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第七章 玄徳のロマン
そのころ、鮮血の赤椿は(苦労するヴェルデ)
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「はぁ~……」
「……はぁ」
「ふぅぅ~」
ロッソ、アオ、ブランシュの三人が大きなため息を吐くと、後ろにいたヴェルデがパンと手を叩いた。
三人がヴェルデを見ると、ヴェルデは腰に手を当て、やや咎めるように言う。
「あなたたち三人、腑抜けすぎよ。全く……天下の『鮮血の赤椿』が、そんなことでいいの?」
現在、ロッソたちは王都から二日ほど進んだところにある、野生オークの集落を潰しに来ていた……というか、すでに潰し終え、集落内の調査をしているところだった。
討伐レートS『ジェネラルオーク』が集落を作り、周辺のオークを統率し、近隣の村や町に被害が出たのでロッソたちが来たのだが……三人とも、どうもいまいち『ノリ』が悪い。
戦闘自体は何とかなった。が、ヴェルデには不満だった。
「ロッソ、あなた……怪我してる」
「え? あ、ほんとだ」
ロッソに腕には、小さな切り傷があった。
「ブランシュ、あなた……気付かないの?」
「あ、ああ……そうでしたわ、ごめんなさい」
ブランシュは今気づいたのか、ロッソの傷を治す。
「アオ、あなた……これ見つけ忘れてるわよ」
「……あ、ごめん」
ヴェルデの手には、近くの村でオークが強奪したネックレスが握られていた。
いつものアオなら、すぐに見つける。
ヴェルデは三人をオーク集落の中央に集め、横倒しにした丸太に座らせて言う。
「本当に!! 腑抜けてるわよ!!」
「「「…………」」」
「今は私がいるからいいけど、もし私の手の届かないところで何かあったら、取り返しのつかないことになるかもしれないわよ!? 私、あなたたちを心配しているの!!」
「「「…………ごめん(なさい)」」」
しょぼんとする三人。ヴェルデは「うっ」と罪悪感を覚えるが、ここで言うのをやめたら意味がない。なので、この場で原因をはっきりさせることにした。
「そんなに、ゲントクがバレンたちと仲良しになったの、気に食わないの?」
「「「…………」」」
三人の肩がピクリと動いた。
ヴェルデは続ける。
「ロッソ、あなた……ゲントクのこと、好き?」
「そりゃ好きよ。酒飲み友達だし、ノリいいし、意外と鍛えてるし、優しいし、面白い魔道具いっぱい作ってくれるし……」
「でも、それはゲントクがあなたにだけ優しいわけじゃないでしょ? 私はそんなに長い付き合いじゃないけど……あの人はきっと、誰が相手でも、あなたたちに接するのと同じように優しいわよ」
「……そ、そう、だよね」
「だったら、嫌いなバレンが仲良くしても仕方ないでしょ? ゲントクはあなたと違って、バレンを嫌う理由なんてないんだから」
「…………」
バレンシア・オランジュ。オランジュ男爵家の三男。
ロッソの故郷である村は、オランジュ男爵領地にあった。
だが、貧しい農村で街道の整備もままならず、疫病、飢饉が発生しても助けが来るのに時間がかかった。なので、村長は領主であるオランジュ男爵に街道整備を依頼したのが、突っぱねられた。
それだけじゃない。
過去、疫病が発生した時など、医者や物資の派遣もせず、放置したのだ。
ロッソの両親は、その疫病が原因で死んだ。
たまたま、莫大な魔力をその身に宿していたロッソは死なずに済んだ。
だが、今も故郷は貧しいまま、苦しい生活を強いられている。
ロッソは、冒険者となり、稼ぎの大半を街道整備、そして村の支援などに費やしている。
「バレンはやっぱり嫌い」
「まったく……ロッソ、まだそんなこと」
「ヴェルデにはわかんないよ」
村を見捨て、税だけ搾り取るオランジュ男爵、そしてその三男であるバレンは、ロッソにとって嫌悪、憎悪の対象であった。
そんなバレンが冒険者となり、ロッソと顔合わせした時。
『ああ、あの村の……悪いね、ボクはこの通り、男爵家出身ってだけの平民だから』
自分に責任はないと、笑顔だった。
ロッソの村が壊滅状態になりかけた時のことを話したら、この笑顔である。
かつて、故郷を馬鹿にされヴェルデと『殺し合い』になりかけたことがあった。
だが、今回はそれ以上の殺意が膨れ上がり……自分でも驚いたことに、スッと冷静になった。
常軌を超えた殺意は、逆に自分を冷静にさせると、ロッソは学んだ。
「……やっぱり、あいつとおっさんが仲良しなの、やだ」
「だったら、それをゲントクに伝えなさい。ゲントクはあなたのこと嫌いはしないだろうけど、気になって追いかけて来るような男じゃないと思うわよ」
「…………」
そう言われ、ロッソは納得してしまい、口をキュっと結ぶのだった。
◇◇◇◇◇◇
「アオ、あなたもよ」
「……わかってる。でも、ウングが」
「……あなたもなのね」
ウングは、アオと同じ孤児院出身……そして、同じ『師』を持つ者同士であった。
暗殺技、諜報員としての育成機関である裏ギルドの一つである『アサシンギルド』出身ということは、ロッソ、ブランシュ、ヴェルデしか知らない。
アオは、魔法と暗殺技術の才能を見出され、アサシンギルド最高の称号である『マスターアサシン』の称号を得た若き天才。
そして、同じくマスターアサシンであるウングとは、かつてコンビを組んでいたこともあった。
「アオ、ウングはあなたのこと、どう思っているの?」
「……憎んでる」
エーデルシュタイン王国にあるアサシンギルドは壊滅した……なぜなら、アオが潰したのだ。
そこで、アオは師を手にかけた。育ての親であり、孤児院の所長でもあったシスター……エーデルシュタイン王国最強のアサシンである親代わりの女性を、手に掛けた。
ウングは、その瞬間を見ていた。
親殺し……ウングは、アオをそう呼んだ。
でも、そうするしかなかったのだ。
「……でも私、間違っていたとは、思わない」
「え?」
アサシンギルドの存在が、王家にバレた。
なので所長は、証拠を消すために、育てている子供たちを全て処分しろと、アオとウングに命じたのだ。だからアオは殺した……所長を。
そして、アサシンギルドの存在、証拠、全てをエーデルシュタイン王国に提出、一斉摘発され、アサシンギルドは消滅した。
恩赦を受けたアオは無罪放免。何もしなかったウングもそのまま解放された……アオの仲間だとアオが言ったから。
自由となったアオ、ウングだった。
別れ際、ウングはアオに『親殺しの裏切者』と言った。
「アオ、あなたはゲントクのこと、好き?」
「……うん」
「ウングと仲良くしているところ、見たくないの?」
「……うん」
「だったら、あなたもちゃんと言いなさい」
「……おじさんに、悪いことしちゃった」
アオは俯き、ピクリとも動かなくなるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ブランシュ、あなたまで珍しいわね……」
「……大人げないとは思いますわ」
「やっぱり、リーンドゥ?」
「…………」
ブランシュは、アオとは違う、アサシンギルドの息が掛かっていない孤児院出身だ。
だが普通と違ったのは、エーデルシュタイン王国が崇める主神である『女神カステヤーノス』を熱心に崇める孤児院だったこと。
一日三回のお祈りは、ブランシュにとって日課だった。
ブランシュが十歳になる頃、その類まれなる魔力から『女神の再来』と呼ばれ、エーデルシュタイン王国にある『カステヤーノス大神殿』に『聖女』として来るように言われたのだが。
「……リーンドゥ」
「あなたも、許せないの?」
「ええ」
突如、『聖女』を降ろされた。
わけがわからなかった。そして、別の孤児院から新たに来た少女……リーンドゥが、聖女として大神殿に現れたのだった。
理由は、驚くべきことだった。
「怪力、そして女神の肖像に似ているという理由で……」
「え、どういうこと?」
カステヤーノス大神殿にある女神の肖像画と、リーンドゥはそっくりだった。
そして、伝承にある『女神カステヤーノスは怪力』の通り、リーンドゥは怪力だった。
おしとやかな聖女を目指すため、自分も怪力だとひたすら隠していたブランシュとは別に、リーンドゥは怪力を隠そうとせず、むしろ楽しんでいた。
「……聖女に相応しくありませんわ。まあ、今はどうでもいいですけれど」
聖女の椅子を奪われたことは、もうどうでもいい。
だが、その振る舞いの全てが聖女に相応しくなかった。
大飯ぐらい、三度の祈りをすっぽかす、お布施で遊びに行く……そして、何よりブランシュが失望したのは、それを咎める大人が誰もいなかったこと。
ブランシュは、女神そのものがバカらしくなり、教会を出て冒険者となった。
だが、今でもリーンドゥのことは、好きになれない。
「もう三度目だけど、それとゲントクって関係ないでしょ」
「……そう、ですけど」
「だったら、ゲントクにちゃんと気持ちを伝えなさい」
「…………」
ヴェルデは思う。
思った以上に、三人はバレンたちと仲良くしているゲントクを見るのが嫌なのだと。
そして、ポツリとつぶやく。
「……はあ、一度、ゲントクと話すべきかしら」
ヴェルデはちょっとだけ思った。
因縁となる相手がいないと、こうもフォローに回ることになるのだ、と。
「……はぁ」
「ふぅぅ~」
ロッソ、アオ、ブランシュの三人が大きなため息を吐くと、後ろにいたヴェルデがパンと手を叩いた。
三人がヴェルデを見ると、ヴェルデは腰に手を当て、やや咎めるように言う。
「あなたたち三人、腑抜けすぎよ。全く……天下の『鮮血の赤椿』が、そんなことでいいの?」
現在、ロッソたちは王都から二日ほど進んだところにある、野生オークの集落を潰しに来ていた……というか、すでに潰し終え、集落内の調査をしているところだった。
討伐レートS『ジェネラルオーク』が集落を作り、周辺のオークを統率し、近隣の村や町に被害が出たのでロッソたちが来たのだが……三人とも、どうもいまいち『ノリ』が悪い。
戦闘自体は何とかなった。が、ヴェルデには不満だった。
「ロッソ、あなた……怪我してる」
「え? あ、ほんとだ」
ロッソに腕には、小さな切り傷があった。
「ブランシュ、あなた……気付かないの?」
「あ、ああ……そうでしたわ、ごめんなさい」
ブランシュは今気づいたのか、ロッソの傷を治す。
「アオ、あなた……これ見つけ忘れてるわよ」
「……あ、ごめん」
ヴェルデの手には、近くの村でオークが強奪したネックレスが握られていた。
いつものアオなら、すぐに見つける。
ヴェルデは三人をオーク集落の中央に集め、横倒しにした丸太に座らせて言う。
「本当に!! 腑抜けてるわよ!!」
「「「…………」」」
「今は私がいるからいいけど、もし私の手の届かないところで何かあったら、取り返しのつかないことになるかもしれないわよ!? 私、あなたたちを心配しているの!!」
「「「…………ごめん(なさい)」」」
しょぼんとする三人。ヴェルデは「うっ」と罪悪感を覚えるが、ここで言うのをやめたら意味がない。なので、この場で原因をはっきりさせることにした。
「そんなに、ゲントクがバレンたちと仲良しになったの、気に食わないの?」
「「「…………」」」
三人の肩がピクリと動いた。
ヴェルデは続ける。
「ロッソ、あなた……ゲントクのこと、好き?」
「そりゃ好きよ。酒飲み友達だし、ノリいいし、意外と鍛えてるし、優しいし、面白い魔道具いっぱい作ってくれるし……」
「でも、それはゲントクがあなたにだけ優しいわけじゃないでしょ? 私はそんなに長い付き合いじゃないけど……あの人はきっと、誰が相手でも、あなたたちに接するのと同じように優しいわよ」
「……そ、そう、だよね」
「だったら、嫌いなバレンが仲良くしても仕方ないでしょ? ゲントクはあなたと違って、バレンを嫌う理由なんてないんだから」
「…………」
バレンシア・オランジュ。オランジュ男爵家の三男。
ロッソの故郷である村は、オランジュ男爵領地にあった。
だが、貧しい農村で街道の整備もままならず、疫病、飢饉が発生しても助けが来るのに時間がかかった。なので、村長は領主であるオランジュ男爵に街道整備を依頼したのが、突っぱねられた。
それだけじゃない。
過去、疫病が発生した時など、医者や物資の派遣もせず、放置したのだ。
ロッソの両親は、その疫病が原因で死んだ。
たまたま、莫大な魔力をその身に宿していたロッソは死なずに済んだ。
だが、今も故郷は貧しいまま、苦しい生活を強いられている。
ロッソは、冒険者となり、稼ぎの大半を街道整備、そして村の支援などに費やしている。
「バレンはやっぱり嫌い」
「まったく……ロッソ、まだそんなこと」
「ヴェルデにはわかんないよ」
村を見捨て、税だけ搾り取るオランジュ男爵、そしてその三男であるバレンは、ロッソにとって嫌悪、憎悪の対象であった。
そんなバレンが冒険者となり、ロッソと顔合わせした時。
『ああ、あの村の……悪いね、ボクはこの通り、男爵家出身ってだけの平民だから』
自分に責任はないと、笑顔だった。
ロッソの村が壊滅状態になりかけた時のことを話したら、この笑顔である。
かつて、故郷を馬鹿にされヴェルデと『殺し合い』になりかけたことがあった。
だが、今回はそれ以上の殺意が膨れ上がり……自分でも驚いたことに、スッと冷静になった。
常軌を超えた殺意は、逆に自分を冷静にさせると、ロッソは学んだ。
「……やっぱり、あいつとおっさんが仲良しなの、やだ」
「だったら、それをゲントクに伝えなさい。ゲントクはあなたのこと嫌いはしないだろうけど、気になって追いかけて来るような男じゃないと思うわよ」
「…………」
そう言われ、ロッソは納得してしまい、口をキュっと結ぶのだった。
◇◇◇◇◇◇
「アオ、あなたもよ」
「……わかってる。でも、ウングが」
「……あなたもなのね」
ウングは、アオと同じ孤児院出身……そして、同じ『師』を持つ者同士であった。
暗殺技、諜報員としての育成機関である裏ギルドの一つである『アサシンギルド』出身ということは、ロッソ、ブランシュ、ヴェルデしか知らない。
アオは、魔法と暗殺技術の才能を見出され、アサシンギルド最高の称号である『マスターアサシン』の称号を得た若き天才。
そして、同じくマスターアサシンであるウングとは、かつてコンビを組んでいたこともあった。
「アオ、ウングはあなたのこと、どう思っているの?」
「……憎んでる」
エーデルシュタイン王国にあるアサシンギルドは壊滅した……なぜなら、アオが潰したのだ。
そこで、アオは師を手にかけた。育ての親であり、孤児院の所長でもあったシスター……エーデルシュタイン王国最強のアサシンである親代わりの女性を、手に掛けた。
ウングは、その瞬間を見ていた。
親殺し……ウングは、アオをそう呼んだ。
でも、そうするしかなかったのだ。
「……でも私、間違っていたとは、思わない」
「え?」
アサシンギルドの存在が、王家にバレた。
なので所長は、証拠を消すために、育てている子供たちを全て処分しろと、アオとウングに命じたのだ。だからアオは殺した……所長を。
そして、アサシンギルドの存在、証拠、全てをエーデルシュタイン王国に提出、一斉摘発され、アサシンギルドは消滅した。
恩赦を受けたアオは無罪放免。何もしなかったウングもそのまま解放された……アオの仲間だとアオが言ったから。
自由となったアオ、ウングだった。
別れ際、ウングはアオに『親殺しの裏切者』と言った。
「アオ、あなたはゲントクのこと、好き?」
「……うん」
「ウングと仲良くしているところ、見たくないの?」
「……うん」
「だったら、あなたもちゃんと言いなさい」
「……おじさんに、悪いことしちゃった」
アオは俯き、ピクリとも動かなくなるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「ブランシュ、あなたまで珍しいわね……」
「……大人げないとは思いますわ」
「やっぱり、リーンドゥ?」
「…………」
ブランシュは、アオとは違う、アサシンギルドの息が掛かっていない孤児院出身だ。
だが普通と違ったのは、エーデルシュタイン王国が崇める主神である『女神カステヤーノス』を熱心に崇める孤児院だったこと。
一日三回のお祈りは、ブランシュにとって日課だった。
ブランシュが十歳になる頃、その類まれなる魔力から『女神の再来』と呼ばれ、エーデルシュタイン王国にある『カステヤーノス大神殿』に『聖女』として来るように言われたのだが。
「……リーンドゥ」
「あなたも、許せないの?」
「ええ」
突如、『聖女』を降ろされた。
わけがわからなかった。そして、別の孤児院から新たに来た少女……リーンドゥが、聖女として大神殿に現れたのだった。
理由は、驚くべきことだった。
「怪力、そして女神の肖像に似ているという理由で……」
「え、どういうこと?」
カステヤーノス大神殿にある女神の肖像画と、リーンドゥはそっくりだった。
そして、伝承にある『女神カステヤーノスは怪力』の通り、リーンドゥは怪力だった。
おしとやかな聖女を目指すため、自分も怪力だとひたすら隠していたブランシュとは別に、リーンドゥは怪力を隠そうとせず、むしろ楽しんでいた。
「……聖女に相応しくありませんわ。まあ、今はどうでもいいですけれど」
聖女の椅子を奪われたことは、もうどうでもいい。
だが、その振る舞いの全てが聖女に相応しくなかった。
大飯ぐらい、三度の祈りをすっぽかす、お布施で遊びに行く……そして、何よりブランシュが失望したのは、それを咎める大人が誰もいなかったこと。
ブランシュは、女神そのものがバカらしくなり、教会を出て冒険者となった。
だが、今でもリーンドゥのことは、好きになれない。
「もう三度目だけど、それとゲントクって関係ないでしょ」
「……そう、ですけど」
「だったら、ゲントクにちゃんと気持ちを伝えなさい」
「…………」
ヴェルデは思う。
思った以上に、三人はバレンたちと仲良くしているゲントクを見るのが嫌なのだと。
そして、ポツリとつぶやく。
「……はあ、一度、ゲントクと話すべきかしら」
ヴェルデはちょっとだけ思った。
因縁となる相手がいないと、こうもフォローに回ることになるのだ、と。
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