちゃーん!!」
「ん? おお、リーンドゥか。それにウング、バレンも」

 ミカエラのところの三人だった。
 なんか久しぶりだな。ソファを勧めると三人は座り、リーンドゥは冷蔵庫を開けて果実水の瓶を取り出し、傍にあったグラスに注ぎ始めた。
 俺は魔石の加工をしながら聞いてみる。

「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ふつー……ってか、ミカエラが引きこもっちゃってさ、ウチらも契約解除。もう護衛の必要ないっぽいわー」
「引きこもった?」

 思わず手を止める。
 リーンドゥは果実水をゴクゴク飲んでいるので、代わりにバレンが言う。

「引きこもりというか、雷の力を改良するのに忙しいみたいですね。なので、しばらくは外出もしないとのことで……ボクたちとの契約も、ついさっき解除になりました」
「そうなのか。じゃあ、お前たちも冒険者に戻るんだな」
「ええ。せっかくなので、三人でチームを組んで冒険することしました。チーム名はまだ決まってませんけどね」
「はいはーい!! ウチの考えた『チョーベリーナイスチーム!!』はー?」
「絶対に嫌だ」

 ウングが拒否……さすがに、俺もそれはないと思う。
 するとバレン、俺の手元を見て言う。

「ゲントクさんは、先ほどから何を?」
「いや。魔導文字の改良というか、実験だな」
「……ゴブリン、コボルト、モンキーマンの魔石か」

 ウング、魔石の色を見ただけで気付いた。
 リーンドゥが気になったのか、グラスを置いて俺の元へ。
 テーブルにあった魔石をひょいっと掴んでみた。

「ほんとだ。でもおっちゃん、こんな一つ星の魔石で何すんの?」
「実験だよ実験。ほれ、返せって」
「はーい」

 俺はゴブリン、コボルト、モンキーマンの魔石を二つずつテーブルに置き、それぞれの魔石を一つずつ手に持ち、バレンたちの元へ。
 俺は三つの魔石、まずはコボルトの魔石を手のひらに乗せ、バレンたちのいるソファまで下がる。
 距離は十メートルくらい。まずはコボルトの魔石を手に取った。

「よし、どうなるかな」
「「「……?」」」

 三人が首を傾げる。
 俺は魔石を指でつまみ、テーブルに向かって突きつけ、魔力を込める。
 すると、テーブルにあった魔石がカタカタ動き、俺の方に飛んできた。
 そして、俺が指先でつまんだ魔石とくっついた。

「おし、成功だ」
「え……な、なに今の」
「魔石が、飛んで……」
「……くっついた?」

 驚く三人。
 くっついたのは、コボルトの魔石だ。
 そう、俺が魔石に彫った文字は『磁力』だ。だが、ただ磁力と彫っても、全部の魔石が飛んで来る可能性がある。
 そこで俺は、ゴブリンの魔石には『磁石1』と彫り、コボルトには『磁石2』、そしてモンキーマンの魔石には『磁石3』と彫った。
 予想は、同じ魔石、同じ数字の魔石同士がくっつくというもの。
 結果は見ての通り。同じ数字の魔石だけがくっついた。
 俺はくっついた魔石を引っ張るが……なんと、取れない。

「リーンドゥ、これ引き剥がせるか?」
「いいの? じゃあ……うわ、けっこう硬いね」

 リーンドゥの怪力でも引き剥がせない。
 あまり力を入れると割れるかもしれない。
 俺は魔石を受け取り、スイッチをオフにする要領で魔石に触れる。すると魔石に込めた魔力が霧散し、ぽろっと取れた。

「ふむ、けっこうな磁力。一つ星でこれか……もっと等級の高い魔石でも試すのありだな」
「面白いけどー……おっちゃん、これで何すんの?」
「ふふふ、男のロマン、その二だ」
「は?」

 リーンドゥが首を傾げる。
 まあ……日本にいたら絶対にやらないことだ。
 俺はちょっとだけ説明する。

「実は俺、洋画が好きでさ……海外のヒーロー系映画とか、よく見に行ってたんだ」
「「「……?」」」

 あ、これ伝わってないや。
 でもまあいい。言っちまうか。

「でさ、兵器開発の科学者が、戦闘用のパワースーツ作るんだよ。スーツケースが変形してアーマーになるとかカッコよかったな……で、それを真似して、俺専用のアーマーでも作ろうかなと」

 くっそ恥ずかしいな!! 
 そうだよ、いい歳して俺は変身ヒーローとか、特撮に憧れてるよ!! 
 映画とか見るし、日曜の朝は普通に女児向け変身ヒロインアニメを見たり、そのあと放送する変身ヒーローモノ見てるよ!! 
 で、異世界、魔道具でなら、着脱式のアーマーとか作れるかなー……なんて、薄ぼんやり考えてたんだよ。で、ちょっとずつやろうと思ってたわけだ。
 三人は首をかしげるが、バレンが言う。

「えーと、つまり……武器を作る、ってことですか?」
「武器というか、鎧だな。なあリーンドゥ、お前がこれまでの人生で、一番『硬い』って思った素材は何だ?」
「硬いねえ……そーだなー、オリハルコンより硬かったのは、火山地帯で戦った『ウルツァイト・メタルドラゴン』の外殻だったね」
「……そういや、そんなのいたな。オレもバレンも手が出ないSSSレートの魔獣だった」
「ウチの拳から血ぃ出たの初めてで興奮したっけ。最終的に頭突きでアイツの頭砕いて勝ったっけー」
「あはは。懐かしいね」

 メチャクチャ怖い話だよなこれ? 
 SSSレートって、国家レベルの武力でようやく討伐できるかできないかの『災害』じゃなかったっけ……やっぱこいつらも規格外だな。
 リーンドゥは目をキラキラさせる。

「おっちゃん、ウルツァイト・メタルドラゴンの外殻欲しいの?」
「欲しいっちゃ欲しいけど……手に入れたところで加工できるかどうかわからん」
「そっか。狩りに行くなら付き合うよ。あれ? ねえバレン、そういえばなんか討伐依頼なかったっけ」
「……そういえば。ウング」
「ああ」

 ウングは、ポーチから依頼書みたいなのを何枚も出した。
 見て見ると、そこには恐ろしい魔獣の絵が描かれている。

「これ、冒険者ギルドが出す討伐依頼書で、『討伐不可能』の判定がされた魔獣なんです。ほとんどSSかSSSレートで、ボクたち『七虹冒険者アルカンシエル』が討伐できるならしてほしいと、ギルドに渡されたんです」
「……アオたちも同じの持っているぞ。まあ、オレらもアイツらも、そこまで熱心に倒して回ってるわけじゃねぇけどな」

 ゲームのクリア後に解放される隠しボスみたいなモンか……ってかこの世界にそんな魔獣いたのかよ。
 すると、バレンが一枚の討伐依頼書を俺に渡す。

「あったぞ。討伐レートSSS『討伐不可能』な魔獣、『鋼竜王ウルツァイト・メタルドラゴン』だ」
「うおおい……討伐報酬、百二十億セドルってマジかよ」
「『討伐不可能』の魔獣は、だいたいが百億セドル超えですよ。まあ……正直、ボクらでも命懸けになるパターンですけど」

 こっわ!! 討伐不可能な魔獣は合計で十二体もいるのか。いやほんと会いたくないぞ。
 
「おっちゃん、こいつの素材欲しんだ」
「いやいやいやいや、無理、いらん。フラグ立てるのやめて」

 ヤバイ、嫌な流れになる前に話を戻さねば!!

「最近、運動不足でもあるし、三人でチームを組んで最初の依頼で、SSSレートを攻略するというのもありかな?」
「いいね。最近、ず~っとぬるま湯みたいな依頼ばっかりだし、ここらで気合い入れる?」
「……オレはいいぜ」
「いやいやいやいやいや!! 待て、やめとけ、無理すんな!!」
「おっさんいるー? って……アンタらもいたの」

 なんでこのタイミングで来るんだロッソたちぃぃぃぃぃ!!
 ドアを開け、ロッソたち四人が入って来ると、微妙な空気になる。

「やあロッソ。ちょうど、ゲントクさんの依頼でね。『討伐不可能』の魔獣を倒しに行くつもりだったんだ」
「いやいやいやいやいや!! 言ってねえぞ俺!!」
「はあ? 討伐不可能を、アンタらが?」
「おいロッソ間に受けんなって!! おーい!!」
「……オレら、チームを組むことにしてな。準備運動にちょうどいい。はっ……長い付き合いのあるオマエらより、オヤジはオレらに『討伐不可能』の討伐を任せたってわけだ」
「いやマジでお前何言ってんの!? 言ってない、言ってないって!!」
「……おじさん。ウングたちじゃ無理だよ。私たちがいる」
「あの、誰も俺の話聞いてない?」
「あっはっは。ブランシュ、『鋼竜王ウルツァイト・メタルドラゴン』の討伐をおっちゃんに依頼されちゃった。わかる? あいつの装甲、ウチでなら壊せるって意味だよね~」
「……あの」
「あらおかしい。あなたの力で、あの装甲を破壊できると思って?」

 ダメだ。もう誰も聞いてねえし。
 ってかなんでヴェルデはいないんだよ。止めるやつ誰もいねえし!!
 するとロッソ、指をバレンに突きつけた。

「三対三……ちょうどいい、勝負を申し込むわ」
「へえ、いいね。内容は……どちらが先に『ウルツァイト・メタルドラゴン』を討伐するか、かな?」
「そうね。それでいいわ」
「じゃあルールは、日が昇ってからスタート。準備をし、ドラゴンの元へ向かい、討伐まで。もちろんドラゴンにトドメを刺した方が勝ちだ」
「それでいいわ。じゃあ……勝ったら、アンタたちは全裸で土下座して『申し訳ございません。もうロッソ様たちには逆らいません』って言ってもらうから」
「あはは、じゃあボクらが勝ったら、同じことをしてもらおうか」

 険悪すぎぃ!! なんでこんなことにぃ!! 
 すると、バレンとロッソが同時に俺の方を向いた。

「おっさん」
「ゲントクさん」
「は、はひ」
「素材、楽しみにしててね」
「最高の素材をお持ちします」

 そう言って、ロッソたち、バレンたちは無言で出て行った。
 残された俺はただ、その場にへたり込むのだった。
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