独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう

文字の大きさ
上 下
88 / 144
第七章 玄徳のロマン

そのころ、鮮血の赤椿は(苦労するヴェルデ)

しおりを挟む
「はぁ~……」
「……はぁ」
「ふぅぅ~」

 ロッソ、アオ、ブランシュの三人が大きなため息を吐くと、後ろにいたヴェルデがパンと手を叩いた。
 三人がヴェルデを見ると、ヴェルデは腰に手を当て、やや咎めるように言う。

「あなたたち三人、腑抜けすぎよ。全く……天下の『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』が、そんなことでいいの?」

 現在、ロッソたちは王都から二日ほど進んだところにある、野生オークの集落を潰しに来ていた……というか、すでに潰し終え、集落内の調査をしているところだった。
 討伐レートS『ジェネラルオーク』が集落を作り、周辺のオークを統率し、近隣の村や町に被害が出たのでロッソたちが来たのだが……三人とも、どうもいまいち『ノリ』が悪い。
 戦闘自体は何とかなった。が、ヴェルデには不満だった。

「ロッソ、あなた……怪我してる」
「え? あ、ほんとだ」

 ロッソに腕には、小さな切り傷があった。

「ブランシュ、あなた……気付かないの?」
「あ、ああ……そうでしたわ、ごめんなさい」

 ブランシュは今気づいたのか、ロッソの傷を治す。

「アオ、あなた……これ見つけ忘れてるわよ」
「……あ、ごめん」

 ヴェルデの手には、近くの村でオークが強奪したネックレスが握られていた。
 いつものアオなら、すぐに見つける。
 ヴェルデは三人をオーク集落の中央に集め、横倒しにした丸太に座らせて言う。

「本当に!! 腑抜けてるわよ!!」
「「「…………」」」
「今は私がいるからいいけど、もし私の手の届かないところで何かあったら、取り返しのつかないことになるかもしれないわよ!? 私、あなたたちを心配しているの!!」
「「「…………ごめん(なさい)」」」

 しょぼんとする三人。ヴェルデは「うっ」と罪悪感を覚えるが、ここで言うのをやめたら意味がない。なので、この場で原因をはっきりさせることにした。

「そんなに、ゲントクがバレンたちと仲良しになったの、気に食わないの?」
「「「…………」」」

 三人の肩がピクリと動いた。
 ヴェルデは続ける。

「ロッソ、あなた……ゲントクのこと、好き?」
「そりゃ好きよ。酒飲み友達だし、ノリいいし、意外と鍛えてるし、優しいし、面白い魔道具いっぱい作ってくれるし……」
「でも、それはゲントクがあなたにだけ優しいわけじゃないでしょ? 私はそんなに長い付き合いじゃないけど……あの人はきっと、誰が相手でも、あなたたちに接するのと同じように優しいわよ」
「……そ、そう、だよね」
「だったら、嫌いなバレンが仲良くしても仕方ないでしょ? ゲントクはあなたと違って、バレンを嫌う理由なんてないんだから」
「…………」

 バレンシア・オランジュ。オランジュ男爵家の三男。
 ロッソの故郷である村は、オランジュ男爵領地にあった。
 だが、貧しい農村で街道の整備もままならず、疫病、飢饉が発生しても助けが来るのに時間がかかった。なので、村長は領主であるオランジュ男爵に街道整備を依頼したのが、突っぱねられた。
 それだけじゃない。
 過去、疫病が発生した時など、医者や物資の派遣もせず、放置したのだ。
 ロッソの両親は、その疫病が原因で死んだ。
 たまたま、莫大な魔力をその身に宿していたロッソは死なずに済んだ。
 だが、今も故郷は貧しいまま、苦しい生活を強いられている。
 ロッソは、冒険者となり、稼ぎの大半を街道整備、そして村の支援などに費やしている。
 
「バレンはやっぱり嫌い」
「まったく……ロッソ、まだそんなこと」
「ヴェルデにはわかんないよ」

 村を見捨て、税だけ搾り取るオランジュ男爵、そしてその三男であるバレンは、ロッソにとって嫌悪、憎悪の対象であった。
 そんなバレンが冒険者となり、ロッソと顔合わせした時。

『ああ、あの村の……悪いね、ボクはこの通り、男爵家出身ってだけの平民だから』

 自分に責任はないと、笑顔だった。
 ロッソの村が壊滅状態になりかけた時のことを話したら、この笑顔である。
 かつて、故郷を馬鹿にされヴェルデと『殺し合い』になりかけたことがあった。
 だが、今回はそれ以上の殺意が膨れ上がり……自分でも驚いたことに、スッと冷静になった。
 常軌を超えた殺意は、逆に自分を冷静にさせると、ロッソは学んだ。

「……やっぱり、あいつとおっさんが仲良しなの、やだ」
「だったら、それをゲントクに伝えなさい。ゲントクはあなたのこと嫌いはしないだろうけど、気になって追いかけて来るような男じゃないと思うわよ」
「…………」

 そう言われ、ロッソは納得してしまい、口をキュっと結ぶのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

「アオ、あなたもよ」
「……わかってる。でも、ウングが」
「……あなたもなのね」

 ウングは、アオと同じ孤児院出身……そして、同じ『師』を持つ者同士であった。
 暗殺技、諜報員としての育成機関である裏ギルドの一つである『アサシンギルド』出身ということは、ロッソ、ブランシュ、ヴェルデしか知らない。
 アオは、魔法と暗殺技術の才能を見出され、アサシンギルド最高の称号である『マスターアサシン』の称号を得た若き天才。
 そして、同じくマスターアサシンであるウングとは、かつてコンビを組んでいたこともあった。

「アオ、ウングはあなたのこと、どう思っているの?」
「……憎んでる」

 エーデルシュタイン王国にあるアサシンギルドは壊滅した……なぜなら、アオが潰したのだ。
 そこで、アオは師を手にかけた。育ての親であり、孤児院の所長でもあったシスター……エーデルシュタイン王国最強のアサシンである親代わりの女性を、手に掛けた。
 ウングは、その瞬間を見ていた。
 親殺し……ウングは、アオをそう呼んだ。
 でも、そうするしかなかったのだ。

「……でも私、間違っていたとは、思わない」
「え?」

 アサシンギルドの存在が、王家にバレた。
 なので所長は、証拠を消すために、育てている子供たちを全て処分しろと、アオとウングに命じたのだ。だからアオは殺した……所長を。
 そして、アサシンギルドの存在、証拠、全てをエーデルシュタイン王国に提出、一斉摘発され、アサシンギルドは消滅した。
 恩赦を受けたアオは無罪放免。何もしなかったウングもそのまま解放された……アオの仲間だとアオが言ったから。
 自由となったアオ、ウングだった。
 別れ際、ウングはアオに『親殺しの裏切者』と言った。

「アオ、あなたはゲントクのこと、好き?」
「……うん」
「ウングと仲良くしているところ、見たくないの?」
「……うん」
「だったら、あなたもちゃんと言いなさい」
「……おじさんに、悪いことしちゃった」

 アオは俯き、ピクリとも動かなくなるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

「ブランシュ、あなたまで珍しいわね……」
「……大人げないとは思いますわ」
「やっぱり、リーンドゥ?」
「…………」

 ブランシュは、アオとは違う、アサシンギルドの息が掛かっていない孤児院出身だ。
 だが普通と違ったのは、エーデルシュタイン王国が崇める主神である『女神カステヤーノス』を熱心に崇める孤児院だったこと。
 一日三回のお祈りは、ブランシュにとって日課だった。
 ブランシュが十歳になる頃、その類まれなる魔力から『女神の再来』と呼ばれ、エーデルシュタイン王国にある『カステヤーノス大神殿』に『聖女』として来るように言われたのだが。

「……リーンドゥ」
「あなたも、許せないの?」
「ええ」

 突如、『聖女』を降ろされた。
 わけがわからなかった。そして、別の孤児院から新たに来た少女……リーンドゥが、聖女として大神殿に現れたのだった。
 理由は、驚くべきことだった。

「怪力、そして女神の肖像に似ているという理由で……」
「え、どういうこと?」

 カステヤーノス大神殿にある女神の肖像画と、リーンドゥはそっくりだった。
 そして、伝承にある『女神カステヤーノスは怪力』の通り、リーンドゥは怪力だった。
 おしとやかな聖女を目指すため、自分も怪力だとひたすら隠していたブランシュとは別に、リーンドゥは怪力を隠そうとせず、むしろ楽しんでいた。

「……聖女に相応しくありませんわ。まあ、今はどうでもいいですけれど」

 聖女の椅子を奪われたことは、もうどうでもいい。
 だが、その振る舞いの全てが聖女に相応しくなかった。
 大飯ぐらい、三度の祈りをすっぽかす、お布施で遊びに行く……そして、何よりブランシュが失望したのは、それを咎める大人が誰もいなかったこと。
 ブランシュは、女神そのものがバカらしくなり、教会を出て冒険者となった。
 だが、今でもリーンドゥのことは、好きになれない。

「もう三度目だけど、それとゲントクって関係ないでしょ」
「……そう、ですけど」
「だったら、ゲントクにちゃんと気持ちを伝えなさい」
「…………」

 ヴェルデは思う。
 思った以上に、三人はバレンたちと仲良くしているゲントクを見るのが嫌なのだと。
 そして、ポツリとつぶやく。

「……はあ、一度、ゲントクと話すべきかしら」

 ヴェルデはちょっとだけ思った。
 因縁となる相手がいないと、こうもフォローに回ることになるのだ、と。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

処理中です...