独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう

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第七章 玄徳のロマン

試走

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 ロッソたちがいなくなった後、俺はバイク用のプロテクターを作成した。
 胸、背中、肘、膝、肩を守る軽くて丈夫なパッドを作成。それを手にオーダーメイド専門の服屋に向かい、ジャケット、ズボンにプロテクターを縫い込んで作るようお願いする。
 そして、いい感じのグローブもあったので買った。
 ジャケット、ズボンの採寸を終えると、完成まで二日かかるという。
 俺は職場に戻り、今度はヘルメット作成に取り掛かる。

「さーてどうするか。俺の好みはフルフェイス。この世界にサングラスは普通にあるし、その素材でバイザー作るか。メット部分は金属……じゃ重いしたぶん日光浴びたらクソ暑い。軽くて丈夫なプラティックワイバーンの鱗で作ってみるか。まずは土魔法の『錬金』でメットの型を作って、と」

 土魔法でフルフェイスヘルメットのイメージをして土型を作り、そこにプラティックワイバーンの鱗を溶かし流し込む。
 固まったら型を外し、ヤスリを掛けて綺麗にする。
 そして、内側にショック吸収材であるジェルスライムを敷き詰め、さらに汗を吸収するスポンジを入れる。このままでは蒸れるので、メットを削って空気穴を作るのも忘れない。
 あとは、バイザーの元であるサングラス素材を板で買い、曲げて加工してバイザーにする。
 バイザーは可動式にするのを忘れない……よし、いい感じ。
 俺は、ヘルメットを眺めつつ呟く。

「色……そうか、色をどうするか」

 完成したバイクの色は、素材のままなので灰色だ。
 
「……色、どうすっかな」

 ロッソは赤、アオは青、ブランシュは白、ヴェルデは緑……で、バレンはオレンジ、リーンドゥは黄色、ウングは紫……と、それぞれメインカラーはある。
 サンドローネは……金色っぽい。リヒターは灰色、イェランは茶色ってところか。
 で、俺は?

「……うん。ここはブラックしかねぇな!! よし決まり、塗るぞ!!」

 俺は、ダッシュで服屋に戻り「すんません、ジャケットとズボンは黒で!!」と言い、職場に戻りバイクを漆黒に、メットも黒く塗った。
 職場に戻り、一階作業場の片隅にあるバイクを黒く塗装……そして気付く。

「……いつまでも職場の片隅ってのもなあ。よーし、思い立ったが吉日!!」

 俺は職場を閉め、ダッシュで不動産ギルドへ。
 職場の隣の空き地を買う手続きをし、腕利きの大工を紹介してもらい、その日のうちに空き地に小さな小屋を作る手配をした。
 小屋……そう、バイク用の車庫である。
 空き地……けっこう広いし、バイク用の車庫を作ってもかなり広い。
 俺は再び職場に戻る……なんか移動ばかりで疲れた。ってか試作の原付あるし乗ればよかった……なんで俺ダッシュで行ったり来たりしてんだ。
 俺は職場隣の空き地に入り、車庫スペースを確認する。

「バイクしか入れないから問題ないだろ。ああ、整備用のスペースも少し……横長の、タタミ四畳くらいのスペースかな。うんうん、あとは……」

 空き地はかなり広い。バスケコート二面くらいの広さあるし、問題ないだろ。
 大工は明日来るし、簡単な小屋ならその場で希望聞いて作ってくれるそうだ。
 ここまでやり、今日の仕事は終わった。

『んな~』
「ん、ああ悪い、メシの時間だよな」

 大福が二階から降りて俺の元へ。
 白玉、いつの間にかユキちゃんが連れて行ったのかもういない。
 俺は大福に飯を作ってやると、大福は完食……そのまま二階に戻り、俺が作った寝床で寝てしまった。
 
「とりあえず、今日の仕事は終わり。あー疲れた……」

 バイク作業、間もなく全てが終わる……いよいよ試走だ。

 ◇◇◇◇◇◇

 四日後。
 職場の隣に四畳ほどの小屋が完成、中にバイクを移動させた。
 小屋の中には棚があり、新品のジャケット、ヘルメット用の棚、グローブ、ブーツが置いてある。
 ドアではなく、カギ付きの金属製シャッター……防犯にはこだわり、小屋の四方に金属版を入れ、シャッターの鍵も俺特製のだ。そう簡単に盗ませないぜ。
 
「……よし!!」

 俺はシャッターを開け、中にあるジャケットを着て、ブーツを履き、グローブを装着。
 バイクを押して車庫から出し、ヘルメットを手に取り、漆黒に塗ったバイクを見た。

「……いくぜ、相棒」

 言ってて恥ずかしくなった。
 というか、これから試走なのに相棒もクソもない。
 すると、ヒコロクが来た。

「おっさーん!!」
「おじさん」
「おじさま~」
「ゲントク、来たわよ!!」
「おお、お前たちか」

 ロッソたち四人が、自転車に乗って来た。
 ヒコロクはロッソたちの後ろを歩いており、空き地に入るとお座りして待つ。
 ロッソたちは自転車を止めて近づいてきた。

「おっさん、依頼通りきたよ」
「ああ、悪いな」

 俺はこの日、ロッソたちに依頼。
 今日はバイクの試走、町の外に出る予定なので、付いてきてもらう。
 外では魔獣もいるし、さすがにバイクに乗っても出会ったら怖い。
 ある程度は自転車で付いてきてもらい、遠距離攻撃が得意なアオとヴェルデがヒコロクの背中に乗って一緒に走ってくれる。
 すると、サンドローネとリヒターたち……その後ろに、バレン、リーンドゥ、ウングもいた。

「ゲントク。見に来たわよ」
「おう。なんだなんだ、大所帯だな」

 サンドローネが、チラリとバレンたちを見る。

「偶然、そこで会ったのよ……偶然なのか、ミカエラからの指示なのか」
「あはは。本当に偶然ですよ。一応、ボクらも少しは関わったことなので」
「おお~!! おっちゃん、その黒いの、走るんだ~」
「……へえ、面白そうだな」

 バレンたちがバイクをジロジロ見る……やべ、ロッソたちは。

「「「…………」」」
「ちょっと、あんたら」
「わかってる」
「……うん」
「ええ、わきまえてますわ」

 ヴェルデに感謝だな。
 俺はバレンたちに言う。

「お前たちも、来てくれてありがとうな」
「いえ。実は報告がありまして……ミカエラさんが正式に、第七の属性『雷』の発見者となりました。名付けにはポワソン様の助言もあったようです」
「へえ、そうなのか」
「はい。近日中に、魔法ギルドから正式発表があります。魔法業界はしばらく荒れるでしょうね」
「そうかそうか」
「……いいんですか?」
「何が?」
「……すみません。野暮でしたね」

 まあ、俺が雷の使い手とか、ポワソンに教えたとかはどうでもいい。バレンの報告も適当に聞き流すフリをした。
 バレンたちは「じゃ、見守っています」と下がる。
 俺はメットを被り、キーを手にした。

「なんか真っ黒ね」
「……カッコいい」
「兜、ではありませんわね。見えてますの?」
「誰だかわからないわね。ゲントク、それ聞こえてるの?」

 ロッソたち四人が言うので、俺は親指をグッと見せつける。
 バイクにまたがり、キーを差し、スタンドを上げる。

「……なんだろうこの感じ。ウング、わかる?」
「……なんとなく。あのスタイル、ちょっとカッケェな」
「えー? ウチにはよくわかんないけどー」

 バレン、ウング……お前らにはわかるか。
 そう、フル装備したライダーは、バイクに跨るとカッケェんだよな。
 俺も憧れたわ……こうして今、ここにいることが誇らしいぜ。
 グリップを握って魔力を流すと、魔石が反応する感じがした。
 エンジン音はない。でも、こいつは動くと確信する。
 すると、サンドローネが言う。

「ところでゲントク。その乗り物……バイクだったかしら。名前はあるの?」
「……名前か」

 バイクメーカーは『ゲントク』ってところか。
 バイク名は……俺のオリジナルだし、黒いし……よし、決めた。

「こいつの名前は『漆黒の流星ブラックメテオ』……さあ、走るぜ!!」

 俺はアクセルグリップを開き、魔力を流す。
 タイヤが回転し、走り出す。
 
「うっぉ……!? けけ、けっこうシビアだな!?」

 安定するように車体を少し重くした。
 タイヤも溝を彫って滑りにくくしたし、老齢のラバーコブラの皮を使ったタイヤはあまり跳ねない。
 時速四十キロくらいだろうか。バックミラーを見ると、ロッソたちが自転車で追いかけて来る。ヒコロクもダッシュで付いてきていた。
 
「慣れてきた……」

 完全なバイクだ。
 姿勢を安定させると真っすぐ走る。
 加速は上々、バランスも問題ない。タイヤも滑らないし、ブレーキも利く。
 誤算というか、わかっていたことだが。

「な、なんだ!?」「うおお!?」「く、黒い魔獣!?」
「鉄の馬だ!!」「は、速いぞ!!」「お、おいあぶねえぞ!!」

 人通りの少ない道を選んだが、けっこうな騒ぎになってしまった。
 目立ってる……うう、なんか明日の朝刊に乗るかもしれん。
 西門の手前で停止すると、ロッソたちが自転車で追いつき停止。

「お、おっさん……速いって」
「悪い。でもまだ二割以下の速度だぞ? 街中だし手加減した……この先の街道では、あまり手加減できないけど……ヒコロク、大丈夫か?」
『わうわう、わるる』
「舐めんなよ、オマエこそ付いてこい、だって」
「そ、そうか。じゃあアオ、ヴェルデ、護衛頼む」
「うん。ロッソ、自転車よろしく」
「ふふん、護衛は任せなさい」

 アオ、ヴェルデがヒコロクに乗り換え、西門から出た。
 門から出る時、門兵にジロジロ見られたが『魔道具の実験』で通った。まあロッソたちもいるし、そんなに怪しまれなかった。
 
「じゃあ、徐々にスピード上げるから、付いてきてくれ」
「わかった」
「ええ、任せて」

 俺はゆっくりとグリップを捻り、時速四十キロほど出す。
 そして、魔力の量を増やし、時速七十キロくらいまで上げる。
 ヒコロクは横に並んだ。

『わうわう、わう!!』
「まだいけるだろ、だって!!」

 アオの声が聞こえるのは、ヴェルデが風魔法で向かい風を軽減しているからだそうだ。
 俺は頷き、さらに魔力を注ぐ。
 整備された街道なので、砂利も少なく障害物もない。
 最高速度……試してみるか。

「ヒコロク、付いてこいよ!!」

 アクセルグリップを捻り、魔力を全開にすると……前輪が浮き上がった。
 ウィリー走行。完全に想定外。背中が冷たくなる。
 速度は一瞬で百五十キロくらいになり……俺は走馬灯を見た。
 そして、アクセルグリップを離し、ゆっくりブレーキを掛け、スピードが落ち、停止。
 ヒコロクが後ろから来た。

『わう……』
「負けたぜ。やるじゃねえか……だって」
「び、びっくりしたわ……いきなり消えたような速度だったわよ」
「……」
「おじさん?」
「ゲントク?」
「あ、ああ……うん」

 想定外の速度、ウィリー走行で俺は背中にびっしょり汗を掻いていた。
 うん、最高速度は絶対に出さない。もう二度とな!!
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