独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう

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第六章 雪景色と温泉

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 温泉、ロッソたちと行くことになった。
 行くのは来週。道中まで一週間くらいあるので、準備が必要だ。
 家に帰ろうと歩いていると、ヒコロクを連れたスノウさんと会った。

「あら、ゲントクさん」
「どうも。あれ、ユキちゃんはいないんですか?」
「今日は、クロハちゃんのおうちでお泊まりなんです。ふふ、お友達ができて喜んでいます」

 クロハちゃん、リーサちゃんの家か。
 スノウさんはペコっと頭を下げる。

「ゲントクさん、ルナールさんたちを助けていただき、本当にありがとうございました」
「いやいや、俺はアイデアを出しただけで、助けたのはサンドローネですよ。それに、バリオンも」
「ふふ、でもありがとうございます。私も、新しくできた友人が立ち直って嬉しいんです」

 リュコスさん、ルナールさんか。
 ママ友ってやつか。スノウさんにも、いい出会いになったんだな。
 
「今度、皆さんでお食事する約束もしたんです。ふふ、エーデルシュタイン王国に来て本当によかったです」
「ははは。そりゃよかった……ああ、実は」

 俺は、ロッソたちと温泉に行く話をする。

「温泉、ですか……」
「ええ。スノウさんたちもどうです?」
「その……嬉しいお誘いなのですが、実は……私たち獣人は鼻が利くので、温泉はその、匂いがキツイのです」
「あ~……そうか」

 硫黄の香り、ダメな人はみんなダメだもんな。
 無理強いはできない。温泉まんじゅうとか売ってたら買ってこよう。

「申し訳ございません。本当に……」
「いえいえ、お気になさらないでください」

 スノウさんと別れ、俺は家に戻って旅支度をするのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日、俺は職場で朝から仕事に精を出していた。
 魔道具の修理依頼、そして新規の魔導具開発だ。修理は製氷機とミスト噴霧器が多く、どれも酷使による魔石の破損や、普通に落として壊れた物とかもあった。
 冷蔵庫……俺の試作に改良を加えた物を見る。

「へえ、室内を広くして、冷気を効率に循環するようにしたのか……イェランのやつか?」

 ただ冷風を吐き出すだけじゃない。上から下まで冷風が行くように、風の通り道を計算した作りになっている。なるほど、これは面白い。
 冷風だけじゃなく、水を循環させるパイプを冷やすことで、全体を効率よく冷やしている。

「ただ風を吹き出すだけじゃない、か……まあ、俺はアイデアがメインで、改良するのはイェランたちアレキサンドライト商会の技師にお任せだ」

 俺は、曲ってしまったパイプを修理する。
 持ち込まれた魔導具を全て修理し終えると、ちょうど引き取りに来た。

「すみませーん、製氷機治りましたか?」
「ええ、直りましたよ」

 俺は、魔石が割れた製氷機に新しい魔石をセットし、お客に見せる。

「魔石の破損ですね。純度の高い魔石を使えば、半年くらいは持つと思います。これ、初期の三ツ星の魔石のままでしたね」
「え、ええ……いやあ、初期型の魔石はひと月くらいで割れると聞きましたが」
「しかもこれ、常に稼働しっぱなしでしたね。できることなら、使う分だけ氷を作ったら、スイッチ切ると長持ちしますよ。今回はアレキサンドライト商会の正規品である、四つ星の魔石を入れましたんで、三か月は持つと思います」
「おお、ありがとうございます。いやあ、夏はこいつのおかげで、冷たい飲み物を提供できて大繫盛ですよ。アレキサンドライト商会、様様ですな」
「ははは。確かに」

 支払いを済ませ、お客さんは帰って行った。
 やはり、製氷機……いや、俺の作った魔導具が、人のためになっているのはうれしい。
 この日、修理した魔導具を全て引き渡した。少しずつ、修理の依頼も増えてきた。
 抱えるくらいの魔道具なら持ってきてもらえるが、大型の冷蔵庫や製氷機などは、俺が直接いかなくちゃいけないこともあるだろう。まだ、その段階ではないが。
 
「コタツ、カーペットもあるし、冬用の魔道具、いくつか作っておくか」

 俺は事務所に戻り、いくつかの魔道具の仕様書を書き、試作品を作るのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夕方。
 サンドローネ、リヒター、珍しいことにイェランが事務所に来た。

「お、イェラン。なんだ珍しいな」
「別にいいじゃん。アタシも仕事終わったし、お姉様がゲントクのところ行くって言うから、遊びに来たのよ」
「ふーん。まあいいや……で、なんか用事か?」

 サンドローネはソファに座り、イェランが隣に、リヒターが後ろに立つ。
 俺は事務机で書き物をしていると、サンドローネが言った。

「コタツ、ホットカーペットの製作は順調。秋のはじめには販売できると思うわ。でも……正直、そこまで期待はできないわね」
「まあ、冬が短いからな。でも……」
「ええ。東方、そして北方の雪国に販売するよう、計画を立てているわ」
「そういや、北は雪国なんだっけ?」
「ええ。万年雪の降る雪の国。あちらでは『牡羊座の魔女』エアリーズ・タウルス様の『魔導ストーブ』が主流の暖房器具となっているわね」
「また中二病魔女か……」

 水瓶座の次は牡羊座かよ。十二人の偉大なる魔道具技師だっけ……正直、めんどくさいことになる気がするから会いたくない。
 するとイェランが言う。

「十二星座の魔女様かあ~……いいなあ、お姉様、ザナドゥで会ったんだよね?」
「ええ、そうね。エルフのお方は二十代で身体の成長が止まるというけど……若々しい感じだった」
「偉大なる魔道具技師!! アタシ、会ってみたいなあ。牡羊座の魔女エアリーズ様って、今じゃ当たり前に使ってる『熱』の魔導文字を作った人で、暖房器具の生みの親、雪国で寒さの厳しい北方を開拓した伝説のお方なんだよね~」

 説明どうもありがとうございました。
 十二星座の魔女は偉大な発明したって感じらしいな。ラスラヌフは下水関係、エアリーズとかいうのは暖房器具関係か。

「あ、リヒター、これ」
「はい。これは……?」
「一応、新作の魔道具だ。それと……魔道具技師の仕事かわからんけど、アイデアの企画書だ」
「ちょっと!! そういうのは私に見せなさい!!」

 リヒターに渡した仕様書、企画書をサンドローネへ。
 そして、リヒターに魔道具の試作を渡す。

「これは……ドライヤー?」
「ヘアドライヤー。濡れた髪を乾かす魔道具だ。スイッチを入れると温風が出て、髪を乾かすことができる」

 意外だが、こういう魔道具って誰も作ってないんだよな。温風を出す道具なんていくらでもありそうなんだが……まあ、髪を乾かすのはタオルだけで、そこまで考えていないのかも。
 試作機の形状は、まんまL字型のドライヤー。持ち手のスイッチを入れると『温風』の魔石から暖かい風が出るだけ。

「商業ギルドの魔道具図鑑で確認したが、誰もこういうの作ってないのな。『温風』も登録したから、後はお前に任せる」
「髪を乾かす……へえ、面白いわね」
「爆発的大ヒット!! って感じじゃないが、そこそこ需要はあると思うぞ」
「そして、これ」

 サンドローネは、企画書を読んでい言う。

「『床暖房』ね……魔道具というより、建築の仕事かしら?」
「ああ。地下水を魔道具で温めて、床に張り巡らされたパイプを通して温めるってシンプルなモンだ。エーデルシュタイン王国じゃ需要なくても、北方とかで役立つかもしれん。そのアイデアを持って北方で建築事業やるのもいいし、リフォームで床にパイプを埋め込んだり、地下水を温める魔道具を設置したりするのもいい」
「なるほど……まだ北方には手を伸ばしていないけど、いずれは役立つかも」

 サンドローネはニヤリと笑った……この顔を見ると安心する。

「ゲントク、仕事熱心だね。なんかあったの?」

 と、イェランが言う。

「ああ、来週になったら北方に行くからな。今のうちに、仕事しておこうと思って」
「北方? 鉱山でも行くの?」
「違う違う。冬の一か月間、温泉の町レレドレで過ごそうと思ってな」
「……あなた、また出かけるの?」
「ああ。やりたいことやるのが俺だからな。だからこうして仕事してるんだ。コタツ、ホットカーペット、ドライヤー、そして床暖房のアイデア……充分だろ?」
「む……」

 サンドローネは黙りこむ。
 リヒターが言う。

「今月のロイヤリティの支払いも明日には振り込みますので」
「よし、別荘の資金ゲット。ありがとな」
「ぐぬぬ……温泉」

 サンドローネが俺を睨む……な、なんだよこいつ。

「お嬢、羨ましい気持ちはわかりますが、仕事が溜まっていますので」
「わかってるわよ。ふん……ゲントク、せいぜい楽しんでくるのね」
「いやそのつもりだけど……お前、羨ましかったんだな」
「うるさいわね」
「お姉様、アタシが一緒にいるからさ。今日は飲みに行こっ!! ゲントク、アンタもどう?」
「俺、ヘクセンとグロリアと約束してるんだ。悪いな」

 さて、仕事は終わり……飲みに行きますか!!
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