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第八章 雷とクライン魔導商会
ミカエラ・クライン
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次に案内されたのは、広く豪華な部屋だった。
高級そうな絨毯、シャンデリア、ふかふかなソファに豪華そうなテーブル、サイドテーブルにある調度品は素人の俺が見ても高級だとわかる。
なんとなく、ここが応接室だとわかった。
それに、部屋にはもう一人。
「ごきげんよう、ゲントクさん」
「おう。ミカエラ」
ミカエラ・クライン。
四大商会に名を連ねる、クライン魔導商会の商会長。
桃髪、桃色のドレスを着て、華やかな笑みを浮かべる女性が、俺に向かって一礼した。
なんとなく、タメ口で返事をしてしまったが……まあ、いいか。
ミカエラは微笑みをサンドローネに向ける。
「サンドローネちゃん。私の工房、どうだった?」
「ええ、素晴らしいわ。見習うべきところばかりね……でも、この工房を見て疑念が生まれた。それを確認しないと、素直に尊敬できないわ」
「あらあら。ふふふ、じゃあお話しましょうか」
ソファに案内される。
今更だが……『見学だけ』なんて言われたが、なんかもう引き返せないところまできたような、最初から俺とサンドローネと話すのが目的のような、そんな気がした。
だがまあ、俺も聞きたいことがあるし……うん、いいか別に。
ソファに座る俺、サンドローネ。
リヒターはサンドローネの後ろ。ロッソたちは……なんと、それぞれバラバラに分かれ、ドアの前、窓の近く、部屋の中央付近、俺の後ろについた。
そういや護衛だっけ……引率の先生気分だったけど、ちゃんと仕事モードになっていた。
ミカエラはアベルと並んで座り、まずは俺に言う。
「いかがでした? わが商会の工房は」
「いやー、すごかった。なんというか、規模が違うね」
「うふふ。ここはうちの工房の中でも、一番大きな工房ですの。工場内はもっと騒がしく、いろんな人たちが魔道具の加工、製造に着手していますわ」
「へー、そっちも見たいけど……さすがに、他商会の工場を覗き見するわけにはいかんよな」
「あら、興味がおありでしたら、見ても構いませんわ。ふふ、うちの専属魔道具技師になっていただければ、ですけど」
ミカエラはクスっと微笑む……なんか、相手のペースに飲まれそうだ。
すると、サンドローネが煙管を取り出す。すかさずリヒターが火を着ける。
サンドローネが煙管を吸い、煙を吐き出す。
「単刀直入に言うわ。ミカエラ、あなた……『雷』の力を独占するつもりね?」
「独占。ん~……まあ、結果的にはそうなりますわね」
「結果的? あなた、雷の新エネルギーを魔道具に利用することで、魔石の壊れない魔道具を作るつもりね?」
「……さすがサンドローネちゃん。ゲントクさん、あなたも気付きましたね?」
「ああ」
ミカエラは、胸の谷間……え、なんで。胸の谷間から『まじない石』を取り出した。
「七番目の属性『雷』……私の研究では、この力は魔石に『雷』を込めることが可能です。そして、その込めた雷は、魔導文字を込めた魔石が発現する現象のエネルギーの代わりとなることがわかりました」
「……つまり、魔道具に込められた魔石の代わりに、エネルギーを消費するってことね」
「そう。例えば、そこにある冷蔵庫」
部屋の隅に、デカい装飾された冷蔵庫があった。
なるほど、ああいうデザインもあるのか……この部屋にふさわしい立派な装飾だ。
「今は、『冷風』の魔石が働いて動いている。でも、魔石は消耗品……いずれ割れて、魔石の交換が必要になる。でも、『雷』の力を込めた魔石があれば、『冷風』の魔石の効果はそのままに、エネルギーだけを肩代わりして効果を発揮できる」
「………」
「さらにすごいのは、雷を込めた魔石は、エネルギーが切れるとそのまま残るの。つまり、再び雷を補充すれば、何度でも使える」
「……雷を独占すれば、クライン魔導商会に頼るしかない、ということね」
「そうだね。でも、私の考えは違う」
ミカエラは、にこやかな笑みを消し、真面目な顔で言った。
「私の目標は、全ての魔道具技師、魔道具商会の統一だよ、サンドローネちゃん」
「…………は?」
これには、俺も驚いた。
全ての魔道具技師の統一……って、マジで?
「……冗談、じゃないわよね」
「うん。本気……雷のエネルギーを実用化すれば、高いお金を出して魔石を交換する必要もなくなる。一つ星の魔石だけで、あの大きな冷蔵庫だってずっと動かせる」
「…………」
「今、工場では、『雷』の力を込めた魔石に対応する魔道具を開発中なの。クライン魔導商会が取り扱っている用品全てが、雷のエネルギーに対応した魔道具になる。ふふ、今ある魔道具との交換対応もやる予定。きっとみんな驚くよ? 『新エネルギーで動く魔道具。高い魔石の取り換え整備不要。誰でも簡単に魔石交換』ってね。分解を必要とせずに、小さな蓋を開けて、雷の魔石を入れ替えるだけですぐに魔道具が動く……すっごいことだと思わない?」
「…………」
サンドローネは黙りこんでいた。
そりゃそうだ。そんなもんあったら俺だって欲しい。
現に、今ある魔道具のほとんどが、魔石が割れたら出張交換を依頼するか、魔道具を持ち込まないといけない。
時間かかる場合もあるし、魔石の等級によってはバカ高い料金を請求される場合もある。
でも、もし雷の……いや『電池』式だったら?
デカい冷蔵庫を分解せず、一つ星の魔石を、冷蔵庫脇の蓋をパカッと開けて、魔石を入れ替えるだけで使えるようになれば?
さらに、使い終わった魔石は残るので、クライン魔導商会に持って行って格安で雷の補充をしてもらえば?
うん、絶対にそっちの方がいいな。
クライン魔導商会なら、電池対応の魔道具が完成したら、今ある魔道具と交換対応とかもするかもしれん。交換した魔道具は電池対応に改造して、再び売り出せばいいし。
すぐには無理かもしれんが……きっと、潰れる魔道具商会も出てくるだろう。
「ゲントクさん。あなたは、雷属性を使えるとお聞きしています。さらに、魔導文字も知っている」
「…………」
答えは、イエス。
だが俺は黙りこむ。
「どうか、教えてくださらない? 『四聖』もまじない石の雷を見て、似たような効果の魔法は使えるようになりましたけど……どうも『雷』の力をうまく理解していないのか、望むような結果がでないんです。あなたは、この世界の誰よりも、雷を理解していると私は思っていますわ」
「…………」
俺に視線が集中する。
俺はソファに深く腰掛け、ため息を吐いた。
「悪いな。やっぱ協力できないわ」
「…………理由は?」
「簡単だ。そんなことになったら、俺の仕事がなくなっちまう」
「先ほども言いましたが、全ての魔道具商会、魔道具技師は、私が責任をもって雇います。魔道具業界の統一を」
「つまらん」
俺は、ミカエラの言葉を切った。
というか……けっこう、イラっときた。
「俺は、自分の好きな時間に出社して、自分の作りたい魔道具を作って、近所の爺さんが持ち込んだ魔道具を修理しながらつまらない雑談して、日が暮れたら掃除して帰る……そんな生活が大好きなんだよ。お前が魔道具業界を統一するならすればいい……でもな、俺はそれに乗るつもりはない」
はっきり言う。
業界の統一なんて、つまらん。
魔道具業界がそんなふうになるんだったら、俺は絶対に協力しない。
「お前がやろうとしていることは革新的なんだろうよ。魔道具業界も発展するんだろうよ。でもな、そういうのは個人で決めるモンじゃない。この業界に携わる全ての人間が決めることだ。はっきり言う。ミカエラ……お前の言う『魔道具業界の統一』は、絶対にうまくいかないぞ」
「…………」
ミカエラの目が厳しくなる。
いいね、魔道具技師の目だ。俺も負けじとミカエラを見る。
「お前の言う通りだ。俺は雷の魔導文字も、雷属性も自在に操れる。でも俺は小さい男だから、この力で業界を発展させようとか、もっと便利な世界になんて思っていない……少なくとも、今は」
「……つまり、時期ではないと?」
「ああ。今は、雷属性が発見されたでいいじゃないか。個人で突っ走らなくても、その属性を理解した多くの魔道具技師たちが、雷属性を利用した魔道具を作り始める。失敗もあれば、とんでもないモンだって生まれるかもしれない。そうやって積み重ねて、魔道具業界は発展していくんじゃないのか?」
「…………」
「悪いな。俺は、お前には協力しない。それに……俺はこの『雷』の力、どうも欠点があると睨んでいる」
「えっ」
ミカエラは驚いたように俺を見た。
サンドローネも驚いている。
「まあ、そういうことだ。さーて、帰ってメシ食うかな。ミカエラ、アベル、今日はありがとな」
「ま、待ってください。欠点、って……」
「…………まあ、俺の言葉を信じるかどうかは、お前たちで決めろよ」
俺は立ち上がり、ドアへ向かって歩き出す。
サンドローネもリヒターも、俺を追うことはせずに見送っている。
ロッソたちは俺の後に続き、ドアの前へ。
「じゃあ、そういうことで」
俺はドアを開け、そのまま部屋を出るのだった。
高級そうな絨毯、シャンデリア、ふかふかなソファに豪華そうなテーブル、サイドテーブルにある調度品は素人の俺が見ても高級だとわかる。
なんとなく、ここが応接室だとわかった。
それに、部屋にはもう一人。
「ごきげんよう、ゲントクさん」
「おう。ミカエラ」
ミカエラ・クライン。
四大商会に名を連ねる、クライン魔導商会の商会長。
桃髪、桃色のドレスを着て、華やかな笑みを浮かべる女性が、俺に向かって一礼した。
なんとなく、タメ口で返事をしてしまったが……まあ、いいか。
ミカエラは微笑みをサンドローネに向ける。
「サンドローネちゃん。私の工房、どうだった?」
「ええ、素晴らしいわ。見習うべきところばかりね……でも、この工房を見て疑念が生まれた。それを確認しないと、素直に尊敬できないわ」
「あらあら。ふふふ、じゃあお話しましょうか」
ソファに案内される。
今更だが……『見学だけ』なんて言われたが、なんかもう引き返せないところまできたような、最初から俺とサンドローネと話すのが目的のような、そんな気がした。
だがまあ、俺も聞きたいことがあるし……うん、いいか別に。
ソファに座る俺、サンドローネ。
リヒターはサンドローネの後ろ。ロッソたちは……なんと、それぞれバラバラに分かれ、ドアの前、窓の近く、部屋の中央付近、俺の後ろについた。
そういや護衛だっけ……引率の先生気分だったけど、ちゃんと仕事モードになっていた。
ミカエラはアベルと並んで座り、まずは俺に言う。
「いかがでした? わが商会の工房は」
「いやー、すごかった。なんというか、規模が違うね」
「うふふ。ここはうちの工房の中でも、一番大きな工房ですの。工場内はもっと騒がしく、いろんな人たちが魔道具の加工、製造に着手していますわ」
「へー、そっちも見たいけど……さすがに、他商会の工場を覗き見するわけにはいかんよな」
「あら、興味がおありでしたら、見ても構いませんわ。ふふ、うちの専属魔道具技師になっていただければ、ですけど」
ミカエラはクスっと微笑む……なんか、相手のペースに飲まれそうだ。
すると、サンドローネが煙管を取り出す。すかさずリヒターが火を着ける。
サンドローネが煙管を吸い、煙を吐き出す。
「単刀直入に言うわ。ミカエラ、あなた……『雷』の力を独占するつもりね?」
「独占。ん~……まあ、結果的にはそうなりますわね」
「結果的? あなた、雷の新エネルギーを魔道具に利用することで、魔石の壊れない魔道具を作るつもりね?」
「……さすがサンドローネちゃん。ゲントクさん、あなたも気付きましたね?」
「ああ」
ミカエラは、胸の谷間……え、なんで。胸の谷間から『まじない石』を取り出した。
「七番目の属性『雷』……私の研究では、この力は魔石に『雷』を込めることが可能です。そして、その込めた雷は、魔導文字を込めた魔石が発現する現象のエネルギーの代わりとなることがわかりました」
「……つまり、魔道具に込められた魔石の代わりに、エネルギーを消費するってことね」
「そう。例えば、そこにある冷蔵庫」
部屋の隅に、デカい装飾された冷蔵庫があった。
なるほど、ああいうデザインもあるのか……この部屋にふさわしい立派な装飾だ。
「今は、『冷風』の魔石が働いて動いている。でも、魔石は消耗品……いずれ割れて、魔石の交換が必要になる。でも、『雷』の力を込めた魔石があれば、『冷風』の魔石の効果はそのままに、エネルギーだけを肩代わりして効果を発揮できる」
「………」
「さらにすごいのは、雷を込めた魔石は、エネルギーが切れるとそのまま残るの。つまり、再び雷を補充すれば、何度でも使える」
「……雷を独占すれば、クライン魔導商会に頼るしかない、ということね」
「そうだね。でも、私の考えは違う」
ミカエラは、にこやかな笑みを消し、真面目な顔で言った。
「私の目標は、全ての魔道具技師、魔道具商会の統一だよ、サンドローネちゃん」
「…………は?」
これには、俺も驚いた。
全ての魔道具技師の統一……って、マジで?
「……冗談、じゃないわよね」
「うん。本気……雷のエネルギーを実用化すれば、高いお金を出して魔石を交換する必要もなくなる。一つ星の魔石だけで、あの大きな冷蔵庫だってずっと動かせる」
「…………」
「今、工場では、『雷』の力を込めた魔石に対応する魔道具を開発中なの。クライン魔導商会が取り扱っている用品全てが、雷のエネルギーに対応した魔道具になる。ふふ、今ある魔道具との交換対応もやる予定。きっとみんな驚くよ? 『新エネルギーで動く魔道具。高い魔石の取り換え整備不要。誰でも簡単に魔石交換』ってね。分解を必要とせずに、小さな蓋を開けて、雷の魔石を入れ替えるだけですぐに魔道具が動く……すっごいことだと思わない?」
「…………」
サンドローネは黙りこんでいた。
そりゃそうだ。そんなもんあったら俺だって欲しい。
現に、今ある魔道具のほとんどが、魔石が割れたら出張交換を依頼するか、魔道具を持ち込まないといけない。
時間かかる場合もあるし、魔石の等級によってはバカ高い料金を請求される場合もある。
でも、もし雷の……いや『電池』式だったら?
デカい冷蔵庫を分解せず、一つ星の魔石を、冷蔵庫脇の蓋をパカッと開けて、魔石を入れ替えるだけで使えるようになれば?
さらに、使い終わった魔石は残るので、クライン魔導商会に持って行って格安で雷の補充をしてもらえば?
うん、絶対にそっちの方がいいな。
クライン魔導商会なら、電池対応の魔道具が完成したら、今ある魔道具と交換対応とかもするかもしれん。交換した魔道具は電池対応に改造して、再び売り出せばいいし。
すぐには無理かもしれんが……きっと、潰れる魔道具商会も出てくるだろう。
「ゲントクさん。あなたは、雷属性を使えるとお聞きしています。さらに、魔導文字も知っている」
「…………」
答えは、イエス。
だが俺は黙りこむ。
「どうか、教えてくださらない? 『四聖』もまじない石の雷を見て、似たような効果の魔法は使えるようになりましたけど……どうも『雷』の力をうまく理解していないのか、望むような結果がでないんです。あなたは、この世界の誰よりも、雷を理解していると私は思っていますわ」
「…………」
俺に視線が集中する。
俺はソファに深く腰掛け、ため息を吐いた。
「悪いな。やっぱ協力できないわ」
「…………理由は?」
「簡単だ。そんなことになったら、俺の仕事がなくなっちまう」
「先ほども言いましたが、全ての魔道具商会、魔道具技師は、私が責任をもって雇います。魔道具業界の統一を」
「つまらん」
俺は、ミカエラの言葉を切った。
というか……けっこう、イラっときた。
「俺は、自分の好きな時間に出社して、自分の作りたい魔道具を作って、近所の爺さんが持ち込んだ魔道具を修理しながらつまらない雑談して、日が暮れたら掃除して帰る……そんな生活が大好きなんだよ。お前が魔道具業界を統一するならすればいい……でもな、俺はそれに乗るつもりはない」
はっきり言う。
業界の統一なんて、つまらん。
魔道具業界がそんなふうになるんだったら、俺は絶対に協力しない。
「お前がやろうとしていることは革新的なんだろうよ。魔道具業界も発展するんだろうよ。でもな、そういうのは個人で決めるモンじゃない。この業界に携わる全ての人間が決めることだ。はっきり言う。ミカエラ……お前の言う『魔道具業界の統一』は、絶対にうまくいかないぞ」
「…………」
ミカエラの目が厳しくなる。
いいね、魔道具技師の目だ。俺も負けじとミカエラを見る。
「お前の言う通りだ。俺は雷の魔導文字も、雷属性も自在に操れる。でも俺は小さい男だから、この力で業界を発展させようとか、もっと便利な世界になんて思っていない……少なくとも、今は」
「……つまり、時期ではないと?」
「ああ。今は、雷属性が発見されたでいいじゃないか。個人で突っ走らなくても、その属性を理解した多くの魔道具技師たちが、雷属性を利用した魔道具を作り始める。失敗もあれば、とんでもないモンだって生まれるかもしれない。そうやって積み重ねて、魔道具業界は発展していくんじゃないのか?」
「…………」
「悪いな。俺は、お前には協力しない。それに……俺はこの『雷』の力、どうも欠点があると睨んでいる」
「えっ」
ミカエラは驚いたように俺を見た。
サンドローネも驚いている。
「まあ、そういうことだ。さーて、帰ってメシ食うかな。ミカエラ、アベル、今日はありがとな」
「ま、待ってください。欠点、って……」
「…………まあ、俺の言葉を信じるかどうかは、お前たちで決めろよ」
俺は立ち上がり、ドアへ向かって歩き出す。
サンドローネもリヒターも、俺を追うことはせずに見送っている。
ロッソたちは俺の後に続き、ドアの前へ。
「じゃあ、そういうことで」
俺はドアを開け、そのまま部屋を出るのだった。
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