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第七章 玄徳のロマン

因縁、そして武器開発

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 とりあえず、因縁の六人とヴェルデを一階の作業場へ。
 俺はリーンドゥに聞いてみた。

「で、俺に魔道具開発の依頼か?」
「うん。えっと、まずこれ見て」

 ゴトッと作業台の上に置いたのは、なんともゴツイ鋼色のガントレット、そして膝下まであるゴテゴテのグリーブだ。
 だが、壊れている。ガントレットは割れ、グリーブには亀裂が入っている。

「壊れてんな」
「うん。ウチさ、エーデルシュタイン王国で最強のパワーがある冒険者なんだけど~、ウチのパンチやキックに耐えることのできるガントレットやグリーブ、存在しないんだよね~」
「そ、存在しない?」
「うん。この国の鍛冶師、ほぼ全員が『無理』って言うし、ドドファドのドワーフたちも『畜生……』って悔しそうに敗北宣言しちゃうし。で、もう武器の硬さに拘るの限界で、魔道具に頼ろうってわけ」
「魔道具で?」
「うん。魔道武器。硬度を上げたりする効果、付けられるでしょ?」

 と、なんだか寒気がしたので振り返ると……ブランシュが頬をピクピクさせていた。

「王国最強のパワー……ねえ」
「ん? なになに、ブランシュ……ウチに負けたの忘れた?」
「あなたこそ、わたくしに負けたこと、忘れたのかしら?」

 け、険悪ぅ……すると、ヴェルデが耳打ちしてくる。

「リーンドゥとブランシュ、お互いにとんでもない怪力なのよ。正直、互角……」
「そ、そうなのか?」

 すると、リーンドゥとブランシュが近づき、右手を差し出してくる。

「久しぶりにやる?」
「あら、怪我してもいいのかしら」
「言うじゃん」

 すると、二人はガシッと手を掴んだ……こ、これってまさか」

「て、手四つ!! お、お前ら、プロレスラーかよ……!!」

 ヴァシィィッ!! と、互いが力を込めると手が細かく震えた。
 ギギギギギギ!! と、互いの骨を握り砕くように力を込めて握りあっている。マジでマジで、すげえ迫力!! プロレスとかの序盤で組み合うのは見たことあるけど、こんな間近で、片手四つを見れるなんて思わんかった!!

「へえ、力ぁ、上げた……!?」
「あなた、こそ……っ!!」

 互いに深く微笑み、力を込めて……って、待った待った!!

「お、おいやめろって。おい、ストーップ!!」

 怖かったが割り込む俺、するとリーンドゥとブランシュは力を緩めた。

「……ふん、命拾いしましたわね」
「それ、こっちのセリフだし」

 手を放すと、二人は下がった。
 俺はため息……マジで勘弁してくれよ。

「とりあえず、このガントレットを魔導具に改造すればいいのか?」
「うん。ウチ、魔力操作得意じゃないから、魔道武器とか好きじゃないけど……何回か戦闘して、いちいち武器が壊れるのもめんどいし」
「わかった。壊れないように、か……」

 俺は作業場の片隅にある資料置き場から、『魔導文字図鑑~最新版~』を取り出し、ページをめくる。
 この図鑑、一文字から四文字熟語までの魔導文字が書かれており、この文字同士を組み合わせて魔石を掘ると加工できる。
 あ、今思っただろ? この図鑑あれば、誰でも魔石の加工ができるんじゃないかって……実はそうじゃないんだよな。
 仮にロッソが『揺』の魔導文字を掘っても、魔力を流しても魔石は揺れない。
 魔導文字は、その文字の意味を真に理解して彫らないと効果を発揮しないのだ。俺は日本人だから『炎』が火って理解できる。でも、これが異世界の文字で『火』って彫られていたら? 
 異世界の文字が、古代文字とか、暗号みたいな文字だったら? それを俺が真似て彫ったとしても、きっと炎は発動しない。
 と、説明終わり。長々とすまんね。

「……うーん」
「おっちゃんでも無理ー?」
「いや。うーん……どこまでやっていいのかな。というか、いいのかな」
「なになに?」
「……たぶん、できる。というか……これは世に出していいのか」
「よくわかんないけど、やってみてよ」

 とりあえず、やってみることにした。
 俺は溶接面を被り、マグマリザード製の皮手袋をはめる。そして、指パッチンをして人差し指にバーナーのような高火力の炎を灯す。
 そして、割れたガントレットの亀裂を修復し、リーンドゥの許可をもらって魔石をはめる穴を二つ作る。

「なあ、このガントレットだけど」
「あ、もういらないからおっちゃんにあげる。今日はおっちゃんの腕前見たいしさ、もしちゃんとした魔導武器が作れるなら、後日ちゃんと依頼するよ」

 つまり、今日は仕事の下見みたいなもんか。
 まあ俺も好都合。壊していいなら、試したいことがある。

「不細工な修復だ。まあいいか。さて……次は魔石だ」
「わくわく!! ね、見てていい?」
「待った。まだ秘密だ」
「えー?」

 というか……喋ってるの、リーンドゥだけ。
 ロッソ、アオは不機嫌そうだし、ウングは無視、バレンはニコニコしながら、いつの間にか椅子に座っていた大福を撫でていた。
 ヴェルデは、やや居心地が悪いのか俺の傍へ。

「……居心地、悪いわ」
「ははは。よかったな、お前に因縁の相手いなくて」
「それはそれで仲間外れみたいでイヤなのよ!!」

 とりあえず、俺は金庫から十つ星の魔石を取り出す……ロッソたちの土産の魔石。ロッソたちは等級とか気にしてないけど、九つ星以上の魔石は金庫に入れるようにしていた。
 そして、魔石に文字を掘り、ガントレットに嵌める。

「よし完成。どっかで実演できればいいんだが……」
「じゃあ郊外行こっ、西門からならすぐ行けるよ!!」

 こうして、魔導武器の実験……というか、俺の『考え』を試すために外へ行くのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 十分後、俺、ロッソたち、バレンたち、そしてヴェルデの八人は王都郊外の平原にいた。
 何もない、見渡す限りの平原だ。
 俺は、ガントレットをリーンドゥに渡す。

「あのさ、俺もこういうの初めてだからわからんが……もしかしたら、成功しても引き受けないかもしれん」
「え、なんで?」
「……すまん、理由は言えん」
「んー? よくわかんないけど、自信ないの?」
「まあ、うん」

 俺の考えが正しいなら……たぶん。いや、これは存在していいモンじゃないかもしれん。
 ガントレットをリーンドゥに渡す。

「どんな手段でもいい。これはめて、このガントレットをぶっ壊してくれ。ああ、魔力を流してくれよ」
「面白そう!! じゃあ……遠慮なく」

 リーンドゥはガントレットをはめると、魔力を漲らせる。
 すると、やばいと感じたのかヴェルデが俺の前へ。

「ゲントク、リーンドゥは『地』魔法の天才よ。巻き込まれないよう、守るわ」
「お、おお」

 次の瞬間、地面が爆発した。
 リーンドゥが思い切り地面を殴ったのだ。そして、近くの岩に連続攻撃を繰り出し、右手を地面に突っ込んで地面をひっぺがしブン投げ、自分もジャンプして投げた地面を殴りつけた。
 そして、地面を足場にして地上へ落下しながらの加速。拳を突き出し、地面に激突した。

「うおおおおおおお!?」

 冗談抜きで地震が起きた。というか地面が揺れた。
 コケそうになるが、ヴェルデの肩を掴んでなんとか踏ん張る。
 よく見ると、落下してきた岩や小石など、ヴェルデが弾いてくれたようだ。
 ち、地形が変わった……い、隕石が命中したような、そんな陥没だ。

「す、すっげえ……」
「すっご……!! うそ、マジで? おっちゃん、これすごいよ!!」

 リーンドゥが、腕をブンブン振りながら来た。
 ガントレットを見ると、傷一つ付いていない。俺の不細工な修理状態のままだ。

「こんな修理じゃ一撃で壊れると思ったけど……ぜんっぜん壊れてないし!! なにこれ、どういう魔石をはめたの!?」
「……その前に、これも試してくれ」

 俺は、ポケットに入れていたもう一つの魔石を、二つ目の穴に入れた。
 そして、近くにあった俺が抱えられるくらいの岩を指差した。

「次は全力じゃなくていい。この岩を殴ってくれないか?」
「簡単に割れちゃうよ?」
「それでいい。魔石の効果を知りたいんだ」
「まあいいけどー」

 リーンドゥは、片手で岩石を掴んで軽く放り、右手をグルグル回転させ、落ちてきた岩石を殴りつけた。
 次の瞬間───ガントレットが爆発、岩が粉々に砕け散った。

「……うっそ」
「……やっぱそうか」
「わーお!! すっご、なにこれ!! 軽く殴っただけなのに、ウチの四割くらいの威力のパンチ出た!! しかも、なんかボンって!!」

 この結果に、ロッソたちも驚いていた。
 俺はリーンドゥに近づき、魔石を二つ回収……そして、右手に雷を宿し、二つの魔石を砕いた。

「え、な、おっちゃん!?」
「失敗だ。すまん、やっぱ俺には荷が重い……俺より腕のある魔導具技師に相談してくれ」
「な……なんで? ウチ、ぜんぜん」
「悪い。俺は受けられない」

 俺は拒絶した。
 悪いとは思っている。リーンドゥも困惑しているようだ。

「…………」

 俺は、粉々に砕けた魔石をポケットへ入れた。

 ◇◇◇◇◇◇

 俺が刻んだ文字は、『不壊』と『爆発』だ。
 俺は、怖かった。
 もしこの魔導文字が登録され、俺じゃない魔道具技師が、この文字を使って魔導武器を作り出したら……それが、誰かを傷付け、殺す道具になってしまうかもしれない。
 俺は、それが怖かった。
 
 この世界には魔獣はいる。
 冒険者が戦い、討伐することもある。
 でも……戦争はない。
 もし戦争になり、大量に『兵器』を作ることになったら。
 俺はきっと、この罪悪感に耐えられない。

「さ、帰るか。そろそろ大福にエサやらないと」
「「「「「…………」」」」」

 ロッソ、アオ、ブランシュ、ヴェルデ。そしてリーンドゥとウング。
 六人の視線を背に受けながら、俺は歩き出す。

「…………へえ」

 バレンの興味深そうな視線に、俺は気付かなかった。
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